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スポーツ基本法とは?改正を詳しく解説します!

2025.12.04
スポーツ基本法とは?改正を詳しく解説します!

スポーツは、子どもから高齢者まで幅広い世代に親しまれている娯楽であり、心身の健康を支えるだけでなく、国際交流にも大きな役割を果たしています。その一方で、近年はスポーツ現場におけるハラスメントや、SNSを通じたアスリートへの誹謗中傷、アスリート盗撮、そして、気候変動が屋外のスポーツに与える影響といったさまざまな課題が生じています。

こうした社会状況を背景に、スポーツの基本的な方向性を定める「スポーツ基本法」が2025年に改正されました。この記事では、スポーツ基本法の歴史や理念、そして今回の改正で何が変わったのかを解説します。

スポーツ基本法とは

スポーツ基本法は、2011年に制定された法律です。それ以前は、1961年に作られた「スポーツ振興法」が存在していました。

スポーツ振興法が時を経て、2011年に新たな枠組みとなり「スポーツ基本法」が制定されたのです。スポーツ基本法では、スポーツの振興だけでなく人権や多様性への配慮、国や自治体の責任などが明文化されました。そして、2025年にはさらに時代の変化に対応する形で改正が行われています。

昭和36年に制定されたスポーツ振興法

当時の日本は高度経済成長期であり、1964年には第一回目の東京オリンピックを控えていました。こうした背景の中で、スポーツの普及とルール作りが必要だったのです。内容としては、国民の体力向上や競技スポーツの推進を中心とする内容で「国を挙げてのスポーツ振興」が当時の社会のテーマだったとも言えるでしょう。

それから半世紀という時間が経ち、社会は大きく変化しました。少子高齢化、女性の社会進出、スポーツの国際化など、スポーツを取り巻く環境は多様化しました。こうした変化に伴って、スポーツにも新しい枠組みやルールが必要になりました。そこで作られたのが2011年のスポーツ基本法です。そして、制定から14年経過した2025年に改正されることとなりました。

スポーツ基本法の目的と理念

改正されたスポーツ基本法では、第一条にその目的が明確に規定されています。

「この法律は、スポーツに関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務並びにスポーツ団体の努力等を明らかにするとともに、スポーツに関する施策の基本となる事項を定めることにより、スポーツに関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって国民の心身の健全な発達、明るく豊かな国民生活の形成、活力ある社会の実現及び国際社会の調和ある発展に寄与することを目的とする。」

この理念には、スポーツを通じた国際交流や平和の推進、社会参加の促進などが盛り込まれています。

さらに、誰もがスポーツに親しむことができる環境づくりや、生涯にわたる健康増進、地域コミュニティの活性化といった視点も盛り込まれています。

また、日常生活におけるスポーツ・運動の実践が心身の健康や生活の質を高める手段として位置づけられており、スポーツが教育的・文化的な価値をもつことを明確にしているという点も注目したいポイントです。

参考:スポーツ基本法第一条 e-Gov法令検索
日本スポーツ振興連盟

スポーツ基本法が改正された背景や理由

2025年のスポーツ基本法改正は、気候変動や少子高齢化、多様性など、スポーツを取り巻く社会環境の変化を受けて行われたもので、社会問題を解決するための内容となっています。

ここでは、その背景について解説していきます。

ハラスメントへの対策

近年、スポーツ指導の現場では体罰やパワハラ、セクハラ、アスリート盗撮などが問題となっています。

スポーツにおけるハラスメントとは、指導者が優越的な立場を利用して、選手に過度な負担を強いるケース、そして、部活動の中でのいじめやその他の不適切行為などが考えられます。
また、盗撮に関しては、性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律、各都道府県の迷惑防止条例で規制対象とされていますが、アスリートを性的な目的で執拗に撮影するアスリート盗撮も社会問題になっています。
こうした問題に対応するために、スポーツ基本法の改正で国や自治体がハラスメント防止に向けた具体的な措置を講じることを義務化しました。ハラスメント禁止が明文化されることで、スポーツを楽しむ人たちの安全・安心を確保するための大きな一歩となります。

気候変動への対応

かつてないほどの猛暑や豪雨といった異常気象が増える中で、特に屋外競技については安全性が大きな課題となっています。実際、夏季の全国大会やマラソン競技で選手が熱中症で救急搬送されるケースも報告されています。そのため、安全のために開催時期や時間を変更せざるを得ないケースも出ています。

改正されたスポーツ基本法では第十四条で「気候変動に特に留意しなければならない」と明文化され、気候変動に対応することがはっきりと義務づけられました。

人口減少

日本の少子高齢化はスポーツ人口にも影響を与えています。子どもの競技人口が減る一方で、高齢者の健康づくりとしてのスポーツ需要が増加しています。

スポーツ基本法の改正法では、ウェルビーイングという、心身の健康への貢献なども再定義されています。

多様性

社会の多様化しているなかで、その流れはスポーツ界にも影響を与えています。

スポーツ基本法では、基本理念として、スポーツは性別、年齢、障害の有無、国籍などにかかわらず、多様な国民一人一人が生きがいを持ち幸福を享受できるようにするとともに、豊かさを実感できる社会を実現することを旨として、推進されなければならないとしています。

ドーピング対策

ドーピングはかねてからスポーツの世界での大きな問題のひとつでした。

ご存じの方もいらっしゃると思いますが、ドーピングが原因で国際大会でのメダルが剥奪されたという事例もあります。国際大会でのドーピング違反があればその選手だけでなく国全体の信用が失墜してしまうため、選手の国際的な活動に大きな影響を与えます。

