ドタキャン・無断欠勤・バンス逃げへの法的対応|ナイトワーク現場の課題と法的措置
ドタキャン・無断欠勤・バンス逃げへの法的対応|ナイトワーク現場の課題と法的措置
2025.12.11
ナイトワーク業界の店舗経営において、「ドタキャン」や「無断欠勤」、「バンス逃げ(給与前借り後の音信不通)」といったトラブルは、深刻な経営リスクです。これらの行為は、売上の損失や店舗の信用低下につながります。
さらに現代では、SNSや匿名掲示板を通じて、キャストによる店への批判やバンス踏み倒しの情報が瞬時に拡散され、風評被害のリスクも高まっています。
店舗経営を安定させるためには、事態を正しく認識し、適切な措置を講じることが必要です。
そこで、本稿では、ナイトワーク現場特有の課題に対し、経営者・店舗側が取るべき「法的対応」と「事前対策」について詳細に解説します。
目次
ナイトワーク現場で深刻化する「ドタキャン・無断欠勤」問題とは

ナイトワーク業界は、ビジネスモデルの性質上、特定のキャストの出勤が売上に直結しやすく、また、当日の気分や体調に左右されやすい側面があります。
まず最初に、「ドタキャン」「無断欠勤」「バンス逃げ」にどのような問題があるかを解説します。
ア 「ドタキャン」
予約客を抱えた人気キャストが当日に出勤を取りやめることで、その日の売上や指名機会を直接失います。
イ 「無断欠勤」
数日にわたる音信不通により、店舗運営に穴があき、他の従業員への負担が増大します。
ウ 「バンス逃げ」
給与の前借り(バンス)を行った後、返済義務を果たすことなく、連絡を絶って姿を消す行為を指します。
これらは、店舗のキャッシュフローと信用に直接的な打撃を与えます。特に「バンス逃げ」は、実質的な貸倒れとなり、財務的な損失をもたらします。
近年、SNS等では、従業員が店側の対応を一方的に批判したり、バンスを踏み倒した事実を武勇伝のように語ったりするケースが散見されます。このような情報拡散は、新規採用の妨げになったり、店舗のイメージを損なったりするリスクを伴います。
こうした現状を踏まえ、店舗側は、問題発生時に感情的に対応するのではなく、法的根拠に基づいた措置を取るための理解を深めることが必要です。
ナイトワーク業界における「雇用契約」と「業務委託契約」の違い

ドタキャンや無断欠勤への法的対応を考える上で、まず重要となるのが、キャストと店舗との間でどのような契約が結ばれているかという点です。ナイトワーク業界では、主に「雇用契約」か「業務委託契約」のいずれかに契約形態が分類されます。
雇用契約の場合
キャストは店舗の指揮命令下にあり、出勤時間や業務内容が細かく拘束され、出勤に関する自由がありません。
キャストと店舗の間には、労働基準法、労働契約法などの労働法規が全面的に適用されます。この場合、ドタキャン・無断欠勤は「服務規律違反」にあたり、就業規則に基づき懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇など)の対象となります。ただし、損害賠償請求は困難な側面があります。
業務委託契約の場合
キャストは、店舗の指揮命令下にありません。自分の裁量で出勤日や時間を決め、特定の業務(接客)の結果に対して報酬が支払われます。
キャストと店舗の間には民法が適用され(そのほか、いわゆる「フリーランス保護法」の適用にも注意が必要です。)、労働法規は原則として適用されません。
ドタキャン・無断欠勤は、契約上の債務の不履行にあたり、店舗は、雇用契約の場合よりも損害賠償請求を行いやすくなります。
実態に即した契約整理の重要性
契約書上は「業務委託」となっていても、実態としてシフトが固定され、厳格な遅刻早退のペナルティがあり、店舗の指示通りに動いている場合、裁判所は「雇用契約」と判断する可能性が高いです。
もし実態が雇用なのに契約書が業務委託だった場合、トラブル発生時に「労働基準法上の権利」を主張され、店舗側が不利な立場に追い込まれるリスクがあります。そのため、実態に即した契約形態で書面を交わし、その契約形態に応じたルール整備を行う必要があります。
「ドタキャン」「無断欠勤」発生時の法的・実務的対応

