オフィスの原状回復・退去費用とは?相場・どこまで負担・高額請求の対処法を弁護士が解説

オフィスの原状回復とは、借りていたオフィスを退去・移転する際に、借りたときの状態に戻すことをいい、そのために必要となる工事費用が退去費用(原状回復費用)です。費用の相場はオフィスの規模により坪2〜10万円程度で、社員数50〜100人規模では500〜1000万円になることもあります。

人員の増加や業務の効率化などの理由でオフィス移転を検討している企業の経営者の方もいると思います。その際に気をつけなければならないのがオフィス移転に伴う原状回復費用です。特に、50〜100人規模のオフィスでは、高額な原状回復費用を請求されるなどのトラブルに巻き込まれることがありますので注意が必要です。

原状回復費用は、契約書・特約・見積書の内容によって大きく変わります。本記事では、誰がどこまで負担するのかという基本から、費用が高額になりやすい要因と、高額請求を受けたときの対処法までを解説します。

目次

オフィスの原状回復・退去費用の相場(坪単価)

現在のオフィスから移転する際には、原状回復を行わなければなりません。原状回復とは、借りたときの状態に戻すことをいい、オフィスの原状回復では以下のような工事が必要になります。

  • 壁や天井、床の汚れなどのクリーニング
  • 持ち込んだ家具や備品などの撤去
  • 入居の際に施工したカーペットやパーテーションの撤去
  • 電気・電話配線の撤去
  • 増設・造作物の撤去
  • 看板などの撤去
  • 天井ボード・壁紙の張り替え

オフィス移転の原状回復費用は、オフィスの規模や工事内容によっても異なりますが、一般的な相場としては、中小規模(30坪程度)のオフィスで2〜5万円/坪、大規模(100坪程度)のオフィスで5〜10万円/坪が目安です。たとえば、社員数が50〜100人の大規模オフィスの移転の場合には、500〜1000万円程度の原状回復費用がかかると考えておいた方がよいでしょう。

オフィスの原状回復とは|どこまで負担が必要か

オフィスの退去では、契約に基づく原状回復義務が生じます。原状回復は単なる補修や清掃ではなく、法律上のルールや契約内容に基づいて行われるものであり、場合によっては多額の費用負担が発生するなど、トラブルにつながることも少なくありません。

オフィスでも居住用の住宅でも、原状回復とは、借主が賃貸借契約終了時に、借りたときの状態に戻して明け渡すことをいいます。オフィスや店舗であれば、パーティションや什器の撤去、カーペットやクロスの張替え、配線や照明設備の復旧などが挙げられます。また、借主が内装工事を行った場合は、スケルトンといって、内装工事をする前の状態に戻すよう求められることもあります。

特にオフィスや事務所、店舗の場合は、住居用賃貸と異なりガイドラインが明確でないこと、そして使用の態様が多様であることなどから、どちらが費用を負担するのかでもめることも珍しくありません。ただし、もちろんすべての損耗を借主が負担するわけではなく、通常使用に伴う劣化については原状回復の対象外とされるのが原則です。また、自然劣化や風水害が原因の場合も、借主は責任を負いません。この区別が曖昧なままだと、本来は貸主が負担すべき部分まで請求に含まれていても気づきにくくなります。

原状回復ガイドライン(国土交通省)とは

オフィスの原状回復範囲を考える際に、よく参考にされるのが国土交通省の「原状回復ガイドライン」です。オフィス専用の基準ではありませんが、実務上の目安として押さえておく必要があります。国土交通省が発表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、居住用賃貸住宅における退去時の費用負担を明確にしてトラブルを減らす目的で策定されました。このガイドラインでは「通常損耗や経年劣化は貸主負担」とはっきりと定められています。

ただし、ガイドラインはオフィスや事務所、店舗を対象にしていないため、必ずこのガイドラインが適用されるというわけではありません。ですが、実務ではこのガイドラインが参考資料として扱われることが多く、オフィスの原状回復でも「通常損耗は借主負担とならない」という原則は準用されるケースが多くなっています。

