開示請求

書き込みした投稿者を特定~発信者情報開示請求の流れ~|弁護士監修記事

2025.12.17
書き込みした投稿者を特定~発信者情報開示請求の流れ~|弁護士監修記事

前回の記事では、ネット上で誹謗中傷の書き込みをした投稿者を特定するために、サイト管理者等を特定してIPアドレスの開示を受けるところまでをお話しました。

本記事では、IPアドレスの開示を受けた後に投稿者を実際に突き止めるまでの流れやその方法について解説します。

誹謗中傷の2つの対応ニーズ:削除と特定

誹謗中傷の投稿を発見したとき、あなたが求める対応は大きく2つに分かれます。以下の比較表で、どちらの対応が必要なのかをご確認ください。

対応ニーズ 削除を優先したい場合 投稿者を特定したい場合
目的 投稿内容をサイトから削除し、悪評の拡散を止める 投稿者の身元を明かし、損害賠償請求や刑事告訴を行う
優先度が高い場合 ・個人情報流出のリスクがある
・営業への直接的影響がある
・情報が拡散しやすい内容
・悪質な複数投稿がある
・特定可能な証拠がそろっている
・実害が明確にある
対応期間 1~2週間(迅速対応) 3~12ヶ月(法的手続を含む)
費用目安 5万~20万円 30万~150万円
推奨アクション 1. サイト管理者に削除請求
2. 削除対応を確認
3. 必要に応じて法的手段
1. 証拠保存
2. IPアドレス開示請求
3. プロバイダに発信者情報開示請求
4. 投稿者特定後の対応

※ 実際には両方の対応を並行することも可能です。弁護士に相談すれば、どちらを優先すべきか、または両方同時に進めるかを判断できます。

1.発信者情報開示請求の流れ

発信者情報開示請求の流れ

投稿者を特定するには、サイト管理者(コンテンツプロバイダ)を特定した上でIPアドレスを開示してもらい、そこから経由プロバイダを調べ、経由プロバイダに発信者情報開示請求を行う、という流れになります。

1-1.手続きの流れ

ここで、今一度発信者情報開示請求の流れについて見ておきましょう。手続きの大まかな流れは以下のようなものになります。

①発信者情報(IPアドレス)開示請求

サイト管理者を特定し、IPアドレスなどを開示するよう請求します。請求には、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(通称:情プラ法)のガイドラインに則って請求する方法裁判所に仮処分を申し立てる方法の2パターンがあります。

②IPアドレスの開示を受け、経由プロバイダを特定する

サイト管理者が請求に応じたら、もしくは裁判所から仮処分命令が発令されれば、サイト管理者等からIPアドレスの開示を受けます。その後、IPアドレスから経由プロバイダを特定します。

③経由プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起する

IPアドレスやタイムスタンプなどのアクセスログの情報を利用して、経由プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟を提起します。

④確定判決後、投稿者の住所氏名が開示される

裁判所で確定判決が出たら、経由プロバイダから投稿者の住所氏名が開示されます。

各ステップの詳細:流れ・必要証拠・期間・費用

ステップ 対応内容 必要な証拠・情報 標準期間 費用目安
① IPアドレス開示請求 サイト管理者に対し、ガイドラインまたは仮処分で開示請求 ・誹謗中傷投稿のURL
・スクリーンショット
・投稿日時
1~2ヶ月(仮処分の場合) 10万~30万円
② プロバイダ特定・ログ保存要請 whois検索でプロバイダを特定し、アクセスログ保存を要請 ・開示されたIPアドレス
・プロバイダ連絡先
1~2週間 5万~10万円
③ 発信者情報開示請求訴訟 プロバイダに対して裁判所に訴訟提起 ・アクセスログ情報
・権利侵害の証拠
・投稿内容の詳細
2~6ヶ月 20万~40万円
④ 確定判決・情報開示 裁判所の確定判決により投稿者情報がプロバイダから開示 ・確定判決書 即時 報酬金5万~10万円

1-2.開示請求できる発信者情報とは

経由プロバイダは、契約者である投稿者の個人情報を保有しています。利用料金の決済のために、投稿者のクレジットカード番号や銀行の口座番号などの情報も保有していることが多いでしょう。しかし、開示請求があったとしても、個人情報保護・プライバシー保護の観点から、プロバイダが開示できる情報は総務省令で制限されています。

