不正転売

D2C企業が不正転売から身を守るには?事例や対策方法を解説

2023.08.03
D2C企業が不正転売から身を守るには?事例や対策方法を解説

近年、サプリメントや健康食品をインターネットで販売するD2Cビジネスをターゲットにした不正転売が問題となっています。このようなケースに遭遇した場合、法的根拠に基づく適切な対応が必要です。

法律で禁じられている不正転売がどのようなものか事例を通じて明らかにしたうえで、具体的な対策をわかりやすく解説します。

D2C企業をターゲットにした不正転売とは

D2C企業をターゲットにした不正転売とは

D2Cとは、メーカーが代理店や小売店を介さずに、直接消費者と取引をするビジネスです。主にインターネット通販で商品を販売します。しかし、近年、このようなビジネスが不正転売業者のターゲットにされるケースが発生しています。

不正転売業者が狙うのは、サプリメントや健康食品などの販売で用いられるサブスクリプションの「初回割引」制度です。


以前のD2Cビジネスでは、「初回無料」と大きく謳いながら、定期購入のことや、解約条件は分かりづらい場所に表示するといった商法も多く、消費者とトラブルになるケースがありました。継続注文をしないとペナルティがあるというサービスが。しかし、2022年6月の特定商取引法改正によって、通信販売業者の規定が強化されたため、現在では、初回購入後にいつでも解約ができるサービスが多くなっています。そのことが初回割引で安価に手に入れた商品を定価よりも安く転売して不正な利益を得る業者の出現につながっています

なかには、個人情報を偽って繰り返し初回割引価格で商品を注文し、届いた商品を転売する悪徳業者も存在しています。

D2C企業をターゲットにした転売が違法となる法的根拠

D2C企業をターゲットにした転売が違法となる法的根拠

初回割引価格で購入した商品を転売する行為は法律に抵触する可能性があります。転売がどのような法律に触れるのか、また、どんな罰を科せられる可能性があるのかを見ていきましょう。

なお、法律に違反するのは、あくまでも不正な手段を用いて商品を転売したケースです。ユーザーが自分で利用していた商品について、使わなくなったりいらなくなったりして他者に譲渡するケースは該当しません。

1. 損害賠償請求

通販サイトの利用規約に「初回限定割引はおひとり様1回限り」といった記載があるにもかかわらず、 繰り返し割引価格で商品を購入した場合は、損害賠償請求の対象になる可能性があります。

損害賠償責任は民法415条と709条に定められています。規約違反により不当に安い価格で商品を手に入れる行為も、該当するといえるでしょう。

2. 詐欺罪

偽名を使用するなど虚偽の情報を用いて、転売のために繰り返し初回限定割引の商品を手に入れる行為は、刑法246条に定められた詐欺罪に該当する可能性もあります。

詐欺罪で有罪になると、10年以下の懲役が科せられます。罰金刑はありません。

3. 著作権侵害

D2C企業の販売ページの商品画像などを無断で使用した場合、著作権法に違反します。転売業者がインターネット上の商品紹介のために、企業の画像を無断で使用して有罪になると、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、あるいは両方が科せられます。

また、法人の業務の中で、法人の代表者や従業員が著作権侵害を行った場合は、個人が罰せられるだけでなく、法人にも3億円以下の罰金が科せられます。

4. 薬機法違反

医薬品や医療機器に該当する商品は、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬機法」)によって、都道府県知事等の許可を受けた業者でないと販売できないと定められています。

許可を受けていない会社・個人が医薬品などを転売するのは薬機法違反です。3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいは両方が科せられます。

実際にあった不正転売の事例

実際にあった不正転売の事例

不正転売で、実際に逮捕や書類送検された事例もあります。不正転売が明らかになったケースを2件紹介しましょう。

他人名義でサプリメントを違法転売

他者の情報を利用してサプリメントや健康食品を購入し、それを転売したとして、私電磁的記録不正作出・同併用と窃盗の疑いで2021年5月に千葉県と東京都在住の兄弟が逮捕されました。

この兄弟は、1,000人以上の個人情報を使って他人になりすまし、オンラインショッピングサイトでサプリメントや健康食品を購入しては、フリマアプリで転売を繰り返していました。商品は空き家の郵便受けに配達させ、密かに手に入れていたということです。

