名誉毀損

名誉毀損罪が成立する要件と成立しない場合を分かりやすく解説

2020.10.04
名誉毀損罪が成立する要件と成立しない場合を分かりやすく解説

インターネット上で誹謗中傷を受けた場合、加害者を名誉毀損罪で刑事告訴することがあります。とくに悪質な誹謗中傷に関しては、刑事告訴をすることによって再発防止を図る効果もあります。技術上の原因などで投稿者を特定できない場合に、刑事告訴をすれば警察の操作によって投稿者が明らかになるケースもあります。

また、刑事告訴をしない場合でも、相手に対して民事上の請求である慰謝料請求をするためには名誉毀損罪の要件を満たしていることを立証する必要があります。したがって、相手に対して何らかの法的責任を追及する以上、誹謗中傷が名誉毀損罪にあたるかは必ず検討しておく必要があります。

そこで、インターネット上の誹謗中傷について名誉毀損罪が成立するための要件や、名誉毀損罪が成立しない場合について解説します。

1.名誉毀損罪が成立する3つの要件

名誉毀損罪が成立する3つの要件

名誉毀損罪が成立するためには、下記といえる必要があります。

「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」(刑法230条1項)


  • 公然と
  • 事実を適示
  • 人の名誉を毀損した

に分けて詳しく解説いたします。

1-1.「公然と」 不特定または多数の者が誹謗中傷を閲覧できる状態

「公然と」というのは、不特定または多数の者が誹謗中傷を閲覧できる状態であることです。そのため、インターネット上の誹謗中傷については、この要件を満たさないことはほとんどないといってよいでしょう。

1-2.「事実を摘示」 被害者に関する具体的事実を摘示したこと

「事実を摘示」とは、被害者に関する具体的事実を摘示したことをいいます。名誉毀損は、「事実」つまり具体的な事柄がなければ成立しません。

ここでいう具体的事実とは、「前科がある」など証拠があれば真偽を判断できる内容であることを要します。

1-3.「人の名誉を毀損した」 誹謗中傷によって社会的地位が低下

「人の名誉を毀損した」というのは、誹謗中傷によって、被害者の社会的地位が低下したことが必要です。

たとえば、「A社は不祥事を隠ぺいしている」という誹謗中傷を受けると、名指しされたA社は消費者などから悪いイメージを抱かれるようになります。

このように、名誉毀損罪が成立するためには、外部からの名誉が低下したことが求められます。外部からの評価は低下していないが、被害者の自尊心を傷つけたという場合は名誉毀損ではなく侮辱罪が成立することもあります。

2.名誉毀損罪が成立しない場合とは

名誉毀損罪が成立しない場合とは

名誉毀損罪が成立しない例を4つ挙げて解説いたします。

2-1. 同定可能性がない場合

同定可能性とは、その投稿の名宛人が第三者から見ても誰のことか特定できる状態であることをいいます。

たとえば、「〇〇大学教授のA」を名指しした投稿であれば、誰もが「あの人のことだ」と判断することができます。これが、同定可能性があるということです。同定可能性が認められるためには、必ずしも本名である必要はありません。アカウント名や芸名、源氏名などであったとしても、投稿の流れを慎重に検討していくことによって、同定可能性が認められることがあります。

2-2.単なる感想に過ぎない場合

名誉毀損罪が想定しているのは、「横領をしている」など証拠によって真偽が確定できる事実を指摘した場合です。これに対し「Aさんは可愛くない」などといった投稿は、投稿者の感想に過ぎず真偽を確定できるようなものではありません。

したがって、単なる感想については名誉毀損罪が成立しない可能性が高いといえます。ただし、単なる感想であっても表現が行き過ぎているなどの場合には、別途侮辱罪が成立することがあります。

2-3.公共性・公益性がある場合

たとえば、政治家の汚職事件や企業による消費者被害などを公にすることは、公共性・公益性が高いといえます。このような場合、事実関係を公表することが違法と評価されるべきではないため、例外的に名誉毀損罪が成立しないことがあります。

2-4.指摘された事実が真実である場合

名誉毀損罪が成立するためには、誹謗中傷の投稿が指摘した事実が虚偽であることが求められることがあります。真実である場合には、公益性がある可能性が高く、これが公になって被害者の評価が低下したとしても、その低下した評価こそが本来の評価といえるためです。

3.名誉毀損罪での訴訟や刑事告訴は弁護士への相談がおすすめ

名誉毀損罪での訴訟や刑事告訴は弁護士への相談がおすすめ

名誉毀損罪で加害者を刑事告訴する場合には、警察に対して告訴状を提出し、あわせて具体的な事実関係や証拠資料に関して、法的な観点から説明する必要があります。

また、名誉毀損を理由として加害者に慰謝料請求を求める訴訟を起こす場合にも、同様に事実関係を法的に整理して裁判所に伝えることが訴訟の行方を左右します。

したがって、名誉毀損罪で刑事上の責任を問う場合はもちろん、民事訴訟を提起する場合にも、弁護士に対応を依頼したほうが確実であるといえます。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。