ネット上での名誉毀損が成立した裁判例・認められなかった裁判例
名誉毀損罪(刑法230条)の成立条件や量刑について解説
2025.09.10
XなどのSNS、ホスラブや爆サイなどのインターネット上の匿名掲示板は匿名性が高いため、心ない悪口や根拠のない噂を書き込まれてしまうことがあります。
誰もが気軽に情報を発信できる時代になり、コミュニケーションツールとして便利である一方「誹謗中傷や名誉毀損のリスク」があります。実際、インターネット上で、特定の人物や企業に対する根拠のない書き込みや悪口が見られます。
このような投稿は単なる「悪ふざけ」や「感想」では済まされないケースがあります。場合によっては、刑法230条に定められた名誉毀損罪に該当し、加害者は刑事責任や民事責任を問われる可能性があるのです。
本記事では、名誉毀損罪の基本的な知識と、名誉毀損罪が成立するための条件、刑罰の重さを解説します。そして、実際に被害にあってしまった場合の対応方法について、専門家の視点からわかりやすく説明します。
目次
名誉毀損罪(刑法230条)の内容

名誉毀損罪とは、刑法230条に規定されている犯罪行為です。
名誉毀損罪の条文は次のとおりです。
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
引用元: 第二百三十条 名誉毀損 e-GOV法令検索
当然、インターネット上の誹謗中傷も、この名誉毀損罪の対象となることがあります。
つまり、特定の人物についての事実を示し、それによってその人の社会的評価を下げた場合には、たとえそれが真実であっても犯罪になるということです。
ときに「事実であれば問題ないのでは?」「嘘ではないし」という意見を耳にしますが、それは間違いです。たとえ事実であっても相手の社会的評価を著しく下げれば、名誉毀損罪という犯罪となり得るのです。
名誉毀損罪は非常に身近な犯罪なのですが、多くの人は法令の原文を読んでも「公然」や「適示」など馴染みのない言葉が入っていて、理解しにくいかもしれません。
次項で、言葉の意味や名誉毀損が認められる要件についてわかりやすく説明します。
名誉毀損罪(刑法230条)の成立条件

刑法230条で定められている名誉毀損罪は、以下の4つの条件を満たしたときに成立する犯罪です。これらの条件を欠いている場合は、名誉毀損罪には当たらない可能性があります。
そもそも、名誉毀損罪は、誰かに対して「いやなことを言ったらすぐに成立する」というものではありません。単なる口論やちょっとした悪口までもがすべて犯罪になってしまうということではないのです。
ただし、インターネット上の書き込みなどであっても、条件にあてはまれば名誉毀損罪に問われる可能性はあります。
公然とおこなわれること
「公然」とは、法律用語で「不特定又は多数の人が直接認識できる状態」のことを指します。ここがポイントです。不特定又は多数の人の中には、顔を知らないインターネット上の人々も含まれます。
例1:居酒屋での会話
二人きりで小さい声で話している場面での発言は、たとえ内容が悪口でも公然性はありません。しかし、同じ発言を人が大勢いる場で大声で言った場合は、公然性が認められる可能性があります。
例2:インターネットの掲示板やSNS
XやInstagramなどのSNSや、ホスラブや爆サイのような掲示板は、投稿すれば不特定多数の人が閲覧できるため、基本的に「公然性がある」と評価されます。また、仮に鍵アカウントであっても、フォロワー数が多くその中で情報が共有される場合には「公然」とみなされることもあります。
