【2026年度導入予定】日本版DBS導入で企業にどのような対応が求められるのか?
【2026年度導入予定】日本版DBS導入で企業にどのような対応が求められるのか?
2025.10.17
2026年度にも施行予定とされている日本版DBSともいえる学校設置者等及び民間保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(以下「こども性暴力防止法」といいます。)は、子どもに接する教育・保育分野の事業者が職員による子どもに対する性暴力を防止する措置を講じることを義務付けるためにつくられたとされています。性犯罪は子供に与える被害も甚大であり、子どもに関わる職業での適切な人材管理が社会的に強く求められています。
対象となるのは学校や保育施設だけでなく、学習塾や習い事教室なども含まれると考えられ、任意の事業者であっても実質的には導入が不可欠といえるでしょう。この場合、企業には就業規則や契約書の整備、個人情報管理体制の強化、従業員への周知といった多方面の準備が求められます。
この記事では、子ども性暴力防止法の制度概要や対象事業者、導入に向けた実務対応、注意点を解説します。
目次
子ども性暴力防止法の制度概要

子ども性暴力防止法は、イギリスですでに導入されているDBS(Disclosure and Barring Service)をモデルに設計されたとされています。
この法律は、子どもを性犯罪から守るために制定されたもので、教育や保育の現場など子どもと接する職業に就く人の性犯罪歴をチェックする仕組みが含まれています。
法律が整備された背景には、子どもに対する性犯罪が増加傾向にあり、社会問題となっていることにあると考えられます。性犯罪歴のある人が、子どもと接する職種に従事することはリスクが高いため、該当する人物を子どもと接する職業から遠ざけることで、安全な環境を整備することを目的としています。
この法律は2024年6月19日に国会で可決・成立しており、2026年度に施行予定です。つまり、対象となる企業や団体には、この施行までに必要な準備を整えることが求められています。
子ども性暴力防止法の対象となる企業

子ども性暴力防止法の対象となるのは、子どもと日常的に接する教育機関や保育施設などです。対象事業者は大きく分けて「義務がある事業者」と「任意で対象となる事業者」に分けられます。ここでは、どんな企業が制度の対象になるのか、そして、どういった義務が課されるのかを解説します。
義務のある事業者
学校教育法や児童福祉法に基づいて認可を受けている施設の事業者は、法律に基づいた対応を義務付けられます。具体的には次のような施設が該当します。
● 小学校
● 中学校
● 高等学校
● 幼稚園・保育所
● 児童養護施設
● 障害児入所施設
● 児童発達支援施設
● 放課後等デイサービス施設 等
これらの施設を運営する事業者は、法令に従い従業員の性犯罪歴確認や研修体制の構築などを行う必要があります。
認定を受けることで対象となる事業者
一方で、制度の導入は義務ではないものの、任意で制度の対象となることができる事業者もあります。任意で制度の対象になることで、認定を受けることができる仕組みとなっています。
一見、義務ではないのに自分から制度の対象になって義務を負うことは避けたいと感じるかもしれません。ですが、子どもと接する業種であれば、制度の対象になることで安全性のアピールや社会的な責任を果たせます。そのような意味で大きなメリットがあると考えられます。
任意で子ども性暴力防止法の対象になることができる業種には以下の事業者が挙げられます。
● 学習塾
● スイミングスクール
● 放課後児童クラブ
● 一時預かり
● 病児保育サービス
● 認可外保育園
● 専門・専修学校
● サークル
● 学童保育 等
子どもを対象にしたサービスで、直接、従業員が子どもを接する業種のほとんどが対象となっています。
子ども性暴力防止法の施行後は、認定を受けていない事業者は「安全配慮を欠く」とみなされるリスクもあります。対象になる事業者は、段階で制度の対象になるかを検討し対策を整えておきましょう。
子ども性暴力防止法の対象となる企業に求められる措置
子ども性暴力防止法の対象となる企業には、法令に従った子どもを守るための総合的な体制整備と適切な対応が求められます。こども家庭庁が示している対策では、次のような措置が必要とされています。
● 教員等に研修を受講させる(児童等との面談・児童等が相談を行いやすくするための措置)
● 教員等としてその業務を行わせる者について特定性犯罪前科の有無を確認(リスクが高い人物から子どもを遠ざける)
● 児童対象性暴力等が行われるおそれがある場合の防止措置として教育、保育等に従事させないこと等を実施
● 児童対象性暴力等の発生が疑われる場合の調査
● 被害児童等の保護・支援
こうした対応は、法律を遵守するためだけでなく、子どもを守り保護者や地域社会からの信頼を得るためにも不可欠です。
参考:こども性暴力防止に向けた総合的な対策の推進 こども家庭庁
子ども性暴力防止法の施行に向けて企業が行うべき対応

