風評被害・誹謗中傷

伏字やイニシャルでの名誉毀損に対する法的手段の可否を解説

2021.02.08
伏字やイニシャルでの名誉毀損に対する法的手段の可否を解説

近年、ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板やSNSでの誹謗中傷が問題となり、総務省が対策に乗り出しています。しかし、実名を出さずに伏字(●●や××などの記号による表記)やイニシャルでの誹謗中傷なら、問題にならないと考えている人もいるようです。

実は、掲示板・SNSへの書き込み内容によっては、伏字やイニシャルでの誹謗中傷も名誉毀損にあたることがあります。「伏字だから訴えることはできない」と諦める必要はありません。

伏字やイニシャルで誹謗中傷を書き込まれたときに、名誉毀損として法的手段をとることができるのか、その可否について説明します。[注1]

[注1]総務省:インターネット上の誹謗中傷への対策

1.伏字やイニシャルでの名誉毀損に対して法的手段をとれるか

伏字やイニシャルでの名誉毀損に対して法的手段をとれるか

ホスラブや、爆サイなどの掲示板・SNSへの伏字やイニシャルでの誹謗中傷は、書き込み内容によって法的手段がとれるか判断が変わります。

1-1.個人を特定できる投稿は名誉毀損にあたる

誹謗中傷が、個人を特定できる内容であれば、名誉毀損として法的手段をとれます。「個人を特定できる」内容とは、下記のようなときです。

  • 例1.株式会社山●営業5課の課長M.Mは庶務課の●本と不倫している
  • 例2.歌舞伎町のホストクラブZのホストL.Yは借金が200万円ある

例1は、伏字ではあるものの有名企業であれば企業名の推測が可能で、しかもイニシャルが書き込まれています。同僚であれば、課長M.Mと庶務課●本が誰なのか特定できるでしょう。

例2は、お店の場所と名前が書き込まれ、イニシャルがわかっている状態です。店名がわかれば、従業員や客は、ホストL.Yが誰なのかを推測できてしまいます。

上記のように、内容から個人が特定できる場合は、伏字やイニシャルでも名誉毀損として、法的手段がとれる可能性が高いと考えられます。

1-2.特定できないときは法的手段はとれない

では、名誉毀損として法的手段のとれない例をみてみましょう。

  • 例3.歌舞伎町のキャバ嬢Aは枕営業をしている

上記の例では、場所は書かれていますが、キャバ嬢Aを特定できる情報はありません。そのため、上記の書き込みだけでは、名誉毀損にはあたらないと考えられます。

2.伏字やイニシャルでの名誉毀損の被害に遭った際の加害者特定

伏字やイニシャルでの誹謗中傷に遭い、名誉毀損として法的手段をとりたいときは、加害者を特定しなくてはなりません。ただし、加害者を特定するときは2段階の手続きを踏む必要があります。

ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板やSNSでは、投稿者のIPアドレスしか特定できないことも多々あります。IPアドレスとは、パソコンやスマートフォンの住所の役割を果たすものです。

加害者を特定したいときは、掲示板やSNSの運営会社に、投稿の発信者情報の開示を求めましょう。運営会社が開示請求に応じない場合は、裁判所をとおして請求できます。このときに、誹謗中傷の証拠が必要です。

開示されたIPアドレスを使っている加害者の氏名や住所などの情報を、インターネットプロバイダに開示請求します。インターネットプロバイダが開示請求を拒否したときも、裁判を起こす必要があります。

3.伏字やイニシャルでの名誉毀損に対する損害賠償請求額

伏字やイニシャルでの名誉毀損に対する損害賠償請求額

伏字やイニシャルでの誹謗中傷でも、名誉毀損で裁判を起こすことが可能です。刑事・民事の両方で争うことができ、民事事件では損害賠償請求もできます。損害賠償とは、いわゆる「慰謝料」と呼ばれる賠償金です。

インターネット上の名誉毀損の場合、その損害賠償請求額は数十万円から100万円程度といわれています。被害者が個人の場合は10万円~50万円程度、事業主だと100万円を超えることもあります。

弁護士費用や裁判費用を考えると、決して高い金額ではありません。

4.伏字やイニシャルでの名誉毀損の被害に遭った際の相談先

ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板やSNSで誹謗中傷に遭ったら、誰にも相談できずに抱え込んでしまうかもしれません。しかし、誹謗中傷が伏字やイニシャルでも、名誉毀損で法的手段を講じられる場合があります。

一人で悩まずに、まずは名誉毀損に詳しい弁護士に相談しましょう。また、法テラスの無料相談も利用できます。

5.伏字での名誉毀損に遭ったらまずは証拠を保存しよう

伏字での名誉毀損に遭ったらまずは証拠を保存しよう

ホスラブや爆サイなどの匿名掲示板における誹謗中傷は、名誉毀損で法的手段をとることも可能です。

ただし、加害者を特定するときに証拠が必要です。伏字やイニシャルでの誹謗中傷だったとしても、まずは証拠を残しましょう。スクリーンショットなど画像に残すだけでなく、画面をプリントアウトするのも効果的です。

証拠を保存したうえで、名誉毀損で損害賠償請求ができるかを弁護士に相談するとよいでしょう。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。