スポーツ基本法の改正では、国・自治体との連携が明示され、スポーツ団体についても透明性の強化などが求められるようになりました。

スポーツ基本法の改正で何が変わったのか

2025年のスポーツ基本法の改正は、具体的な施策や対象を大きく広げた点に特徴があります。ここでは主な改正ポイントを詳しく見ていきましょう。

スポーツという定義を拡大

従来のスポーツは、身体を使った運動や競技を前提としていました。しかし、社会の変化に伴い、新しい形のスポーツも広がっています。改正法では「スポーツの定義」が拡大され、多様な活動が含まれるようになりました。

スポーツ基本法の改正で、スポーツは競技をする人だけでなく見る人や支える人も含めた包括的なものであるとされるようになったのです。

eスポーツ

ゲームを競技として行う「eスポーツ」は、若者を中心に世界的に急成長しています。

改正スポーツ基本法の第二十四条の二では「情報通信技術を活用したスポーツの機会の充実」として、eスポーツについても「スポーツ団体と連携して、情報通信技術を活用したスポーツの機会の充実が図られるよう努めなければならない」と定めました。

今までは、スポーツとして認められにくく「ゲーム」という位置づけであったeスポーツが、スポーツのひとつとして、明文化される形となっています。

参考:スポーツ基本法第二十四条 e-Gov法令検索

つながるためのスポーツ

スポーツ基本法では、スポーツを「競技」としてだけでなく「人と人をつなぐ活動」として捉えています。スポーツを通じて健康増進やリクリエーション、地域コミュニティづくりなど、日常的に楽しむスポーツも政策の対象に含まれているのです。

改正法では、多くの人がスポーツに参加しやすい社会を実現することを目指すことを強調しています。

「する、みる、ささえる」という視点

スポーツに関わる視点についても注目したいポイントです。
まずは、自ら競技に参加してプレイすること「する」。そして、プレイはしないものの観戦して楽しむ「みる」。さらには、大会の運営やボランティア、選手を支える立場で参加する「ささえる」という三つの視点が強調されています。

これらすべてがスポーツ振興の一環とされていて、特に「ささえる」立場の人々に従来より光が当てられるようになっています。スポーツはプレイする人だけでなく、関わるすべての人たちのものであるという新しい視点です。

ハラスメント禁止

スポーツ基本法の改正法では「ハラスメントの禁止」が明文化されました。

指導者による「ハラスメント」に該当するような優越的な地位を背景とした言動などは大きな問題です。ですが、スポーツの現場という閉鎖的で特殊な空間ではそれが見えにくく、また許容されてしまうという事実もありました。近年では、SNSの普及もあって、スポーツの現場でのハラスメントやいじめが広く拡散されるケースもあり、社会問題化しているということはご存じの方も多いでしょう。

こうした中で、スポーツ基本法は、国や自治体がハラスメントに対する防止策を講じなければならないと規定しています。これにより、従来は団体の努力やモラルといった不安定な要素に支えられていたハラスメントへの対応に、法の力が加わることになりました。

スポーツの現場でハラスメントを防止することは、誰もが安心してスポーツを楽しめる環境を整えるための土台となります。

アスリート盗撮への対策

アスリートを性的な目的で盗撮するアスリート盗撮は大きな社会問題となっています。

スポーツ基本法の改正では、第二十九条において、国や地方公共団体がスポーツを行う者への盗撮なども含めた性的な言動などに対する必要な措置を講じなければならないと定めています。これは、性的被害やネット上での人権侵害を防ぐという意味でとても重要な規定です。

参考:スポーツ基本法第二十九条 e-Gov法令検索

気候変動に留意することを明文化

改正スポーツ基本法では、第十四条において、スポーツ事故の防止等に関連して「国及び地方公共団体は……気候の変動への対応に特に留意しなければならない」として気候変動への対応に留意することが明文化されました。

スポーツ施設の整備や大会運営において、関係者へ気候的な要因による負担の低減や安全対策が一層重視されるようになります。「今まではずっとこうだったから」という過去の事例に縛られることなく、柔軟に今の気候に合わせた競技を行うことは極めて重要です。

天候は選手や関係者の安全に直結する問題であるため、過去ではなく今の気候に合わせた対処が必要です。

こうした枠組みを法律という形で示すことで、猛暑や豪雨、少雪といった気候変動への柔軟な対応が必要であると広く認知されるきっかけとなるでしょう。

参考:スポーツ基本法第十四条 e-Gov法令検索

ドーピングについて

ドーピング問題に関しては、公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構、その他の関係機関連携を図りつつ体制の整備、必要な施策を講じるものとされました。

また、団体の透明性やガバナンス強化、第三者委員会の設置も盛り込まれています。これにより、選手の権利を守りながら国際的な信頼を確保することを目指しています。

まとめ

スポーツ基本法の2025年改正は、競技スポーツだけでなく、地域や世代を超えて人々をつなぐ活動としての側面を重視した点が特徴です。また、近年問題となっているスポーツの現場でのハラスメント防止やアスリート盗撮の対策、そして、気候変動への配慮といった現代の課題が明記されました。

さらに、eスポーツなどの新しい分野のスポーツについても明記したこと、そしてスポーツをする人だけでなく支える人や見る人を加えた「する・みる・ささえる」という新しい視点を取り入れました。
スポーツ基本法の改正はこうした新しいスポーツの理念やスポーツを取り巻く問題への対策を示したものです。この法律を実際の現場にどう活かすかが今後の取り組みの課題といえるでしょう。スポーツ基本法はこうしたスポーツの環境の基盤です。国や自治体、団体だけでなく私たち一人ひとりの理解と参加が必要とされています。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。