企業の風評被害

企業が風評被害に遭ったら損害賠償請求は可能?4つのステップ別に解説

2021.11.16
企業が風評被害に遭ったら損害賠償請求は可能?4つのステップ別に解説

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、企業が風評被害に遭うリスクが高まっています。サービスや商品、企業活動、経営者など、企業に関係するあらゆる事柄であらぬ噂を立てられて、営業に支障をきたすことになる可能性があります。実際に風評被害に遭った場合、営業損失を取り戻すために損害賠償請求ができるのか、気になる企業担当者の方も多いでしょう。

本記事では、企業が風評被害に遭った場合に損害賠償請求ができる条件や、損害賠償請求できる場合の実際の手続を解説します。

風評被害に対する損害賠償請求が可能な条件

風評被害に対する損害賠償請求が可能な条件

損害賠償請求を行うためには以下の条件を満たす必要があります。

違法性があること

まず、風評被害の元になった口コミや投稿、ネット記事等が不法行為(権利や利益を違法に侵害する行為)だと認められなければなりません。名誉毀損や信用毀損などが不法行為に当たります。

具体的には、名誉毀損罪(刑法第230条1項)、信用毀損罪(刑法第233条)、業務妨害罪(刑法第233条)のいずれかに該当している場合には、損害賠償請求が認められるでしょう。ただし、罵言を伴う投稿だとしても、内容がすべて真実であり正当性がある場合は違法性が認められにくくなります。

経済的損失が立証できること

また、損害賠償を請求する場合は、加害者の行為により経済的損失を被ったことを具体的に立証しなければなりません。風評被害によっていくらの損害が発生したか、客観的に納得できるような証拠もそろえる必要があります。

しかし、信用やブランド価値が損なわれたことに対する損害の算出は非常に困難です。そのためどんな被害があったのかを示す証拠はすべて保存しておくようにしましょう。

たとえば、電話で妨害行為をうけたならその録音データ、メールやFAX等の文書であればそれらは破棄せずに保管しておきます。ネットでの誹謗中傷であれば、投稿の削除を依頼する前に、画面をスクリーンショットで保存し、URLをメモしましょう。

本人を特定できていること

加害者を訴えるには、相手方の氏名や住所が必要です。名誉毀損罪等で告訴するときは、告訴状に加害者の氏名や住所など本人を特定できる情報を記載します。損害賠償請求訴訟の訴状にも、必ず相手方の氏名を記載しなければなりません(民事訴訟法第133条2項)。

風評被害に対して損害賠償請求をする4つのステップ

風評被害に対して損害賠償請求をする4つのステップ

本章では、風評被害に遭ってから損害賠償をするまでの手順を解説します。

1.風評被害の元となる証拠を集める

まず、風評被害の原因となっているネット上の書き込みを見つけ次第、スクリーンショットで保存するなどして証拠収集してください。その際、投稿のURLが証拠上に明示されるようにする必要があります。投稿者がその動きを察知して投稿を削除する可能性もあり、時間が経つほど証拠収集は難しくなります。

2.サイト運営者にIPアドレスの開示請求を行う

投稿者を特定するには、まず投稿者が利用したプロバイダを特定します。それには投稿者のIPアドレスが必要です。IPアドレスは、加害者が書き込みをしたネット掲示板や口コミサイトに開示請求をすれば取得できます。

ただし、サイト運営者がログを保管する期間は3か月程度ということもあるため、限られた時間内で手続きを進めなければなりません。

3.プロバイダに発信者情報の開示請求を行う

IPアドレスを取得してプロバイダを特定し、プロバイダに対し発信者情報開示請求をして、投稿者の氏名や住所を取得します。

4.加害者に対して損害賠償請求を行う

加害者を特定したら、風評被害の原因となった投稿を不法行為として損害賠償請求訴訟を提起することが考えられます。投稿により被害が生じたことを立証した上で、財産的な損害に対する損害賠償請求(民法第709条)や法人の名誉権侵害に対する慰謝料請求(民法第710条)をすることになるでしょう。

風評被害に対する損害賠償請求の事例

風評被害に対する損害賠償請求の事例

ここで、風評被害を受けた企業が損害賠償を請求して認められた事例を紹介します。

事例1.ブログに企業の社会的評価を貶めるデマを掲載

企業が産業廃棄物の積み替え保管場所として使っていた土地について、近隣に住む人がブログに風評被害を招く記事を掲載した事例があります。(名古屋高裁2012年12月21日判決)

