オフィス移転で高額な原状回復費用を請求されたときの対処法を解説
弁護士以外は退去費用の減額交渉NG!非弁行為の罰則やリスクを解説
2025.04.18
企業がオフィスを移転する際には、原状回復義務がありますのでテナントのオーナーに対して退去費用の支払いが必要になります。特に、50~100人規模のオフィスでは、原状回復の範囲が広範にわたりますので、退去費用も高額になる傾向があります。
このような場合、オフィス移転を担当した不動産会社やコンサル会社の社員がテナントオーナーとの退去費用の減額交渉を申し出ることがありますが、そのような行為は「非弁行為」に該当するおそれがあるため避けた方がよいでしょう。
今回は、オフィスの退去費用の減額交渉が非弁行為に該当する理由や非弁行為に該当した場合の罰則・リスクについて解説します。
目次
弁護士以外がオフィス移転の退去費用の減額交渉をするのは「非弁行為」にあたる

弁護士以外の者がオフィス移転の退去費用の減額交渉をするのは、弁護士法72条が禁止する「非弁行為」に該当する可能性があります。以下では、非弁行為の概要と要件について説明します。
非弁行為とは
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務の取り扱いをすることを禁止しています。非弁行為とは、この弁護士法72条に違反する行為を指します。
弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 |
非弁行為を禁止する目的は、資格を有する弁護士だけが法律事務を取り扱えるようにすることで、社会の法秩序を維持することにあります。
知識や経験がない人が法律事務を扱えば、違法・不当な結果が頻発し、社会の法秩序が著しく乱れてしまうのは容易に想像できるでしょう。
非弁行為の要件
では、どのような場合に弁護士以外の人にオフィスの退去費用の減額交渉を依頼すると非弁行為になってしまうのでしょうか。以下では、非弁行為の要件を踏まえて、退去費用の減額交渉が非弁行為に該当するのかをみていきましょう。
報酬を得る目的
報酬とは、名称や額を問わずおよそ対価として支払われているものであれば、非弁行為における報酬に該当します。
不動産会社やコンサル会社が退去費用の減額交渉をするのは、オフィス移転に伴う仲介手数料や什器備品の購入などで利益を得られるのが主な動機といえます。このように契約上有利な地位を得るということも「報酬」といえますので、退去費用の減額交渉名目で報酬の支払いがなかったとしても、この要件は満たすでしょう。
法律事件
法律事件とは、法律上の権利義務に争いがある事案または新たな権利関係が発生する事案をいいます。
オフィスのオーナーから提示された退去費用の減額を求めるということは、賃借人である企業と賃貸人であるオーナーとの間で法的紛議が生じるのは避けられませんので、「法律事件」に該当します。
法律事務
法律事務とは、法律相談・代理人としての活動・契約書の作成などを指します。
オフィスを借りている企業に代わって、退去費用の減額交渉をするのは、まさに代理人としての活動にほかなりませんので、「法律事務」に該当します。
業とする
業とするとは、反復的または反復継続する意思を持って法律事務の取り扱いを行い、業務性を帯びるに至った場合をいいます。
たとえ一度きりの退去費用の減額交渉であったとしても、反復継続する意思があれば、「業とする」に該当します。
以上を踏まえると、不動産会社やコンサル会社が行う退去費用の減額交渉は、非弁行為に該当する可能性が高いといえるでしょう。
退去費用の交渉代行が非弁行為にあたる場合の罰則

退去費用の減額交渉の代行が非弁行為にあたる場合、どのような罰則が科されるのでしょうか。以下では、非弁行為に該当した場合の罰則について説明します。
弁護士法72条の非弁活動の禁止
弁護士法72条が禁止する非弁行為をした場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
弁護士法27条の非弁提携の禁止
退去費用の減額交渉の場面では、弁護士法72条の非弁行為だけではなく、弁護士法27条の「非弁提携の禁止」に該当する可能性もあります。
非弁提携とは、弁護士でないのに法律事務を取り扱う非弁業者と弁護士が提携することをいいます。このような非弁提携に該当する行為をした場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます。
なお、非弁提携に該当する行為としては、主に以下のようなものが挙げられます。
名義貸し
非弁業者が法律事務所の名前を使って集客し、非弁業者の従業員が中心となって法律事務を処理していることを弁護士が是認しているようなケースは、非弁提携に該当します。
報酬の分配
弁護士が営業代行業者に対して売り上げの一定割合の報酬を支払うようなケースは、弁護士職務基本規程12条の報酬分配の制限に違反しますので、非弁提携に該当します。
紹介料の支払い
弁護士が不動産業者やコンサルから事件の紹介を受けて、そのお礼として謝礼を支払う行為は、非弁提携に該当します。
社員になりすまして退去費用の減額交渉をするのは「偽計業務妨害罪」にあたる

