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【弁護士監修】生前贈与の注意点まとめ|相続税と贈与税・不動産・保険のポイント

2022.10.18
【弁護士監修】生前贈与の注意点まとめ|相続税と贈与税・不動産・保険のポイント

人が亡くなると、相続が発生します。課税される相続額が「3 ,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた場合は相続税を払わなければいけません。

相続税の節税対策のひとつに、生前贈与があります。相続税にせよ贈与税にせよ、多額の資産が「一度に」動くと多額の税金がかかります。財産を生前贈与しておくと、相続時にまとめて資産が動くのではなく、毎年分散して少しずつ動かすことができるので、節税が可能です。生前贈与は手続きもそれほど難しくないため、上手に使えば相続税の節税につながります。ただし、やり方を間違えるとかえって税金が高くなったり、生前贈与と認められなかったりすることにもなりかねません。

生前贈与の注意点を紹介します。

生前贈与にかかる税金(相続税・贈与税)に関する注意点

生前贈与にかかる税金(相続税・贈与税)に関する注意点

財産を生前贈与すると、贈与税の対象になります。相続税を減らせても、それ以上の贈与税が課せられたということにならないように、仕組みを理解しておきましょう。

贈与税の控除を利用して節税するための注意点を解説します。

生前贈与が認められない場合がある

一般的な生前贈与である「暦年課税にかかる贈与」は年 間110万円まで非課税ですが、これ以外にも生前贈与に利用できる制度があります。

・ 相続時精算課税
要件を満たすと、2,500万円までの贈与にかかる税金が非課税になる制度です。非課税になった部分はのちに相続税の対象になってしまいますが、相続時の争いを防ぐ目的などで利用されます。

・ 教育資金の一括贈与
要件を満たす形で教育資金の贈与をした場合、1,500万円までは非課税です。

・ 自宅を配偶者へ贈与
20年以上結婚している夫婦間で、配偶者が住むための不動産を贈与した場合は2,000万円まで非課税になります。

ただし、こうした制度は要件を満たさないと認められません。制度を十分理解した上で行いましょう。

相続するよりも税金が高くなるケースがある

「暦年課税にかかる贈与」を利用して長期間少しずつ贈与をすれば、生前贈与のほうが相続よりも税金が安くなる可能性が高いでしょう。ただし、次の段落で詳しく解説しますが、継続しての贈与は「定期贈与」とみなされて税金を課せられる可能性があります。

そもそも、相続額が「3 ,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えないのであれば、相続税対策の必要がありません。財産の棚卸を行い、利用できる控除などを踏まえて、相続と贈与どちらが有利か判定しましょう。贈与税と相続税の税率、相続税対策を何年かけて行うかのスケジュールを踏まえて、いくらを生前贈与しておき、いくらを相続に回すのか、毎年の贈与額をいくらと定めるかのプラン策定が必要です。

<贈与税の税率表>
表中の「基礎控除」は110万円です。また、税率は成人している子・孫に贈与する場合のものです。課税価格は、毎年1月1日から12月31日までの1年間の贈与額の合計です。

贈与税の税率

※参考:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm

<相続税の税率>
相続人ごとに「相続額×税率-控除額」を計算し、合計したものが相続税額となります。

相続税の税率

※参考:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm

定期贈与・連年贈与とみなされる可能性がある

定期贈与とは、毎年定期的に贈与を行う契約を結んで行う贈与です。このような贈与は、合計の贈与額に対して税金がかかります。

例)
毎年100万円、10年間贈与する

上記の場合、年間110万円以内ですから、贈与税はかからないと考えてしまいがちです。しかし、上記の契約を結んで実行した場合は、100万円を10年間受け取る権利を贈与されたとみなされ、課税されます。

定期贈与とみなされないためには、毎年贈与契約書を新たに作成する、贈与する金額や時期を変えるなど、個別の贈与である証拠を残すことが大切です。

死亡前3年以内の贈与は相続税の課税対象となる

贈与をする人が死亡するまでの3年間に贈与があった場合、その額は相続税の課税対象となります。該当の贈与にかかる贈与税は相続税から差し引かれますが、余命宣告等を受けてから慌てて相続税対策として贈与を行っても、意味がないかもしれません。相続税対策は計画的に行いましょう。

不動産の生前贈与に関する注意点

不動産の生前贈与に関する注意点

不動産は高額な相続財産になることが多いものです。生前贈与を利用して相続税対策をしようと考える方もいるでしょう。しかし、不動産の生前贈与はかえって損になることもあるため、注意点を2つ紹介します。