無断欠勤やドタキャンが店舗に与える損害は甚大です。これには、指名・フリー客の売上損失に加え、他のキャストやスタッフの業務増、さらに顧客満足度の低下による信用低下も含まれます。
初期対応のポイント
無断欠勤が始まった際の初期対応は、後の法的措置の準備としても極めて重要です。
まずはキャストに連絡を取り、体調不良や不可抗力の可能性を確認しましょう。また、あらかじめ、勤務ルールやシフト管理体制を文書化しておくことも重要です。
懲戒・債務不履行への対応
度重なる無断欠勤に対し、店舗側は以下の段階を踏んで対応します。
ア 口頭による注意・警告、指導に加え、書面やLINEやメールで注意・警告、指導の履歴を残す
イ 解雇以外の懲戒処分
ウ 自主退職を促す(退職勧奨)
エ 最終的に、懲戒解雇(雇用契約の場合)または契約解除(業務委託契約の場合)
最も重要なのは、感情的な対応を避け、全ての手続きを文書やデジタルデータとして記録し、証拠化することです。
「バンス(前借り)」制度の法的リスクと回収問題

ナイトワーク現場で一般的に行われる「バンス(前借り)」は、キャストの急な出費に対応するために行われますが、法的な整理を誤ると、店舗側が大きなリスクを負うことになります。
「バンス」の法的整理
「バンス」が法律上どのように扱われるかは、キャストとの契約形態によって大きく異なります。
雇用契約の場合:給与前払い・相殺の制限(労基法24条)
雇用契約の場合、「バンス」は「給与の前払い」または「金銭の貸付」と解釈されます。
労働基準法第24条は、「賃金は、通貨で、全額を、直接労働者に支払わなければならない」と定めています。これにより、返済に充てる目的で一方的にバンスを給与から天引き(相殺)することを原則として禁じられます。
ただし、労使協定が締結されている場合や、相殺の趣旨・方法が明確でキャストの自由な意思に基づく合意がある場合に限り、例外的に認められる場合があります。
業務委託の場合:民法上の貸付契約
業務委託契約の場合、バンスは「民法上の金銭消費貸借契約(貸付契約)」として扱われます。この場合、労働基準法は適用されず、貸した金銭についてキャストに対する「返還請求権」が成立します。
バンス逃げ(前借りして音信不通)時の回収方法
バンス逃げが発生した場合、店舗側は以下の順序で回収を進めることが一般的です。
ア 内容証明郵便での返還請求
イ 示談・分割払い交渉(キャストと連絡が取れた場合)
ウ 法的手続き(交渉が決裂した場合)
バンス契約書の書き方:回収の成否を左右する要素
回収を成功させるためには、バンスを渡す際にきちんと契約書を交わすことが重要です。
具体的には、①返済期限・返済方法の明確化、②連帯保証人の確保(可能であれば)、③適法な遅延損害金(違約金)条項の明確化が求められます。
特に、雇用契約下で給与天引きを行う旨の条項は、労基法違反と判断されないよう、弁護士と相談しながら慎重に作成する必要があります。
弁護士に依頼するメリット
バンス問題において弁護士が関与する最大のメリットは、法的な問題点について確認された書面を準備できる点と、回収の実行力が高まる点にあります。弁護士は、労基法を遵守した上で、回収可能性を最大限に高める契約書を作成することに努めます。
また、弁護士名義で内容証明郵便を送付することで、相手にプレッシャーを与え、交渉のテーブルに着かせやすくなります。
そして、訴訟や支払督促手続きを代理することで、店舗経営者は本業に集中できるようになります。
ナイトワーク店舗における「ドタキャン」対応と法律上の限界

