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「疑惑」レベルの名誉毀損は立件できる?状況別で詳しく解説
2021.10.02インターネットを通して誰でも簡単に情報を拡散できる社会になり、誹謗中傷による社会的な影響を受けやすくなりました。しかし近年は、芸能人に対する誹謗中傷が問題視されています。
「○○の疑惑」といった曖昧な書き方をして、訴訟を避けようとする悪質なケースもあります。「疑惑」レベルの書き込みは名誉毀損で立件できないと思われがちですが、実は状況によっては立件可能です。
今回は、疑惑レベルの誹謗中傷は名誉毀損で訴えられるのかを状況別に解説します。損害賠償請求をしたときの慰謝料の相場や立件の方法も紹介しますので、参考にしてみてください。
目次
目次
1.疑惑レベルの書き込みは名誉毀損で立件できる?
名誉毀損の要件に当てはまれば、疑惑レベルの書き込みでも立件可能です。ただし、内容によっては名誉毀損ではなく侮辱罪に該当したり、そもそも罪として認められなかったりするケースもあります。
ここでは、名誉毀損にあたる疑惑レベルの書き込みについて、詳しく解説します。
1-1.名誉毀損にあたる行為
「薬物使用疑惑」や「贈収賄疑惑」などのように、「疑いがある」と曖昧な書き方でも、以下の要件を満たせば名誉毀損として認められます。
- 不特定多数の人が見られる場所に提示する
- 事実を摘示する
上記の要件は、刑法第230条に書かれています。[注1]
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
引用:刑法第230条
「事実の適示」という言葉には馴染みがないかもしれませんが、主観的な意見ではなく客観的な事実を示すことを指します。「薬物疑惑」「不倫疑惑」などは、「薬物を使用した」「不倫した」と客観的な事実を書いているため、事実の摘示に該当します。
内容が真実か嘘かは、ここでは関係ありません。
また名誉毀損では、社会的評価の低下した事実が必要です。たとえば、書き込みによって取引先が減ったり、会社を解雇されたりすることが社会的評価の低下にあたります。
1-2.名誉毀損に当たらないケース
実は、不特定多数の人の前で事実を摘示した場合でも、違法ではないケースもあります。違法ではないとされるのは、次の場合です。
- 公共の利害に関する事実である
- 書き込みの目的が公益のためである
- 書き込みが真実であることを証明できる
上記をすべて満たすケースでは、疑いレベルの書き込みでも違法とはなりません。公共の利害に関する事実とは、公表しないことで世間に悪影響をもたらす事実を指します。
たとえば、リコール隠しや薬害隠しを公表しなければ、被害者が増える可能性もあります。このような場合が、公共の利害に関する事実に該当するケースです。
「政治家の不倫疑惑」や「警察官の薬物使用疑惑」なども、対象人物の社会的活動に対する批判の材料となるものです。
1-3.侮辱罪との違い
名誉毀損と似た刑事罰に、侮辱罪があります。侮辱罪とは、事実の摘示なく人を侮辱したときの刑事罰です。
たとえば、「バカ」「無能」などは表現が抽象的で、事実かどうかを確認できないため、侮辱罪に該当します。侮辱罪は刑法第231条に定められており、侮辱罪と認められれば拘留や科料といった罰が与えられる立派な犯罪です。最近懲役刑が追加される法改正が進められています。
侮辱されたことで被害を受けた場合は、損害賠償請求もできます。
2.疑惑レベルの書き込みへの対処方法
疑惑レベルの書き込みに対しては、刑事と民事の両方で責任を問えます。それぞれで、多少訴訟を起こせる要件が異なるため、あらかじめ違いを理解しておきましょう。
ここでは、疑惑レベルの書き込みを刑事上、あるいは民事上で責任を問うための方法を紹介します。
2-1.刑事訴訟
疑惑レベルの書き込みに対し、名誉毀損や侮辱罪として刑事訴訟を起こすときは、告訴が必要です。名誉毀損・侮辱罪は被害者による親告が必要な親告罪のため、告訴なしで公訴を提起することはできません。
刑事訴訟の対象となるのは、故意に名誉毀損を図った場合です。過失によって結果的に起きてしまった名誉毀損は刑事事件の対象にはなりません。
過失による名誉毀損は、民事事件として訴訟を起こすことは可能です。
2-2.民事訴訟
疑惑レベルの書き込みは刑事訴訟だけでなく、民事事件の対象です。民事事件では、慰謝料を求めて損害賠償請求を行います。
刑事訴訟とは異なり、不特定多数の人が見られる場所で行われていなくても、名誉毀損として認められることがあります。ただし、社会的評価の低下したことが要件です。
また民事事件では、加害者との和解もできます。
3.疑惑レベルの名誉毀損を立件した場合の慰謝料相場
