ネット上での名誉毀損が成立した裁判例・認められなかった裁判例
ネット上での名誉毀損が成立した裁判例・認められなかった裁判例
2025.09.10
ネット上で誹謗中傷を受けたとき、「名誉毀損で訴えてやる!」と思っても、実際に名誉毀損で訴えることはできるの? と疑問に思うかもしれません。
爆サイやホスラブなどの匿名掲示板やSNSでも、名誉毀損が成立することはあります。ただし、要件を満たさないと名誉毀損は認められませんので注意が必要です。
実際にあった判決で、名誉毀損が成立した裁判例・成立しなかった裁判例から、名誉毀損が成立する要件を説明します。
目次
名誉毀損とは

名誉毀損とは、他人の社会的評価を低下させることを指します。刑事上の名誉毀損罪については、刑法第230条に定められており、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」とされています。
名誉毀損には「公然性」といった要件があるところ、例えば、インターネット掲示板やSNSへの投稿は基本的に公然性が認められます。
まず、名誉毀損について、簡単に解説します。
名誉の意義
「名誉」概念は、①内部的名誉、②外部的名誉、③名誉感情の3つに分類されています(佃克彦「名誉毀損の法律実務 第4版」2頁目)。
① 内部的名誉とは、自己や他人が自身に対して下す評価から離れ、客観的にその人の内部に備わっている価値価値そのものをいいます。
② 外部的名誉とは、人に対して社会が与える評価をいい、判例によると、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価とされています。
③ 名誉感情とは、自分が自分の価値について有している意識や感情をいい、判例によると、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価とされています。
一般的に考えられている「名誉」は、上記の②外部的名誉を意味しているといえます。
刑法上、保護されているのも②外部的名誉とされています。
民事では、判例により、②外部的名誉に加え、③名誉感情も一定の要件の下、不法行為が成立するとされ、人格権の一つとして保護の対象とされています。
- ②外部的名誉と③名誉感情は、人格的価値を対象とする点では同じですが、それを評価する主体が異なります。
- ②外部的名誉は、他者が評価主体ですが、③名誉感情は、自分自身が評価主体となります。
- ③名誉感情は、一般的に言われるプライドに近いものとイメージするといいかもしれません。
- ③名誉感情を侵害する主な態様は、いわゆる侮辱行為ですが、侮辱行為に限りません。
- ②外部的名誉の侵害と③名誉感情の侵害は両立するものであり、②外部的名誉を侵害すると同時に③名誉感情を侵害することもあります。
名誉毀損罪の法定刑
刑法230条による法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮、または50万円以下の罰金です。名誉毀損罪は、刑事事件として前科がつく可能性もあるため決して軽い犯罪ではありません。
また、名誉毀損罪は親告罪であるため、被害者が告訴を行わなければ起訴されず、刑罰を受けることはありません。これは、起訴すると、かえって被害者の名誉を傷つける恐れがあるため、被害者の意思を尊重するものです。
そして刑法230条の2では、例外についても規定されています。名誉毀損罪は憲法で保障されている表現の自由との兼ね合いもあるわけです。
民事での責任追及も可能
名誉毀損は、刑事事件だけでなく加害者に対して民事上の責任を追及することもできます。
名誉毀損は、不法行為責任に該当する可能性があり、その場合は損害賠償請求の対象にもなり、加害者に対して、慰謝料等を求めることが可能です。
インターネットの掲示板やSNSなどの匿名性が高い名誉毀損も問題になっています。こうした場合は発信者情報開示請求を行って、加害者を特定した上で損害賠償請求や刑事告訴を行う流れが一般的です。
インターネットでの匿名の投稿による誹謗中傷が深刻化したことを受け、特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律(以下「情報流通プラットフォーム対処法」といいます。)が改正され、発信者情報開示命令申立てという新たな裁判手続を導入するなど、被害者救済に向けてより実効性を高める方向に進んでいます。
参考:
民法第七百九条不法行為による損害賠償|e-Gov法令検索
情報流通プラットフォーム対処法|e-Gov法令検索
インターネット上の違法・有害情報に対する対応(情報流通プラットフォーム対処法)|総務省
名誉毀損についての判例

