悪徳業者から被害に遭ったら?具体的な対処法や相談窓口を解説
発信者情報開示請求とは?実施の流れや費用相場、必要な期間を解説
2021.11.02ネット上で誹謗中傷されたり、プライバシーを侵害されたりしたら、書き込みをした人に対して損害賠償の請求を考える被害者は少なくありません。しかし、責任を問うにはまず、書き込みをした人が誰なのかを特定する必要があります。そのための方法が「発信者情報開示請求」という手続きです。
本記事では発信者情報開示請求条件や方法などを詳しく解説していきます。
発信者情報開示請求は違法投稿者を特定する手段
「発信者情報開示請求」とは、ネット掲示板やSNSに誹謗中傷や風評被害の書き込みをした人(発信者)を特定するために、サイトの管理者やプロバイダ(インターネット接続の回線を提供する事業者)に対して情報の開示を求める手続きです。
手続きはおおまかに2段階あり、まずサイトにアクセスしたIPアドレスから、IPアドレスに紐づくプロバイダを特定します。次にプロバイダを通じてインターネット回線を契約している投稿者の住所や氏名等を割り出すという仕組みです。これによって、投稿者(発信者)に損害賠償を請求することができるようになります。
発信者情報開示請求の要件
発信者情報開示請求は、プロバイダ責任制限法(正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)に基づく手続です。
プロバイダにはプロバイダ契約者の個人情報を管理する義務があり、みだりに個人情報を外に漏らすと契約者から訴えられる可能性があります。そこで、プロバイダが個人情報を開示しても責任を問われない場合を定めたのがプロバイダ責任制限法です。
発信者情報開示を請求できる要件がプロバイダ責任制限法第4条に定められているので、その詳細を解説します。
自己の権利を侵害されたとする者が開示を請求すること
「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は(中略)発信者情報(中略)の開示を請求することができる」
引用元:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 | e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000137
情報開示請求できるのは、権利侵害を受けたと主張する本人だけです。知り合いの代わりに開示請求することは認められていません。ただし代理人に選任された弁護士は例外です。
権利が侵害されたことが明らかであること
「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」
引用元:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 | e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000137
権利侵害は具体的で明らかなものでなくてはなりません。また、自らが権利保有者であることも含め、証明できるものでなくてはなりません。
開示を受けるべき正当な理由があること
「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。」
引用元:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 | e-Gov法令検索 https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=413AC0000000137
発信者情報は通信の秘密に関わる情報のため、その開示を求めるには「正当な理由」が必要です。損害賠償を請求するため、投稿の削除を要求するためといった理由は、情報開示を請求する正当な理由だと認められます。
条文中の用語の意味
プロバイダ責任制限法第4条の概要は上述のとおりですが、条文中には耳慣れない言葉が多数登場します。発信者情報開示請求手続の過程で触れる機会も増えるため、意味を把握しておきましょう。
「特定電気通信による情報の流通」
ここでいう「特定電気通信」とは、不特定の人が閲覧できるWebページや電子掲示板のことであり、「特定電気通信による情報の流通」とはネットの書き込みのことです。つまり、不特定の人が見られるネットの書き込みで被害を受けた人は発信者情報の開示を請求できます。
「開示関係役務提供者」
発信者情報の開示を求める先は「開示関係役務提供者」です。これは「特定電気通信役務提供者」のうち、プロバイダやサイト管理者を意味します。
「開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」
「発信者情報」の詳細はプロバイダ責任制限法の中にはなく、総務省令(プロバイダ責任制限法第4条第1項の発信者情報を定める省令)で規定されています。開示対象となる発信者情報は以下の通りです。
- 氏名又は名称
- 住所
- 電話番号
- メールアドレス
- IPアドレスやポート番号(IPアドレスと組み合わされた番号)
- タイムスタンプ(投稿した時間の記録)
- スマホなどの利用者識別番号(各通信機器に割り当てられている番号)
- SIMカード識別番号
また、開示関係役務提供者が「保有」しているというのは、「自己の支配下に置いている」ということです。仮にサーバの管理を第三者に委託しているような場合でも、サイト管理者がコントロールできる場合はサイト管理者が保有していると見なされます。