不動産会社やコンサル会社の担当者が賃借人である企業の社員になりすまして、テナントのオーナーと退去費用の減額交渉をすることは、偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。
偽計業務妨害罪とは
偽計業務妨害罪とは、人を騙したり、勘違いなどを利用して他人の業務を妨害した場合に成立する犯罪です。
飲食店に嘘の注文をして出前の配達をさせたようなケースが偽計業務妨害罪の典型的なケースになりますが、不動産会社やコンサル会社の担当者が賃借人である企業の社員になりすまして、テナントのオーナーと退去費用の減額交渉をする行為も偽計業務妨害罪に該当する可能性があります。
なぜなら、テナントのオーナーは、交渉している相手が賃借人である企業の社員だと誤解し、円滑なオーナー業務が妨げられているからです。
なお、偽計業務妨害罪が成立すると、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
偽計業務妨害罪の成立要件
偽計業務妨害罪は、以下の要件を満たした場合に成立します。
虚偽の風説の流布または偽計を用いること
虚偽の風説の流布とは、客観的事実とは異なる情報や噂を不特定または多数の人に広めることをいいます。
偽計とは、人を欺いたり誘惑したりすることをいいます。 積極的に人を欺く行為がなかったとしても、人の勘違いを利用する行為も「偽計」にあたります。
他人の業務を妨害すること
業務とは、一般的な仕事に限らず、人が社会生活上の地位に基づき反復・継続して行われるものを指します。
妨害とは、業務を妨害するおそれがある状態が発生したことをいい、実際に妨害されたことまでは必要ありません。そのため、不動産会社やコンサル会社の社員が賃借人である企業の社員になりすまして退去費用の減額交渉をしたものの、減額できなかったような場合でも偽計業務妨害罪は成立します。
非弁業者に退去費用の減額交渉を依頼した場合に生じるリスク

非弁業者にオフィスの退去費用の減額交渉を依頼した場合、依頼をした企業にはどのようなリスクが生じるのでしょうか。
非弁行為の依頼をした側に対する罰則はない
弁護士法72条の非弁行為の禁止規定は、実際に非弁行為をした者を処罰する規定になりますので、原則として、非弁行為の依頼をした側が処罰されることはありません。
ただし、非弁業者がテナントのオーナーに対して脅迫的な態度で退去費用の減額を迫ったようなケースでは、非弁業者に依頼した側も脅迫罪の共犯として処罰されるリスクがありますので注意が必要です。
企業のコンプライアンス問題に発展するリスク
退去費用の減額交渉をした非弁業者が弁護士法違反で逮捕されたことがニュースや新聞などで報道されると、非弁業者に退去費用の減額交渉を依頼した企業の社会的信用性が失われてしまいます。
近年、企業のコンプライアンスの重要性が意識されてきていますので、このような不祥事が報道されてしまうと顧客離れや売り上げの減少、取引先からの契約の打ち切り、株価の下落などさまざまなリスクが生じる可能性もあります。
オーナーとの交渉がこじれてトラブルに発展するリスク
非弁業者に退去費用の減額交渉を依頼したことがバレると、オーナーとの交渉がこじれてしまう可能性があります。
退去費用の減額の合意ができる見込みだったとしても、非弁業者を使っていることが発覚すると、減額交渉をまた一から始めなければなりません。オーナーとしては騙されたという思いが強いため、当初は減額に応じるつもりだったとしても、頑なに減額に応じない態度へと変化してしまうリスクがあるといえます。
まとめ
企業がオフィスを退去する際には、原状回復義務がありますので退去費用の支払いが必要なります。しかし、テナントのオーナーから提示された退去費用が常に適正なものとは限りませんので、交渉により減額できる可能性があります。
ただし、弁護士以外の業者に退去費用の減額交渉を依頼すると、非弁行為のリスクがありますので、退去費用の減額交渉は弁護士に依頼するべきです。
退去費用の減額交渉を希望される企業の担当者の方は、実績と経験豊富な弁護士法人アークレスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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