その他

アスリート盗撮と性的姿態等撮影罪の関係は?撮影しただけで犯罪になるのか

2025.10.02
アスリート盗撮と性的姿態等撮影罪の関係は?撮影しただけで犯罪になるのか

スポーツ観戦は、多くの人がスポーツの感動や興奮を共有できる貴重な時間です。しかし近年、一部の心ない人による「アスリート盗撮」が社会問題として取り上げられるようになりました。アスリート盗撮とは、競技中のアスリートを望遠レンズなどで狙い、性的な目的で撮影をする行為です。悪質な事例では、撮影するだけでなく画像を拡散しているケースもあります。こうした行為は、選手の尊厳を著しく傷つけ、健全なスポーツ文化そのものを損なう深刻な問題です。

盗撮行為を取り締まるルールは、これまで各都道府県の迷惑防止条例による規制が中心でした。しかし、2023年7月に新設された「性的姿態等撮影罪(撮影罪)」によって、全国一律で処罰できる仕組みが整いました。では、アスリートを盗撮した場合は「性的姿態等撮影罪(撮影罪)」で取り締まることができるのでしょうか。多くの人が疑問を抱くところだと思います。

この記事では、アスリート盗撮の実態や社会的な問題点、そして性的姿態等撮影罪との関係について分かりやすく解説していきます。

アスリート盗撮とは

アスリート盗撮は、スポーツの観戦や応援の場で、選手を性的な対象として撮影をする行為です。ここでは、それがどのような行為なのか、また社会問題化している背景を整理していきます。

アスリートを性的な対象として撮影すること

アスリート盗撮とは、本来スポーツを観戦したり応援したりするための場である競技会場や大会において、アスリートを性的な対象として無断で撮影する行為です。

単に撮影するのではなく、プレー中の選手の特定の部位を狙って、性的な目的でカメラを向けるという悪質な行為です。アスリート盗撮は、観戦や応援の域を超え、アスリート本人の人格や尊厳を侵害するものであり、単なる「マナー違反」「うっかり撮ってしまいました」といった言い訳は通用しません。

アスリート盗撮が問題視される背景には、被害が選手の精神的なダメージのみならず、競技生活やその後の人生にも長期的な悪影響を与えるケースがあるという事情があります。

アスリート盗撮は社会問題化している

アスリート盗撮は社会問題として注目されています。SNSが普及した現代では盗撮された画像が拡散されるリスクも高く、アスリート盗撮は極めて深刻な問題です。

実際に、競技大会の観客席から望遠レンズを使って選手の体を狙い撮影し、迷惑防止条例違反で逮捕された事案もあります。また、撮影した画像をSNSに投稿して拡散し、訴訟に発展したケースもありました。こうした事例は氷山の一角であり、表に出ない被害がさらに多いと考えられています。

このような盗撮行為は選手が気づかないところで行われ、撮影された画像や動画がインターネット上で拡散されてから事態が明るみに出るケースもあります。そして、盗撮された映像が拡散されると、選手が「競技とは関係のない部分」で注目を集めてしまうことにもなりかねません。

また、盗撮が行われているかもしれないという心理的負担を選手に与え、集中力を欠く原因となり、盗撮行為がパフォーマンスに悪影響を与えてしまうのです。
加えて、観客やファンにも「同じ場に盗撮をしている人がいるかもしれない」という不安を与えることになります。アスリート盗撮は、スポーツそのものの価値や魅力を損なうだけでなく、スポーツに関わるすべての人に悪影響を与える行為です。

アスリート盗撮の対策を強化

アスリート盗撮が社会問題化している中で、スポーツ団体や大会運営者もアスリート盗撮の対策を強化する動きが出ています。

例えば、観客席での盗撮を防ぐために、一般観客のカメラ持ち込みを制限するケースもあります。こうした対応には一定の効果があると考えられますが、しかし、スマートフォンで誰もが容易に撮影できる現代において、完全に盗撮を防ぐことは難しいのが現実です。そのため、法律の整備がより重要になってきています。

