侮辱罪

侮辱罪とは、「公然と」「事実の摘示以外の方法で」「対象者の社会的評価を低下させる」犯罪です。「公然と」とは、不特定多数の人に伝わる状況を意味します。「事実の摘示以外の方法」とは「罵倒」などが該当します。刑罰は、「1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料」(刑法231条)です。

侮辱罪と名誉毀損罪との違いは、「具体的な事実の摘示」か「それ以外の方法か」という「手段の違い」です。具体的な事実を示して人の社会的評価を下げると名誉毀損罪となりますが、それ以外の単なる侮辱の場合には侮辱罪が成立します。

侮辱罪が成立する例

たくさんの人がいる前で「能なし!バカ野郎」となじる
上司が部下に対し、他の従業員がいる前で「給料泥棒!やめてしまえ!」となじる
「あいつはとんでもないゲス野郎だ」などと言う
ネット上でも侮辱罪が成立するケースはよくあります。たとえばネット掲示板やSNS、ブログなどで「あいつは人間のクズだ」「あんな能なしはみたことがない」などと書き込むと侮辱罪が成立する可能性があります。

侮辱罪は、親告罪なので、被害者が刑事告訴してはじめて加害者が処罰を受けます。

侮辱罪の成立要件

侮辱罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

公然性

侮辱罪の成立要件としての公然性とは、不特定または多数の人が認識できる状態にあることをいいます。実際に不特定または多数の人が認識できたことまでは要件とされていませんので、認識できる状況であれば、公然性の要件を満たします。

たとえば、インターネット上の掲示板などは、誰でもアクセスすることができるサイトですので、そこに他人を侮辱する書き込みをしてしまうと、実際に掲示板を閲覧した人がいなかったとしても、公然性の要件を満たし、侮辱罪が成立する可能性があります。他方、個別メッセージにより侮辱しても、公然性の要件を満たさず、侮辱罪は成立しません。

人を侮辱すること

人を侮辱するとは、他人に対して、侮辱的価値判断の表示を行うことをいいます。すなわち、他人の社会的評価を下げるような発言をすると「侮辱」に該当することになります。

事実の摘示がないこと

侮辱罪が成立するためには、具体的な事実を摘示することなく、他人を侮辱したといえる場合でなければなりません。
侮辱罪と同様に他人の社会的評価を低下させた場合に成立する犯罪には、「名誉棄損罪」があります。名誉棄損罪は、具体的な事実の摘示が要件とされていますので、事実の摘示の有無は、侮辱罪と名誉棄損罪とを分ける基準となります。

侮辱罪の刑罰|刑法改正により厳罰化

侮辱罪は、刑法改正により2022年7月7日から厳罰化されています。以下では、刑法改正により侮辱罪の刑罰などがどのように変わったのかを説明します。

法定刑の厳罰化

従来の侮辱罪の刑罰は、「拘留または科料」のみでした。
・拘留……1日以上30日未満、刑事施設に拘置する刑罰(刑法16条)
・科料……1000円以上1万円未満の金銭を支払う刑罰(刑法17条)

このような侮辱罪の法定刑は、刑法改正により厳罰化され、2022年7月7日からは、以下のようになります。

・1年以下の拘禁
・30万円以下の罰金
・拘留
・科料

改正後の法定刑は、2022年7月7日以降に行われた行為に対して適用されます。掲示板などに他人の悪口を書き込んだのが2022年7月7日よりも前であれば、被害者が気付いたのがそれ以降であったとしても、改正前の法定刑が適用されます。

公訴時効の延長

公訴時効とは、一定期間が経過することで犯人を処罰することができなくなる制度です。
公訴時効は、法定刑の重さによって決まっていますので、従来の侮辱罪だと公訴時効期間は、1年とされていました(刑事訴訟法250条2項7号)。
しかし、刑法改正により法定刑が引き上げられましたので、2022年7月7日からは、侮辱罪の公訴時効期間は3年になります(刑事訴訟法250条2項6号)。

教唆・幇助犯も処罰対象

刑法では、特別な規定がない限りは、法定刑が「拘留または科料」のみの罪に関する教唆犯や幇助犯は、罰しないと定められています(刑法64条)。そして、従来の侮辱罪の法定刑は、拘留または科料のみとされていましたので、侮辱罪の教唆犯や幇助犯は処罰対象外でした。

しかし、刑法改正により、法定刑が引き上げられましたので、2022年7月7日以降は、侮辱罪の教唆犯や幇助犯についても処罰の対象となります。

侮辱罪に該当する?侮辱罪が成立する可能性のある言葉とそうでない言葉

以下では、侮辱罪に該当する可能性のある言葉とそうでない言葉を紹介します。

侮辱罪に該当する可能性のある言葉

※有罪となるかどうかは表現のみで画一的に判断される訳ではなく、あくまでも参考事例としてご参照ください。

・X(旧Twitter)に「〇〇はブスだ」とポスト(旧ツイート)する
・閲覧者がほとんどいない自分のブログに「〇〇はデブ」という内容の記事を投稿する
・飲食店の口コミサイトで「接客が最悪のラーメン屋。店員もバカばかりで二度と行きたくない」と投稿する
・インターネット上の掲示板に「〇〇は地元で有名なヤリマン」と書き込む
・商業施設において、他の買い物客がいる前で、「クソババア!チンタラしてんじゃねえよ」などと大声で叫ぶ
・駅の柱などに「〇〇社は悪質なリフォーム業者だ」などと記載したビラを貼り付ける
・自分と相手の2人しかいない深夜の公園で「お前みたいなブサイクとは付き合えない」と言う
・複数人が参加するグループLINEで特定の人のことを「バカ」「アホ」などと名指ししてメッセージを送る

侮辱罪に該当する可能性の低い言葉

・自宅で相手と二人きりのときに「お前みたいなブサイクとは付き合えない」と言う
・相手に対してメールやLINEで「バカ」「アホ」などのメッセージを送る
・飲食店の口コミサイトに「この店のラーメンはまずい」と投稿する

【被害者向け】侮辱されたときの対処法

インターネット上の掲示板などで、自分のことを侮辱するような内容の書き込みがあったときは、以下のような対処法を検討しましょう。

刑事告訴

書き込みの内容が侮辱罪に該当するものであれば、侮辱するような書き込みをした犯人に刑罰を科すことが考えられます。
侮辱罪は、親告罪とされていますので、被害者による刑事告訴がなければ、犯人を罪に問うことができません。犯人に刑事上の責任を負わせたい場合には、刑事告訴をした方がよいでしょう。

削除請求

インターネット上の掲示板などに誹謗中傷の書き込みがある場合には、すぐに削除請求をすることが大切です。
そのまま書き込みが残った状態だと、いつでも・誰でもその書き込みを見ることが可能ですので、時間が経てば経つほど、被害者の社会的評価は低下してしまいます。そのため、誹謗中傷の書き込みを発見した場合には、すぐに削除請求の手続きを行うようにしましょう。

損害賠償請求

侮辱を受けて精神的苦痛を被った場合には、犯人に対して、損害賠償請求をすることができます。ただし、インターネット上の掲示板などでは、匿名での書き込みになりますので、書き込み内容からは誰が書き込んだものかを特定することができません。
投稿者を特定するには、発信者情報開示請求という手続きが必要になりますので、専門家である弁護士のサポートを受けながら手続きを進めていくようにしましょう。