名誉毀損が認められた裁判例は数多存在します。
ここでは、名誉毀損についてリーディングケースとされている判例をいくつか紹介します。
最高裁昭和31年7月20日判決
「名誉を毀損するとは、人の社会的評価を傷つけることに外ならない。それ故、所論新聞記事がたとえ精読すれば別個の意味に解されないことはないとしても、いやしくも一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容に従う場合、その記事が事実に反し名誉を毀損するものと認められる以上、これをもって名誉毀損の記事と目すべきことは当然である。」
このように、最高裁は、記事の意味内容は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断されるとしています。
これは、インターネット上の投稿であっても同様です。最高裁は、「本件ツイートは,一般の閲覧者の普通の注意と閲覧の仕方とを基準とすれば」(最高裁平成30年10月17日決定)とも判示していますが、これも同義と考えられます。
最高裁平成9年9月9日判決
「新聞記事による名誉毀損の不法行為は、問題とされる表現が、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば、これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るものである。」
このように、民事上の名誉毀損は、事実を摘示するものでなくとも、人の人格的価値について社会的評価を低下させるものであれば、意見論評の表明であっても成立し得るとされています。
「事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは、不法行為責任の成否に関する要件が異なるため、問題とされている表現が、事実を摘示するものであるか、意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。ところで、ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきであり、」、「そのことは、前記区別に当たっても妥当するものというべきである。すなわち、新聞記事中の名誉毀損の成否が問題となっている部分について、そこに用いられている語のみを通常の意味に従って理解した場合には、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときにも、当該部分の前後の文脈や、記事の公表当時に一般の読者が有していた知識ないし経験等を考慮し、右部分が、修辞上の誇張ないし強調を行うか、比喩的表現方法を用いるか、又は第三者からの伝聞内容の紹介や推論の形式を採用するなどによりつつ、間接的ないしえん曲に前記事項を主張するものと理解されるならば、同部分は、事実を摘示するものと見るのが相当である。また、右のような間接的な言及は欠けるにせよ、当該部分の前後の文脈等の事情を総合的に考慮すると、当該部分の叙述の前提として前記事項を黙示的に主張するものと理解されるならば、同部分は、やはり、事実を摘示するものと見るのが相当である。」
このように、他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきとされています。
さらにそれは、事実の摘示と意見論評の区別にあたっても妥当し、証拠等をもってその成否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているものと直ちに解せないときも、一般の読者の普通の注意と読み方により、事実を摘示していると理解されるならば、それは事実を摘示するものであるとしています。
これは少し分かりにくいかもしれませんが、判例は、事実の摘示と意見論評の区別について、証拠等をもってその成否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張しているときには、事実を摘示しているとしています。
例えば、「バカ」と記載する投稿があったとして、それを証拠をもって対象者が「バカ」であると立証することはできないことから、「バカ」という記載は事実を摘示するものではなく、意見論評であると考えられます。
そして、この判例は、投稿等の内容が一見して事実を摘示していると直ちに理解できないものであっても、一般の読者の普通の注意と読み方により、事実を摘示していると理解可能なときは事実を摘示しているとすることができるとしています。
要はその投稿等がはっきりと事実を摘示する内容でなくとも、例えば、その投稿が投稿されたスレッドのタイトル、スレッド内の他の投稿からの流れ、投稿内の文脈等を考慮し、一般の読者の普通の注意と読み方により、事実を摘示していると理解可能な場合には事実を摘示しているとすることができるということです。
「事実を摘示しての名誉毀損にあたっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、右行為には違法性がなく、仮に右事実が真実であることの証明がないときにも、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される。」
「一方、ある真実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、右意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、右行為は違法性を欠くものというべきである。」
「そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」
これは、名誉毀損の免責事由を示したものとなります。
免責事由は、表現の自由との調整により設けられたものです。
人の社会的評価を低下させる投稿があったとしても、免責事由が満たされていれば、責任を負わないということになります。
免責事由は、判例により、事実の摘示と意見論評とで判断基準が異なります。
まとめると、以下のようになります。
⑴ 事実の摘示
ア 違法性阻却事由(下記①②③全てを満たす必要あり)
① 公共の利害に関する事実に係り
② その目的が専ら公益を図ることにあり
③ 摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったとき
イ 故意又は過失阻却事由
摘示事実が真実であると信ずるについて相当な理由があったとき
⑵ 意見論評
ア 違法性阻却事由(下記①②③④全てを満たす必要あり)
① 公共の利害に関する事実に係り
② その目的が専ら公益を図ることにあり
③ 意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったとき
④ 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない
イ 故意又は過失阻却事由
意見論評の前提としている事実が真実であると信ずるについて相当な理由があったとき
ネット上での名誉毀損として認められなかった裁判例