性的姿態等撮影罪(撮影罪)とは

2023年に新設された性的姿態等撮影罪は、いわゆる「撮影罪」と呼ばれている犯罪です。「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下「性的姿態撮影等処罰法」といいます。)に定められています。この法律は、盗撮行為を全国一律で処罰できるようにした重要な法律です。

通称「撮影罪」と呼ばれる犯罪

2023年7月、新たに定められた「性的姿態等撮影罪」は、盗撮を取り締まることができる犯罪です。通称として「撮影罪」と呼ばれています。

この犯罪は、「他人の性的な部位や下着、性交等の性的な行為を、相手の同意なく撮影・盗撮すること」を処罰対象としています。今までは、盗撮に関しては、都道府県の迷惑防止条例で規制されていましたが、全国一律の刑事罰として整備されたことで、統一性が確保されました。

性的姿態等撮影罪(撮影罪)の量刑

性的姿態等撮影罪の法定刑は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」です。

注目したい点としては、まず、実刑になる可能性があることです。そして、罰金刑の場合でも最高300万円と高額であり、社会的にも大きな制裁となり得ます。盗撮を取り締まるための性的姿態等撮影罪が導入された背景には、従来の迷惑防止条例などによる処罰では十分な抑止効果が得られなかったという反省も込められています。

この法律ができる前は迷惑防止条例での対応がメインだった

性的姿態等撮影罪が施行される前は、盗撮に関しては「迷惑防止条例違反」で処罰されるケースが多くありました。

迷惑防止条例とは、各都道府県が制定している条例のひとつで、公共の場における盗撮行為を禁止しているものです。

迷惑防止条例との違い

迷惑防止条例と性的姿態等撮影罪の違いは決して小さいものではありません。

例えば、東京都の迷惑防止条例では、常習でない盗撮の場合「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」、常習盗撮の場合でも「2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と規定されています。

一方で、性的姿態等撮影罪の法定刑は「3年以下または300万円以下」と、迷惑防止条例と比較して格段に重いものとなっています。これによって、盗撮行為を明確により重く処罰することができるのです。この量刑の重さと全国一律で法律で禁止されているという事実には、盗撮を抑止する効果があります。

また、性的姿態撮影等処罰法では「撮影そのもの」だけでなく「撮影した画像の保管や提供」も処罰対象とされている点も注目したいポイントです。

アスリート盗撮は性的姿態等撮影罪(撮影罪)に該当するのか

性的姿態等撮影罪が導入されたことにより、アスリート盗撮もこの法律で取り締まることができると思われるかもしれません。

ですが、単純に競技中のアスリートを性的な目的で撮影した場合には、性的姿態等撮影罪が適用されないと想定されています。

性的姿態等撮影罪(撮影罪)は該当しない可能性

結論から言えば、アスリート盗撮は性的姿態等撮影罪に該当しないといわれています。性的姿態等撮影罪で規制されている行為は「性的姿態等の撮影」に限られています。つまり、下着や性器、性交等の場面など、明確に性的な要素を含む対象を撮影した場合に成立します。

例えば、階段でスカートの中を盗撮した場合や、トイレで盗撮した場合は、性的姿態等撮影罪に該当すると考えられます。
ですが、一方で、競技中のアスリートのユニフォーム姿は、人前でプレーすることを前提にしたものであるため該当しないのです。

水着やユニフォームは見られることを想定している

競技中のアスリートが身につけている水着姿やユニフォームは、観客や審判などから見られることを前提としたものです。そのため、性的姿態等撮影罪でいう「性的姿態等」には該当しないのです。

例えば、撮影が禁止されていない試合で性的な目的ではなく選手のプレー中の様子を撮影することもありますが、これはもちろん、違法ではありません。

アスリート盗撮と呼ばれている性的な目的での撮影は許されることではありませんが、性的姿態等撮影罪で処罰することは難しいということになります。

アスリート盗撮が性的姿態等撮影罪(撮影罪)に該当するケースもある

ただし、アスリートの下着などが露出している場面を意図的に撮影した場合や、更衣室・ロッカールームなど私的な空間で盗撮をした場合は、性的姿態等撮影罪が成立する可能性が高くなります。

