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爆サイで誹謗中傷した投稿者のIPアドレス開示請求手続について解説
2025.04.17
爆サイとは、正式名称を「爆サイ.com」といい地域のローカルな話題を扱う匿名掲示板です。地域ごとに掲示板が存在していることから、爆サイに書き込まれる内容は、地域にある飲食店などの情報から近隣に住む人の話題まで多岐にわたります。特定地域の狭いコミュニティの話題が多いため、その地域に住んでいる個人を特定した形での誹謗中傷が書き込まれやすいという特徴があります。
そこで、爆サイに誹謗中傷のコメントを書き込まれた場合に投稿者を特定するための手続として必要となる、IPアドレス開示請求の手続について解説します。
目次
発信者情報開示請求とは
発信者情報開示請求とは、インターネット上に違法な投稿をした人物の情報をプロバイダやサイト管理者から開示してもらう手続をいいます。
爆サイなどのインターネット上の掲示板で誹謗中傷の被害に遭った場合、投稿者に対して、慰謝料請求などの責任追及を行うことが可能です。しかし、爆サイへの投稿は、基本的には匿名でなされますので、投稿内容だけでは投稿者を特定することができません。相手の氏名や住所がわからなければ、投稿者への法的責任追及をするのは困難です。
そこで、投稿者への法的責任追及の前提として、投稿者が誰であるかを特定する必要が生じます。このような手続が「発信者情報開示請求」です。
爆サイで誹謗中傷した投稿者のIPアドレス請求手続
爆サイで誹謗中傷を受けた場合、単にその投稿を削除するだけでなく投稿者を特定することができれば、投稿者に対して慰謝料請求をすることや、悪質な場合には刑事告訴等をすることができます。
とくに、悪質な投稿が何度も繰り返しされている場合には、投稿を削除するだけでは根本的な解決にならないことがあります。このため、投稿者を特定して慰謝料請求をすると同時に、投稿者に2度と同様のことをしないように誓約を求める必要があります。 投稿者を特定するためには、2段階の手続を踏む必要があります。
(1)爆サイにIPアドレスの開示請求する
第1段階として必要になるのが、爆サイの運営者に対して投稿に利用されたIPアドレスの開示請求をする手続です。
IPアドレスとは、インターネット上の住所のようなもので投稿に使用されたパソコンや携帯電話等に個別に割り振られた識別符号です。このIPアドレスについては、簡略化された裁判手続である仮処分手続などを利用して爆サイに開示請求をします。 なお、爆サイの場合には弁護士からの請求であれば仮処分手続を通さなくても直接IPアドレスを開示してもらえることがあります。このため、爆サイのIPアドレスを早く入手したい場合には弁護士に依頼した方がよいでしょう。
(2)プロバイダから契約者情報の開示を受ける
投稿者特定のための第2段階としては、開示を受けたIPアドレスを手掛かりに投稿者が利用するインターネットサービスプロバイダ(携帯電話会社等)を割り出し、プロバイダから契約者情報(住所、氏名など)の開示を受けるという手続があります。
プロバイダ責任制限法(当時)改正により発信者情報開示命令が新設された
プロバイダ責任制限法(現在では、情報流通プラットフォーム対処法という法律名に変更されています。)が改正されたことにより、インターネット上で誹謗中傷があった場合、従来型の発信者情報開示請求に加え、新たに「発信者情報開示命令」の制度が設けられました。
以下では、新たに設けられた発信者情報開示命令の概要とその流れについて解説します。
(1)発信者情報開示命令の概要
従来型の発信者情報開示請求では、爆サイなどのサイト管理者に対して、IPアドレスやタイムスタンプの開示請求を行い、さらにその後、インターネットサービスプロバイダに対して、契約者の氏名や住所の開示請求を行う必要があります。このように、発信者を特定するためには、2段階の手続をとらなければならず、時間やコストの負担が大きいという問題がありました。
プロバイダ責任制限法(当時)改正により新設された発信者情報開示命令は、これまで2段階の手続が必要であったものを、1つの手続の中で行うことができるようにしたものです。発信者情報開示命令が新設された後でも従来型の発信者情報開示請求の手続を利用することも認められていますので、今後は、どちらかを選択して発信者の特定を行っていくことになるでしょう。
(2)発信者情報開示命令制度を利用した場合のIPアドレス開示請求の流れ
新設された発信者情報開示命令の手続は、以下のような手続を、1回の裁判で行うことができます。
・サイト管理者、プロバイダに対する発信者情報開示命令(①)
・サイト管理者に対するプロバイダへのログ提供命令(②)
・サイト管理者、プロバイダに対する発信者情報の消去禁止命令(③)
具体的には、裁判所に①の申立てをして、それと同時または①の審理中に②および③の申立てをするという流れになります。
これにより、従来型の発信者情報開示請求の手続に比べて、時間とコストが軽減し、より少ない労力で発信者の特定が可能になりました。
爆サイで投稿者の情報開示請求ができる書き込み・できない書き込み