贈与税以外の税金が発生する

不動産の持ち主が変わると、登録免許税や不動産取得税といった税金がかかります。贈与税の特例などを利用して贈与税がかからなかったとしても、その他の支出が発生する点に気を付けましょう。

な お、相続によって不動産を取得した場合、不動産取得税はかかりません。

「小規模宅地等の特例」が適用されない


生前贈与で土地を事前に相続人に贈与していた場合、小規模宅地等の特例は使えません

小規模宅地等の特例とは、亡くなった方や亡くなった方と生計を一にしていた親族が住んでいたり、仕事に利用していたりした土地等の相続税が軽減される特例のことです。

一般的な住まいの場合、330㎡を限度に土地の価額の80%を減額して相続財産を算出します。そのため、相続税の金額を大幅に圧縮できるのです。

保険を利用した生前贈与に関する注意点

保険を利用した生前贈与に関する注意点

たとえば相続税対策として生命保険に加入する場合、「親が契約者および被保険者・子が保険金受取人」になるケースが一般的です。この場合、親が亡くなった時点で子が保険金を受け取り、相続税(5 00万円×法定相続人の数が非課税)を支払います。

これ以外に、「子が契約者かつ受取人、親が被保険者」の保険契約を結び、親が子に保険料を贈与する形で保険に加入する方法もあります。相続時に間違いなく保険金を意図した相続人に渡せるのがメリットです。

後者のように保険を利用した生前贈与を行う場合は、次のような点に注意しましょう。

途中で保険料の贈与ができなくなるリスクがある

親が子に保険料を贈与する形で保険に加入した場合、途中で親の経済状態が悪化して贈与ができなくなるリスクがあります。そうなると、子は自ら保険料を負担しなければいけなくなります。

保険契約は長期にわたるものですから、慎重な判断が必要です。

元本割れの可能性がある

保険契約を締結したあと、なんらかの可能性で早期解約してしまうと、元本割れする可能性が高いです。あらかじめ元本割れリスクが低い保険を選ぶなどの対策を取っておくことをおすすめします。

また、保険は長期にわたって契約するものですから、額面上は損をしていなくても、インフレによって実質的な資産価値が目減りしてしまう可能性も考慮しておきましょう。

子や孫に生前贈与する際の注意点

子や孫に生前贈与する際の注意点

生前贈与を行う相手は、子や孫という場合が多いでしょう。年代が近い場合の多い配偶者は、どちらが先に亡くなるかわからないので、若い次の世代に財産を残すのが効率的です。

子や孫への生前贈与を検討する際に注意しておきたいポイントを3つ紹介します。

名義預金による申告漏れ

名義預金は、親族が子供や孫の名前で口座を作ってお金を貯めることです。「子供名義の口座にこつこつとお金を貯めて将来プレゼントしよう」というのはよくあることですが、名義預金、つまり「子・孫名義の口座の本来の所有者は、被相続人である」とみなされる場合、この預金は相続税の課税対象となります。

相続税の申告が漏れやすく、税務調査が入りやすい項目でもあるため注意しましょう。後から名義預金があることがわかった場合、相続税の再支払に加えて、延滞税や過少申告加算税などのペナルティが課されます。

ジュニアNISAに関する注意点

ジュニアNISA口座は0歳から開設できます。幼い子供が自分で入金することはできないので、親や祖父母等が運用資金を贈与することになるでしょう。ジュニアNISAでは年間80万円まで投資できるため、全額を贈与しても、110万円以下で贈与税は基本的にかかりません。

ただし、贈与であることに変わりはないため、80万円の贈与のほかに30万円を超える贈与を受けた場合、贈与税がかかります。また、ジュニアNISAで運用したお金はあくまでも子供のものですから、親が引き出して自由に使うことはできません。

手渡しによる贈与は避ける

現金を手渡しして贈与した場合、贈与額などの客観的な記録が残らないことから問題視される可能性があります。

金銭のやり取りが明確になるように、贈与契約書を作成して、銀行振り込みなど記録が残る方法で贈与を行いましょう。

なお、常識的な額の生活費の仕送りは贈与に該当しません。

生前贈与に向く人・向かない人の違い

生前贈与に向く人・向かない人の違い
生前贈与に向く人・向かない人の違い

相続財産が基礎控除額を超える可能性がある方は、相続の準備をしておきましょう。

詳しい相続税額や贈与税額、どちらがどのくらいお得になるのかといったことは、税理士に相談するのが確実です。また、贈与をする際の贈与契約書を個人で作成するのが不安であれば、弁護士などに依頼して作成してもらいましょう。

できるだけ税金を圧縮できる資産の残し方を検討してみてください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。