疑惑レベルの書き込みを名誉毀損として民事訴訟を起こした場合、慰謝料の相場は10~100万円程度と考えられています。
個人への名誉毀損は、企業や団体への名誉毀損よりも、慰謝料相場が低くなる傾向にあります。ただし、個人でも精神的苦痛による治療費がかかった場合や、社会的評価の低下による損害が大きかった場合は、この傾向の限りではありません。
もちろん、状況に応じて慰謝料の相場は大きく変化します。実際に民事訴訟を視野に入れるなら、弁護士に自分の場合の請求額目安を相談するとよいでしょう。
4.民事訴訟で損害賠償請求するときの費用相場
民事訴訟を起こして損害賠償請求をするときの弁護士費用は、10万円からが相場です。訴訟を起こすには、書き込んだ人の氏名や住所を特定する必要があるため、匿名の掲示板やSNSなどへの書き込みは投稿者の特定費用もかかります。
民事訴訟までに必要な費用と相場は、以下のとおりです。
依頼内容 | 弁護士費用の相場 |
投稿者の特定(発信者情報開示請求) | 30~70万円 |
損害賠償請求 | 16万円~ |
上記以外に、印紙代などの諸費用や損害賠償請求が認められたときの成功報酬が必要になるケースもあります。
5.疑惑レベルの書き込みを名誉毀損での立件・開示請求方法
民事事件として、疑惑レベルの書き込みを名誉毀損で立件したいときは、以下の手順で手続きを行います。
- 1.弁護士に相談する
- 2.書き込んだ人を情報開示請求で特定する
- 3.示談交渉をする
- 4.損害賠償請求訴訟を起こす
それぞれのステップについて、詳しく解説します。
5-1.弁護士に相談する
まずは、被害について弁護士に相談しましょう。このあとの手順で行う情報開示請求や示談交渉は、弁護士なしでも不可能ではありません。
しかし法律の知識がない人にとって、書類の準備や手続きをするのは大変です。書類の不備があれば、手続きが遅延する可能性もあります。
また、示談交渉を弁護士なしで行うことは非常に危険です。相手に有利な条件を出されたり、話し合いの場で新たな紛争が起こったりするリスクがあります。
弁護士事務所を探すときは、名誉毀損に詳しい弁護士が所属しているかを確認しましょう。
5-2.書き込んだ人を発信者情報開示請求で特定する
名誉毀損で立件するには、書き込んだ人の氏名や住所を特定しなくてはいけません。匿名の掲示板やSNSに名誉毀損の内容を書き込まれたときは、プロバイダに対して投稿者の発信者情報開示請求が必要です。
発信者情報開示請求書を作成し、書き込まれたサイトに開示請求を行います。匿名サイトの場合は、サイト側も投稿者の個人情報を持っていないため、IPアドレスや投稿のタイムスタンプを開示してもらいます。
そのあとプロバイダに発信者情報開示請求をして、IPアドレスから投稿者を特定する流れです。つまり、匿名サイトに名誉毀損を書き込まれた場合は、発信者情報開示請求は2回必要です。
一般的に1回目の発信者情報開示請求は裁判をせず、仮処分で開示の可否が決まります。2回目の発信者情報開示請求は裁判が必要になることが通常です。
5-3.示談交渉をする
名誉毀損で損害賠償請求をするときは、加害者が示談を申し出るケースもあります。示談とは、裁判を開かずに被害者と加害者が話し合って解決する方法です。
示談金は慰謝料と同様に、被害状況やお互いの意向によって異なります。
5-4.損害賠償請求訴訟を起こす
示談をしない場合や示談で解決しない場合は、損害賠償請求訴訟を起こします。実際に裁判を通して争うことになり、裁判所の判断によって判決が出ます。
訴訟中でも、和解によって解決することも可能です。
6.疑惑レベルでも名誉毀損の立件は可能!まずは弁護士に相談を
疑惑レベルの書き込みでも、名誉毀損で立件できる可能性があります。ただし、公然性と事実の摘示が必要です。
事実の摘示がない場合は侮辱罪で訴訟も可能ですが、名誉毀損よりも難しいでしょう。
上記の要件に当てはまっていても、公共の利害に関する事実の場合は請求できません。書き込まれた内容が事実でない場合や、公益と関係ない場合に名誉毀損で訴訟を起こせます。
名誉毀損は刑事・民事ともに訴訟が可能ですが、どちらの場合もある程度の知識がないと手続きが難しいのが実情です。そのため、弁護士に判断を仰いだり、書類の作成を依頼したりしましょう。
相談するなら、名誉毀損に詳しい弁護士がおすすめです。無料で相談できる法律事務所もあるので、まずは状況を相談してみるとよいでしょう。
[注1]e-GOV法令検索:刑法監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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