爆サイに投稿した投稿者の情報開示が認められるためには、投稿内容が名誉毀損やプライバシー権の侵害など違法といえるレベルに至っていることが必要です。投稿者の個人情報を開示するのは投稿者が利用しているインターネットサービスプロバイダですが、プロバイダにとって契約者の情報は極めて秘匿性の高いものです。したがって、プロバイダによる投稿者情報の開示が正当化されるためには、投稿が名誉毀損等にあたり違法であるといえることが必要です。
(1)爆サイで投稿者の個人情報の開示請求ができる書き込み
爆サイにおける書き込みで投稿者情報の開示請求ができるものは、上記で説明したように名誉毀損などに当たるものです。閲覧者から見て本人特定が可能な状態の書き込みであることも必要です。
たとえば、「Aという店にいるBという店員は、店長と不倫をしている」といった書き込みについては、誹謗中傷を受けたBの勤務先と個人名が記載されているため個人を特定することが可能です。また、不倫をしているという内容が事実無根であれば名誉毀損が成立する可能性があります。
したがって、爆サイにこのような書き込みがされた場合には、投稿者の情報開示が認められやすいといえます。
(2)爆サイで発信者情報の開示請求ができない書き込み
爆サイで発信者情報の開示請求が難しい書き込みの例としては、「うちの隣に住んでいる人は強盗の前科がある」といった書き込みです。強盗の前科があるという点に関しては、これが真実でない場合には名誉毀損にあたり得ます。
しかし、この書き込みの例だと投稿者の住所がわからないので「うちの隣に住んでいる人」が誰であるか客観的には特定できません。したがって、この例のように何も知らない閲覧者からすると個人の特定ができないような書き込みについては、爆サイに書き込まれたとしても発信者情報の開示請求が認められないことがあります。
爆サイで誹謗中傷した投稿者のIPアドレスの開示請求をする際の注意点
爆サイで誹謗中傷した投稿者のIPアドレスの開示請求をする際には、以下の点に注意が必要です。
(1)爆サイへのIPアドレス開示請求には期間制限がある
爆サイに対してIPアドレスの開示を求める際に注意しなければならないこととして、第2段階の手続であるプロバイダへの投稿者の情報開示には厳しい期間制限があるという点です。
プロバイダは投稿者を特定するために必要な接続ログを保有しており、これを基にして投稿者を特定しますが、接続ログの保存期間は短いプロバイダで投稿から約3ヵ月と非常に限られています。 投稿者を特定するためにはこの短いログ保存期間内に、少なくともIPアドレスの開示をしてプロバイダに対して情報の保全請求をする一連の手続を完了させる必要があります。
したがって、IPアドレスの開示請求は手際よく迅速に行う必要があるため、最初から手続に慣れている弁護士に依頼したほうがより的確に進められるのです。
仮に、接続ログの保存期間内に手続が間に合わなかった場合には、投稿者を特定するのは非常に難しくなってしまうため注意が必要です。
(2)誹謗中傷の投稿を削除するタイミングには注意が必要
爆サイへの誹謗中傷の投稿の内容によっては、すぐに投稿を削除してほしいと考えるケースもあります。爆サイには、「削除依頼フォーム」がありますので、それを利用すれば誰でもサイト管理者に削除依頼をすることができます。
しかし、誹謗中傷の書き込みをした人物に対して、損害賠償請求などの法的措置を検討しているなら、削除請求のタイミングは慎重に判断することが重要です。焦って削除請求をしてしまうと、発信者情報開示請求に必要な証拠が消えてしまいますので、しっかりと証拠を確保してから削除請求を行うようにしましょう。
(3)投稿者の特定後の対応も含めて弁護士に依頼するのがおすすめ
爆サイで誹謗中傷の書き込みをした人物への法的措置を検討している方は、できる限り早めに弁護士に依頼するのがおすすめです。
投稿者の特定には、発信者情報開示請求という手続が必要になります。それには、仮処分や裁判などの複雑な手続をとる必要がありますので、専門家のサポートがなければ迅速かつ適切に手続を進めていくのは困難でしょう。
また、投稿者の特定ができたら、投稿者への損害賠償請求を行うことになりますが、そのためには、内容証明郵便の送付、交渉、裁判などを行わなければなりません。
弁護士に依頼すればこれらの面倒かつ複雑な手続をすべて任せることができますので、自分だけで手続進めるのが不安だという方は、まずは弁護士にご相談ください。
爆サイへの開示請求にかかる費用の相場
爆サイへの開示請求をする場合にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか。以下では、爆サイへの開示請求にかかる費用相場について説明します。
発信者情報開示の仮処分にかかる費用
裁判所に発信者情報開示の仮処分の申立てをする場合、裁判所に納める手数料(印紙代)、予納郵券(郵便切手)、担保金などが必要になります。
申立手数料(印紙代)
発信者情報開示請求の仮処分申立ての手数料は、1件あたり2000円です。
申立手数料は、仮処分の申立書の正本に収入印紙を貼付して納めます。
予納郵券(郵便切手)
