開示請求

IPアドレス開示~投稿者特定の第一歩~|弁護士監修記事

2019.09.18
IPアドレス開示~投稿者特定の第一歩~|弁護士監修記事

インターネットで自分のことを誹謗中傷する投稿を見つけた場合、「投稿者を特定して名誉毀損で訴えたい」「損害賠償請求したい」と考える方もいるでしょう。投稿者を特定するためには、まずIPアドレスを開示してもらうことから始めなければなりません。本記事では、IPアドレスを開示する方法や手順について解説します。

1.ネット上で誹謗中傷した投稿者をIPアドレスから特定できるか?

ネット上で誹謗中傷した投稿者をIPアドレスから特定できるか?

ネット上のウェブサイト・掲示板・SNSなどでは、投稿者が自分の知人や友人などの場合を除いて、いきなり投稿者を特定することはできません。では、投稿者を特定するには、どうすればよいのでしょうか。

1-1.発信者を特定するにはIPアドレスが必要

自分のことを誹謗中傷した投稿者を特定するには、投稿時に使用された「IPアドレス」と呼ばれる情報が必要です。IPアドレスとは、投稿者を特定する手がかりとなるインターネット上の住所のようなものです。このIPアドレスは、投稿が行われたウェブサイトの管理者(以下「コンテンツプロバイダ」)が保管するアクセスログに記録されていることが一般的ですので、まずはこのコンテンツプロバイダからIPアドレスを開示してもらわなければなりません。なお、SNSのようにログインが必要なサイトの場合は、ログイン時のIPアドレスも開示の対象となります。

1-2.コンテンツプロバイダからIPアドレスを開示してもらうには

IPアドレスの開示を受けるため、まずは投稿がなされたサイトの管理者であるコンテンツプロバイダを調査し、このコンテンツプロバイダに発信者情報開示請求を行います。コンテンツプロバイダが任意にIPアドレスを開示すればいいですが、そうでない場合には、裁判所に対する仮処分申立が必要となります。仮処分手続でIPアドレスの開示を命令する仮処分命令を発令してもらい、この命令に基づいてコンテンツプロバイダからIPアドレスの開示を受けることになります。

1-3.裁判所への申し立ては最低2回必要になると考えよう

IPアドレスの開示を受けると、このIPアドレスを管理する企業(以下「経由プロバイダ」)がわかります。この経由プロバイダは、投稿者がインターネット接続のために用いたプロバイダであることが一般的ですが、その場合、経由プロバイダはIPアドレスに紐付けられた人物の住所氏名の情報を、アクセスログとして保管しています。そこで、次に経由プロバイダに対し、投稿日時ころにそのIPアドレスを用いていた人物(つまり投稿者)の住所氏名を開示するよう求めることになります。経由プロバイダに対して発信者情報開示請求がなされた場合、経由プロバイダは投稿者の同意なしにはその住所氏名を開示できないので、原則として訴訟提起が必要となります。そのため、IPアドレスの開示請求の際の仮処分手続とあわせて、投稿者を特定するまでに裁判所への申し立ては最低でも2回は行わなければならないと思っておいた方がよいでしょう。

2.発信者情報開示請求の前に検討すべき5つの要件

発信者情報開示請求の前に検討すべき5つの要件

発信者情報開示請求を行う前に、本当にそれが可能かどうかをまず検討します。プロバイダ責任制限法によれば、発信者情報開示請求には以下の5つの要件を満たすことが必要です。

2-1.インターネットを使って不特定多数が見られる状態で発信されていること

1つ目の要件は、「特定電気通信による情報の流通がなされていること」です。ここで「特定電気通信」とは、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信と定義されているため、インターネット上のウェブサイトなどを通して行う不特定人が受信可能な情報発信を指します。これに対し、メーリングリストやメールマガジンなどを含むメールの場合や、LINEメッセージなどの場合は、1対1で情報の送受信が行われるという性質から、この要件には該当しないことになります。

2-2.権利侵害が明らかであること

2つ目の要件は、その情報が世の中に出回ったことによって自分の権利が侵害されたことが明白なことです。たとえば、「Aが不倫している」などの書き込みは名誉毀損となり、権利侵害の明白性が認められます。しかし、「国会議員Bが企業経営者Cから賄賂を受け取った」などの書き込みは、公の利益に資するものとして違法性がなくなるため、権利侵害の明白性は認められないとされます。