居住用の賃貸住宅(アパート・マンション)の退去費用・原状回復については、以下の記事で解説しています。

弁護士法人アークレスト法律事務所
2024.07.05
賃借人が負担すべき退去費用の範囲と高額な請求をされたときの対処法
https://j-jurist.com/column/property-trouble/restoration-cost-expensive/
賃貸住宅の退去費用は、原状回復費用とハウスクリーニング代などからなります。経年変化・通常損耗は貸主負担が原則で、相場を大きく超える「高すぎる」請求は減額できる可能性があります。負担範囲と減額交渉の進め方を弁護士が解説します。
続きを読む

原状回復の範囲:通常損耗は対象外、特約があれば契約に従う

オフィスの原状回復の範囲は、契約書や特約、使用用途などによって大きく異なります。基本的には入居時の状態に戻すことが原則です。ただし、経年劣化や通常の使用による摩耗まで借主に負担させることはできません。経年劣化によるダメージは、仮にその物件を誰も賃貸していなくても発生するものですので、借主が負担する部分ではありません。

原則:通常損耗は原状回復の対象外

原状回復の基本的な考え方として、「通常損耗」や「経年劣化」については借主が負担しないという原則があります。通常損耗とは、借主が社会通念上普通に使用していれば不可避的に発生する損耗のことを指します。代表例は以下のとおりです。

  • カーペットの日焼けや色あせ
  • 机や椅子の設置によるへこみ
  • 長期間使用によるクロスの変色
  • 空調機器の経年による性能劣化
  • ドアノブやスイッチ部分の自然な摩耗

こうしたダメージは、借主の故意・過失や善管注意義務違反によって生じたものではなく、時間の経過や通常の使用に伴う自然な消耗であるため、貸主側が修繕・交換する責任を負います。注意したいのが、通常損耗と借主の過失による損傷の境界です。例えば、カーペットにコーヒーをこぼしてシミを作った場合は過失による汚損とされ、借主が負担する可能性が高くなります。一方、長年使用して起きた全体的な色あせや摩耗は通常損耗に含まれるため、借主に修繕義務はありません。入居時点での状態を写真などで記録しておくことは、後々の証拠として極めて有効です。

例外:特約がある場合は契約に従う

原状回復では、契約書に特約条項が設けられている場合、原則としてその内容に従います。たとえば「クロスの全面張替えは借主負担とする」「退去時には床材をすべて交換する」といった条項は典型例です。これらの特約が有効と認められれば、通常損耗にあたる部分であっても借主が費用を負担しなければなりません。ですが、事業者が貸主に比べて交渉力で劣る場合や不動産賃貸に関する知識がない場合もあり、大雑把な説明で「形式的に署名させられただけ」の特約は無効と判断されるケースもあります。契約時に「どこまで原状回復する必要があるのか」を詳細に確認し、曖昧な条項がある場合には修正を求めたり、合意書に明文化しておくことが望ましいでしょう。

オフィスの原状回復に関する特約の効力

オフィスの原状回復をめぐる最大のポイントのひとつが契約時の「特約」の効力です。特約の有効性については、最高裁平成17年12月16日判決が重要な指針となります。この判例は居住用物件に関する事案ですが、オフィス契約にも影響を及ぼすと考えられています。この裁判では、通常損耗特約(通常使用でついた傷などの原状回復を借主が負担するという特約)が有効かが争われ、裁判所は、特約が有効となるためには以下の条件が必要としました。

  • 賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が、賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されていること
  • 契約書で明らかでない場合には、賃貸人が口頭で説明し、賃借人がその旨を明確に認識して合意の内容としたと認められるなど、通常損耗特約が明確に合意されていること

この基準に照らせば、形式的に記載されただけの条項や、説明が不十分なまま押し付けられた合意は無効となる可能性があります。したがって、契約時には特約条項を十分に確認し、疑問があれば交渉や修正を求めることが重要です。

オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい5つの要因

① 中間マージンが上乗せされている

オフィスの原状回復工事は、大規模な工事になるためオーナー指定の工事業者が下請業者に発注して行わせるケースが多く、場合によっては下請業者が孫請業者に発注することもあります。このような「重層請負構造」では、各業者のマージンが上乗せされる結果、最終的な見積額が高額になってしまいます。

② グレードアップ工事になっている

原状回復は借りたときの状態に戻すことを意味しますが、オーナーによっては原状回復工事の機会に古くなった設備を最新のものに入れ替え、その費用を賃借人に請求することがあります(例:トイレを洗浄機能付きにする、蛍光灯をLEDに変更する など)。グレードアップ工事は本来の原状回復の範囲には含まれないため、不当な請求にあたります。

③ 工事単価が割高になっている

オーナーによって工事業者が指定されている場合、相場よりも高い工事単価が設定されていることがあります。賃借人側は指定業者以外に依頼することが難しいため、高額な単価であっても頼まざるを得ず、高額な原状回復費用を支払わなければならなくなります。

④ 原状回復すべき範囲を超えた工事が含まれている

契約で経年劣化や通常損耗が原状回復の対象外になっているにもかかわらず、それらを含めた高額な原状回復費用を請求するのは不当な請求といえます。経年劣化による床や壁の変色、デスクの設置跡などの通常損耗が範囲に含まれるかは契約内容によります。

⑤ 工事日直前に見積もりが提示される

工事日直前に見積もりが提示されると、金額を検討する時間や減額交渉をする時間がないため、見積もりどおりに依頼せざるを得ず、結果として原状回復費用が高額になってしまいます。

オフィス移転で高額な原状回復費用を請求されたときの対処法

原状回復費用の見積もりが適正であるかを確認する

高額な原状回復費用を請求されたときは、詳細な見積書を出してもらい、原状回復の範囲や金額が適正かを確認してください。「内装一式」「設備復旧一式」といった大雑把な記載では、どの工事にいくらかかっているのか分かりませんので、具体的な内訳の提示を求めることが重要です。国土交通省の統計や業界団体の基準単価を参考に、相場と見合った見積もりかを判断することも大切です。

複数の工事業者に相見積もりを依頼する

賃借人の側で工事業者を選べるのであれば、1社だけでなく複数の業者から見積もりをとってください。適正価格の幅を把握でき、工事項目の過不足を比較でき、値引き交渉の材料にもできます。見積もり自体は無料の業者が多いため、3〜4社程度依頼してみるとよいでしょう。貸主指定の業者以外からも見積もりをとることで、大きな価格差が現れることも珍しくありません。

指定業者以外に原状回復工事を依頼できるか確認する

契約で原状回復工事を行う業者が指定されている場合でも、オーナーの同意があれば指定業者以外に依頼できることもありますので、まずはオーナーに確認してみましょう。業者指定に合理性(安全性や迅速性など)があることが前提ですが、相場より明らかに高額な場合には、価格について説明を求め、適正価格で施工してもらうことは費用を払う側の権利です。指定業者の見積額が相場に比べて不当に高額でないか、契約交渉時に指定業者条項について十分な説明を受けているか、他業者の見積もりとの差額はどのくらいか、を確認するのが有効です。

原状回復の範囲や費用についてオーナーと交渉する

請求された原状回復費用が相場を著しく上回る不当な金額であったときは、オーナーとの間で減額交渉を行います。なお、後述するように原状回復費用の減額交渉を弁護士以外の者に依頼すると、弁護士法72条が禁止する「非弁行為」に該当するおそれがありますので注意が必要です。

退去費用の減額交渉を弁護士以外が行うのは「非弁行為」に該当する

非弁行為とは

弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止しています。非弁行為とは、このような弁護士法72条に違反する行為を指します。オフィス移転の原状回復費用の減額交渉は法律事務にあたりますので、それを弁護士以外の者に代行させると非弁行為に該当する可能性があります。

