納品したのに報酬が振り込まれない。PR投稿をしたのに「成果が出なかったから」と減らされた。催促しても返事がない。フリーランスやインフルエンサーとして仕事をしていると、こうした報酬のトラブルは珍しくありません。契約書を交わしていないから、相手が大きな会社だから、とあきらめてしまう方も多いのではないでしょうか。
結論からいえば、契約書がなくても報酬は請求でき、フリーランス法では納品から60日以内の支払いが発注者の義務なので、証拠を集めて段階的に請求すれば回収できる可能性は十分にあります。
この記事では、業務委託の報酬未払いの実態、フリーランス法で発注者に課された義務、未払い報酬を回収する具体的な手順、インフルエンサー・クリエイター特有の注意点を、弁護士がわかりやすく解説します。
報酬の請求には時効があり、相手と連絡が取れなくなると回収は難しくなります。ひとりで抱え込まず、早めにご相談ください。
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結論|業務委託の報酬未払いは、泣き寝入りする必要はない
業務委託の契約は、口約束でも成立します。仕事を引き受けて納品したのであれば、契約書がなくても報酬を請求する権利があります。
さらに、2024年11月に施行されたフリーランス法により、発注者には、取引条件を明示する義務と、納品から60日以内に報酬を支払う義務が課されました。違反した発注者は、公正取引委員会などから指導や勧告を受けることがあります。
未払いにあったら、まず証拠を集め、メールや内容証明郵便で請求し、それでも払われなければ公的な窓口や裁判所の手続きを使う、という順で進めます。
フリーランスの報酬未払いはどのくらい起きている?
報酬の未払いや遅れは、多くのフリーランスが経験しているトラブルです。
- 公正取引委員会と厚生労働省が2024年に行った調査では、報酬が60日以内に支払われなかったことがあるフリーランスは28.1%でした
- 厚生労働省の委託事業「フリーランス・トラブル110番」では、2025年度に13,400件の相談が寄せられました
- 2026年4〜8月の相談内容は「報酬の支払い」が30.9%で最も多く、全額不払い(9.9%)、一方的な減額(9.6%)、支払いの遅れ(8.6%)が続きます
公正取引委員会などがフリーランス法に基づいて行った措置は、2025年度だけで勧告10件、指導1,542件にのぼります。違反の内容で最も多かったのは、期日までに報酬を支払わなかったケース(41.6%)でした。
フリーランス法で発注者に課された義務

フリーランス法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、立場の弱いフリーランスが安心して働けるよう、発注者に一定の義務を課す法律です。2024年11月1日に施行されました。
対象になるのはどんな取引か
この法律で守られるのは、従業員を雇わずに一人で仕事をしている個人事業主や、代表者一人だけの法人(いわゆる一人社長)です。業種に限定はありません。
対象になる取引は、事業者からの次のような委託です。
- 物の製造・加工の委託
- 動画・イラスト・デザイン・文章・プログラムなどの作成の委託
- 出演・撮影・翻訳・レッスンなど、サービスの提供の委託
インフルエンサーが企業から受けるPR案件も、動画や投稿の作成、出演や投稿というサービスの委託として、対象になりうると考えられます。ただし、消費者(個人)からの依頼は対象外です。また、発注者自身も従業員を雇っていない個人などの場合は、次の「条件の明示義務」だけが適用されます。
条件の明示義務(口約束でも契約は成立する)
発注者は、仕事を依頼したら直ちに、業務の内容、報酬の額、支払期日などを、書面やメール、SNSのメッセージなどで明示しなければなりません。
口頭での合意だけでも契約自体は成立しますが、条件を明示しないこと自体が、発注者の法律違反になります。「契約書がないから払わなくていい」という言い分は通りません。
報酬は納品から60日以内に支払う義務
発注者は、成果物やサービスを受け取った日から60日以内の、できるだけ短い期間内に支払期日を定め、その日までに報酬を支払わなければなりません。
- 支払期日を定めていなかった場合:成果物を受け取った日が支払期日になる
- 60日を超える支払期日を定めていた場合:受け取った日から60日を過ぎた日が支払期日になる
請求書を出していないことは、支払いを遅らせる理由になりません。公正取引委員会のQ&Aでも、そう整理されています。
禁止されている減額・買いたたき
1か月以上続く業務委託では、発注者が次のような行為をすることが禁止されています。
- フリーランスに責任がないのに、報酬を減らすこと
- 相場に比べて著しく低い報酬を一方的に決めること(買いたたき)
- 成果物の受け取りを拒んだり、返品したりすること
- 無償で追加の作業やサービスをさせること、不当にやり直しをさせること
報酬の減額は、名目や金額にかかわらず、事前に合意していたとしても、フリーランスに責任がなければ違反になります。2026年1月以降の委託では、振込手数料を報酬から差し引くことも、減額にあたるとされています。
違反した発注者はどうなるか
フリーランスは、発注者の違反を公正取引委員会や中小企業庁に申し出ることができます。申し出たことを理由に、取引を打ち切るなどの不利益な扱いをすることは禁止されています。
申出などをきっかけに調査が行われ、違反が認められると、指導・助言や勧告が行われます。勧告に従わなければ命令が出され、命令に違反すると50万円以下の罰金が科されることがあります。これまでに、大手出版社、放送局、アニメ制作会社、音楽教室などが勧告を受けています。放送業・広告業を対象にした集中的な調査も行われ、128の発注者が指導を受けました。
2025年度には、公正取引委員会の指導などにより、計1,734万円がフリーランスに支払われるなどして回復されています。
未払い報酬を回収する5つのステップ