ポイントは撮影の対象がアスリートかどうかではなく「性的姿態」であるかということです。

つまり、同じ撮影行為でも「プレーの記録」として撮影する場合と「性的に利用する目的で下着を狙う」場合とでは、法律上の評価がまったく異なります。線引きは一見すると明確に思えますが、現実ではグレーゾーンとなるケースも少なくないでしょう。そのため、どの犯罪行為に該当するかは最終的には検察や裁判所が具体的事実を踏まえて判断することになります。

アスリート盗撮は犯罪になる

アスリート盗撮は、性的姿態等撮影罪にあたらない可能性があるとご説明しましたが、だからといって犯罪ではないというわけではありません。仮に、性的姿態等撮影罪に該当しない場合でも、アスリート盗撮は他の犯罪に問われる可能性があります。

ここではアスリート盗撮をした場合に該当する可能性がある犯罪について説明します。

迷惑防止条例違反

アスリート盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例違反に該当する可能性があります。

つまり、競技中の姿を性的目的で盗撮したと認められれば、都道府県の条例に基づいて処罰されるのです。実際に、アスリート盗撮をおこなったとして、迷惑防止条例で逮捕されている事案もいくつもあります。

各都道府県もアスリート盗撮の対策に力を入れており、一部の自治体ではアスリート盗撮を「性暴力」だと定義する動きもあります。

名誉毀損罪

盗撮した画像や動画をSNSやブログ、掲示板などを利用してインターネットに公開した場合は、名誉毀損罪に問われる可能性もあります。名誉毀損罪とは、事実の有無にかかわらず、公然と人の社会的評価を低下させる行為を処罰します。アスリートの画像を「性的な対象」として拡散した場合は、名誉毀損罪が成立する可能性が高くなるでしょう。

名誉毀損罪は刑事事件であると同時に、民事上の責任を追及される根拠ともなるため民事・刑事の二重のリスクを負うことになります。

建造物侵入罪

ロッカールームや選手控室など、立ち入りが制限されている場所に無断で侵入して盗撮した場合には「建造物侵入罪」が成立する可能性があります。

建造物侵入罪に関しては、撮影行為ではなくその場所に立ち入ったことが犯罪とされるため、撮影の有無にかかわらず「許可なく侵入した時点」で成立します。

禁止エリアへの立ち入りや、退場を求められているのに応じない場合なども該当します(後者は「不退去罪」となります。)。

被害にあった場合の対応

もし、アスリート盗撮の被害に遭った場合は、まず大会運営や警察に相談することが大切です。撮影や拡散の証拠がある場合は削除せずに保存し、その後の手続きに役立てましょう。さらに、弁護士に相談すれば、インターネット上の画像削除請求や損害賠償請求といった民事的な対応も可能です。

特に、SNSなどで拡散されている場合は、被害を放置せず、早期に対応することが重要です。

まとめ

アスリート盗撮は、アスリート盗撮の尊厳を著しく侵害し、健全なスポーツ文化を損なう卑劣な行為です。

ただし、2023年に新設された性的姿態等撮影罪(撮影罪)では、下着や性器など「性的姿態等」を撮影した場合に限られているためアスリート盗撮は対象にならないとされています。しかし、競技中の水着やユニフォーム姿を狙った盗撮であっても、迷惑防止条例違反や名誉毀損罪、建造物侵入罪など、他の犯罪に該当する可能性は十分にあります。

つまり「撮影しただけなら大丈夫」という認識は誤りであり、アスリート盗撮は多方面で刑事処罰の対象になり得る行為です。また、画像を拡散した場合は民事上の責任を追及されるリスクもあります。
アークレスト法律事務所では、さまざまなごご相談をお受けしています。アスリート盗撮の被害に遭った場合はひとりで悩まずに、まずはご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。