ネット誹謗中傷で成立する犯罪とは?刑事告訴できるケースについて
ネット誹謗中傷で成立する犯罪とは?刑事告訴できるケースについて
2025.10.28
誰もが気軽にSNSなどで情報を発信できる今、情報の取得や発信はとてもしやすくなりましたが、その反面、危険もあります。
SNSの匿名性を悪用した誹謗中傷はそのひとつです。一度、ネット上に投稿されたものは急速に拡散し、企業や個人に深刻な被害を与えるケースもあるため「インターネット上の書き込みだから大したことはない」と軽視するのは危険です。そして、ネット上の誹謗中傷は、内容や態様によっては刑法上の犯罪が成立する可能性があります。
本記事では、ネット誹謗中傷によって成立し得る犯罪の種類や具体例、さらに被害を受けたときに取り得る法的手段について詳しく解説します。
企業としてどのように対応すべきか、刑事告訴の手順や弁護士に依頼するメリットも紹介しますので、被害に悩んでいる方やリスク対策を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
インターネットでの誹謗中傷は被害が拡大しやすい
インターネット上の誹謗中傷は、従来の口コミや紙媒体での中傷とは比べものにならないほどのスピードで広まり、短期間で大きな被害をもたらす危険があります。
この理由は「不特定多数の人が閲覧できること」と「一度拡散した情報を完全に消すことは困難であること」です。ここでは、ネットの誹謗中傷の特徴について詳しく見ていきましょう。
不特定多数の人がいつでも閲覧できる
ネット上に一度書き込まれた情報は、検索エンジンやSNSを通じて誰もが容易に閲覧できるため拡散の速度が速くあっという間に広がってしまうことがあります。
まず、インターネット上の掲示板やSNS、口コミサイトは、基本的に誰もが自由にアクセスできます。たったひとつの投稿が、書き込まれた瞬間に不特定多数の人の目に触れ、短時間で何百人、何千人に拡散される可能性があります。
投稿をシェアできる機能もあるため、元の投稿者とはつながりのない第三者にまで一気に広がり、企業や個人の評判の失墜が短時間で生じるケースもあります。
完全に書き込みを消すことはほぼ不可能
ネットの投稿に関しては「問題の投稿を削除すれば解決する」と考える人もいます。ですが、現実にはそう簡単ではありません。まずは、投稿者本人が削除に応じない限り、基本的にはサイト運営会社や裁判所の判断を経なければ強制的に消すことはできません。
しかも、仮に削除できたとしても、すでにスクリーンショットなどで保存されていた場合、何度でも再掲されるリスクがあります。
さらに、情報が日本国内だけでなく、海外のサーバーに保存されているケースもあり、その場合は国内法だけでは対応に限界があります。つまり、 ネット上の誹謗中傷を「完全に消す」ことは現実的にほぼ不可能といえるのです。
だからこそ、被害に遭ったときには放置せず、早急な対応がカギとなるのです。
ネット誹謗中傷で成立する犯罪と具体例

企業や個人がインターネット上で誹謗中傷を受けた場合、それは単なる迷惑行為にとどまらず、刑法上の犯罪が成立するケースがあります。
ネット上での書き込みにも当然、法的責任を伴っているのです。
誹謗中傷で成立する可能性がある「偽計業務妨害罪」「威力業務妨害罪」「信用毀損罪」「名誉毀損罪」について、条文上の定義や具体的な事例を交えながら解説していきます。
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
偽計業務妨害罪とは人を欺罔し、または人の不知、錯誤を利用することで他人の業務を妨害する行為を処罰する規定です。ネット上で「事実無根の悪口や噂」を投稿して、意図的に売上や顧客を減らそうとした場合に成立する可能性があります。
法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑です。
【偽計業務妨害罪の具体例】
「あの店の食材は、産地偽装している」
「あの店の衛生状態は最低だから、行かない方が良い」
「美容院でパーマをしたら、やけどをさせられて謝罪もなかった」
「悪徳業者で、高齢者を騙している企業だ」
これらの投稿は、事実であれば消費者保護の観点で問題提起となるケースもあるでしょう。ですが、事実無根であれば業務を不当に妨害する悪質な行為です。