つまり、「誰でも見られる状況」あるいは「広く伝わる可能性がある」での発言や投稿がなされれば、それは公然性を満たすと考えられます。インターネット上のやりとりは、この点で非常に公然性が認められやすいのです。
事実を適示していること
あまり聞き慣れない「摘示」という言葉ですが、これは簡単にいえば「具体的な事実を示すこと」を意味します。
摘示にあたるケース
・「Aさんは店のお金を盗んだ」
・「Bさんは不倫している」
・「Cさんは枕営業をしている」
これらは真実かどうかに関係なく「具体的な事実」を述べているため、事実の摘示に該当します。
事実の摘示にあたらないケース
・バカ
・デブ
・頭が悪い
・嫌い
・無能
このような抽象的な悪口は、とても失礼な言葉ではあるものの、単なる相手に対する評価や感情の表現となるため、名誉毀損罪には該当する可能性は低いといえます。ただし、侮辱罪に問われる可能性はあります。
ここでポイントになるのが、「摘示」した内容が、真実か虚偽かは問わないという点です。虚偽の内容を流せばもちろん違法です。ですが、それがたとえ真実であっても不特定又は多数の人に広めることで社会的評価を下げれば名誉毀損罪に該当し得ることになります。
つまり「本当に不倫をしているから不倫だといっただけ」だとしても、名誉毀損罪になる可能性があるのです。
人の名誉を毀損していること
刑法230条に定められた名誉毀損罪の成立には、「人の名誉を毀損していること」という条件があります。「誹謗中傷されているなら、名誉を毀損していることになるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、刑法230条では、「どこの誰が」誹謗中傷されているかが重要で、誹謗中傷されている個人が特定できない内容は、名誉毀損に該当しないのです。
ここでいう「名誉」とは、個人のプライドや感情の問題ではなく、社会全体からの評価を指します。例えば「この街のどこかの飲食店店員は横領している」といった漠然とした表現では、特定の個人を示していないため該当しにくいのです。
個人の特定がされているケース
「会社の金を横領している」 → 信用を失い、取引や雇用に影響が出る可能性がある
「〇〇さんは不倫している」 → 家庭や社会的地位に悪影響を及ぼしている
個人が特定されていないケース
「〇〇(特定の職業など)はろくでもない」
個人の特定は名指しされているケースが最も解りやすいでしょう。ですが、イニシャルやニックネーム、あるいは文脈から「誰を指しているかが分かる」と判断できる場合には、名誉毀損罪が成立することがあります。
事実の有無は問わない
名誉毀損罪は、内容が真実であっても、成立し得るものです。たとえば、「AはBと不倫している」と書き込まれた場合、本当に不倫をしていたとしても名誉毀損罪の対象にな得ります。
名誉毀損罪の大きな特徴は「 拡散された事実の内容が真実であっても成立し得る」という点です。
たとえば「Aさんは不倫している」という書き込みがあったとしましょう。これが実際に真実であったとしても、名誉毀損罪が成立し得ます。ときに「不倫は違法なんだから拡散されても仕方ない」といった意見を目にしますが、その行為が不法行為であっても、名誉毀損をしていいというわけではないのです。一方で、虚偽の事実を摘示した場合も当然ながら成立します。
このように名誉毀損罪は「真実であっても」「虚偽であっても」成立するのです。
ただし、例外も存在します。対象となる人がすでに亡くなっている場合には、事実の真偽が問題とされます。故人に対する名誉毀損罪に関しては「虚偽の事実を摘示した場合」にのみ名誉毀損罪が成立し、真実を述べただけでは処罰されません。
名誉毀損罪(刑法230条)の量刑は?

