ナイトワーク系のトラブル

キャバクラ・風俗店で個人情報を晒された時の削除と損害賠償請求

2025.11.21
キャバクラ・風俗店で個人情報を晒された時の削除と損害賠償請求

キャバクラや風俗店で働く人々は、一般的な職業以上にプライバシーの保護が重要です。源氏名(キャバクラや風俗店などの接客業で働く人が使用する仕事用の名前)で活動し、身元を隠して働くことは、生活の安定や家族・友人との関係を守るために必要なことといえます。

しかし近年、SNSや掲示板を通じて「晒し行為」が横行し、源氏名と本名の紐付けや顔写真の拡散、勤務先の情報が晒されることなどが深刻な問題となっています。こうした情報は瞬く間に拡散され、晒された人に精神的苦痛を与えるだけでなく、社会的信用の失墜を招くことにもつながります。

そこで本コラムでは、「晒し行為」の被害に遭った際にどのような法的手段があるのか、削除請求や損害賠償請求の流れ、実務的なポイントについて、具体的に解説します。

どのような「晒し」が問題になるのか

晒し行為には様々な形態がありますが、法的に問題となるのは、個人の特定につながる情報が本人の同意なく公開されるケースです。

源氏名と本名が紐付けされるケース

たとえば、源氏名と本名が併記された投稿がインターネット上に公開されるケースが挙げられます。この場合、それまで匿名で活動していた本人の身元が一気に特定されてしまいます。源氏名は、プライバシーを守るために用いられる仕事上の仮名であり、本名とは切り離して使われるべきものです。そうであるにもかかわらず、両者が同時に晒されることで、本人の私生活や家族関係、交友関係にまで影響が及ぶ可能性があります。

顔写真と勤務先が晒されるケース

また、顔写真と勤務先がセットで晒されるケースもあります。この場合は、公開された投稿などを見た人が「この人はこの店で働いている」と容易に認識できるため、地域社会等における評判が損なわれる危険性があります。

特に、性的サービスを伴う業種に対する偏見が根強く残る社会では、こうした情報の拡散が本人の信用や人間関係に深刻なダメージを与えることがあります。結果として、退職を余儀なくされたり、精神的に追い詰められたりする事態にもつながりかねません。

その他のケース

さらに、「在籍確認」と称して店舗に電話をかけたり、裏アカウントの情報を晒したり、LINEのスクリーンショットを晒すケースもあります。このケースは、名誉毀損やプライバシー権侵害、肖像権侵害に該当する可能性があります。

「晒し行為」の違法性

以上の行為は、刑事罰の対象となることもあり、民事上の損害賠償請求も可能です。
法的には、①名誉毀損(民法709条、刑法230条)、②プライバシー権侵害(人格権としての保護)、③肖像権侵害(写真や動画の無断使用)に該当しうるでしょう。
上記のような行為が違法といえるためには、晒された内容が「真実か否か」ではなく「公開されるべきでない私的情報かどうか」という点が重要になります。

晒された情報の削除請求の方法

では、晒されてしまった情報の削除はどのように請求すればよいでしょうか。

SNSや掲示板への削除依頼

まず、投稿されたプラットフォームに対して削除申請を行う方法が挙げられます。
X(旧Twitter)やInstagramでは、プライバシー権侵害や嫌がらせを理由に報告する機能があります。投稿のURL、スクリーンショット、投稿日時などを添えて申請することで、比較的迅速に対応されることもあります。
匿名掲示板(例:5ちゃんねる(旧2ちゃんねる))の場合は、削除依頼フォームを通じて申請しますが、対応が遅れることもあるため、並行して法的手段を検討する必要があります。
削除されない場合には、サイト運営者やプロバイダに対して、情報流通プラットフォーム対処法に基づく「送信防止措置請求」を行うことで、法的に削除を求めることが可能です。この方法は、裁判所を通さずに書面を提出すればできる点にメリットがあります。

発信者情報開示請求の準備

投稿者を特定するためには、「発信者情報開示請求」が必要です。これは、投稿者のIPアドレスやログ情報を取得するための法的手続きで、裁判所を通じてプロバイダに開示を求めるものです。
この手続きには、晒された投稿の証拠が不可欠です。具体的には、スクリーンショット、投稿URL、投稿日時、被害の内容などを詳細に記録しておくことが重要です。
開示請求には専門的な知識が必要であるため、弁護士を通じて行うのが一般的です。費用は数十万円程度が目安となります。開示された情報をもとに、加害者に対して損害賠償請求を行うことが可能です。