特に飲食店や美容業のように「信用が売上に直結する業種」では、風評被害によって経営が立ち行かなくなることもあり、刑事責任の追及ができる可能性が高いといえます。
威力業務妨害罪(刑法234条)
威力業務妨害罪とは、暴力や脅迫などにより、人の自由意思を制圧するに足る勢力を使用して業務を妨害する行為を処罰する規定です。
ここでいう「威力」とは必ずしも暴力行為に限らず、心理的に相手を畏怖させる内容であれば認められるとされています。そのため、ネット上の「脅し文句」も立派に対象となるのです。
つまり、ネットに脅迫投稿をした場合は、威力業務妨害に該当するケースがあります。
法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金刑です。
【威力業務妨害罪の具体例】
「〇月〇日に行われるイベントに爆弾を仕掛ける」
「これ以上〇〇を売るなら、本社に火をつけてやる」
「〇〇社の主催するコンサート会場に、トラックで突っ込む予定」
これらは実際に犯罪行為に及ばなくても、企業の通常業務を停滞させたり、警備強化やイベント中止に追い込むなど、大きな損害を与える可能性があります。警察の捜査が行われ逮捕に至るケースも少なくありません。
信用毀損罪(刑法233条1項前段)
信用毀損罪とは、虚偽の情報を流布して「経済的な信用」を傷つける行為を処罰するものです。ここでいう経済的な信用とは、主に財務状況や買掛金の支払い、給料の支払いなど「お金に関する信用」のことです。
信用毀損罪と偽計業務妨害罪は似ているようにも見えますが、異なるものを保護している別の犯罪です。
偽計業務妨害罪 …「業務」を保護対象とする
信用毀損罪 …「経済的な信用」を保護対象とする
偽計業務妨害罪の場合では「業務」そのものが保護されています。ですが、信用毀損罪では「経済的な信用」が保護の対象となっているのです。
信用毀損罪の法定刑は、 3年以下の懲役または50万円以下の罰金刑です。
【信用毀損罪の具体例】
「あの会社は倒産寸前」
「給料や残業代を支払っていない」
「買掛金を支払わず。取引先に迷惑をかけている」
「顧客からのキャンセル返金に応じていない」
これらの投稿は、企業の資金繰りや取引先からの信用に直接影響し、企業のイメージに大きな被害を与えます。特に上場企業や金融機関の場合、株価の下落や取引停止といった重大な結果を招く可能性があるため、刑事責任を問うことができるといえるでしょう。
名誉毀損罪
名誉毀損罪(刑法230条1項)とは、事実を公然と示して相手の社会的評価を下げる行為を処罰します。特徴は 「投稿の虚偽ではなく真実であっても成立する」 という点です。たとえば「あの会社の社長が不倫しているとこを見た」と書き込んだとしましょう。その不倫が真実であっても名誉毀損になる可能性があるのです。
ただし、公共の利害に関する事実で公益目的があり、真実であることが証明された場合は違法性が阻却されるといった例外もあります。
また、名誉毀損罪は「親告罪」なので、被害者が刑事告訴しない限り、投稿者が起訴されることがありません。この点は前述の3つの罪と大きく異なるところです。
【名誉毀損罪の具体例】
「あの企業はパワハラが多く、残業代不払いが横行しているブラック企業だ」
「あの会社は、粗悪品を低コストで販売している悪徳業者」
「私の周りにも、あの企業の悪質な販売方法で被害を被った人がたくさんいる」
このように、社会的評価を低下させるような記述であれば、事実であっても名誉毀損罪が成立する可能性があります。
一方で「バカ」「ダメな会社」といった抽象的な内容の場合は、名誉毀損ではなく侮辱となります。
名誉毀損罪の法定刑は、 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。
投稿者の法的責任を追及する方法

ネット上での誹謗中傷投稿は、被害を受けた側にとって放置できない深刻な問題です。企業や個人が事実無根の書き込みや悪質な攻撃を受け続ければ、売上や信用を失うだけでなく、投稿の内容によっては従業員や関係者が精神的苦痛を受けるケースもあります。
こうした場合、刑事と民事の両面から加害者に責任を追及することが可能です。
ここでは、代表的な2つの手段である刑事告訴と民事での損害賠償請求について、具体的に見ていきましょう。
刑事告訴