総務省令で認められている発信者情報は以下の通りです。

  • ①発信者の氏名または名称
  • ②発信者の住所・所在地
  • ③発信者の電話番号
  • ④発信者のメールアドレス
  • ⑤IPアドレス
  • ⑥アドレスと組み合わせられたポート番号
  • ⑦インターネット接続サービス利用者識別符号(ガラケーやフィーチャーフォンなどでインターネットを利用する際に携帯電話のキャリアから付与される符号のこと)
  • ⑧SIMカード識別番号
  • ⑨権利侵害情報が投稿された年月日・時刻

2.プロバイダを特定し、アクセスログの保存を要請する

プロバイダを特定し、アクセスログの保存を要請する

IPアドレスの開示を受けても、そのIPアドレスから直ちに投稿者の氏名や連絡先がわかるわけではありません。IPアドレスからわかるのは、そのIPアドレスを管理する経由プロバイダの情報のみです。そこで、経由プロバイダを特定し、投稿時間とその時間に割り当てられていたIPアドレスから投稿者を突き止めるという手順を踏むことになります。

対応先が異なる:口コミサイトと掲示板の違い

サイト種別 代表例 削除対応先 特定対応先 対応の特徴
口コミサイト ・Google口コミ
・ホットペッパー
・食べログ
・Googleマップ
各サイト運営事業者 プロバイダ(携帯電話会社など) 削除対応が比較的迅速(数日~1週間)。ただし、運営側が拒否した場合は法的手段が必要。投稿者特定は一般的な2段階手続。
掲示板サイト ・2ちゃんねる
・爆サイ
・5ちゃんねる
・したらば
掲示板運営会社 プロバイダ(携帯電話会社など) 削除対応が難しい傾向(運営が応じないことも多い)。投稿者特定には仮処分申立てが必要になりやすい。時間と費用がかかる傾向。
SNS ・Twitter(X)
・Instagram
・Facebook
・TikTok
SNS運営会社(海外本社の場合も) プロバイダ(携帯電話会社など) 削除対応は比較的対応される(ガイドライン違反なら対応)。海外企業の場合は手続が複雑になることも。投稿者特定は標準的な2段階手続で対応可能。

2-1.whois検索で経由プロバイダを特定する

IPアドレスが開示されたら、そのIPアドレスをもとにwhois検索経由プロバイダを特定します。whois検索はサイト管理者の特定にも使用しますが、そのIPアドレスの管理者もわかるようになっているのです。検索結果にIPアドレスの管理者が出てくるので、その管理者が経由プロバイダであることがわかります。

2-2.経由プロバイダに対しアクセスログの保存を要請する

経由プロバイダが特定できれば、発信者情報開示請求に先立ち、早急にアクセスログの保存を要請します。アクセスログは発信者を特定する有力な手掛かりとなるものですが、経由プロバイダ側にはアクセスログの保存義務はなく、一般的に3~6ヶ月程度しか保存されていません。

誹謗中傷の投稿があった後すぐに発信者情報開示請求の準備を進めても、IPアドレスが開示された時点ですでに1ヶ月~1ヶ月半程度の月日が経過していることが通常です。そのため、急いでアクセスログを保存しなければならないのです。多くの場合は、こちら側が要請すれば経由プロバイダは確認の上アクセスログを保存する旨の回答をしてくれます。

2-3.応じてもらえない場合は仮処分を申し立てる

もし経由プロバイダがアクセスログの保存に協力してくれない場合は、裁判所に発信者情報消去禁止仮処分の申し立てを行います。このとき、保全の必要性として、一般的なアクセスログの保存期間が3ヶ月~6ヶ月程度と短いこと、アクセスログがきちんと保存されなければ、訴訟は時間がかかりすぎて判決を得ても投稿者の特定ができないことを主張します。裁判所から仮処分命令が発令されれば、経由プロバイダもアクセスログの保存に応じてもらえるでしょう。

3.発信者情報開示請求を行う

発信者情報開示請求を行う

アクセスログが保存されたことが確認できれば、経由プロバイダ側に対して発信者情報開示請求をします。例外的に他の方法で行う場合もありますが、発信者情報開示請求は訴訟で行うのが一般的です。