この訴訟では企業側が541万8千円の損害賠償を求め、賠償金100万円の支払いが命じられました。

事例2.SNSのなりすましで名誉毀損

個人の事例になりますが、高額の損害賠償請求が認められたケースがあります。SNSアカウントで他人の顔写真や名前を使用して、第三者を罵倒する書き込みをしたというものです。(大阪地裁2017年8月30日判決)

この訴訟では、なりすましの被害者が723万6千円の損害賠償を求め、判決で130万6千円の支払いが命じられました。

風評被害に遭わないための予防策

風評被害に遭わないための予防策

このように、一度風評被害に遭うと、企業は損失を取り戻すために膨大な労力を注ぐことになってしまいます。企業が風評被害に遭わないために、以下のような予防策をとりましょう。

危機管理体制の整備

企業が受ける風評被害の最大の発生源は関係者のSNSです。SNSの利用に関するポリシーを明確化したガイドラインを作成し、従業員が従うべきルールを策定します。

従業員の教育

正社員の入社時はもちろん、アルバイトを含むすべての従業員を対象に随時研修を行います。企業のSNSアカウントに限らず、個人のアカウント利用や各種掲示板・口コミサイトへの投稿ルールを周知徹底しなくてはなりません。

モニタリング・リスク評価

モニタリングサービスなどを利用して、ネット上での風評被害につながる可能性のある投稿をモニタリングします。疑わしい投稿を発見したら、情報の真偽や反応しているユーザー層等を把握して企業活動に与える影響を評価します。必要に応じて、どのような対応をとるか検討することになるでしょう。

風評被害の損害賠償請求をするなら弁護士へ相談を

風評被害の損害賠償請求をするなら弁護士へ相談を

風評被害を受けてしまったときに、企業が自力で民事訴訟や刑事告訴といった法的措置をとろうとすると、営業活動自体に重大な支障をきたすことも考えられます。そのようなときは、風評被害の処理を弁護士に任せることを検討してみてください。

弁護士に相談するメリット

迅速な風評被害対策が可能

風評被害の対応は可能な限り速やかに取り掛からなければなりません。風評被害に気づいた時点ですぐに弁護士に相談すれば、早急に対応策のアドバイスを受けることができ、風評被害を最小限に抑えることができます。

また、社内の人員で対抗手続きをとろうとすると余分な時間やエネルギーを消耗し、事業に重大な支障をきたすことにもなりかねません。弁護士に相談することでプロバイダをはじめとする関係者の協力も得やすくなるため、手続きを円滑に進めることが可能です。

刑事告訴も視野に入れた対策がとれる

風評被害によって重大な損害を被った場合は、信用棄損罪や偽計業務妨害罪による刑事告訴が望ましいこともあります。刑事告訴が必要かどうか、必要ならどう訴えるかといった判断を弁護士のアドバイスを受けながら決めることができます。

弁護士に相談した場合の費用相場

弁護士に相談した場合、法的措置のとり方によって費用相場は異なりますが、大まかな目安は下記のとおりです。

削除請求

  • プロバイダに対する投稿削除依頼:着手金10~20万円
  • 裁判所への仮処分申立てによる削除請求:着手金35~50万円

加害者の特定(発信者情報開示請求)

  • 加害者特定のためのIPアドレス開示請求:着手金35万円
  • プロバイダに対する発信者情報開示請求:着手金35~50万円

損害賠償請求

  • 交渉による場合:着手金15万円
  • 裁判による場合:着手金30万円
  • 損害賠償請求が認められた場合:着手金に加えて成功報酬として獲得した賠償金の16%

なお、損害賠償を請求して勝訴すれば、相手方に弁護士費用の負担を求めることができるケースもあります。また、初回の相談30分~1時間程度を無料にしている法律事務所も多くあります。

アークレスト法律事務所は、これまでネット上のトラブル解決に力を注いできた法律事務所です。ネットの書き込みによる風評被害のケースでも、経験豊富な弁護士が被害を受けた企業に寄り添い、迅速で適切な解決のためのお手伝いをします。被害の拡大を抑えるためにも、風評被害でお悩みの企業担当者様は是非アークレスト法律事務所にご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。