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日本版DBSはいつから施行?制度の仕組みや問題点を弁護士が徹底解説
2024.08.282024年6月19日、子ども性暴力防止法案が参議院本会議で採決が行われ、全会一致で可決・成立しました。同法案では、事業者が子どもに接する仕事に就く人の性犯罪歴を照会することができる制度が盛り込まれており、これを「日本版DBS」といいます。
今後、日本版DBSが導入されることで過去に性犯罪の前科がある人には、どのような影響が生じるのでしょうか。また、子どもに接する業務を行う事業者などはどのような対応が必要になるのでしょうか。
本記事では、今後導入が予定されている日本版DBSの仕組みや問題点について、弁護士がわかりやすく解説します。
日本版DBSはいつから施行?
そもそも日本版DBSはいつから施行されるのでしょうか。以下では、新たに創設される日本版DBSの概要と施行予定日について説明します。
日本版DBSとは?
DBSとは、「Disclosure and Barring Service」の略で、性犯罪歴のある人が子どもに接する仕事に就くことを防ぎ、子どもを性犯罪から守るための仕組みです。DBSは、イギリスにおいて2012年から開始した制度で、子どもに関わる職種に就くことを希望する人は、DBSから発行される無犯罪証明が必要になります。
このようなイギリスのDBSを参考に導入が検討されているのが「日本版DBS」です。日本版DBSは、イギリスのDBSのように従業員が無犯罪証明を提出する制度ではなく、学校や保育所などの対象事業者に対して、子どもに関わる仕事に就く人の性犯罪歴の照会を義務付ける制度となっています。
日本版DBSはいつから施行される?
日本版DBSの創設を含む子ども性暴力防止法案は、2024年6月19日に可決・成立しました。施行期日は、公布の日から起算して2年6か月以内と定められていますので、2026年度をめどに日本版DBSがスタートする予定です。
日本版DBS開始まで2年6か月という期間がかかるのは、性犯罪歴を確認するシステムの構築やガイドランなどの検討が必要になるからです。
日本版DBSの仕組み
日本版DBSとは、どのような仕組みの制度なのでしょうか。以下では、日本版DBSの詳しい仕組みについて説明します。
性犯罪歴の照会が義務付けられる事業
日本版DBSにより性犯罪歴の照会が義務付けられる事業者としては、以下の事業者が挙げられます。
・学校
・認可保育所
・幼稚園
・認定こども園
・児童養護施設
・障害児入所施設
・児童発達支援施設
・放課後等デイサービス施設など
上記の事業者以外の民間教育保育事業者については、制度への参加義務はありませんので、制度に参加するかどうかは事業者の判断に委ねられています。
このような事業者として想定されているのは、個人事業主を除く以下のような事業者です。
・学習塾
・スポーツクラブ
・認可外保育施設
・放課後児童クラブ
・スイミングスクール
・ダンス教室
・体操教室
・インターナショナルスクール
照会対象となる性犯罪歴の範囲
照会対象となる性犯罪の範囲は、不同意性交罪、不同意わいせつ罪といった刑法上の性犯罪だけでなく、児童ポルノ禁止法違反や痴漢・盗撮などの条例違反も対象とされています。これら対象となる犯罪を「特定性犯罪」といいます。
ただし、有罪となった前科のみが対象になりますので、不起訴処分となった場合には照会対象には含まれません。また、下着の窃盗やストーカー規制法といった特定性犯罪とはならないものも対象には含まれません。
性犯罪歴の照会期間
性犯罪歴の照会期間は、過去の性犯罪歴のデータから再犯に至るまでの期間を考慮して、以下のように定められています。
・拘禁刑(懲役刑・禁固刑)……刑の執行終了から20年
・拘禁刑(執行猶予)……裁判確定日から10年
・罰金刑以下……刑の執行終了から10年
事業者が性犯罪歴を照会する手順
事業者が対象者の性犯罪歴を照会する手順としては、以下のような流れが想定されています。
事業者が子ども家庭庁に申請
日本版DBSの対象事業者は、業務に就く予定の人や現職者の性犯罪歴の有無を子ども家庭庁に照会申請します。その際には、本人から戸籍情報などの必要書類の提出をしてもらうことになりますので、本人の関与のもとで照会手続きが進められます。
性犯罪歴がある場合は本人に事前通知
子ども家庭庁に照会申請があると、子ども家庭庁は法務省に性犯罪歴の照会を行い、法務省が子ども家庭庁にその結果を回答します。
子ども家庭庁は、その結果を踏まえて事業者に回答をすることになりますが、性犯罪歴ありの場合、事業者への回答の前に就職希望者・現職者に通知されます。通知を受けた就職希望者・現職者は、2週間以内に内定辞退や退職をすれば、照会申請が取り下げられますので、性犯罪歴が対象事業者に伝わることはありません。