訴訟に至ったにもかかわわらず、名誉毀損が成立しなかったという裁判例もあります。ここでは、名誉毀損が成立していないとされたケースを紹介します。
同定可能性
「被告Y5は,記者への説明に際して強要行為の主体を『協会の幹部』とし,原告らの具体的な個人名を明らかにしなかったところ,原告らは,具体的な個人名が登場していなくても,本件協会の当時の理事が原告らであることは調べれば分かることであり,ホッケー関係者ならば,取材の際の発言内容が原告らに関するものであることが分かると主張する。
しかしながら,証拠(甲2)によれば,当時本件協会の役員(名誉総裁,会長,副会長,各理事,各顧問)は32名いることが認められ(なお執行部は8人である(証人C)。),本件各記事が掲載された新聞の読者は,原告らが被告らと対立関係にあることは察知できていたとは限らず,その発言内容が原告らに関するものであると特定できたと認めるに足りる証拠はないから,原告らの上記主張は採用できない。」(東京地裁平成28年8月4日判決)
これは、投稿記事が原告を対象としていると同定できないと判断した裁判例です。「協会の幹部」に該当する人物が32名いたことから、そのうちの誰を対象としているのか特定できないと判断したものと考えられます。
このように、名誉毀損は、対象者が原告を対象としていると同定できなければ、認められません。
名誉毀損は、他人の社会的評価を下げるものであり、対象者が誰であるのか読者が分からなければ、人の社会的評価を下げることもないため、同定可能性は、名誉毀損には必然的に必要となる要件です。
社会的評価の低下
「これらの投稿記事は,「○○ではなぜあんなに偉そうに吠えているのですか。なんか読んでてムカつく部分があるしあまり参考にならない。」と記載されており,原告らは,悪意ある中傷記事であり,原告らの名誉又は名誉感情を侵害する旨主張する。
しかし,上記投稿記事は,その記載からして,原告X2の執筆に係る書籍の内容や執筆姿勢に対する感想ないし批評の域を出ないものといえ,これにより原告らの名誉又は名誉感情が侵害されたとは評価できず,また,上記投稿記事を削除しなければ原告らに重大で回復困難な損害が生じるおそれがあるとも認められない。」(東京地裁平成28年10月12日判決)
この裁判例は、投稿記事が事実を摘示するものではなく、意見論評であるとし、感想ないし批評の域を出ないことから、原告の名誉又は名誉感情が侵害されたとは評価できないと判示しています。
民事では、意見論評も名誉毀損となり得ますが、実際上、意見論評は名誉毀損と認められることは少なく、この裁判例のように投稿者の感想ないし批評に過ぎず、社会的評価の低下がないと判断されることが往々にしてあります。
もっとも、意見論評は、名誉感情侵害としては一定の要件の下、不法行為が認められることがあります。
ネット上で名誉毀損として成立する要件

インターネットの掲示板やSNSの投稿が名誉毀損に該当するかどうかは、いくつかのポイントがあります。
インターネット上の投稿であれば、公然性は基本的に認められるでしょう。
同定可能性、社会的評価の低下の有無、違法性阻却事由及び故意又は過失阻却事由の有無等については、個別に判断されるべきものといえます。
いずれにしても、ただインターネット上に悪口やクレーム、不満を書かれただけで直ちに名誉毀損が成立するわけではなく、名誉毀損の成立要件を吟味する必要があります。
対象者を同定できること
名誉毀損が成立するには、対象となる被害者が「誰なのか」を同定できる必要があります。原告の本名や勤務先、所属団体などの属性が記載されている場合には、同定可能であると判断されることが多いでしょう。
社会的評価の低下
名誉毀損では対象者の社会的評価の低下の有無も重要なポイントになります。
名誉毀損が保護しているのは「人格的価値について社会から受ける評価」であって、文句を言われて気分を害したというだけでは名誉毀損は成立しません。
投稿内容が対象者の社会的評価を低下させていることが名誉毀損が成立するには必要となり、それは上記したように、一般の読者の普通の注意と読み方により判断されます。
事実の摘示
投稿の内容が事実を摘示しているかどうかもポイントです。
民事では、意見論評も名誉毀損に当たり得ますが、上記したように意見論評が名誉毀損と認められることはあまり多くなく、事実が摘示されているかが重要となります。
刑事においては、名誉毀損の成立には事実が摘示されていることが要件とされています。事実を摘示せずに人の社会的評価を低下させた場合には、侮辱罪の対象となります。
違法性阻却事由・故意又は過失阻却事由の不存在
上記したように、投稿内容が人の社会的評価を低下させても、違法性阻却事由または故意又は過失阻却事由が満たされていれば、名誉毀損は成立しません。
違法性阻却事由及び故意又は過失阻却事由の要件は上記したとおりです。
なお、発信者情報開示請求においては、情報流通プラットフォーム対処法により、違法性阻却事由の不存在を開示請求者側が主張立証する責任があります。もっとも、発信者情報開示請求においては、故意又は過失阻却事由の不存在までは主張立証する責任はありません。
これに対して、投稿者に対して損害賠償等を求める場合には、今度は違法性阻却事由及び故意又は過失阻却事由の主張立証責任は、投稿者側にあります。
実際にネット上の書き込みが名誉毀損で立件できるかは弁護士に相談

上記したように、名誉毀損の成立には、法律上の要件が満たされていることが必要であり、裁判例等に照らして、検討する必要もあります。
そのため、一般の方では名誉毀損成立の判断が難しいでしょうから、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士法人アークレストは、誹謗中傷への対処に特化した法律事務所です。誹謗中傷にお悩みの場合には、弁護士法人アークレストにご相談いただければと思います。
お役に立てるよう尽力いたします。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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