その他

アスリート盗撮を規制する条例は?内容を解説!

2025.09.25
アスリート盗撮を規制する条例は?内容を解説!

スポーツ観戦は、アスリートの迫力あるプレーを間近で体感できる魅力的な時間です。しかし近年、一部の心ない人による「 アスリートを盗撮する行為」が社会問題となっています。アスリートを性的な目的で撮影する行為は、競技者の尊厳を深く傷つけ、スポーツ文化そのものを損ないます。アスリート盗撮は社会問題になっており、都道府県の迷惑防止条例などで取り締まりが行われています。さらに、福岡県や三重県など一部の自治体では「アスリート盗撮=性暴力」と定義し、被害防止に向けた取り組みが加速しています。

この記事では、アスリート盗撮に関する社会的問題の背景、裁判例や条例の内容、自治体ごとの取り組み、そして今後の対策について、法律専門家の視点からわかりやすく解説します。

アスリート盗撮は社会問題になっている

アスリート盗撮は、単なるマナー違反ではなく「 人権侵害」です。
アスリートを性的な目的で撮影する行為は、アスリートの尊厳を侵害するものであり、競技に集中できなくなるといった心理的負担を与える卑劣な行為です。アスリート盗撮は社会問題となっており、全国の自治体で迷惑防止条例の改正や新たなルール策定が進んでいます。

アスリート盗撮とは

「アスリート盗撮」とは、スポーツの試合や練習、イベントの場で、性的な目的で撮影を行う行為を指します。観客が選手の写真を撮ること自体は一般的でしょう。撮影が禁止されていない場合は、好きな選手の写真を撮って記念するのはよくあることです。

しかし、性的な目的となれば全く別の話になります。特に、身体の一部を執拗に撮影したり、卑わいな意図をもって撮影する場合はスポーツ観戦本来の目的からかけ離れていますし、アスリートにとって精神的な負担となります。

アスリート盗撮は、単なる「マナー違反」ではなく「迷惑防止条例違反」や「名誉毀損」「侮辱」といった罪に問われる可能性がある行為です。特にSNSなどで画像が拡散された場合は、瞬く間に広がるため、二次被害につながる危険性も高くなります。

アスリート盗撮の法の不備が指摘されている

アスリート盗撮については「法の不備」が指摘される分野でもあります。
例えば、2023年に新設された「性的姿態撮影等処罰法」ではアスリート盗撮は対象とならないケースが多いのも現実です。

2024年には女子プロレスの団体が、選手を性的な目的でズーム撮影した画像をSNSに投稿た観客を民事裁判で訴える事件がありました。この民事訴訟は和解という形で決着しましたが、法の不備が浮き彫りになる事件として報道されました。

アスリート盗撮での判例や逮捕事例

法の不備があるとされているアスリート盗撮ですが、だからといって違法ではないということではありません。アスリートを盗撮したことで逮捕されたという事例がいくつもあります。

スポーツ施設で執拗に盗撮して懲戒処分を受け送検された事例や、高校陸上の競技大会で女子選手を盗撮した会社員の男性が逮捕されたという事例もあります。

アスリート盗撮の逮捕事例については別の記事で詳しく解説していますが、逮捕事例もある犯罪行為であることは明白です。

アスリート盗撮の何が問題か

アスリート盗撮は、ちょっとしたいたずらや単なるマナー違反で済まされるものではありません。

確かに、競技中のアスリートは不特定多数の前に立つ立場にあります。ですが、 プレーする姿を撮影することは「正当な応援や報道」「一流のプレーを見る」ことを前提としたものであり、アスリートは性的な目的での撮影を許容しているわけではありません。

プレー中の選手の写真を撮ることと、性的な意味合いで特定の部分を強調して写真を撮られることは全く意味合いが違うのです。この点については、女子プロレス団体が観客を相手に民事裁判を起こした際の陳述書でも触れられています。