発信者情報開示請求を行う流れ
発信者情報開示請求によって発信者(投稿者)を特定するまでの流れを、5段階に分けて解説します。
1.開示の可否について検証
投稿者の情報開示を請求する際は、最初に情報開示請求が認められる客観的状況にあるかどうかを見極める必要があります。具体的には、権利侵害が明らかであるかどうかという点と、投稿がいつなされたかという点を確認するようにしてください。
誹謗中傷の書き込みや投稿が不法行為にあたるか
まずは、匿名掲示板やSNSなどに書き込まれた投稿が、本当に権利を侵害しているかを確認する必要があります。名誉毀損やプライバシーの侵害などが明らかであることが発信者情報開示請求の条件です。
書き込みや投稿の日付が古すぎないか
プロバイダに保管されている投稿者のログ情報は、一定期間を過ぎると削除されてしまいます。このため、書き込みがされた日付から3ヶ月~半年以上経過している場合は、すでにアクセス記録が失われており開示請求ができない可能性があります。
2.サイト運営者にIPアドレスの開示を求める
発信者情報開示請求をする条件に問題がなかったら、サイト運営者に対してIPアドレスの開示を求めます。IPアドレスとは、PCやスマホなどインターネットに接続されている機器1台1台の端末に割り振られた識別番号のことです。IPアドレスが取得できれば、どのプロパイダを通じてサイトにアクセスしたかがわかります。
なお、サイトの運営者にIPアドレスの開示を求める方法は通常2通りです。サイト運営者に「発信者情報開示請求書」という書面を送付して回答を待つか、裁判所に発信者情報開示仮処分命令の申し立てをすることです。
サイト運営者に対して「発信者情報開示請求書」を送付しても開示してもらえない場合は、「発信者情報開示仮処分命令の申立て」をすることになります。
3.IPアドレスの情報をもとにプロバイダを特定
IPアドレスの情報を取得できれば、それをもとに投稿者が投稿時に利用したプロバイダを特定することが可能です。書き込みをした人の個人情報は経由プロバイダが把握しているため、次にこのプロパイダへ投稿者の情報開示を請求していきます。
4.プロバイダへのアクセスログの保存要請
プロバイダに残されたアクセスログの記録は、一定期間を経過すると情報が削除されてしまいます。そのため、急いでプロバイダに対し「アクセスログの保存要請」をしなければなりません。具体的な要請方法としては、以下の2点です。
- 書面を使った要請
- 発信者情報消去禁止の仮処分命令の申立て
IPアドレスの開示と同様に、書面だけではプロバイダに拒否される可能性があります。このため、裁判所に仮処分命令の申し立ての手続きを行い、ログ削除を禁止する命令を出してもらうことも少なく有りません。
5.プロバイダへの情報開示請求
プロバイダへの発信者情報開示請求も、サイト管理者に対する請求と同様に方法は2つです。任意の開示を請求し、プロバイダが拒否したら、訴訟によって裁判所の判断を待ちます。
発信者情報開示請求書の送付
プロバイダに「発信者情報開示請求書」を書面で送り、プロバイダ側が請求に同意すれば、発信者(投稿者)の氏名・住所、アクセス記録などを取得することができます。ただし、プロバイダ側から開示を拒否されることもあります。
発信者情報開示請求訴訟
プロバイダに対して「発信者情報開示請求書」を送付したところ要求を拒否された場合は、プロバイダの本社所在地を管轄する裁判所に発信者情報開示請求の訴訟を提起します。訴えが認められれば、発信者の個人情報が開示されます。
発信者情報開示請求を行うなら弁護士に相談を
ネットに誹謗中傷や個人情報を書き込んだ人を特定するために「発信者情報開示請求」を行うのであれば、ネット問題に強い弁護士に相談してください。請求が認められるには、サイト運営者や経由プロバイダ、裁判所に「この投稿は確かに申請者の権利を侵害していることが明らかである」と納得させる必要があるためです。
手続き自体は自分自身ですることもできますが、証拠を集めて書類を作成するのは容易ではありません。まして裁判をするとなると独力でできることには限界があります。
発信者情報開示請求に必要な期間
発信者情報開示請求に必要な期間は、どのような手続きをとるかによって異なりますが、手続き開始から情報開示まで8〜10ヶ月程度は見込んでおいた方がよいでしょう。
サイト管理者やプロバイダが裁判で争ってきた場合は、これよりも時間がかかってしまう可能性があります。
発信者情報開示請求の費用相場
法律事務所によって、また具体的な依頼内容によって金額は異なりますが、例えば、仮処分命令の申し立てを依頼した場合の相場は、トータルで70万円~100万円程度の費用を見込むことが必要です。
とはいえ、費用を基準に弁護士を選ぶのはおすすめできません。重要なのは、現在ネットの書き込みによって受けている被害を抑え、投稿者に責任を問うことができるかです。手続きが煩雑で、権利の侵害性に関しては判断が難しいところでもあります。発信者情報開示請求の実績を持ち、手続きを熟知しているかどうかを重視しましょう。
アークレスト法律事務所は、匿名掲示板やSNSなどの誹謗中傷対策を得意としています。派生するトラブルに関しても対応が可能なので、ネットの書き込みによるトラブルでお困りの方はぜひ一度ご相談ください。
監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
- 最新記事