予納郵券とは、裁判所から当事者などに書類の送付をする際に使用する郵便切手をいいます。予納郵券の金額は、数千円程度になりますが、申立てをする裁判所によって金額や郵便切手の組み合わせなどが異なりますので、事前に裁判所に確認するようにしてください。
担保金
担保金とは、仮処分命令が認められた場合に相手方に生じる損害を担保するために納めるお金です。
発信者情報開示の仮処分における担保金は、10~30万円程度が相場になります。 なお、担保金は、仮処分の申立てが正当なものであれば後日返還してもらうことができます。
発信者情報開示請求訴訟にかかる費用
裁判所に発信者情報開示請求訴訟を提起する場合、裁判所に納める手数料(印紙代)と予納郵券(切手代)などが必要になります。
手数料(収入印紙)
発信者情報開示請求訴訟の手数料は、1万3000円です。
手数料は、訴状の正本に収入印紙を貼付して納めます。
予納郵券(郵便切手)
発信者情報開示請求訴訟の予納郵券の金額は、6000円程度になります。
正確な金額は、訴訟提起をする裁判所によって異なりますので、事前に確認するようにしてください。
発信者情報開示命令の制度を利用した場合にかかる費用
プロバイダ責任制限法(当時)改正により新たに「発信者情報開示命令」の制度を利用することも可能です。発信者情報開示命令は、これまで2段階の手続が必要であったものを、1つの手続で行うことができます。従来の仮処分で必要だった担保金は必要ありません。
発信者情報開示命令で必要な実費としては、申立て1件について申立手数料(収入印紙)1000円、予納郵券(郵便切手)数千円程度などがあります。
費用面では、従来型の仮処分+発信者情報開示請求訴訟よりも新設された発信者情報開示命令制度の方が実費の負担が少ないといえるでしょう。
開示請求の手続を弁護士に依頼した場合の費用
発信者情報開示請求の手続を弁護士に依頼した場合、上記の費用に加えて弁護士費用の支払いも必要になります。
発信者情報開示請求の弁護士費用は、依頼する法律事務所やケースによって異なりますが、IPアドレスの開示請求とプロバイダに対する開示請求の両方の裁判手続を依頼するとトータルで70~100万円程度の費用がかかります。
爆サイの投稿に関して開示請求されたときの対処法
ここまでは爆サイで誹謗中傷された被害者に向けて、投稿者のIPアドレスを特定する手続と費用を説明してきましたが、反対に誹謗中傷の投稿をした加害者は、被害者から開示請求をされたときどのように対処すればよいのでしょうか。
開示請求されたら「発信者情報開示に係る意見照会書」が届く
爆サイの投稿に関して被害者から開示請求された場合、プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」が届きます。
これは、投稿者に対して、氏名・住所などの情報を請求者に開示してもよいかどうかを確認する書面です。情報流通プラットフォーム対処法では、発信者の意見聴取が義務付けられていますので、このような書面で意見の確認が行われます。
発信者情報の開示に同意または拒否の選択をして回答する
発信者情報開示請求に係る意見照会書への回答方法としては、以下の3つがあります。
・無視する
・開示を拒否する
・開示に同意する
請求者が主張する投稿内容が違法なものでなければ「開示を拒否する」という選択をすることが考えられます。投稿内容が事実であり、それにより権利侵害が生じているときは、「開示に同意する」という選択が考えられます。
ただし、権利侵害の有無については、法律の専門家でなければ判断が難しいため、発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたときは、一度弁護士に相談した方がよいでしょう。
誹謗中傷が事実なら被害者との示談交渉を開始する
爆サイに誹謗中傷の投稿をしたのが事実であれば、投稿者の氏名や住所が請求者に開示され、その後、損害賠償請求をされるはずです。
被害者から損害賠償請求をされたときは、誹謗中傷の投稿をしたことについて真摯に謝罪し、示談に向けて交渉を開始するようにしましょう。
まとめ
爆サイなどのインターネット上の掲示板に誹謗中傷の投稿がなされると、あっという間に情報が拡散されてしまい、仕事や日常生活に多大な支障をきたすおそれがあります。
このような誹謗中傷の投稿により違法な権利侵害を受けた場合には、速やかに投稿を削除するのはもちろんのこと、誹謗中傷の投稿をした人物を特定し、慰謝料請求などの責任追及を行う必要があります。
その際には、インターネットトラブルに精通した弁護士に相談することで、迅速かつ適切な手段で誹謗中傷の投稿をした人物の特定を行ってもらうことができます。
弁護士法人アークレスト法律事務所には、インターネットトラブルを解決に導いてきた豊富な実績がございます。爆サイで誹謗中傷の投稿をされてお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。


監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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