発信者情報開示請求とは?手続きの流れ・拒否理由・裁判例を弁護士が解説【2026年最新】

トレント(BitTorrent、以下「トレント」といいます。)で映画やアダルト作品などをダウンロードした結果、プロバイダから発信者情報開示に係る意見照会書が届いて戸惑っている方は少なくありません。
近年、P2PFINDER等のシステムの普及により、著作権者がトレント利用者のIPアドレス等を特定し、著作権侵害を理由に開示請求を行うケースが急増しています。対応を誤ると高額な損害賠償を請求されるリスクがあるため、正しい知識と早めの対応が重要です。

しかし、開示請求を受けたからといって必ずしも情報開示されるわけではありません。開示請求が行われると、該当の契約者に対してプロバイダから意見照会書が送付されるのが通常ですので、開示請求を拒否するならその理由をしっかり記載して回答する必要があります。

今回は、トレントでの著作権侵害による開示請求に対する対応、2022年改正法による新手続きと旧手続きの違い、拒否理由の具体例と書き方、さらには関連する裁判例まで含めて弁護士が解説します。

目次

発信者情報開示請求とは?2022年改正による新制度と従来手続きの比較

発信者情報開示請求とは、インターネット上で権利侵害を行った発信者を特定するための手続きです(現・情報流通プラットフォーム対処法)。2022年(令和4年)10月1日施行の改正プロバイダ責任制限法により、発信者情報の開示手続きは大きく変わりました。

なお、従来の手続きもこれまでどおりに行うことは可能です。要は、どちらの手続きを利用するかということになります。コンテンツプロバイダによっては、従来の手続のように、仮処分命令申立てを利用した方が良いこともあります。

比較項目従来の2段手続き新・開示命令制度(2022年〜)
手続きの流れ①サイト管理者へIPアドレス等開示の仮処分
②アクセスプロバイダに対する発信者情報の開示訴訟(基本的に2回の裁判手続き)
一つの非訟手続き(開示命令申立て)で完結可能
※コンテンツプロバイダに対する申立てとアクセスプロバイダに対する申立ては別途必要。また、提供命令は必ずしも機能していないなどの問題点はありますが、ここでは詳しく触れません。また、コンテンツプロバイダから任意にIPアドレス等の開示を受け、または仮処分により開示を受けて、アクセスプロバイダに対してのみ開示命令申立てをすることも可能。)
所要時間の目安6か月〜1年以上3〜6か月
権利者側のコスト2回分の裁判費用・弁護士費用従来の手続より時間がかからず、費用が安く済むこともある。

新制度により、著作権者がトレント利用者を特定するハードルは以前より低くなったともいえるかもしれません。

トレント利用がバレる仕組み―P2Pシステムの技術的背景

著作権者側は、P2PFINDER(ピーツーピーファインダー)やトレント監視システムなどのソフトウェアを使い、トレント上で著作物が共有されていないかを監視することが可能です。これらのシステムは、IPアドレス・タイムスタンプ等を記録することが可能となっています。

トレントはダウンロードと同時にアップロードが行われる仕組みであるため、ダウンロードしただけのつもりであっても、アップロードも行なっていることとなり、著作権法上の公衆送信権侵害として追及される可能性があるのです。

このように、著作権者がIPアドレス等を特定したうえでプロバイダに発信者情報の開示を求めるのが、トレント開示請求の基本的な流れです。

トレントで開示請求されたら拒否することはできるのか?

トレントで映画やアダルト作品をダウンロードすると著作権侵害を理由として、著作権者から開示請求をされるケースがあります。このような場合、開示請求を拒否することはできるのでしょうか。

意見照会書に対する対応

トレントで映画やアダルト動画をダウンロードし、著作権侵害を理由に開示請求がなされると、プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」という文書が送られてきます。開示請求に同意しない場合は、この意見照会書に「開示に同意しない」という意思表示をすることで拒否すること自体は可能です。

ただし、開示請求に同意しなかったからといって情報開示を阻止できるわけではありません。後述するように最終的には裁判所の判断で開示請求が認められる可能性がありますので注意が必要です。