出勤予定日の当日に連絡もなくキャンセルするドタキャンは、特にナイトワーク店舗など予約が売上に直結する業態において、深刻な損害をもたらします。
「出勤予定」当日のキャンセルの法的評価
ドタキャン行為に対する法的措置は、やはり契約形態により変わります。
雇用契約の場合
懲戒処分は可能ですが、労基法上損害賠償請求は難しいといえます。また、労基法第16条は「賠償予定の禁止」を定めているため、あらかじめドタキャン時の損害賠償額(罰金)を定めておくことはできません。
業務委託契約の場合
業務委託契約の場合、シフトの確定後にドタキャンすることは、債務不履行にあたります。店舗側は、この債務不履行によって発生した損害について、民法に基づき損害賠償請求が成立する余地があります。
店側が注意すべき「違法な罰金制度」
ナイトワーク業界では、「ドタキャン罰金」という名目で、数万円から十数万円の金銭的ペナルティを課すルールが散見されますが、以下の法規に抵触するリスクがあります。
ア 労基法16条(賠償予定の禁止)
労働契約においては、労働者がペナルティを支払うことをあらかじめ定めておくことは禁止されています。
イ 労働契約法9条(就業規則の不利益変更)
従業員にとって一方的に不利益となる罰則規定を後から導入する際は、合理的な理由と十分な手続きが必要です。
ドタキャンに対する対応は、違法な罰金ではなく、①雇用契約の場合は懲戒処分、②業務委託契約の場合は適法な違約金条項の設定によるべきです。
契約解除と事前準備
無断ドタキャンを繰り返すキャストに対しては、就業規則や契約書に定める回数を超えた時点で、「改善の見込みがない」として契約解除を行うことが考えられます。
この際も、必ず、口頭ではなく書面またはLINEやメール等を残し、法的な証拠を保全することが不可欠です。
バンス逃げ・無断欠勤を防ぐための事前対策

トラブル発生後の対応よりもトラブルを未然に防ぐ予防策が、経営安定化の最重要課題といえます。
採用時のリスクチェックと文書化
採用時に以下の対応をしておくことが有用です。
身分証確認・緊急連絡先の取得
偽名や虚偽の情報での勤務を防ぐため、運転免許証などの身分証明書で本人確認を行い、緊急連絡先を取得しておきましょう。
勤務誓約書
勤務開始時に、就業規則や契約内容、特にドタキャン・無断欠勤・バンスに関する規定を理解し遵守することを約束する誓約書に署名させることも1つの有効な方法です。
契約書で明示すべきポイント
契約書は、トラブル時に店舗を守る盾となります。以下の事項を明確に記載しましょう。
ア 勤務ルール(雇用契約の場合)
・シフト確定後の変更・キャンセルに関するルール
・無断欠勤が〇日続いた場合の懲戒解雇事由
イ バンス貸付条件(業務委託契約の場合)
・バンスは「貸付」であり、業務委託の報酬の前払いではないことを明確化
・返済期限、返済方法、期限を過ぎた場合の適法な遅延損害金率を明記
ウ 適法な違約金条項
管理体制のデジタル化と柔軟な対応マニュアル
出勤・退勤の時刻、シフト変更の申請、LINEでの連絡内容などをデジタルで管理しましょう。この記録こそが、後の裁判で利用できる必要な証拠となります。
また、マニュアルには、「ドタキャン発生時は〇時間以内に〇回連絡を試みる」「〇日以上の無断欠勤で懲戒解雇/契約解除の通知書を内容証明で発送する」といった具体的な対応方法を、契約形態ごとに定めておくと有効です。
トラブルが発生した場合の弁護士による対応

キャストとのトラブルは、店舗経営者にとって精神的な負担が大きく、感情的な対立に発展しやすいものです。トラブルに弁護士が関与することには、多くのメリットがあります。
弁護士が関与することで得られるメリット
以下のメリットが挙げられます。
感情的対立を避け、法的根拠に基づく交渉を可能にする
弁護士が代理人となることで、感情的な対立を回避し、法的に客観的な基準に基づいて交渉を進めることができます。
内容証明や支払督促の作成・代理
バンスの回収において、弁護士は、法的な知識に基づき、法的に整理された内容証明郵便や支払督促申立書を作成し、手続きを代理します。これらは相手方への強いプレッシャーとなり、回収率が高まることが考えられます。
顧問弁護士による労務管理体制の整備
平時から顧問弁護士と契約することで、就業規則や業務委託契約書の法的な整備、バンス制度の適法化など、トラブル予防のための労務管理体制を構築できます。
まとめ

ナイトワーク現場におけるドタキャン、無断欠勤、バンス逃げといった問題は、店舗経営に深刻な影を落とします。対応の鍵は、「防止」と「証拠化」です。
店舗側は、違法な「罰則」を作るのではなく、就業規則や契約書で明文化することにより、キャストと店舗間のルールを明確にし、お互いの権利と義務を守る法的体制を構築することが求められます。
トラブルの芽を摘み取り、法的リスクを最小化した健全な経営を実現するためには、専門知識を持つ弁護士との連携が必要です。
弁護士法人アークレスト法律事務所は、労務問題、バンスの回収、契約書の整備など、ナイトワーク特有の法的な課題に精通している弁護士が在籍しております。お悩みの店舗経営者の方は、ぜひご相談ください。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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