刑事告訴とは、被害者が警察や検察に対して「加害者を処罰してほしい」と申し立てを行う手続のことです。刑事告訴されれば、警察は正式に捜査を開始し、加害者が逮捕・起訴されれば刑事裁判で処罰を受ける可能性があります。
特に、名誉毀損罪については親告罪であるため、被害者が刑事告訴しなければいくら悪質な投稿でも処罰されることはありません。親告罪の場合は、被害を放置せず告訴することで、警察が動き出すのです。
刑事告訴を行う際には以下が必要です。
①証拠の収集
投稿のスクリーンショットや書き込み日時などを残すことはとても重要です。後から削除されても証拠が残っていれば、捜査を進めやすくなります。
②告訴状の作成
誹謗中傷の具体的な内容、被害の状況、法的にどの犯罪に当たると考えるかを記載します。弁護士に依頼すれば、法的に有効な告訴状を作成して提出することができます。
③警察署への提出
警察署に告訴状を提出します。告訴状の内容が正当な物であれば、受理後に正式な捜査が開始されます。
④捜査・送検
警察が捜査を行います。そして、十分な証拠があると判断されれば検察に送致されます。
告訴状の作成をしてから検察の判断が下るまでに、数週間~数か月かかることもありますが、刑事責任を問うためには欠かせないプロセスです。
損害賠償請求
刑事告訴は「処罰」が目的ですが、被害者にとっては 経済的損失や精神的苦痛を回復することも重要です。そこで行われるのが、民事上の損害賠償請求です。
誹謗中傷投稿によって売上が減少したことが立証できる場合は「営業上の損害賠償」が、精神的苦痛を受けた場合には「慰謝料請求」が認められる可能性があります。
民事的に責任を追及する流れは次の通りです。
①加害者の特定
プロバイダやサイト運営者に対し、発信者情報開示請求を行い、投稿者の氏名・住所・IPアドレスなどを特定します。
②内容証明郵便での請求
投稿者を特定した後、「損害賠償請求書」を内容証明郵便で送付します。これにより、相手にプレッシャーを与えると同時に、交渉の正式なスタートになります。多くの場合、弁護士に依頼して行われるプロセスです。
③訴訟提起
内容証明を送ったあと、お互いの話し合いで解決できなければ、裁判所に訴訟を提起します。裁判で勝訴すれば、加害者に対して金銭的な支払い義務を強制することができます。ただし、相手が自分の非を認めて支払いに応じれば、裁判にならずに解決します。また、訴訟に至った場合でも訴訟の途中に当事者間で合意をする、裁判上の和解による解決もあります。
慰謝料の金額については、投稿の悪質性や被害の程度によって変動します。数十万円~数百万円規模になることもあり、企業の場合は営業損害と合わせて高額の請求が認められるケースもあります。
ネットでの誹謗中傷に対処するには、刑事告訴で「加害者に処罰を受けさせる」と同時に、損害賠償請求で「被害者が受けた損害を回復する」ことが必要です。どちらか片方だけでなく、両方の責任追及をすることがより納得出来る事件の解決につながります。
企業がネット誹謗中傷されたら、弁護士までご相談ください

インターネット上の誹謗中傷は、企業にとって信用や売上に直接的に影響するものです。
「大丈夫だろう」と放置すると予想以上の損害をうけるケースもあります。
虚偽の風評や脅迫的な投稿は、偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪・信用毀損罪・名誉毀損罪といった刑事事件に発展する可能性がある重大な犯罪でもあります。そのため、被害を受けた場合、刑事告訴で加害者に処罰を求めると同時に、民事で損害賠償請求を行うことが重要です。
ただし、刑事告訴の手続や民事での損害賠償請求の手続には専門知識が不可欠となります。できるだけ、早期に弁護士へ相談し、適切な対応をとることが企業を守る第一歩といえるでしょう。
アークレスト法律事務所では、企業の誹謗中傷対策を得意とする弁護士が在籍しています。刑事告訴や民事訴訟、投稿削除請求の手続だけでなく、風評被害を防ぐための社内体制づくりをしたいという企業の担当者の方は、ぜひアークレスト法律事務所にご相談ください。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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