参考:『アスリート盗撮』の行方 スポーツ基本法改正の影響は…選手が苦しめられた「法の不備」埋まるのか|弁護士どっとこむ

性的な目的でアスリートを撮影するのは人権侵害

性的な目的で選手を撮影する行為は、アスリートの尊厳を深く傷つけます。
特に、競技の最中に特定の部位を執拗に狙うなどの行為は「競技者としての努力や成果」を無視し、身体を単に性的な対象物として扱うものです。

また、性的な意味合いで撮影されることで、精神的な負担を与え競技に集中できない環境を作ることにもなります。

例え、撮影そのものが許可されている競技大会であっても、性的な意味合いで撮影することは違法性があると言っていいでしょう。

アスリートーの人権侵害や侮辱になる

アスリートはプレーで観客を魅了する存在であり、スポーツ文化を支える大切な資産です。

性的な対象として撮影をすることはアスリートの尊厳を傷つけるものであり、「人格権の侵害」や「名誉の毀損」と評価される可能性がある許されない行為です。

犯罪になる可能性

アスリート盗撮は、各都道府県が制定する 迷惑防止条例 を根拠に処罰の対象となっています。多くの条例では「衣服等で覆われている身体又は下着を、卑わいな目的で撮影する行為」といった表現でアスリート盗撮を禁止しており、罰則も定められています。さらに、撮影した画像をSNS等に投稿するなどした場合は「名誉毀損罪」に該当する可能性もあります。

このように、盗撮行為は「迷惑防止条例違反」と「民事上の損害賠償請求」という二重の法的リスクを持っているのです。

アスリート盗撮を自治体が禁止する動きがある

アスリート盗撮が社会問題とされているなかで、都道府県がアスリート盗撮は「性暴力」として定義して禁止する動きがあります。

福岡県の県議選:アスリートへの性的な盗撮を「性暴力」と定義

福岡県では、県議会において「性暴力根絶に向けた対応指針(案)」が示され、その中でアスリート盗撮を性暴力であると定義しました。

これはアスリート盗撮を「人権侵害」「暴力行為」と同等に扱うという県の指針を示したもので、規制強化の流れを象徴する動きといえるでしょう。アスリートが安心して競技に集中できる環境づくりを、本格的に進めているといえます。

参考:福岡 NEWS WEB
福岡県 「性暴力根絶に向けた対応指針」解説(案)

三重県:条例案で性暴力と定義

三重県では「性暴力の根絶をめざす条例(仮称)」の制定が検討されています。その中で、アスリート盗撮を明確に性暴力と位置付けている点は注目するべきポイントです。こうした定義づけは、アスリート盗撮を条例違反行為から「社会的に許されない暴力行為」への認識転換を促します。

条例が成立すれば、県内のスポーツ大会や学校教育においても防止啓発が進むと見込まれます。

参考:三重県 議長定例記者会見 会見録
三重県 三重県性暴力の根絶をめざす条例(仮称)
NHKニュース

埼玉県:迷惑防止条例を根拠に撮影エリアの制限をしている

埼玉県では、県の迷惑防止条例を根拠に「盗撮行為防止」の観点からスポーツ施設における撮影エリアの制限を実施しています。
観客席でもルールを周知する取り組みが行われています。

このように、撮影を禁止又は制限することで「実効性のある防止策」を目指しているのが特徴です。

参考:埼玉県 アスリートを盗撮被害から守るために

京都府:京都府迷惑行為等防止条例を2020年に改正して対応

京都府は、2020年に「京都府迷惑行為等防止条例」を改正し、盗撮行為に対する規制を強化しました。

この条例では「着衣等で覆われている他人の下着等の盗撮」の規制を盛り込むことで、アスリート盗撮にも対応しています。また、注目したいポイントとして撮影機器を「向ける行為」・「設置する行為」を禁止しているという点があげられます。

