名誉権とは

名誉権とは、人がみだりに社会的評価を低下させられない権利であり、人格権の一種として認められている権利です。名誉権を侵害すると、民事上では「不法行為」、刑法上では「名誉毀損罪」が成立し得ます。なお、名誉毀損罪は、「親告罪」なので、加害者への処罰を求める場合には刑事告訴を行う必要があります。

名誉権を侵害されたら、被害者は、加害者に対して、名誉毀損行為の差止請求や損害賠償請求ができます。事例によっては、名誉権を回復するための謝罪広告の掲載も要求できる余地もあります。ネット掲示板やブログ、SNSなどで名誉権を侵害された場合、まずはネット掲示板の管理者等に対して、投稿内容を削除させるよう請求し、投稿の投稿者を特定します。投稿者を特定したら、次は、加害者に対して、損害賠償請求、投稿の訂正、謝罪の投稿、二度と名誉権侵害の投稿をしないよう約束させる等、様々な交渉を行います。

例えば、以下のような場合は、名誉権が侵害されたといえます。

① 人が多く集まる場所において、「この人は不倫している」と公表された
② ネット掲示板に「この人は会社で大きな失敗をしてクビになった」と書かれた
③ SNSやブログに「この人は詐欺師です」などと書かれた

名誉権とは

「名誉」には、社会的名誉・内部的名誉・名誉感情が含まれます。「名誉権」とは、最高裁判決(最大判昭61年6月11日)により、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価」と定義されています。つまり、「名誉権」とは、社会的名誉のことをいい、内部的名誉と名誉感情は含まれません。

・社会的名誉……その人が社会から受ける客観的評価
・内部的名誉……その人の内部に客観的に備わっている人格的価値そのもの
・名誉感情……本人が自己に対して有する評価(自己のプライド)

名誉権侵害と民事事件

名誉権を侵害された被害者は、民事事件として以下のような請求をすることができます。各請求の詳しい内容について、以下でわかりやすく説明します。

削除請求

インターネット上の掲示板やSNSなどで名誉権侵害となる投稿がなされた場合には、掲示板の管理者やSNSの運営会社に対して、該当投稿の削除を求めることができます。

名誉権侵害表現がインターネット上に投稿されると、あっという間に拡散され被害が拡大してしまいますので、早急に弁護士等に相談し、対処することが大切です。

損害賠償請求

名誉権侵害は、民法上の不法行為にあたりますので、被害者は、名誉権侵害により被った精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます(民法709条、710条)。

刑事告訴は、加害者が不明な状態でも行うことができますが、民事事件として加害者の責任追及をする場合は、加害者の特定が不可欠となります。特にインターネット上での誹謗中傷がなされた場合には、匿名による投稿がメインになりますので、そのままでは加害者を特定することができません。

このような場合は、発信者情報開示請求という手続きにより加害者の特定をすることが可能です。

謝罪広告の掲載

名誉権侵害をされた被害者は、加害者に対し、名誉を回復するのに適切な処分を求めることができます(民法723条)。これを「名誉回復措置」といいます。

代表的な名誉回復措置としては、加害者のwebサイトや名誉毀損記事が掲載された週刊誌などに謝罪広告や訂正広告を掲載するという方法があります。
ただし、慰謝料の支払いを認めたものの、謝罪広告の掲載は認められなかった裁判例もあることから、名誉権が侵害されたからといって、名誉回復措置が必ず認められるものではない点には注意が必要です。

差止請求

名誉権を侵害された被害者は、人格権としての名誉権に基づく妨害排除請求として、名誉権侵害となる表現の差止めを求めることができます。
具体的には、名誉権侵害となる記事が掲載された雑誌が発売されてしまうと、回復困難な損害が生じることを主な理由として、出版禁止の仮処分の申立てを認めた裁判例があります。

ただし、出版禁止の仮処分は、表現の自由を制限する度合いが大きいため、厳格な要件のもとでのみ認められており、簡単には差止めをすることはできません。

名誉権侵害と刑事事件

名誉権が侵害された場合、刑事事件として以下のような犯罪が成立する可能性があります。各犯罪の詳しい内容について、以下でわかりやすく説明します。

名誉毀損罪

名誉毀損罪とは、公然と事実を摘示し、人の名誉(社会的評価)を毀損した場合に成立する犯罪です(刑法230条)。名誉毀損罪が成立すると、以下のいずれかの刑罰が科されます。

・3年以下の懲役または禁錮
・50万円以下の罰金

なお、名誉毀損罪が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

① 「公然と」

公然とは、不特定または多数人が認識できる状態をいいます。
実際に不特定または多数人が認識したことまでは必要ではなく、認識できる状態であれば足ります。人が多く集まる場所や、ネットの掲示板、SNSブログ等は、基本的に不特定多数者が認識できる状態といえるため、要件を満たすといえるでしょう。

② 「事実を摘示」

名誉毀損罪は、後述する侮辱罪とは異なり、「事実の摘示」が要件とされています。事実は、人の社会的評価を低下させるものでなくてはなりません。
「この人は不倫している」、「この人は会社で大きな失敗をしてクビになった」、「この人は詐欺師です」等の投稿は、「事実の摘示」といえるでしょう。

③ 「他人の名誉を毀損した」

この要件は、実際に人の社会的評価が低下しなかった場合であっても、人の社会的評価を低下させる一般的・抽象的な危険が発生していれば満たされます。

侮辱罪

侮辱罪とは、事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合に成立する犯罪です(刑法231条)。侮辱罪は、名誉棄損罪と同様に、人に対する社会的評価に対する罪であり、両者の違いは、事実の摘示の有無となります。

侮辱罪が成立すると、以下のいずれかの刑罰が科されます。以前の侮辱罪の法定刑は「拘留または科料」のみでしたが、インターネット上の悪質な誹謗中傷が社会問題となり、法改正により厳罰化されました。

・1年以下の懲役若しくは禁錮
・30万円以下の罰金
・拘留
・科料

名誉毀損罪や侮辱罪は親告罪

親告罪とは、被害者などの告訴権者からの告訴がなければ、検察官が公訴を提起することができない犯罪です。名誉毀損罪や侮辱罪は、親告罪とされていますので加害者に対して処罰を求めるのであれば告訴が必要になります。親告罪にあたる罪については、告訴期限が定められており、告訴をするなら犯人を知ったときから6か月以内に行う必要があります。

名誉権を侵害されたときはすぐに弁護士に相談を

名誉権を侵害されたときは、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

状況に応じた適切な対応をアドバイスしてもらえる

名誉権を侵害されたときは、加害者に対する刑事上の責任追及と民事上の責任追及が可能です。どちらの手段を選択すべきかは具体的な状況により異なりますので、まずは弁護士に相談して、最適な対応をアドバイスしてもらうとよいでしょう。

代理人として責任追及に対応してもらえる

刑事上および民事上の責任追及をするためには、法的知識や経験が不可欠となります。十分な知識や経験がない状態では適切に責任追及の手続を進めることができません。

特に、インターネット上での名誉権侵害は、加害者を特定しなければ損害賠償請求などの手続を行うことができませんので、法律の専門家である弁護士のサポートが必要になります。弁護士に依頼すれば、法的責任追及の手続を任せることができますので、スムーズに被害の回復を図ることができます。