退去費用の交渉代行が非弁行為だった場合のリスク

退去費用の減額交渉を弁護士以外の者に依頼した場合、交渉代行を行った者は弁護士法違反となり、2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という刑事罰が科されるリスクがあります。依頼した側が刑事罰を受けることはありませんが、違法な行為に関与したことが明らかになれば企業のコンプライアンス問題に発展するリスクがあり、オーナーとの減額交渉もこじれてしまう可能性があります。そのため、オフィス移転の原状回復費用の減額交渉を依頼するなら、弁護士に依頼するべきでしょう。

オフィス移転の原状回復費用の交渉は弁護士に依頼するべき

原状回復費用の交渉代行ができるのは弁護士だけ

原状回復費用の減額交渉の代行は法律事務に該当しますので、報酬を得る目的で弁護士以外の者が行うのは非弁行為に該当します。非弁行為に該当すると依頼した企業にもリスクが及びます。弁護士に依頼すれば、非弁行為のリスクなくオーナーとの減額交渉を任せられます。

法的観点から最適な解決を実現できる

原状回復費用の減額交渉を得意とする弁護士であれば、減額交渉のポイントを熟知していますので、法的観点から最適な解決を実現できます。特に社員数50〜100人程度の大規模オフィスでは原状回復費用も高額になりますので、弁護士に依頼することで大幅な減額ができる可能性もあります。弁護士であれば、契約内容や判例に基づいて請求の妥当性を判断し、交渉だけでなく訴訟になった場合の代理も行えます。家主や管理会社との交渉を弁護士が代行することで、直接やりとりする精神的なストレスを減らすこともできます。高額な費用請求や特約の有効性をめぐってトラブルが生じている場合には、早めに弁護士に相談することで、適切な対応策をとることができます。

まとめ

オフィスや事務所、店舗の原状回復は、契約内容や特約によって範囲が大きく変わるため、正しい知識を持つことが不可欠です。原則として通常損耗や経年劣化は借主負担ではありませんが、特約によって負担を求められるケースもあり得ます。契約の段階で、退去時の原状回復義務についてしっかり確認し、合意しておくことが大切です。

また、オフィス移転の原状回復工事では、中間マージンやグレードアップ工事、割高な工事単価など、いくつかの要因により相場よりも費用が高額になる可能性があります。オーナー側から金額が提示されたらそのまま応じるのではなく、見積もりの内訳や相場をしっかり確認することが重要です。

不当な請求に直面した場合や減額交渉が必要な場合には、一度弁護士に相談してみるとよいでしょう。オフィス移転の原状回復費用の減額交渉や、オフィスの原状回復に関するお悩みは、その分野に強い弁護士法人アークレスト法律事務所にお任せください。経験豊富な弁護士が対応いたします。

よくある質問(FAQ)

オフィスの原状回復費用の相場はいくらですか?

中小規模(30坪程度)で2〜5万円/坪、大規模(100坪程度)で5〜10万円/坪が目安です。社員数50〜100人規模のオフィスでは、500〜1000万円程度になることもあります。

オフィスの原状回復はどこまで負担が必要ですか?

借りたときの状態に戻すのが原則ですが、通常損耗や経年劣化は対象外で、原則として貸主が負担します。すべての損耗を借主が負担するわけではありません。

原状回復ガイドラインはオフィスにも適用されますか?

国土交通省のガイドラインは居住用賃貸住宅を対象としており、オフィスは対象外です。ただし実務では参考資料として扱われ、「通常損耗は借主負担としない」という原則が準用されるケースが多くなっています。

特約があると通常損耗まで借主が負担しますか?

負担範囲が契約書に具体的に明記されている、または貸主が説明し借主が明確に合意したと認められる場合には、特約が有効と判断される可能性があります。形式的に署名させられただけの曖昧な特約は無効と判断されることがあります。

高額な原状回復費用を請求されたときの対処法は?

詳細な見積書で内訳と適正性を確認し、複数業者から相見積もりをとり、指定業者以外に依頼できるか確認したうえで、相場を著しく超える場合はオーナーと減額交渉を行います。

退去費用の減額交渉は弁護士以外に依頼できますか?

報酬を得る目的で弁護士以外の者が減額交渉を代行すると、弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当するおそれがあります。減額交渉の代行は弁護士に依頼するべきですので、弁護士にご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。