医薬品の無許可販売

販売に許可が必要な医薬品を無許可で転売したケースもあります。

2023年1月、静岡県の男性が医薬品をオークションサイトなどで転売していたとして書類送検されました。男性は医薬品販売許可を得ていませんでしたが、インターネットで購入した医薬品を「やせ薬」として不法に転売していました。1,000人以上に転売し、650万円ほどの利益を得ていたそうです。

不正転売への対策について

不正転売への対策について

不正転売被害を防ぐためには、事前の対策と、万一被害に遭った場合の迅速な対応が重要です。不正転売が起こりにくい状況を作っておくとともに、万一の際は毅然とした対応を取り、不正転売を許さない姿勢を示しましょう。

1. 商品の販売方法を工夫する

商品の販売方法を工夫するだけで、不正転売被害はかなりの程度まで防げます。

  • 「営利目的での転売を禁止します」等の内容を利用規約に盛り込む
  • 「商品画像の利用・転載禁止」の旨を、商品サイトや会社のホームページ上に明記する
  • 「初回割引」をなくし、サブスクリプションの料金を常に一定にする
  • 「お試し用サンプル」を用意して、それが気に入った場合のみサブスクリプションに移行するようにする
  • 初回限定価格はひとり1回のみであることを明記する
  • 不正転売を発見した際の対処法を明記する
  • 申し込み前に、転売目的の購入ではないことを示すチェックボックスを設ける
  • 不正検知ツールを導入する

ただし、初回割引の廃止やチェックボックスの設置などは、新規顧客の獲得に影響を与える可能性があります。自社の経営方針と考え合わせて検討する必要があるでしょう。

加害者に対して出品停止の交渉を行う

自社商品の転売を発見した際は、転売している相手に連絡して経緯を聞き取りましょう。不正転売であるとわかったら、出品を取りやめるよう交渉するのが先決です。

損害が発生している場合は、損害賠償請求も辞さない意思があることを示したうえで、フリマサイトやオークションサイトへの出品停止を促します。画像の転載のような著作権侵害についても同様です。

損害賠償を請求されるようなことだとは思わず、安易に出品しているケースも少なくありません。このような場合は、警告をするだけでスムーズに出品が取り消されて被害を防げるでしょう。

3.転売先プラットフォームに販売停止を求める

転売相手に対して直接交渉をしても返答がなかった場合や、交渉に応じなかった場合は、転売が行われているフリマアプリやオークションサイトの運営側に販売停止を求めます

画像の転載が著作権侵害にあたる、規約違反に該当する、といった根拠を添えて申し立てをします。事前に各プラットフォームの出品ガイドラインに違反する行為がないか確認し、問題を指摘するとプラットフォーム運営管理者にも納得してもらえるでしょう。

4. 警察に被害届を提出する

特に悪質性が認められる行為に対しては、状況を取りまとめて警察に被害届を提出する方法もあります。刑事事件化することで、相手により強い圧力をかけられるでしょう。

悪質な転売は、詐欺罪のほか、人を欺いて業務を妨害する「偽計業務妨害罪」に該当する可能性もあります。偽計業務妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

5. 詐欺行為や偽計業務妨害などの刑事告訴を検討する

被害届が「被害に遭ったことの申告」であるのに対し、「犯罪を申告して処罰を求める」のが刑事告訴です。刑事告訴が受理されると、警察は犯人の特定や家宅捜索といった捜査を始めます

法律上、刑事告訴は口頭でもできます。しかし実際は、状況を正しく伝えるため、書面(告訴状)にするよう求められることが多いでしょう。

また、告訴は自らの住所地を管轄する警察署に行うのが一般的ですが、加害者の居住地や転売が行われた場所を管轄する警察署に提出することで適切な捜査を促せる場合もあります。

刑事告訴の受理と速やかな捜査のためには、弁護士に告訴状の作成や進捗の確認を依頼するのが効果的です。警察には原則として告訴を受理する義務がありますが、軽微な被害では受理しない可能性もあります。弁護士を活用しましょう。

まとめ

まとめ

D2Cビジネスを営むうえで、不正転売は大きなリスクになります。事前の対策と不正転売を見つけた場合の対処法を知っておきましょう。

不正転売の横行を防ぐためには、迅速な対応が求められます。不正転売に関するお悩みをお持ちの方は、インターネット上の犯罪に精通したアークレスト法律事務所にご相談ください。状況に応じたサポートで、貴社のビジネスをバックアップします。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。