開示請求を拒否しても開示が認められる可能性がある

実際には、開示請求に対して拒否の意思を示しても、以下のような場合には裁判所が開示を認める可能性があります。

  • 開示請求者の権利が侵害されたことが明らかであること
  • 開示を受けるべき正当な理由があること

特に、トレントの場合、ダウンロードと同時にアップロードが行われる仕組みのため、著作権侵害として認定されやすいという特徴があります。
つまり、単に「同意しない」と回答するだけで開示がなされないわけではなく、開示請求者が裁判所に申立てを行い、裁判所が開示を認めた場合には、開示がなされるということです。

著作権侵害の開示請求に関する裁判例

トレントを用いた著作権侵害と発信者情報開示請求については、近年多くの裁判例が蓄積されています。代表的な判例を紹介します。

知財高裁 令和6年6月26日判決(令和5年(ネ)第10102号)―開示認容

BitTorrentでファイルの一部を構成するピース自体での再生が可能とはいえなくとも、公衆送信権、送信可能化権の侵害を肯定し、発信者情報の開示を認めた知財高裁の裁判例です。この裁判例では「当該ピース自体での再生が可能とはいえず、それだけでは表現の本質的特徴を直接感得できないとしても、公衆送信権、送信可能化権の侵害の成立を妨げないというべきである。」と判断しました。この判決は、トレント利用者が拒否理由として当該ピース自体の再生不能を主張しても、開示が認められ得ることを示しています。

トレント開示請求の拒否理由の具体例

トレントによる権利侵害を理由とする開示請求を拒否する場合、「発信者情報開示に係る意見照会書」に拒否をする具体的な理由を記載した回答書を作成しなければなりません。

以下では、トレント開示請求の拒否理由の具体例をいくつか紹介しますので、参考にしてみてください。

権利侵害の明白性がない

開示請求が認められるには、「権利が侵害されたことが明らかであるとき」という要件を満たさなければなりません。トレント利用による開示請求の事案では、主に著作権侵害を理由として開示請求がなされますので、それを拒否するなら権利が侵害されたことが明らかではない、つまり著作権侵害にあたらないということを記載する必要があります。

その場合の記載例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • ファイルのピースのみでは著作権侵害とはいえない
  • 開示請求者は当該作品の著作権者ではない
  • ファイル共有ソフトを立ち上げただけで、実際にはダウンロードやアップロードを行っていない

このように、そもそも権利侵害行為がなかった場合には開示が認められない可能性があります。ただし、前述の知財高裁判決(令和5年(ネ)第10102号)のとおり、ピース送受信が行われているのみでも権利侵害が認定される傾向があり、技術的な主張だけで開示請求が却下されるとは限りません。

開示を受けるべき正当な理由がない

開示請求が認められるには、権利侵害の明白性に加えて「開示を受ける正当な理由」も必要になります。

開示を受ける正当な理由とは、開示請求者が発信者情報を入手することについて合理的な必要性が認められることをいい、具体的には以下のような理由が挙げられます。

・発信者に対する損害賠償請求をする必要性がある
・発信者に対する謝罪広告などの名誉回復措置を請求する必要がある
著作権法上の差止請求をする必要がある
・発信者に対する情報の削除要求を行う必要がある

これに対して、開示請求を行った目的が不当な嫌がらせや個人情報の晒し上げを意図している場合などは正当な理由がなく開示請求は認められません。

もし開示によって家に押しかけられたり、SNSで個人情報を晒されたりする可能性がある場合は、不当な目的であるとして拒否理由になることもあります。
ただし、これらの拒否理由が認められるかどうかは、個別具体的な事情や証拠内容によって変わります。自己判断のみで主張すると不利になることもあり得るため注意が必要です。

トレントで開示請求をされた場合の拒否理由の書き方と注意点

トレント利用による権利侵害を理由とする開示請求に同意しない場合、「発信者情報開示に係る意見照会書」に対する回答書を作成する必要があります。以下では、その際の書き方と注意点を説明します。

開示請求に同意しないなら具体的な理由を記載する

意見照会書には単に「開示に同意しない」と書くだけでなく、拒否する理由を具体的に記載することが重要です。

たとえば、

  • 「権利侵害の証拠が不十分であり、開示の必要性が認められないと考えます」
  • 「開示請求者はSNSなどで報復を宣言しており、開示されると自宅などに押し掛けて危害を加えられるリスクが高いです」