3-1.原則として発信者情報開示請求は訴訟で行う

発信者情報開示請求は原則として訴訟を提起することで行います。申立先は経由プロバイダ側の本社の所在地を管轄する裁判所になります。

訴訟を申し立てると、経由プロバイダ側は訴状送達を受けた後速やかに投稿者に対して発信者情報開示について意見照会をします。投稿者が開示に同意すればプロバイダから情報が開示されて終了しますが、投稿者が拒否した場合は、そのまま裁判においてプロバイダと開示請求について争うことになります。

3-2.例外的にガイドラインに則った開示請求をする場合

情プラ法のガイドラインに則って開示請求をすることもあります。ただし、任意でプロバイダに開示請求をしても、投稿者が開示に同意しなければ経由プロバイダからはほぼ確実に発信者情報開示を拒否されるため、成功率があまり高いとは言えません。そのため、ガイドラインでも、任意による発信者情報開示請求は例外という位置づけになっています。

3-3.弁護士会照会(23条照会)を行うこともある

訴訟以外に、弁護士会照会が利用されることもあります。弁護士会照会とは、弁護士が弁護士法の規定に基づき、法人や団体に対して受任事件に必要な事項に関する照会を行うことです。弁護士照会は弁護士法23条の2に基づくため、「23条照会」とも言われます。

照会された側には公的な回答義務はあるものの、弁護士会照会には強制力がなく、罰則規定もないので効果は限定的ではあります。しかし、たとえば発信元がインターネットカフェだった場合、インターネットカフェが独自に保有している顧客情報を利用して発信者の特定に協力してくれる可能性もあります。

4.相談タイミングと優先度の目安

誹謗中傷投稿への対応は、タイミングが重要です。以下の目安に基づいて、弁護士への相談を検討してください。

状況 優先度 推奨相談タイミング 対応内容
個人情報が掲載されている
(住所・電話番号・本名等)
★★★ 超緊急 発見直後(当日~翌日以内) 1. 即座に削除請求(プライバシー侵害として優先度が高い)
2. 削除完了後、投稿者特定を検討
営業妨害の可能性がある投稿
(事実無根の悪評など)
★★ 重要 発見から1~2週間以内 1. 削除請求と投稿者特定を並行検討
2. 実害の程度を判断した上で戦略決定
3. 複数投稿がないか確認
軽微な誹謗中傷
(評価や批判程度)
★ 低い 発見から1~2ヶ月以内 1. 削除請求で対応
2. 投稿者特定の必要性を検討
3. 権利侵害の明白性がない場合は手続停止の判断も

重要なポイント:

  • プロバイダのログ保存期間は3~6ヶ月:投稿から3ヶ月以内に投稿者特定の手続を開始しないと、ログが削除されて特定が不可能になります
  • 削除と特定は並行可能:弁護士に相談すれば、同時に両方の対応を進めることが可能です
  • 証拠保存がすべて:相談時には必ずスクリーンショット、URL、投稿日時を保存した状態で提供してください

5.誹謗中傷の投稿者を特定したいときは弁護士法人アークレスト法律事務所に相談を

誹謗中傷の投稿者を特定したいときは弁護士法人アークレスト法律事務所に相談を

インターネット掲示板やSNSでの誹謗中傷は、たいていの場合投稿者が不明です。しかし、その投稿者を特定したくても、裁判所での仮処分申立て申請や訴訟が必要になり、非常に手間暇や時間がかかります。誹謗中傷した投稿者を特定するのは時間が勝負という側面もありますので、投稿者を特定したい場合は、投稿を発見したら弁護士法人アークレスト法律事務所まですみやかにご相談ください。発信者情報開示請求の経験豊富な弁護士が、最適な解決方法を導き出し、あなたの力になります。

弁護士依頼で「削除」と「特定」を一括検討できるメリット

メリット 具体的な効果
1. 削除と特定の優先順位を判断 投稿内容や被害状況から、即座に削除を優先すべきか、特定を優先すべきか、あるいは両方並行するかを判断します。個人では判断が難しい重要な決断をサポートします。
2. 並行対応による時間短縮 削除請求と投稿者特定を同時に進めることで、全体の対応期間を大幅に短縮できます。特にプロバイダのログ保存期間(3~6ヶ月)が限られている中では効果的です。
3. サイト種別ごとの最適な対応 口コミサイト、掲示板、SNSなど、サイトごとの運営体制や手続に合わせた最適な方針で対応できます。
野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。