犯罪歴・逮捕歴

上場審査での犯罪歴・逮捕歴の影響や削除方法を分かりやすく解説

2021.07.09
上場審査での犯罪歴・逮捕歴の影響や削除方法を分かりやすく解説

会社を上場させたいと考えているが、犯罪歴・逮捕歴がある場合、「上場審査にとおらないのでは?」と不安になりますよね。

企業に問題があれば、上場審査に落ちたり審査が中断したりすることもあり、それまでの時間や費用が無駄になってしまいます。そのため、審査に進む前に自身や役員の犯罪歴・逮捕歴を削除したほうがよいケースもあるのです。

この記事では、犯罪歴・逮捕歴が上場審査にどのような影響を与えるかを説明したうえで、削除する方法を詳しく解説します。スピード違反で前科のある人も、審査へ影響がないかを確認しておきましょう。

1.犯罪歴・逮捕歴があっても上場はできる

犯罪歴・逮捕歴があっても上場はできる

結論からいうと、犯罪歴や逮捕歴があっても上場審査で承認を受けることは可能です。そもそも犯罪歴とは、前科や前歴、逮捕歴を含めた意味で使用されます。それぞれの違いは、次の表のとおりです。

前科 裁判において有罪判決を受けた場合のこと
前歴 被疑者として捜査機関から捜査を受けた記録のこと
逮捕歴 被疑者として逮捕された記録のこと

逮捕された場合は逮捕歴、捜査を受けた場合は前歴がつきますが、有罪判決を受けない限り、前科にはなりません。

前科には、スピード違反や虚偽広告などの軽犯罪で有罪判決を受けた場合も含まれます。上場審査では、一般的に罪を償い終わっている犯罪歴や、逮捕歴の影響は少ないと考えられています。ただし、社会的影響の大きい重犯罪では、影響がないとは言い切れません。

新規上場ガイドブックによると、上場審査の内容では、「事業活動に支障をきたす要因が発生していないこと」とあります。つまり、犯罪歴や逮捕歴があることで、事業活動の継続に支障のあるケースでは、上場審査に影響する可能性があるということです。[注1]

2.新規上場ガイドブックには上場審査の基準が記載されている

犯罪歴や逮捕歴が上場審査に影響するかは、新規上場ガイドブックで確認できます。まずは、新規上場ガイドブックの発行元や、概要を簡単に説明します。

2-1.新規上場ガイドブックとは

新規上場ガイドブックとは、東京証券取引所が上場審査の基準を上場を考えている企業へ提示する目的で作ったガイドブックです。

上場審査で求められる企業の経営体制や、グループ会社との関係などが明示されています。審査の内容についても言及されており、上場を目指す企業の指標になるものです。

2-2.新規上場ガイドブックの内容

新規上場ガイドブックには、審査基準だけでなく、上場に係る費用や上場規定について記載されています。上場に必要な株主数や時価総額、事業継続点数、純資産の額、利益の額など詳細な要件が示されているガイドブックです。[注2]

また審査のQ&Aも掲載されているため、実際の経営状況と照らし合わせて疑問を解消できる内容になっています。

3.上場審査で犯罪歴・逮捕歴が影響する場合

上場審査で犯罪歴・逮捕歴が影響する場合

犯罪歴や逮捕歴がある人でも上場できます。しかし直接ではなくとも、間接的に上場審査に影響を与える可能性は否定できません。ここでは、犯罪歴・逮捕歴が上場審査に影響を与える可能性について解説します。

3-1.インターネット上に犯罪歴・逮捕歴の記載が残っているケース

服役や罰金で罪を償った場合でもインターネット上に過去の犯罪歴や逮捕歴が残っているケースでは、上場審査に影響を及ぼす可能性があります。

上場審査で承認を受けて上場したあとで企業イメージを損なう事由が発覚した場合、株価暴落のリスクになります。

たとえば、ニュースで大きく取り上げられた重犯罪に関する記事が、インターネット上に残っている場合です。上場後に、そのニュースが再び取り上げられることで、企業イメージを損なって経営に支障をきたす恐れがあります。

経営活動への影響が大きいと判断されれば、上場できない可能性もあることを理解しておきましょう。

3-2.訴訟の最中であるケース

現在進行形で犯罪の有無が審議されているケースでは、上場審査にとおらない可能性があります。

犯罪の被告、あるいは関係者として調査がおこなわれている段階では、有罪となって刑事罰を受ける可能性もあるからです。この場合も、事業活動の継続に支障を与える可能性を否定できず、審査に影響を与えるでしょう。

4.上場審査に影響がでる可能性のある問題点

上場審査の基準は、JPX(日本取引所グループ)が発刊している『新規上場ガイドブック』で明確に示されています。ここでは、犯罪歴・逮捕歴のほかに、上場審査に影響を与える問題点について紹介します。

