開示請求

【弁護士監修】IP開示請求は意味ないって本当?3つの理由と犯人を特定する方法を解説

2021.10.07
【弁護士監修】IP開示請求は意味ないって本当?3つの理由と犯人を特定する方法を解説

SNSや匿名掲示板などインターネット上で誹謗中傷を受けた際の対応策として、投稿した人を特定して罪や責任を問う「発信者情報開示請求」の手続きがあります。投稿者を特定するための第一段階となるのが、該当の投稿のIPアドレスを取得することです。

しかし、「IP開示請求をしても意味がない」という意見を目にしたことはある方も多いでしょう。ここでは、IPアドレスの開示請求が、誹謗中傷を受けた場合の対処法として本当に効果的なのか詳しく解説していきます。

IP開示請求は無意味ではない

IP開示請求は無意味ではない

結論から言うと、IPアドレスの開示請求にはきちんと意味があります。

匿名の投稿に関して、投稿者を特定するためにはまずIPアドレスの特定が欠かせません。IPアドレスからわかるのは、投稿者が経由したプロバイダ(インターネット回線を提供するインターネット業者や携帯キャリア)です。この情報をもとに、プロバイダに対して「プロバイダ責任制限法」に基づき投稿者の住所や氏名などを開示するように求めることができます。
※開示請求の詳しい流れは後述します

IP開示請求が「意味ない」と言われる3つの理由

IP開示請求が「意味ない」と言われる3つの理由

IP開示請求はけして無意味ではありませんが、単体では投稿者の特定ができないことや、開示を断られるケースもあることから「意味がない」とみなされてしまうこともあります。本当に意味がないのか、その理由をそれぞれ詳しく解説していきます。

理由①IPアドレスだけでは投稿者の特定が難しいから

IPアドレスだけでは、誹謗中傷をした人を特定する情報を得ることはできません。IPアドレスからわかる情報は、以下の通りです。

  • 投稿者のいる国や地域
  • 投稿者が契約しているプロバイダ(ISP)

ただし、IPアドレスからわかるプロバイダは、投稿者と直接インターネット契約を結んでいるため、投稿者の氏名・住所といった個人情報を把握しています。開示されたIPアドレスをもとに、プロバイダへ開示請求の手続きを行うことで、投稿者を特定することが可能です。

IP開示請求というのは、投稿者を特定するための取っ掛かりとなる手続きなのです。

理由②サイト運営者が応じてくれないケースが多いから

IPアドレスを管理しているのは、誹謗中傷の書き込みがあったサイトやSNSの運営者です。しかし、サイトの運営者が直接IPアドレスの開示に応じてくれることはほとんどありません。IP開示請求に応じるかどうかはサイト運営者の任意であり、投稿者のプライバシー保護のため、身元の特定につながるような情報を安易に渡すことはできないためです。

その場合は、裁判所を通じて「発信者情報開示の仮処分命令の申立て」という請求をして、裁判所から認められることでIPアドレスを開示してもらえます。裁判所で開示が適当であると認められるには、誹謗中傷による名誉権の侵害や、画像や動画の無断使用によるプライバシー権・著作権・肖像権などの侵害を明らかにしなければなりません。

理由③IPアドレス取得後に犯人特定が難しい場合もあるから

IP開示請求が認められIPアドレスを取得したとしても、海外のプロキシサーバーを利用していたり、ログが消えてしまっていたりといった理由で、犯人の特定が難しい場合もあります。

実際にどのようなケースで犯人特定が難しいかについては、次の章で詳しく解説します。

IP開示請求が本当に意味をなさないケース

IP開示請求が本当に意味をなさないケース

IPアドレスから投稿者の身元につながる情報が得られないケースとしては、次の3つが考えられます。

ログが消滅してしまった

IPアドレスからプロバイダを割り出せても、該当の投稿をした日から長期間が経過していた場合、投稿者の特定ができないことがあります。

プロバイダで保存されているIPアドレスのログは、携帯キャリアであれば約3カ月、固定回線であれば6~12カ月程度で削除されるのが一般的です。保存期間が終わりログが消滅すると、プロバイダとしても該当のIPアドレスがどの契約者のものか特定することができなくなってしまいます。

投稿者特定の開示請求には全部で1年近くかかるケースが多いですが、IPアドレスが取得できれば、プロバイダに対して裁判が終わるまでログの削除を待ってもらうことが可能です。つまりプロバイダのログが消滅する前に、IPアドレスの開示請求とログ保存の要請を行わなければなりません

