ネットトラブル

プロバイダ責任制限法とは?~ネット誹謗中傷の削除対策に役立つ法律~

2018.08.18
プロバイダ責任制限法とは?~ネット誹謗中傷の削除対策に役立つ法律~

ネット上で誹謗中傷やプライバシー権侵害などの被害を受けた被害者にとって「プロバイダ責任制限法」という法律は、非常に大きな意味合いを持ちます。この法律によって、被害者は記事の削除を求めたり、不当な投稿をした相手を特定したりすることができるからです。

今回は、プロバイダ責任制限法がどのような法律で、ネット誹謗中傷の被害者がどのようにして活用できるのかご説明します。

1.プロバイダ責任制限法が、被害者にとって有用な理由

プロバイダ責任制限法が、被害者にとって有用な理由

プロバイダ責任制限法は、その名の通り、インターネットプロバイダ(通信事業者)の責任を制限する法律です。
それがどうしてネット誹謗中傷の被害者にとって役に立つのか、疑問に思う方もあるでしょう。以下で、その理由を説明していきます。

プロバイダ責任制限法の正式名称は、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」です。
この法律が制定された経緯には、ネットの普及に伴って、誹謗中傷(名誉毀損)や業務妨害、著作権侵害、プライバシー権侵害などの違法行為が増加してきたことが関係します。

このような被害が発生したとき、被害者はネットプロバイダに対し、記事の削除を求めたり、投稿者の情報開示を求めたりしたいと考えます。

ただ、プロバイダ側は、投稿者と契約関係にあったり、契約者の個人情報を保護しないといけない立場だったりするので、みだりに開示すると、プロバイダは投稿者に対する責任を負ってしまいます。
投稿者がプロバイダに対し、「どうして勝手に記事を削除したのか」「なぜ勝手に個人情報を公開したのか」と言って、損害賠償してくる可能性があるからです。

このような状態では、プロバイダは記事の削除ができませんし、投稿者情報を被害者に開示することもできません。
そこで、プロバイダの責任を限定し、一定のケースにおいて、プロバイダが記事の削除をしたり、投稿者の情報を開示したりしても、損害賠償責任を負わないようにしたのが、プロバイダ責任制限法です。
また、プロバイダ責任制限法は、ネット上で被害を受けた人による「発信者情報開示請求権」という権利についても、明確に定めています。

2.プロバイダ責任制限法の具体的な利用方法

プロバイダ責任制限法の具体的な利用方法

2-1.削除請求をする

ネット上で誹謗中傷などの被害を受けた被害者は、プロバイダ責任制限法にもとづいて、プロバイダに対して記事や投稿内容の削除請求をすることができます。
このように、記事や投稿を削除することを「送信防止措置」と言います。
送信防止措置を請求するときには、「送信防止措置依頼書」を作成して、プロバイダや管理者へ送付します。
このとき、投稿内容の何が問題なのか、誰が見ても明らかになるようにきちんと説明を行い、証拠も沿えることが重要です。違法であることがはっきりしなければ、いくらプロバイダ責任制限法があっても、プロバイダ側が削除に応じることが期待できないからです。
たとえば、まずは、問題の投稿のURLを保存し、スクリーンショットをとり、PDFで保存し、印刷したり、カメラで撮影したりして、証拠をとります。 そして、その書き込みにより、どういった権利がどのような形で侵害されているのか、わかりやすく記載しましょう。

プロバイダやサイト管理者は、被害者からの送信防止措置依頼書を受け取ったら、内容を審査します。そして、本当に権利の不当な侵害が起こっていると考えられる場合、投稿者の断りなしに、自主的に記事を削除することができます。 プロバイダが、権利侵害の有無を判断できない場合、発信者に対して照会書を送り、意見を聞きます。7日以内に回答がない場合には、プロバイダが書き込み等を削除することができます。

2-2.発信者情報開示請求をする

次に、ネット誹謗中傷やプライバシー権侵害の被害者がとりうる法的手段として、発信者情報開示請求があります。これは、投稿者の情報をプロバイダに請求できる権利です。

損害賠償請求や刑事告訴の前提として、投稿者の特定は重要ですので、この権利は被害者にとって非常に大切で、有用なものです。 発信者情報開示請求をした場合、一定の要件を満たすと、プロバイダが請求者に発信者の情報を開示しても、発信者に対する責任を免れます。

具体的に、プロバイダが情報を開示するのは、以下のような場合です。

請求者の権利が侵害されたことが明らかで、請求者が情報開示を受けるべき正当な理由がある場合

そこで、情報を開示してもらうためには、被害者として、どのような権利が侵害されたのかをわかりやすく説明し、証拠も沿えてプロバイダを納得させなければなりません。
プロバイダが任意に開示しない場合には、発信者情報開示請求のための仮処分や訴訟が必要となります。

※投稿者の個人情報を特定する方法については、下記の記事にて詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。

訴訟で勝利すると、最終的に発信者の氏名、住所、メールアドレスなどの情報が開示されます。

以上のように、プロバイダ責任制限法は、プロバイダの責任を限定するだけではなく、ネット誹謗中傷の被害者にとっても非常に重要な法律です。ただ、法的な対応が必要になるケースも多く、うまく使いこなすには、法律の専門家である弁護士によるサポートを受ける必要があると言えます。

当事務所では、ネット誹謗中傷問題に積極的に取り組んでいますので、お困りの際には、是非とも一度、ご相談ください。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。