といったことについて、具体的な理由を記載しましょう。

法的根拠に基づいて具体的に記載されているかを確認することが大切です。

証拠があるなら回答書に添付する

発信者情報開示に係る意見照会書の回答書には、開示に同意しない理由を記載するだけでなく、開示請求は認められないことの証拠を提出することも可能です。開示請求に同意しない理由を補強する証拠がある場合は、回答書に添付して提出することをおすすめします。

回答書を提出するなら14日以内に行う

通常、意見照会書には回答期限が14日程度で設定されています。
この期限内に提出しない場合は、プロバイダ側が開示に同意したものとみなすリスクもあるため、期限を守りましょう。

期限内の提出が間に合わない場合には、プロバイダへ事情を説明して期限延長を相談することも可能です。

回答書の内容は今後の手続きで証拠として利用される可能性がある

意見照会書への回答内容は、裁判手続きに発展した場合に証拠として利用される可能性があります。曖昧な表現や不用意な発言は避け、虚偽の記載もしないようにしましょう。

回答書の作成に不安がある場合は、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。

トレントの開示請求を拒否する際に弁護士に相談すべき理由

トレントの開示請求に同意しないとお考えの方は、以下のような理由から弁護士に相談することをおすすめします。

開示請求を拒否する場合の主張を法的観点から適切に構成できる

トレント開示請求に同意しない際には、著作権法や情報流通プラットフォーム対処法の理解が不可欠です。

弁護士に相談すれば、

  • 著作権侵害の成否
  • 拒否理由の法的整理
  • 裁判所での見解予測

などを踏まえた上で、最適な対応を検討できます。

開示が認められたときに備えることができる

仮に情報が開示されてしまった場合、権利者から損害賠償請求を受ける可能性があります。
このときも、弁護士に依頼しておけば

など、今後のリスクを最小限に抑えることができます。

特に、アダルト系コンテンツの開示請求では、家族や周囲に知られることへの不安から過剰に高額な示談金を支払ってしまう方も少なくありません。
冷静かつ適切に対応するためにも、早期に弁護士へ相談することが重要です。

よくある質問(FAQ)

Q. トレントで開示請求を受けたら必ず情報が開示されますか?

A. 必ずしも開示されるわけではありません。ただし、トレントは仕組み上、ダウンロードするとアップロードが自動的に行われるため、著作権侵害が認定されやすく、実務上は開示が認められるケースが多いのが現状です。弁護士法人アークレスト法律事務所では、個々の事案に応じた最適な対応をご提案しています。

Q. 開示請求の意見照会書を無視するとどうなりますか?

A. 意見照会書を無視しても、プロバイダが開示請求に同意したとみなすことはまずありませんが、意見照会の回答をプロバイダが裁判手続で証拠として提出することもあり、その結果、開示請求が却下されることもあり得ます。できるだけ回答期限(通常14日程度)内に対応しましょう。

Q. 2022年の法改正で開示請求の手続きはどう変わりましたか?

A.発信者情報開示命令申立てが創設されたことにより、手続きが迅速化・簡略化されており、従来より開示請求を行いやすい状態になったといえます。

まとめ

トレントで開示請求を受けた場合、開示に同意しないこと自体は可能です。しかし、単に「開示に同意しない」と回答するだけでは、開示を防げないケースも少なくありません。

開示に同意しない場合、著作権侵害の有無や開示の必要性の欠如など、法的に有効な理由を具体的に記載する必要があります。

また、意見照会書の回答内容は今後の裁判で証拠として利用される可能性があるため、書き方や提出期限にも注意しなければなりません。

2022年の法改正により開示手続きが迅速化されたこと、P2Pシステムの高度化により著作権者がIPアドレス等を特定しやすくなっていることから、以前よりは開示請求しやすくなったといえます。

トレント開示請求に対応する際は、弁護士に相談して適切な主張を構成することが重要です。専門家に依頼することで、開示された場合の損害賠償交渉も含めて、有利に進められる可能性が高まるでしょう。

トレントで開示請求を受けてお困りの方は、実績と経験豊富な弁護士法人アークレスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。

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