【最新版】日本版DBSはいつ開始?導入の背景や実務での問題点を解説します
【最新版】日本版DBSはいつ開始?導入の背景や実務での問題点を解説します
2025.10.16
2024年6月に
日本版DBSと呼ばれる「こども性暴力防止法」が可決成立しました。
この法律の施行は2026年度中を予定していますが、具体的な運用や事業者への影響についてはまだ明確ではない部分もあります。この記事では、DBSの仕組みや日本版DBSの概要、導入に至った背景、制度の具体的な内容、そして今後の課題について詳しく解説します。
目次
DBSとは?

DBSとは「Disclosure and Barring Service」の略称です。
イギリスですでに運用されている制度で、子どもと接する職業に就く人の犯罪歴を照会して就労を制限するというものです。イギリスのDBSでは、該当する人物を子どもに接する職業に就かせた場合には、事業者側にも罰則が設けられています。
このDBS制度を元にして作られたのが、日本版DBS です。もちろん、イギリスのものとは制度の内容は異なります。
日本版DBSの概要

日本版DBSと呼ばれている「こども性暴力防止法」は、イギリスのDBSを参考として法案が作成され、2024年6月19日に可決成立しました。
もちろん、日本版DBSというのは正式名称ではありません。法律の正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」です。一般的には「こども性暴力防止法」と呼ばれています。
法案はすでに可決成立しており、2026年度中に施行予定とされています。つまり制度が導入されることはすでに確定しています。ただし、現時点で施行日については、まだ決まっておらず、運用するにあたっての詳細についても決まっていない部分もあります。
日本版DBS導入に至る背景

日本版DBSが導入されるに至った背景についてここで解説します。
子どもを取り巻く性犯罪の実情、教育現場の特殊性、性犯罪の再犯率の高さなどが要因としてあげられます。
子どもに対する犯罪の増加、悪質な事案の増加
インターネットやSNSが普及した現代は便利である反面、子どもに対する悪質な犯罪が増加しやすい環境ともいえます。
実際に、インターネットやSNSを介して知り合った相手から子どもが性被害を受けるケースもあります。また、教育・保育現場でのわいせつ行為なども後を絶ちません。
さらに、教員などの指導的立場にある者が権限を利用して子どもを支配下に置き、抵抗しにくい状況を作り出して犯罪に及ぶというケースもあります。
事実として、性犯罪は再犯率が高い犯罪のひとつです。そして、現行の制度では、一度加害者となった人物であっても、刑を終えた後で別の教育現場に再就職できるため、性犯罪が繰り返されるリスクが高くなっています。
このように、再犯を防ぐ仕組みが弱かったために被害が繰り返されるという社会構造を見直すために、より強力なチェック体制としてDBSの導入が求められるようになりました。
現状の子どもに対する犯罪の防止制度
日本には、児童福祉法という子どもを守るためのルールが存在します。ですが、子どもを性犯罪のリスクが高い大人から守るための制度としては不十分でした。
教員免許に関しては、更新制が令和4年に廃止されたため免許が失効するということがなくなりました。また、塾や教室などではそもそも教員免許を必要としないため、あらゆる人が子どもと接する職業に就くことができるという状態です。
子どもに対する犯罪の状況
内閣府の調査によると、若年層(16~24歳)の4人に1人以上が何らかの性暴力被害に遭っています。そのうち、12.4%が身体接触を伴う被害を受けており、4.1%は性交を伴う重大な被害に遭っています。
そして、性交を伴う性暴力被害の加害者については、学校・大学の関係者(教職員、先輩、同級生、クラブ活動の指導者など)が29.3 %となっています。
つまり、教育の現場で重大な性暴力が行われるリスクがあります。
参考: こども・若者の性被害に関する状況等について 内閣府男女共同参画局
教育・保育を提供する事業の特殊性
学校などの教育現場は、一般の企業などとは異なる「支配性」「継続性」「閉鎖性」という特徴があります。
支配性:教師や指導者が子どもに対して強い立場を持つ
継続性:長期間にわたり繰り返し接触がある
閉鎖性:教室や施設内などは外部からの監視が届きにくい
これらの要素が重なることで、性犯罪の温床となりやすいという指摘がなされてきました。日本版DBSの導入は、こうした教育現場の構造的なリスクを補うものとなります。
日本版DBSの内容