2026年に予定されている子ども性暴力防止法の施行に向け、対象となる企業がしておくべき対応には以下のようなものが想定されます。
就業規則・雇用契約書類の整備
子ども性暴力防止法では、既存の従業員や新しく雇用する人物の過去の性犯罪の履歴をチェックすることになります。
性犯罪歴が判明した従業員に対しては、教育・保育等の業務に従事させないなどの対応をとる必要があります。
つまり、性犯罪歴が発覚した場合の対応方針をしっかりと考えておく必要があるということです。
子ども性暴力防止法だけを遵守していればいいというシンプルなものではなく、法律的なバランスをとる必要があります。後々の法的トラブルを防ぐためにも、過去の性犯罪の履歴が発覚した場合に備えて、明確な規定を整備する必要があります。
個人情報管理体制の整備
子ども性暴力防止法で事業者が照会する性犯罪歴は個人情報保護法における「要配慮個人情報」に該当するデータのため厳格な管理が義務付けられています。過去の犯罪歴は、個人の非常にデリケートな情報であり、情報管理の徹底とプライバシー保護ができる環境が必要です。
この点に関しては、誰が、どのような方法で情報を管理し確認するのかが問題となります。
万が一、情報漏洩があった場合、一度流出した情報は元に戻すことができず、対象者に不当な精神的苦痛や社会的なダメージを与えることも想定されます。また、個人情報が流出した場合には企業が罰則を受ける可能性もあります。
特に中小企業や小規模事業者においては、従来の管理体制ではセキュリティが不十分であることが多いため、社内の情報管理システムの再構築が求められます。
役員・従業員への周知
導入される子ども性暴力防止法制度の趣旨や目的を知ること、そして、果たすべき義務と企業としての対応方針を役員・従業員に周知し、全員が理解して実行できるようにすることはとても大切です。
子ども性暴力防止法を運用するためには、組織の上層部だけでなく現場の従業員も制度を知らなければ、適切な運用が難しいといっていいでしょう。制度についての説明会や研修を通じて情報を共有することが求められます。
子ども性暴力防止法における注意点

子ども性暴力防止法に対応するときの注意点を解説します。
この制度は、現場の実務や従業員の管理に大きな影響を与えるため、正確な制度の理解と対応が必要です。
新規採用者だけでなく既存の従業員も対象となる
子ども性暴力防止法の対象となるのは新規採用者だけではありません。すでに雇用されている従業員もチェックの対象になります。
採用時に犯罪歴が発覚したケース
新規採用時のチェックで応募者に性犯罪歴があると判明した場合には、内定取り消しや不採用とする対応が検討されます。この場合は、企業の規定や雇用契約、法令、裁判例などとの整合性が求められます。
新規採用プロセスにおいては、応募者に対して事前に制度について説明し、同意を得たうえで確認を行う体制を確立するとよいでしょう。
在職中に発覚したケース
仮に、今すでに雇用している従業員の性犯罪歴が発覚した場合、ただちに解雇することは労働基準法に抵触する可能性もあるため注意が必要です。まずは、配置転換や職務変更といった措置を検討し、それでも子どもの安全を確保できない場合は解雇が最終手段となります。
特に、解雇を選択する場合には労働基準法や雇用契約、裁判例等との整合性が問われることになります。性犯罪歴が発覚したからといって解雇が正当とされるとは限りません。まずは、企業として、適切な対応をやり尽くしたかどうかが重要です。こうした事態を避けるためにも、事前に「性犯罪歴が発覚した場合の対応フロー」を就業規則等で定め、リスク管理をしておく必要があります。
情報流出が発生したケース
性犯罪歴に関する情報は極めてセンシティブな個人情報です。誤って情報が社外に流出した場合、企業が罰則を受ける可能性があるだけでなく、当事者への重大な人権侵害にもつながります。
不当に個人情報を漏らしたり開示した場合は、プライバシー権侵害などで慰謝料請求をされるという可能性もゼロではないでしょう。
情報の流出は企業としての信頼を脅かす重大なものです。センシティブな個人情報を取り扱うことになるため、情報の保存期間やアクセス権限の管理も明確にルール化することが求められます。
開示される犯罪・期間には制限がある
子ども性暴力防止法では、過去の犯罪歴を事業者がチェックできる仕組みが導入される予定ですが、開示される犯罪と期間には制限が設けられています。
刑の種類 | 対象期間 |
拘禁刑(懲役等) | 刑の執行終了から20年間 |
執行猶予判決の場合 | 裁判確定日から10年間 |
罰金刑 | 刑の執行終了から10年間 |
対象となる犯罪歴があっても、上記の期間が過ぎていれば情報は開示されません。したがって「該当しない」という結果が出た場合であっても、過去に全く性犯罪歴がないことを意味するわけではない点に注意が必要です。
認定対象の事業者も積極的に導入すべき
任意で制度の対象となることができる事業者については、認定を受けることで「認定済み」である旨を広告表示できます。
内閣総理大臣が「学校設置者等が講ずべき措置と同等のものを実施する体制が確保されている事業者について、認定・公表」すると定められており、認定事業者については、認定の表示が許可されます。
この「認定」は、保護者からの信頼につながります。逆に認定を受けていない事業者は「安全対策を怠っている」とみなされるリスクがあり、利用者離れにつながる恐れもあります。
仮に、導入しない事業者がトラブルを起こした場合には「制度があるのに導入しなかった」と社会的批判を受ける可能性が高まります。企業のリスクを避けるためにも、法律上は任意であっても、早期に導入準備を進めることが推奨されます。
まとめ
子ども性暴力防止法は、子どもを性犯罪から守るために2026年度から施行されます。
対象となる教育・保育施設はもちろん、学習塾や習い事教室も積極的な導入が求められる制度となる可能性が高いと言えるでしょう。対象になる企業にはさまざまな対応が求められます。過去の犯罪歴のチェックをすればいいというだけではなく、就業規則や雇用契約に対応規定を設け、個人情報の厳格管理や従業員への周知を徹底する必要があります。
また、新規採用者だけでなく既存従業員も対象である点や、個人情報の取り扱いに関しても義務を果たさなければなりません。制度の導入は法令遵守というだけでなく、社会的信頼を得る大きな機会ともいえます。早い段階で準備をして導入に備えるようにしましょう。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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