開示請求

トレントの開示請求・示談を無視したらどうなる?訴訟リスクや損害賠償の可能性を解説

2025.07.25
トレントの開示請求・示談を無視したらどうなる?訴訟リスクや損害賠償の可能性を解説

「トレントで映画や音楽をダウンロードしたら、突然『損害賠償請求』の通知が届いた」

近年、このような相談が増えています。

ビットトレント(BitTorrent)(以下「トレント」といいます。)は便利なファイル共有ネットワークですが、著作権侵害があった場合、権利者から発信者情報開示請求を受け、損害賠償請求をされることがあります。
権利侵害をしていた場合には賠償金を支払う義務がありますが、示談により解決することができれば、訴訟や刑事告訴を回避することが可能です。

今回は、トレント利用者が損害賠償を請求される理由、示談で解決しなかった場合のリスクなどについて解説します。

トレント利用者が損害賠償請求されるのはなぜ?トレントの基本的な仕組み

トレントを利用して映画ファイルをダウンロードする場合、当該映画ファイルを細分化して分割されたデータ(以下「ピース」といいます。)を保有する他の多数のトレントユーザーからピースをダウンロードし、元の一つの完全なファイルを完成させます。

この際に、ダウンロードが完成する前にも当該映画ファイルをダウンロードしている他のユーザーの求めに応じて、ピースをアップロードします。

このように、トレントは、ダウンロードするのみでなく、他のユーザーの求めに応じて、自身が保有するピースをアップロードし得る状態に置かれることから、著作権を侵害していることがあります。
この場合、権利者はトレントのユーザーに対し、発信者情報開示請求を行って特定し、損害賠償請求、刑事告訴といった法的措置を取ることが可能です。

トレント利用で損害賠償請求をされたときに示談で解決すべき理由

トレント利用により損害賠償請求を受けた場合、示談で解決する方法も取り得る手段の一つです。

訴訟よりも負担が少ない

著作権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟を提起されると、被告として訴訟に対応しなければなりません。 訴訟になれば解決するまでに半年から1年程度の期間が掛かることが多く、その間の精神的負担は非常に大きなものとなります。

また、自分で対応するのが難しいケースでは、弁護士に対応を依頼することになりますが、弁護士費用の支払いが必要になりますので経済的な負担も増加するでしょう。

これに対して示談であれば訴訟よりも早期解決が可能であり、弁護士に依頼したとしても訴訟よりも費用負担を抑えることができます。
少しでも負担を軽減したいという場合は、示談での解決を進めるべきでしょう。

示談なら損害賠償額を抑えられる可能性がある

示談交渉であれば、権利者側も時間やコストをかけずに解決したい意向があるため、ある程度の減額や柔軟な金額設定が期待できます。

柔軟な解決方法が可能

示談交渉では、賠償金(示談金)を一括で支払うのが難しい場合、分割払いを提案することも可能です。示談はお互いの合意により解決する手段ですので、訴訟に比べて柔軟な解決ができるというメリットがあります。

トレントの示談を無視するとどのようなリスクがある?

トレントによる権利侵害を理由に開示請求や賠償請求をされたとしても、「示談金を払わず無視すればいい」と考える方もいますが、それには以下のようなリスクが伴います。

損害賠償請求訴訟を提起されるリスク

示談交渉を無視した場合、交渉による解決が不可能であるとして、損害賠償請求訴訟を提起されるかもしれません。
訴訟に発展すると、最終的に敗訴した場合は、裁判所が認めた賠償金を負担しなければなりません。

また、訴訟は短期間で終わるものではなく、半年から1年以上かかるケースも多いため、その間の精神的負担も軽視できません。

結果的に、示談で解決した場合よりも支払い総額が高額になる可能性がある上、裁判所へ出廷するための時間的コストや社会的信用への影響も生じるリスクがあります。

示談よりも高額な賠償金の支払いが命じられるリスク

示談交渉の段階であれば、損害賠償金の額について権利者側と減額交渉や分割払いの相談が可能です。
しかし、一度訴訟に発展して支払いを命ずる判決が確定すると、原則としてその額を減額してもらうことはできません。

特に、著作権侵害の場合、権利者が専門家に依頼して調査や証拠収集を行っていることが多く、裁判所がその主張を全面的に認めた場合、以下のような結果になるリスクがあります。

・示談金額よりも高額の損害賠償金が認定される
・強制執行(差押え等)が行われる

確定判決を得た権利者は、給料や預金、場合によっては自宅や車などの資産に対して差押えを行うことができます。
給与差押えが行われた場合、勤務先に知られる可能性もあるため、仕事上の信用失墜などのリスクも否定できません。

著作権侵害を理由に刑事告訴されるリスク

著作権侵害は民事上の損害賠償責任にとどまらず、刑事罰の対象にもなりますので、示談を無視すると権利者が刑事告訴に踏み切る可能性があります。

起訴されて有罪になれば前科がつくため、将来の人生設計に大きな支障が生じるおそれがあります。

トレント利用で権利侵害があったときの示談交渉の進め方

【ケース別】遺産分割協議における注意点

トレント利用による権利侵害があった場合の示談交渉は、以下のような流れで進みます。

プロバイダから「発信者情報開示に係る意見照会書」が届く

まず、権利者が裁判所に対して発信者情報開示請求を行うと、プロバイダから利用者(契約者)に「意見照会書」が届きます。

これは「発信者情報開示請求がなされているが、情報開示に同意しますか。同意しない場合にはその理由を回答してください。」という内容で、開示請求の是非について意見を述べる機会が与えられます。

意見照会書に対する回答を行う

プロバイダから意見照会書が届いたときは、開示請求に応じるか、拒否するかの意見を記載した回答書を作成します。

トレント利用により権利侵害をしていたという認識があれば、開示請求に応じる旨の意見を提出した上で、後述する示談交渉を行う解決方法もあります。

著作権者から賠償金の支払いを求める通知書が届く

発信者情報が開示されると、通常は発信者情報開示請求者から損害賠償請求の通知書が送られます。

通常は通知書には賠償金額や支払い期限、連絡先などが記載されていますので、内容を精査した上で、今後の示談交渉の方針を決めていきます。

著作権者と示談交渉を行う

示談交渉では、賠償額の減額交渉や分割払いの提案をすることが考えられます。

ただし、不用意な発言や認め方によっては不利になる場合もあるため、弁護士に相談して進めることをおすすめします。

合意が成立したときは示談書を作成する

示談が成立したら、トラブル回避のために示談書を作成することが大切です。これにより、将来的に二重請求されるリスクや刑事告訴をされるリスクを防ぐことができます。

トレント利用による示談金

トレント利用で著作権侵害が発覚した場合、請求者からは、以下のような金額を請求されることがあります。
・1作品あたり20~30万円程度

ただし、複数の作品をアップロードしていた場合や悪質性が高いと判断された場合、
・50~100万円程度

を請求される可能性があります。

なお、複数の作品の著作権侵害があった場合には、まとめて示談交渉をすることで示談金を減額できる可能性もあります。

まとめ

トレントを利用して著作権侵害をした場合、権利者から発信者情報開示請求を経て、損害賠償請求をされる可能性があります。

示談を無視した場合、訴訟提起されてより高額の損害賠償や刑事罰を科されるリスクもあります。
通知書が届いた場合は、速やかに対応方法を検討し、弁護士へ相談すると良いでしょう。

示談交渉には専門家によるサポートが不可欠ですので、自分で対応するのではなく、まずは弁護士法人アークレスト法律事務所までご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。