ここからは、日本版DBSの制度内容を詳しく確認していきます。対象となる子どもや事業者、照会の対象犯罪や期間、そして実際の照会手続きの流れについて理解しておくことが求められます。
対象となる子ども
日本版DBSで保護の対象となる子どもは以下のようになっています。
・学校に在籍する幼児・児童又は生徒、それ以外の18歳未満の者
大学を除く学校に通う児童・生徒はすべて対象になります。つまり、高校3年生で誕生日を迎えて18歳以上になっていても、大学を除く学校に通う児童、生徒に該当するため日本版DBSの対象に含まれるということになります。
対象となる事業者
日本版DBSの対象になるのは、「学校設置者等」及び認定を受けた「民間教育保育等事業者」となります。「学校設置者等」というのは、義務対象となる学校や児童福祉施設等を設置運営する者のことであり、「民間教育保育等事業者」とは、認定対象となる学習塾、認可外保育施設等を設置運営する者のことです。
これらの事業者は、従業員の採用や配置の際に性犯罪歴の有無を確認するだけでなく、職員に対する研修の実施や、子どもが安心して相談できる環境づくりなど、多岐にわたる義務を負うことになります。制度の導入は単なる書類上の確認にとどまらず、組織体制そのものの強化を求めるものです。
具体的には次のような施設が該当します。
● 小学校
● 中学校
● 高等学校
● 幼稚園・保育所
● 児童養護施設
● 障害児入所施設
● 児童発達支援施設
● 放課後等デイサービス施設 等
これらの施設を運営する事業者は、教員等や従業員の性犯罪歴確認や研修の実施、被害が発生した場合の保護を行う必要があります。
認定を受けた「民間教育保育等事業者」は、学校等同様の義務を負います。制度に参加していることが認定・公表されます。また、 認定事業者は、認定を受けた事業者であることをサイトやパンフレットなどで広告可能となります。
上記の義務は、すべて法人に対するものであり、個人経営の事業者は対象外となります。
照会の対象となる犯罪・照会期間
日本版DBSでは、事業者が過去の性犯罪歴のチェックができるようになりますが、すべての犯罪歴ではなく対象となる犯罪が指定されています。性犯罪歴の照会は、新しく採用するスタッフだけでなく、今すでに雇用しているスタッフに対しても行う必要があります。
【犯罪事実確認の対象となる性犯罪(特定性犯罪)】
○刑法
・不同意わいせつ
・不同意性交 など
○児童福祉法
・淫行をさせる罪
○盗犯等の防止及処分に関する法律
・常習特殊強盗致傷
○児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童 の保護等に関する法律
・児童買春 など
○性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された 性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
・性的姿態等撮影 など
○都道府県の条例で定める罪であって、次に掲げる行為のいずれかを罰するものとして政令で定めるもの
・みだりに人の身体の一部に接触する行為 など
照会できる過去の犯罪歴に関しては、被害者が子どもの場合に限定されていません。つまり、対象になる犯罪を犯して有罪を受けている場合は、被害者の年齢や性別にかかわらずすべて閲覧されることになります。
下着の窃盗、ストーカー規制法違反などは対象外となります。そして、裁判で無罪判決を受けた場合や不起訴処分の場合は対象となりません。
また、チェック時に犯罪歴が表示される期間についても以下のように指定されています。
刑の種類 | 対象期間 |
拘禁刑(懲役等) | 刑の執行終了から20年間 |
執行猶予判決の場合 | 裁判確定日から10年間 |
罰金刑 | 刑の執行終了から10年間 |
犯罪歴照会の流れ
日本版DBSが導入された場合、対象になる事業者は犯罪歴の照会を行うことになります。
犯罪歴照会の手続きは以下のステップで進みます。
1.事業者がこども家庭庁に確認申請を行う。
2.必要書類のうち、戸籍については、本人からこども家庭庁に提出する。
3.こども家庭庁が法務大臣に対して、性犯罪歴を照会する。
4.法務大臣はこども家庭庁にシステム外で回答する。
5.こども家庭庁は、まず本人に対し、回答内容を事前に通知する。本人は、通知内容の訂正を請求可能。訂正請求期間(2週間)は、犯罪事実確認書は交付されない。
6. 訂正請求期間中に本人が内定辞退等すれば、申請却下(犯罪事実確認書の交付なし)。 訂正請求せずに2週間が経過すれば、対象の性犯罪歴がある旨の犯罪事実確認書を交付。
確認の結果、特定性犯罪の前科がある場合は、その者を教員等としての本来の業務に従事させないこととなり、その他必要な措置を講じなければいけません。
事業者に求められる措置
犯罪歴の照会以外にも、日本版DBSの対象になる事業者に対しては、以下の措置が義務として課されることになります。
● こどもの安全を確保するために日頃から講ずべき措置(面談や、相談を行いやすくするための措置等)
● 被害が疑われる場合の措置(性暴力が疑われる場合の調査と被害児童の保護等)
● 教員等の研修
また、必要な研修や面談の体制、そして、万が一、性暴力があると疑われる事態が発生した場合は、すみやかに被害児童を保護し調査をしなければなりません。
いずれの対応も、その場しのぎでできるものではないため、事業者は制度の導入前に必要な準備をしなければなりません。
日本版DBS導入に向けた問題点・課題