2-3.発信者情報の取得に正当な理由があること

開示請求者側に発信者情報を取得する合理的な理由が求められます。たとえば、「発信者に対して書き込みの削除を求めるため」「損害賠償請求をするため」などの理由であれば認められます。

2-4.発信者情報開示を求める相手が「開示関係役務提供者」であること

発信者情報開示を求める相手が、誹謗中傷の投稿に用いられたサーバー管理業者やインターネット掲示板の運営会社などの「特定電気通信役務提供者」であることも必要です。この中には、インターネット通信設備のある企業や地方公共団体の役場、趣味で掲示板を開設している個人、アクセスプロバイダも含まれます。

2-5.開示関係役務提供者が発信者情報を保有していること

発信者情報開示請求には、前述のような特定電気通信役務提供者が、発信者の情報を保有していることがもちろん必要です。ただし、開示を請求できる発信者情報は、総務省令である程度制限されていることに留意しましょう。

3.ウェブサイトの管理者を特定する

ウェブサイトの管理者を特定する

上記の要件のすべて満たした場合は、発信者情報開示請求ができると言えます。発信者情報開示請求は、まずはサイト管理者等を特定することから始めます。

3-1.投稿内容を証拠化しておく

発信者情報開示請求を行う前の事前準備として、投稿内容を証拠として提出するために投稿内容を保存しておきましょう。プリントスクリーン機能を使って該当箇所のキャプチャをとりUSBなどの記録媒体やパソコンに保存するのでもよいですし、該当箇所を紙で印刷するのもよいでしょう。

3-2.サイト管理者(コンテンツプロバイダ)を調べる

次に、サイト管理者であるコンテンツプロバイダを調べます。たいていのサイトには、ページの最下部などに運営会社へのリンクが貼ってあるので、そこをクリックすれば、運営会社の名称や所在地などの企業概要が出てきます。もしサイトのどこにも運営会社の情報がない場合は、「whois検索」を使って検索します。whois検索とは、ドメインの登録者やサーバーのIPアドレス・その管理者を無料で検索できるデータベースのことです。whois検索のサイトは複数あるので、お好みのサイトを使って調べましょう。

4.IPアドレスに関する発信者情報開示請求を行う

IPアドレスに関する発信者情報開示請求を行う

コンテンツプロバイダが特定できれば、IPアドレスの開示請求を行います。開示請求には、プロバイダ責任制限法のガイドラインに則って請求する方法と、裁判所に仮処分の申し立てを行う方法の2通りあります。

4-1.ガイドラインに則って請求する場合

プロバイダ責任制限法のガイドラインに則って請求する場合は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が公開する「発信者情報開示請求書」の書式を使用します。必要事項を記入の上、印鑑証明登録証明書や公的な身分証明書の写し、証拠資料(誹謗中傷されている投稿ページのコピーなど)を添えて、コンテンツプロバイダの所在地に郵送します。弁護士など代理人による請求も可能です。

4-2.裁判所に仮処分を申し立てる場合

コンテンツプロバイダに発信者情報開示請求に応じてもらえない場合は、コンテンツプロバイダの所在地を管轄する裁判所に仮処分を申し立てます。日本に全く拠点のない海外の法人を相手にする場合は、原則として東京地方裁判所に申し立てることになります。裁判所より仮処分命令が発令されると、当該命令に応じてIPアドレスを開示してもらえることが通常です。

4-3.IPアドレスからプロバイダを特定

裁判所より仮処分命令が出ると、コンテンツプロバイダより投稿に使用されたIPアドレスなどのアクセスログが開示されます。IPアドレスからは発信者の情報そのものはわかりませんが、IPアドレスを調査することで経由プロバイダは特定することができます。そこで次に、この経由プロバイダを相手方として、IPアドレスや投稿時間(タイムスタンプ)などのアクセスログをもとに投稿者を特定していくことになります。

※投稿者の個人情報を特定する方法については、下記の記事にて詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

5.投稿者の特定は弁護士法人アークレスト法律事務所にご依頼ください。

インターネットでは情報が拡散されるスピードが非常に速いものの、投稿者を特定するには非常に手間や時間がかかります。自力で解決しようとしてもプロバイダから相手にされない可能性もあります。
投稿者を突き止めたい場合は、インターネットトラブルの問題解決について経験豊富な弁護士法人アークレスト法律事務所までご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。