名誉毀損罪が成立した場合、加害者にはどのような処罰や責任が課されるのでしょうか。刑法上の「刑事責任」と、民事上の「損害賠償責任」の二つがあります。
名誉毀損罪が成立した場合に、加害者にはどのような量刑が科せられるのかを説明します。
刑事責任の場合
刑法230条に規定されている法定刑は次のとおりです。
・3年以下の拘禁刑
又は
・50万円以下の罰金
ここで重要なのは、たとえ罰金刑であっても「有罪判決」が下れば 前科が残るという点です。前科は就職や社会的評価にも影響するため、軽視できません。
ただし、実際は初犯で悪質性が低い場合、拘禁刑では執行猶予がつくことが多いです。
しかし、同じような行為を繰り返していたり(特に同種前科がある場合)、被害者の生活や仕事に重大な影響を与えた場合は、実刑が科される可能性もあります。
近年は、ネット上の誹謗中傷が原因で被害者が精神的に追い込まれ、自死に至るケースもあり、名誉毀損や誹謗中傷は社会問題化しています。そのため、裁判所が厳格な判断をする可能性は否定できません。
民事責任の場合
名誉毀損は刑事責任の追及だけでなく、被害者が加害者に対して 損害賠償請求(慰謝料請求等) を行うことも可能です。
民事裁判の場合は、相手に対してお金を請求するというものであり、相手が刑事罰を受ける刑事事件とは異なります。
まず、慰謝料の金額ですが、これは一概にいくらとはいいきれません。一般的には、数万円~100万円程度が目安です。ただし、対象者の社会的地位や被害の拡散の度合い、加害者の謝罪や削除対応の有無などにより変動します。
慰謝料が高額になりやすいケース
・会社経営者や医師、弁護士など社会的地位が高い人物の評価を大きく貶める誹謗中傷
・ネットニュースやSNSで拡散され、被害が広範囲に及んだ場合
・加害者が反省せず、投稿を繰り返した場合
また、名誉毀損を受けた場合、投稿削除や、発信者情報開示請求・訴訟のための弁護士費用がかかります。この費用の一部を、加害者に請求できる場合があります。
刑事と民事の併存
刑事責任と民事責任はどちらか一方だけで済むとは限りません。
たとえば「刑事事件として有罪判決」を受けた被告人に対して、被害者が慰謝料請求をすることもできます。つまり刑事罰とは別に、民事裁判で慰謝料の支払いを命じられることもあります。
つまり、名誉毀損で加害者になってしまうと「刑罰+損害賠償」という二重の責任を負うリスクがあるということです。
名誉毀損が成立するか争われた判例
名誉毀損が成立するかが争われた判例をご紹介します。いずれも民事裁判で「名誉毀損という不法行為」の成立がポイントになりました。
有名人の不倫報道のケース
これは、有名人の不倫を週刊誌が報道したという事例です。
裁判所は「名誉毀損については、当該行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合において、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて、不法行為にならないものというべきである。」と判断しました。
つまり、事実の摘示と公然性があっても「社会的意義のある報道」なら不法行為にならない場合を示したものといえます。
週刊誌の記事が名誉毀損にあたるとされた判例
週刊誌が化粧品メーカーの社長に対して「女子社員満喫生活」といったタイトルで、セクシャルハラスメントをしているという記事を出したというものです。
裁判所はこれを名誉毀損と認め、慰謝料の支払いを命じました。このケースでは週刊誌側に対して慰謝料の支払いが命じられました。
名誉毀損罪は刑法230条で刑罰の対象となる

名誉毀損罪は、刑法230条に定められたれっきとした犯罪であり、さらに、刑事事件とは別に民事裁判の損害賠償請求の対象になる可能性もあります。
匿名掲示板やSNSの書き込みであっても、不特定又は多数の人が閲覧できる場に具体的な事実を示して他人の社会的評価を下げれば、名誉毀損に該当する可能性があります。
名誉毀損罪が成立するため「公然性」「事実の摘示」「名誉の毀損」「真偽は問わない」といったポイントがあり、刑事罰は3年以下の拘禁刑、又は、50万円以下の罰金刑となっています。さらに、慰謝料や損害賠償の請求といった民事責任も追及されることが少なくありません。名誉毀損の被害を受けたら証拠を確保し、早期に専門家へ相談することが解決の第一歩となります。
弁護士法人アークレスト法律事務所は、名誉毀損のご相談をお受けしています。様々なケースに応じて迅速・適切な対応を提案することが可能ですので、名誉毀損をされたといった場合はお気軽にご相談ください。泣き寝入りせず、適切な法的手段を取ることが自身の権利を守ることにつながります。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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