経験豊富な弁護士であれば、相談から1~1.5カ月程度でIPアドレスを取得できるため、ログの保存期間には十分に間に合います。開示請求を検討している場合は、できるだけ早く動くことが大切です。

投稿者が公衆無線LANを利用していた

誹謗中傷などの投稿が無料で利用できる公衆無線LANを利用していた場合も、投稿者の特定は困難です。

プロバイダが把握しているのは、あくまでインターネット回線の契約者の情報です。公衆無線LAN(フリーWi-Fi)の契約者はホテルや飲食店、公共交通機関、インターネットカフェなどの施設であるため、わかるのは「投稿者がどの施設を利用していたか」という情報までとなります。

ただし、刑事事件と認められ警察による捜査が行われた場合には、防犯カメラなどの映像によって個人を特定できる可能性があります。またインターネットカフェでは入店時に本人確認をしていたり、IPアドレスを端末ごとに割り振ったりしているケースもあるため、必ず特定が不可能というわけではありません

書き込みが海外のプロキシサーバーを経由していた

問題の投稿が海外のプロキシサーバーを経由していた場合、 海外のプロキシサーバー管理者に対して開示請求をすることになります。そもそも日本の法律である「プロバイダ責任制限法」が適用されるのかが問題となるため、発信者情報の開示も難しいでしょう。開示請求自体ができたとしても、手続きが長引くほか、多額の費用がかかります。

とはいえ、多くのSNSやインターネット掲示板では、海外のプロキシサーバーを経由してアクセスすることを禁じています。このケースに該当する心配はほとんどないといってよいでしょう。

※プロキシサーバー…インターネットへの接続を代理で行う中継サーバー

IP開示請求から投稿者特定までの流れ

IP開示請求から投稿者特定までの流れ

IP開示請求から投稿者を特定するまでの手続きの流れは以下の通りです。

1.発信者情報開示請求についての事前検討

まずは、発信者情報開示請求に意味がある状況かどうか確認しましょう。考慮しなければならないポイントは以下の2つです。

投稿内容が名誉毀損などの権利侵害に当たるか

プロバイダ責任制限法4条1項では「開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかな時」に限って開示請求を認めています。投稿内容が権利侵害に当たることがきちんと説明できなければ、発信者情報開示請求も認められません。

投稿から日にちが経ちすぎていないか

前述のとおり、プロバイダ側で保存されているログは一定期間で消去されてしまいます。開示請求をしても意味がないため、ログが残っているうちに開示請求の手続きを始めなければなりません

2.サイト運営者へのIP開示請求

投稿内容を精査できたら、書き込みがされたサイトの運営者に対して、IPアドレスの開示を求める手続きを行います。問合せフォームやメール等で受け付けているため、プロバイダ責任制限法に基づき開示してほしい理由を明確に伝えましょう。

しかし、個人が問合せをしても開示してもらえるケースは少ないため、裁判所を通じて仮処分命令を出してもらうのが一般的です。

3.プロバイダへの発信者情報開示請求

IPアドレスから投稿者が利用しているプロバイダがわかったら、次にそのプロバイダに対して投稿者の情報を開示するよう請求します。個人情報の開示請求は、仮処分ではなく訴訟の提起が必要です。またあわせて、プロバイダにログ保存の仮処分を申し立てることで裁判中にログが消去されてしまうのを防ぎましょう。

ここで裁判所から認められれば、投稿者の氏名や住所といった個人情報が開示されるため、投稿者に対する損害賠償等へ進めるようになります。

IP開示請求や投稿者特定は弁護士へ相談を

IP開示請求や投稿者特定は弁護士へ相談を

IP開示請求は、誹謗中傷など悪意ある投稿をした人を特定するための手続きです。

投稿した人を特定するまでには、法的な根拠を提示し、複数回の裁判があるなど手間も時間もかかるもの。また迅速に手続きを進めることができなければ、プロバイダに保存されているログが消去され、個人を特定することができなくなる可能性もあります。

スムーズに投稿者を特定するためにも、誹謗中傷等の対策は弁護士へ相談することをおすすめします。弁護士なら、投稿の削除依頼や発信者情報開示請求に伴う手続きをまとめて代行することが可能です。

アークレスト法律事務所は、書き込みの削除や投稿者特定に豊富な実績を持っています。誹謗中傷等の被害を受けていて、どうしたら問題の投稿をやめさせられるのかとお悩みの方はお気軽にご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。