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ネット上での名誉毀損が成立した判例・認められなかった判例

2021.02.08
ネット上での名誉毀損が成立した判例・認められなかった判例

ネット上で誹謗中傷を受けたとき、「名誉毀損で訴えてやる!」と思っても、実際に名誉毀損で訴えることはできるの? と疑問に思うかもしれません。

爆サイやホスラブなどの匿名掲示板やSNSでも、名誉毀損が成立することはあります。ただし、要件を満たさないと名誉毀損が認められないこともあるので注意が必要です。

実際にあった裁判で、名誉毀損が成立した判例・成立しなかった判例から、名誉毀損が成立する3つの要件を説明します。

1.ネット上での名誉毀損が実際に成立した判例

ネット上での名誉毀損が実際に成立した判例

「ネット上の誹謗中傷でも名誉毀損が成立する」と言われても、実際にどのような状況なら成立するのか気になりますよね? まず、名誉毀損が成立した実際の判例をみてみましょう。[注1]

[注1]裁判所:裁判例検索

1-1.社会的評価が下がるとして名誉毀損と認められた判例

歯科医師である被告が、ネット掲示板に原告(被害者)が経営する歯科医院に対し、社会的評価を下げる内容の投稿をおこなった事件の判例です。

歯科医院を利用した患者からの相談として、複数回投稿されていました。高額な治療費を請求されるというイメージを与え、社会的評価を下げたとして名誉毀損が成立しました。裁判所は、原告の社会的評価の低下や精神的損害として慰謝料200万円を、弁護士費用などで40万円、合わせて240万円の賠償請求を認めています。
平成29年(ワ)第2472号 損害賠償請求事件[注2]


[注2]平成29年(ワ)第2472号 損害賠償請求事件:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/877/089877_hanrei.pdf

1-2.なりすましによる名誉毀損の判例

ネット上の掲示板に、原告(被害者)になりすまして、第三者に対する誹謗中傷をおこなった裁判の判例です。

被告は、原告と同じアカウント名を使用し、プロフィール画像に原告の顔写真を使用していました。原告が発信者情報開示請求をおこなったところ、被告の家族が所有する住所が発覚しました。建物に出入りできる人は限られており、裁判所は被告が投稿者であると断定しています。裁判所は、130万6,000円(慰謝料60万円、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用58万6,000円、本件弁護士費用12万円)の支払いを被告に命じています。
平成29年(ワ)第1649号 損害賠償請求事件[注3]


[注3]平成29年(ワ)第1649号 損害賠償請求事件:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/071/087071_hanrei.pdf?

2.ネット上での名誉毀損として認められなかった判例

ネット上での名誉毀損として認められなかった判例

次に、名誉毀損が成立しなかった判例から、どこが争点になるのかを確認しましょう。

2-1.名誉毀損ではなく侮辱罪にあたるとされた判例

ネットの匿名掲示板にて、誹謗中傷を投稿した人物の発信者情報が開示されなかったことに対する審議を争った事件の判例です。

原告および原告が勤める学校法人の活動について「気違い」などの投稿がされましたが、具体的事実にはあたらず、名誉毀損が成立しないと判断されました。そのため、発信者情報の開示請求は棄却されています。
平成21年(受)第609号  発信者情報開示等請求事件[注4]


[注4]平成21年(受)第609号  発信者情報開示等請求事件:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/104/080104_hanrei.pdf

2-2.投稿の社会的価値が優先された判例

原告に対する誹謗中傷を書いた記事が、Google検索に表示されるため、削除を求めて起こされた事件の判例です。

検索結果に表示されることから、原告は名誉毀損にあたる主張しました。しかし、裁判所は記事をネット上の表現行為として、名誉権よりも社会的価値が優先されると判断して、棄却しました。
平成28年 (ワ) 第24747号 検索結果削除請求事件[注5]


[注5]平成28年 (ワ) 第24747号 検索結果削除請求事件:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/756/087756_hanrei.pdf

3.ネット上で名誉毀損として成立する3つの要件

ネット上で名誉毀損として成立する3つの要件

名誉毀損が成立した判例と認められなかった判例から、裁判で争うときに重要な3つの要件について説明します。

3-1.原告の本名あるいは特定できる情報も書き込まれている

判例はいずれも、原告の本名や勤務先について、個人が特定できる情報も書き込まれていました。なりすましの判例はハンドルネームですが、プロフィール画像に原告の画像を使用しており、個人が特定できると判断されたと考えられます。

歯科医院の判例では、医院の名前を出しているため、医院長である原告が特定できる投稿でした。

3-2.投稿により社会的評価が下がった

名誉毀損が成立した判例の判決文によると、「社会的評価が下がった」あるいは「下がらないとはいえない」との記載があります。つまり、投稿によって原告の社会的評価が重要な争点であると考えられます。

3-3.具体的な事実が書き込まれている

名誉毀損が成立しなかった判例では、投稿が具体的な事実ではないと判断されています。「きちがい」「バカ」などの具体性のない誹謗中傷は、侮辱罪にあたるため、名誉毀損は成立しません。

4.実際にネット上の書き込みが名誉毀損で立件できるかは弁護士に相談

実際にネット上の書き込みが名誉毀損で立件できるかは弁護士に相談

名誉毀損が成立した判例では、下記3つの要件が満たされています。

  • 1.個人が特定できる
  • 2.社会的評価が下がった
  • 3.具体的な事実である

これにあてはまらない場合は、名誉毀損が成立しないかもしれません。しかし法律の知識がない人では、判断が難しいでしょう。まずは、弁護士に相談することをおすすめします。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。