犯罪歴・逮捕歴

逮捕記事は削除できる?判断基準と削除方法を分かりやすく解説

2024.01.22
逮捕記事は削除できる?判断基準と削除方法を分かりやすく解説

逮捕された事実が実名で報道され、その記事が削除されずインターネット上に残り続けると、半永続的に不特定多数の人に逮捕歴を知られることになりかねません。そうなると、就職や結婚など、社会生活上の様々な場面で支障をきたすこともあるでしょう。

しかし、逮捕記事は状況により、削除できることがあります。

今回は、逮捕記事を削除できるかどうかの判断基準と、削除する方法を弁護士が分かりやすく解説します。

ネット上の逮捕記事は削除できる?

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実名による逮捕記事は個人のプライバシー権等を侵害するものであるため、削除を請求できます。ただし、実名報道の逮捕記事を公表することには一定の公益性もあるため、報道機関等の表現の自由も尊重されます。

プライバシー権と表現の自由は、どちらも憲法で保障された基本的人権です。両者の利益が衝突する場合にどちらが優先されるかは、記事の内容など様々な事情を考慮し、ケースバイケースで判断されます。

個別の事案において、プライバシー権の方が優先されると認められる場合には、ネット上の逮捕記事を削除することが可能です。

逮捕記事を削除できるかどうかの判断基準

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人の逮捕歴や犯罪歴を実名で公表した記事の削除をめぐって争われた裁判例は、いくつかあります。その中でも、最高裁判例(最高裁判所令和4年6月24日判決)では、X(旧Twitter)に投稿された逮捕事実に関するツイートの削除が認められました。

今後は、この判例で示された判断基準に従い、逮捕記事の削除請求が認められることが増えると考えられます。

上記最高裁判例によると、以下の諸事情等を基に比較検討し、逮捕事実を公表されない法的利益がツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、ツイートの削除を求めることができるとされています。

逮捕された事実の性質及び内容

逮捕された事件の内容が重大犯罪や社会的な関心が高いものであるなど、公共の利害との関わりの程度が大きい場合には、投稿を一般の閲覧に供し続ける理由が優越する一つの根拠になるでしょう。

一例として、凶悪で残忍な殺人事件や、巨額の脱税や横領などの事案などが挙げられます。

一方で、少額の窃盗や一般人同士の喧嘩による軽微な傷害事件など、軽微な犯罪事実に関する事案では、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

記事の目的や意義

逮捕記事が公表される場合、その目的や意義は様々に異なることがあります。ニュース記事でも速報的なものであったり、SNSや掲示板サイトなどで興味本位に拡散する目的で投稿されたものであったりする場合は、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

令和4年6月24日の最高裁判決では、問題となったX(旧Twitter)のツイートが速報的なものであり、長期間にわたって公表され続けることは想定されていないことを逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとしています。

記事が伝達される範囲

逮捕記事の内容が拡散される範囲が広いことは、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

一概に、X(旧Twitter)では削除請求が認められやすい、個人ブログでは削除請求が認められにくい、というような傾向があるわけではありません。

具体的被害の程度

記事の公表によりどの程度、具体的な被害を生じたのかも、考慮事情の一つとなっています。

対象者が逮捕歴や犯罪歴を知られたことで仕事や家族を失うなど、実害が生じている場合には、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

本人の社会的地位や影響力

対象者の社会的地位が公的立場であるかどうかも、考慮事情の一つとなっています。

政治家や警察官などの公務員や教員など公的立場の人が起こしたとされる事件の情報は、公益性が高く、投稿を一般の閲覧に供し続ける理由の一つとなるでしょう。

一方で、会社員や自営業者のように一般私人で、公的立場にはない人が起こしたとされる事件については、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

投稿がなされた時の社会的状況とその後の変化

逮捕からどれくらいの時間が経過したかという点も、重要な事情です。長期間経過するほど、公共の利害の関わりの程度が小さくなり、逮捕事実を公表されない法的利益が優越する根拠の一つとなるでしょう。

上記最高裁判例では、逮捕から約8年が経過し、刑の言い渡しはその効力を失っており、ツイートに転載された報道記事も既に削除されていたことなどから、公共の利害との関わりの程度は小さくなってきているとされています。

弁護士による交渉

弁護士に対応を依頼し、法的観点から削除の必要性や、削除を求める法的根拠などを説明してもらうことで、スムーズに削除してもらえる可能性が高まります。

裁判(仮処分・訴訟)

交渉により逮捕記事を削除できなかった場合は、裁判手続きを検討することになります。

訴訟には時間がかかりますが、速やかに進めることができる裁判手続きとして、「仮処分の申立て」というものがあります。

仮処分は、訴訟など正式な裁判による解決を待たず、現に生じている損害や急迫の危険を回避するために一定の権利関係を暫定的に形成するものです。裁判所が申立てを認容すると、サイト運営者等に対して、逮捕記事の削除を命ずる仮処分命令を発令します。

逮捕記事の削除依頼は弁護士に相談を

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逮捕記事が公表されてしまうと、SNSやブログなどで拡散されてしまうため、仕事や日常生活に多大な支障をきたす恐れがあります。

ただ、個人で削除請求をしても、サイト運営者等から表現の自由などを理由として、任意には削除してもらえないことも珍しくありません。

そんなときには、弁護士を通じて対応してもらうことにより、削除されることがあります。なるべく早いうちに、インターネットトラブルに精通した弁護士に削除請求を依頼することをおすすめします。

弁護士法人アークレスト法律事務所には、インターネットトラブルを解決に導いてきた実績が豊富にございます。逮捕記事を公表されてお困りの方は、お気軽にご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。