規制の対象を広げることで、盗撮行為を幅広く禁止するというものです。

参考:京都府 京都府迷惑行為防止条例の一部改正について ~令和2年1月18日施行~

東京都:スポーツ施設手間禁止事項を策定

東京都では、迷惑防止条例の適用だけでなく、独自に「スポーツ施設での禁止事項」を定めています。都立スポーツ施設での禁止事項の中に「施設における秩序を乱し、善良な風俗を害する行為」や「盗撮・盗難等の犯罪行為」が盛り込まれています。

迷惑防止条例の補完的役割として「施設運営ルール」として規定されているのが特徴で、現場での迅速な注意や退場措置が可能となっています。

参考:東京都 スポーツ推進本部

大阪府:迷惑防止条例

大阪府は条例で、詳細に盗撮行為を規定しています。アスリート盗撮については、第六条 
「衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影すること」で禁止されています。

スポーツ観戦の場面においても「羞恥心を与えるような撮影」は条例違反となり得るため、アスリート盗撮を規制する根拠として機能できるでしょう。

参考:大阪府 大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例

愛知県:迷惑防止条例

愛知県の迷惑行為防止条例でも、アスリート盗撮に対応できる規定があります。

愛知県迷惑行為防止条例 第二条の二では「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、人に羞恥心を覚えさせ、又は不安を覚えさせるような方法で、衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影してはならない。」(同条第1項第2号)としており、「羞恥心や不安を与える撮影」を禁止対象としています。

参考:愛知県迷惑行為防止条例 第二条の二

アスリート盗撮への対策

各自治体の条例による規制強化に加えて、国レベルでもアスリートを盗撮から守るための取り組みが進んでいます。こうした動きは、アスリート盗撮を抑止するために大きな意味を持ちます。

スポーツ基本法改正

スポーツの健全な発展を目指す「スポーツ基本法」は、2023年に改正されました。その第29条では、アスリートの権利利益の保護に関する条文が新設されています。
同年に改正されたスポーツ基本法の29条では、暴力やハラスメントを併記する形でパワハラ、性的な言動、インターネット上の誹謗中傷を禁止しています。

この規定は、直接的に「アスリートを盗撮する行為」しているわけではありませんが、性的な言動や誹謗中傷が明記されたことで、アスリートの尊厳を守るための法的な根拠となります。
さらに、2025年の改正では、スポーツにおける暴力、ハラスメント、誹謗中傷などと共に、性的姿態撮影等第2条から第6条を引用する形で、「盗撮」を防止するための規定が新設されました。

これらの改正を背景に、各自治体は迷惑防止条例の強化やスポーツ施設での禁止事項策定を加速させています。

参考:スポーツ基本法 第二十九条

競技大会での撮影禁止

競技大会の主催者も、ルール面での対応を強化しています。大会要項や入場規則において「無断でのアスリート撮影を禁止」「競技に関係のない撮影機材の持ち込み制限」などを明文化するケースも増えています。

例えば、全国規模の大会では公式メディア以外の望遠レンズ撮影を禁止する措置がとられることもあります。こうした取り組みは、盗撮そのものを防ぐだけでなく、観客やボランティアに対して「盗撮は重大なルール違反である」という認識を広める役割も果たしています。

アスリート本人は被害を訴えにくい立場にある以上、大会主催者や観客が一体となって防止策を徹底することが不可欠です。

まとめ

アスリート盗撮は、単なる迷惑行為やマナー違反ではなく、アスリートへの人権侵害であり性暴力として社会的に厳しく問われる行為です。逮捕事例もありますし、多くの自治体が迷惑防止条例を改正し、性的な目的での撮影を明確に禁止する動きを見せています。福岡県や三重県では、こうした盗撮を「性暴力」として位置付け、被害を防ぐ姿勢を強く打ち出しました。

国も対策を進めており、アスリート盗撮を禁止する流れは、今後さらに具体的な対策へと広がっていくことが期待されます。

アスリートが安心して競技に集中できる環境をつくることは、アスリート本人のためだけでなくスポーツに関わるすべての人にとって有益です。社会全体で被害を未然に防ぐ体制を築くことが強く求められています。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。