ステップ1:証拠を集める(契約書がない場合も)
まず、仕事を依頼されたこと、報酬の額、納品したことを示す証拠を集めます。契約書がなくても、次のようなものが証拠になります。
- 依頼や条件のやり取りが分かるメール、DM、LINE、チャットの画面
- 発注書、見積書、請求書
- 納品したデータや、納品を伝えたメッセージ
- PR投稿のURLや、公開された日時が分かる画面
相手にアカウントを消されたり、やり取りを削除されたりする前に、スクリーンショットで保存しておくことが大切です。
ステップ2:メール・書面で支払いを求める
証拠がそろったら、支払いを求める連絡を、記録が残るメールや書面で送ります。報酬の額、納品日、支払期日、振込先、支払ってほしい期限を具体的に書きます。単なる事務的な行き違いであれば、この段階で解決することもあります。
ステップ3:内容証明郵便で請求する
連絡しても払われない、返事がない場合は、内容証明郵便で請求します。内容証明郵便は、いつ、誰が、どんな内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる郵便です。
こちらが本気で請求していることを相手に伝えられるほか、時効が迫っている場合に、完成を6か月延ばす効果もあります。弁護士の名前で送ると、相手が対応を改めることも少なくありません。
ステップ4:公的な窓口を使う
- 公正取引委員会・中小企業庁への申出:フリーランス法の違反を申し出て、発注者への指導などを求めることができます
- フリーランス・トラブル110番:厚生労働省の委託事業で、第二東京弁護士会が運営しています。弁護士に無料で相談でき、無料の和解あっせんの手続きも使えます
ただし、こうした窓口は発注者に支払いを強制することはできません。相手が応じなければ、解決しないこともあります。
ステップ5:支払督促・少額訴訟・訴訟で回収する
相手が支払いに応じなければ、裁判所の手続きを使います。
- 支払督促:書類の審査だけで、裁判所から相手に支払いを命じてもらう手続きです。相手が異議を出すと通常の訴訟に移ります
- 少額訴訟:60万円以下の金銭の請求で使える手続きで、原則として1回の審理で判決が出ます
- 通常の訴訟:金額が大きい場合や、争いがある場合に使います
判決などを得ても相手が払わない場合は、相手の預金や売掛金などを差し押さえる強制執行の手続きで回収します。
インフルエンサー・クリエイター特有の注意点
事務所・代理店を通した案件は誰に請求するか
広告主との間に、所属事務所やキャスティング会社などの代理店が入っている場合、報酬を請求する相手は、原則としてあなたと契約した相手です。代理店から仕事を受けたのであれば、広告主から代理店に支払いがあったかどうかにかかわらず、代理店に請求できるのが基本です。
また、公正取引委員会の考え方では、契約上の相手とは別に、実質的に仕事を依頼している事業者がいる場合は、その事業者がフリーランス法上の発注者にあたるとされています。誰と何を約束したのか、やり取りの記録を確認しておきましょう。
「成果が出なかった」と減額されたら
再生数や売上に応じて報酬が決まる成果報酬型の案件では、最初に示された計算方法どおりに支払われていれば、問題はありません。
一方、固定の報酬を約束していたのに、あとから「再生数が伸びなかった」「思ったほど売れなかった」という理由で報酬を減らすのは、契約違反になるほか、1か月以上続く委託ならフリーランス法の禁止する減額にあたる可能性があります。
PR表記(ステマ規制)を理由にされたら
2023年10月から、広告であることを隠して宣伝する「ステルスマーケティング」が景品表示法で規制されています。規制を受けるのは広告主であり、依頼を受けて投稿したインフルエンサーは規制の対象ではありません。
広告主には、投稿が広告だと分かるようにする責任があります。「PRと表記したから効果が落ちた」などの理由で報酬を減らされた場合は、契約内容に照らして減額に正当な理由があるかを確認し、納得できなければ請求を検討しましょう。
「業務委託」でも労働者として扱われる場合(偽装フリーランス)
契約の名前が「業務委託」でも、働き方の実態が会社員と変わらない場合は、労働基準法上の「労働者」にあたることがあります。勤務時間や場所を指定され、仕事の進め方について細かく指示を受けている、といった事情があれば、その可能性があります。
労働者にあたる場合、未払いの報酬は賃金として扱われ、労働基準法の保護を受けられます。全国の労働基準監督署には、2024年11月から「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」が設けられています。残業代の請求については、当事務所のコラム「残業代請求は弁護士に相談できる?依頼するメリットや費用相場を解説」もご覧ください。
報酬未払いを弁護士に依頼するメリット

- 弁護士の名前で内容証明郵便を送り、相手に支払いを強く促せる
- 契約書がない場合でも、やり取りの記録から請求の根拠を組み立てられる
- 発注者や代理店との交渉を任せられ、精神的な負担が減る
- 支払督促や訴訟、強制執行まで一貫して任せられる
- フリーランス法の違反を含め、相手の対応の問題点を法的に整理できる
相手と連絡が取れなくなったり、相手の会社の経営が悪化したりすると、回収は難しくなります。請求するかどうか迷っている段階でも、早めに相談していただくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
まとめ
業務委託の報酬は、契約書がなくても請求できます。フリーランス法により、発注者には条件を明示する義務と、納品から60日以内に報酬を支払う義務があり、一方的な減額も禁止されています。インフルエンサーのPR案件でも、「成果が出なかった」という理由だけで約束した報酬を減らすことは認められない可能性があります。
報酬が払われないときは、証拠を集める、記録に残る形で請求する、公的な窓口や裁判所の手続きを使う、という順で進めましょう。
相手が応じない、請求の進め方が分からないという場合は、弁護士にご相談ください。