4-1.役員や取引先が反社会勢力と関係がある

ガイドブックでは、「公益又は投資者保護の観点から当取引所が必要と認める事項」として、反社会勢力との関係性について言及しています。

反社会勢力による経営活動への関与を防止するため、上場審査では関係者への調査がおこなわれます。申請者や役員だけでなく、取引先なども反社会勢力との関係がないかを調べられるので、事前に確認が必要です。

過去の犯罪歴・逮捕歴についても、反社会勢力との関係性が疑われるような場合は、厳しく追及を受ける可能性があるでしょう。そのため、場合によっては役員や代表者の身辺調査が必要になるケースもあります。

4-2.業績に影響を与える恐れのある訴訟事件が発生している

現在、事業に影響を与えるような訴訟を抱えているときも、上場審査の妨げになります。

ガイドブックによると、「経営活動や業績に重大な影響を与える係争又は紛争を抱えていないこと」との条件が記載されています。つまり、結果によっては事業に悪い影響を与える訴訟やもめごとがある場合は、上場審査の承認がおりないということです。

刑事事件でなくても、損害賠償請求などの民事訴訟・示談の最中であるときは、上場審査の申請は解決後にしたほうがよいでしょう。

4-3.インターネット上に企業のネガティブな評価が残っている

インターネット上に掲載されている企業の評価が、ネガティブなものであるケースでは、上場審査に支障をきたすことがあります。

企業イメージが損なわれ、株価への影響が懸念される場合は、上場審査が中断したり、とおらなかったりするかもしれません。評価が事実ではなかったとしても、審査に影響しないとは限りません。

インターネット上に残されたネガティブな評価は、サイト運営者が削除しない限りずっと残ります。そのため、風評被害を止めなければ上場できないことになってしまうでしょう。

しかし犯罪歴・逮捕歴を含め、上場審査に影響を与えそうなインターネット上の情報を消すことで対処できます。

5.上場審査の前に犯罪歴・逮捕歴を削除する方法

上場審査の前に犯罪歴・逮捕歴を削除する方法

上場審査に支障をきたすと考えられる犯罪歴や逮捕歴は、審査前に削除しておくのが無難です。

しかし、インターネット上の情報は、自分で削除することはできません。ここでは、犯罪歴・逮捕歴を削除する2つの方法について解説します。

5-1.自らサイト運営者に削除依頼をする

ニュースサイトや匿名掲示板などに、犯罪歴逮捕歴が掲載されている場合は、サイト運営者に削除依頼をだすことで、削除してもらえるかもしれません。

サイトの問い合わせフォームやメールアドレスに、削除してほしい記事とその理由を記載して依頼します。ただしサイトの運営者には、削除義務はありません。そのため、運営者が情報の削除をおこなわない場合は、法的手続きが必要です。

5-2.専門家に削除手続きを依頼する

サイト運営者が削除依頼に応じない場合は、弁護士に依頼して削除手続きをおこないます。裁判所に仮処分の申し立てをして、手続きを進める必要があります。

仮処分とは、裁判に時間がかかることで情報が放置され、申立者の不利益になるのを防ぐための制度です。暫定的な処置ですが、仮処分がでれば実際の裁判でも削除を認められるケースが多いため、サイト運営者も応じる可能性が高くなります。

手続きは自分でもおこなえますが、必要書類の準備や裁判になったときの手続きなどを考えると、最初から弁護士に依頼するほうがスムーズに進むでしょう。

裁判所に仮処分を認めてもらうには、プライバシー権を主張し、日常生活に支障をきたしていることを証明しなくてはなりません。犯罪歴・逮捕歴が残っていることで、「上場の妨げになっている」ことを認めてもらいます。

6.犯罪歴・逮捕歴がネット上に残っているときは上場審査前に消しておく

上場審査では、犯罪歴・逮捕歴があっても問題ないこともあります。しかし、インターネット上に残された犯罪歴によって、事業活動に支障をきたすと判断されると、上場できない可能性もあるでしょう。そのため、犯罪歴・逮捕歴は上場審査前に削除することをおすすめします。

インターネット上の情報を、削除する方法は2つ。

  • 自分でサイト運営者に削除依頼をする
  • 弁護士に依頼する

サイト運営者に削除の義務はないため、自分で削除依頼をしても応じてもらえないときは、裁判所に申し立てる必要があります。申し立ては自分でもおこなえますが、法律に関する知識が薄い場合は弁護士に依頼するとよいでしょう。

仮処分がでれば、多くのケースで犯罪歴・逮捕歴の削除に応じてもらえます。上場審査前に、審査の妨げになる問題点は解決しておきましょう。

[注1]新規上場ガイドブック「上場審査の内容」
[注2]新規上場ガイドブック「形式要件」
野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。