日本版DBSは子どもの安全を守るために有効な制度だといえます。ですがその一方で、実務面では解決すべき課題が数多く存在します。ここでは個人情報保護、事業者の対応、現時点で想定される課題を整理します。
個人情報流出への対策
照会する犯罪歴は極めてプライベートでデリケートな個人情報です。忘れてはいけないのは、犯罪歴はあくまでも過去の物であるということです。過去の犯罪歴を理由に不当な扱いをされてもいいということは当然ありません。
万が一、情報が漏洩するようなことになれば、本人の人権や社会復帰に深刻な影響を及ぼします。そのため、データ管理システムの安全性確保や情報管理体制の整備が不可欠です。
犯罪歴のある従業員に対する事業者の対応
過去の犯罪歴の照会で、犯罪歴が判明した場合、直ちに解雇すべきか、そのような措置をとるべきかという判断は非常に難しい問題となります。
子どもの安全を最優先とする一方で、本人の人権を侵害することなく対応ができるのか、また、社会復帰の機会を一部で奪うことにもなりかねないという懸念点があります。こうした制限について、どこまで認めるかについては議論が必要です。
照会対象となる犯罪・期間の拡充
日本版DBSでは、照会の対象とならない犯罪が残されています。 盗撮や軽微な性犯罪も子どもに深刻な被害を及ぼす可能性があるため軽視できません。実際に、対象となる犯罪の範囲を広げるべきだという意見も強くあります。今後の改正によって対象が広がる可能性は十分に考えられます。
まとめ
日本版DBSはイギリスのDBSを参考に作られた法律です。
この法律は、学校等及び認定を受けた民間教育保育等事業者事業者に対して、スタッフの性犯罪歴確認や研修体制の整備、被害者の保護などが義務づけられます。これは子どもの安全を守るために作られた仕組みです。
導入の背景には、子どもをターゲットにした性犯罪がなくならないこと、そして、教育現場で性暴力を受けるケースが多いことなどがあげられます。子どものために安全な環境を整備することが社会的な要請となっているなかで、2024年に可決成立したのです。
日本版DBSの施行は、2026年を予定されていますが具体的な日にちはまだ明らかになっていません。子どもを守るための制度である一方で、情報管理や雇用契約とのバランス、人権の問題といった複数の問題点があるのも事実です。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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