また、事前に通知を受けた内容に誤りがある場合、通知から2週間以内であれば内容の訂正を請求することができます。
事業者に犯罪事実確認書を交付
性犯罪歴なしの場合、犯罪事実確認書が子ども家庭庁から事業者に対して交付されます。
性犯罪歴ありの場合、就職希望者・現職者からの訂正請求がされずに2週間が経過すると子ども家庭庁から事業者に対して、性犯罪歴の詳細情報が記載された犯罪事実確認書が交付されます。
日本版DBS導入により事業者が注意すべき3つのポイント
日本版DBSの導入により、対象となる事業者は、以下の3つのポイントに注意する必要があります。
現職者の性犯罪歴が明らかになったときは配置転換などの措置が必要
日本版DBSでは、性犯罪歴の照会対象者は、新規の就職希望者だけでなく、現在すでに働いている人も対象に含まれています。現職者の性犯罪歴を照会した結果、性犯罪歴ありとの回答があった場合、事業者には、子どもに接触しない業務への配置転換などの措置が求められます。
このような措置が不可能な場合や現職者が配置転換などに応じない場合は、解雇を検討することになるでしょう。安易な解雇は、不当解雇となるリスクがありますので、事業者としては慎重な対応が求められます。
適切な情報管理体制の構築が必要
日本版DBSにより対象事業者には、性犯罪歴の照会が義務付けられますが、犯罪歴というのは極めてプライバシー性の高い情報となります。このような情報を扱う事業者には、適切な情報管理体制の構築が必要となります。
また、情報管理体制の構築を怠り、対象者の性犯罪歴などの情報を漏洩した場合には、罰則が設けられる予定ですので、情報管理には十分な注意が必要となります。
義務化の対象外の事業者は認定制度を利用するかを検討
学校や保育所などは日本版DBSの対象事業者とされていますが、それ以外の民間教育保育事業者については、制度への参加義務はありません。このような民間教育保育事業者が日本版DBSへの参加を希望して、認定事業者となるには、相談体制の整備など一定の条件を満たすことが必要とされています。
認定事業者は、対象事業者と同様に以下の対応が義務付けられます。
・教員等の研修
・児童等との面談、児童等が相談を行いやすくするための措置
・児童等への性暴力の発生が疑われる場合の調査、保護、支援
・性犯罪前科の有無の確認
また、認定事業者となったことは国から公表されるとともに、認定を受けた旨の表示が可能になります。
認定事業者になることで負担も生じますが、利用者に安心を与えることができ、他の事業者との差別化にもつながりますので、認定制度の利用を検討する必要があるでしょう。
日本版DBSの3つの問題点
日本版DBSには、以下のような問題点があると指摘されています。
照会対象となる性犯罪歴の範囲が限定的|不起訴(起訴猶予)は対象外
日本版DBSでは、照会対象となる性犯罪は、刑事裁判で有罪となったものに限定されています。
実際に性犯罪を行ったとしても、被害者との示談により不起訴処分となった事案も相当数あると考えられます。そのため、不起訴(起訴猶予)となった性犯罪歴を対象外とするのでは十分な効果が得られないのではないかとの疑問の声が上がっています。
性犯罪歴を照会できる期間の短さ
性犯罪歴の照会期間は、最長で20年とされていますが、それでは不十分だという声もあります。特に、小児性犯罪は、再犯率が高く治療にも時間がかかるため、性犯罪歴の照会期間はもっと延ばすべきだとの主張もあるようです。
ただし、本人の更生や社会復帰の観点からは、一定期間に制限することも必要ですので、性犯罪者の人権と子どもを性被害から守る目的との調整が必要になるでしょう。
認定制度のハードルの高さ
日本版DBSの適用対象外となる民間の教育保育事業者が日本版DBSに参加して、認定事業者となるには、相談体制の整備など一定の条件を満たすことが必要とされています。
しかし、教員への研修の実施、相談体制の構築、性犯罪前科の有無の確認などの条件をすべて整えることは、人的・経済的な余裕のない中小事業者にとってハードルが高いといえるでしょう。
今後はこのような中小事業者でも認定を取りやすい仕組みを整えていく必要があります。
まとめ
2024年6月19日、子ども性暴力防止法案が可決・成立し、日本版DBSの創設が2026年度中にスタートする見込みです。日本版DBSは、子どもを性犯罪から守ることができる有益な制度ですが、対象となる事業者には制度導入に向けて体制の整備などの負担が生じます。
2026年度に制度が導入されてから慌てて対応することがないように、今から必要な体制の構築などの準備を進めていくようにしましょう。
監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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