損害賠償請求の可能性と実務

次に、晒し行為に対する損害賠償請求について解説します。

どのような損害が認められるか

晒し行為によって被害者が受ける損害は、精神的苦痛にとどまらず、収入の減少や退職に伴う逸失利益など多岐にわたります。民事訴訟では、以下のような損害が認められる可能性があります。

精神的苦痛に対する慰謝料

概ね10万から100万円程度の金額を請求することが可能です。金額は、晒された内容の悪質性、拡散の程度、被害者の社会的地位などによって変動します。性的な内容や粘着的な投稿が含まれる場合には、慰謝料が高額になる傾向があります。

収入減少や退職による逸失利益

名誉毀損等による損害賠償請求の中心は慰謝料となりますが、当該行為との因果関係や損害の立証次第では、逸失利益の請求が可能な場合もあります。逸失利益とは、事故や違法行為がなければ本来得られるはずだった収入や利益のことを指します。晒し行為が原因で店舗を辞めた場合の給与分などが該当します。逸失利益として請求できる金額は、職種や収入によって変動します。

名誉毀損・プライバシー権侵害に基づく損害賠償

慰謝料や逸失利益以外の損害についても請求することが可能です。具体的には、精神的苦痛のために通院した場合の医療費などが該当します。

加害者が店関係者だった場合の責任

加害者が店舗オーナーや従業員など、店の関係者である場合には、個人としての責任に加えて、店舗自体にも損害賠償責任が及ぶ可能性があります。
たとえば、従業員が業務中に知り得た顧客やスタッフの個人情報を無断で晒した場合、その行為が「業務の一環」と評価されれば、民法上の「使用者責任」(民法715条)により、店舗側も連帯して責任を負うことになります。
このようなケースで店舗の責任を問うためには、いくつかの重要な立証ポイントがあります。
まず、晒し行為を行った人物が店舗の関係者であること、つまりオーナーや従業員など、店の業務に関与していたことを明らかにする必要があります。

次に、その人物が晒した情報が「業務上知り得た」ものであること、つまり勤務中や職務を通じて知り得た情報であることを示す必要があります。たとえば、在籍名簿や面接時の履歴書、店内の監視カメラ映像などが情報源であった場合、それは業務上知り得た情報と評価されやすくなります。

さらに、店舗側が従業員の情報管理について適切な指導や監督を行っていなかった、つまり「管理体制に落ち度があった」と認められることも、店舗の責任を問う上で重要な要素です。たとえば、個人情報の取り扱いに関するマニュアルが存在しなかったり、秘密保持契約を結んでいなかったりする場合には、店舗の管理責任が問われやすくなります。

被害を最小限に抑えるためにできること

晒し行為による被害を最小限に抑えるためには、以下の点に留意することが必要です。晒し行為は予期せぬタイミングで起こることが多いため、日頃からの備えと、万が一の際の対応マニュアルを持っておくことが、被害を最小限に抑える鍵となります。

SNS運用に注意を払うこと

「晒し行為」のリスクを減らすためには、日頃からのSNS運用に細心の注意を払うことが不可欠です。特に、裏アカウント(いわゆる「裏垢」)の存在や、プロフィール欄・投稿内容に本名や勤務先などの個人情報を記載している場合、それが晒しの標的となる可能性が高まります。匿名性を保つためには、アカウントの公開範囲を制限したり、個人を特定できる情報を投稿しないよう意識することが重要です。

在籍店舗との信頼関係を築くこと

また、在籍している店舗との信頼関係を築いておくことも、万が一のトラブル時に備える上で有効です。入店時に交わす契約書や誓約書に、個人情報の取り扱いや秘密保持に関する条項が含まれているかを確認しておきましょう。店舗側が情報管理に対して責任ある姿勢を示しているかどうかは、後に問題が発生した際の対応に大きく影響します。情報漏洩が店舗関係者によるものであった場合、店舗の管理体制が問われることにもなり得ます。

迅速・冷静な初動対応

実際に晒し被害に遭った場合には、迅速かつ冷静な初動対応が極めて重要です。まずは、晒された投稿のスクリーンショットを撮り、URLや投稿日時、投稿者のアカウント情報などを記録しておきましょう。これらは後に削除請求や発信者情報開示請求を行う際の重要な証拠となります。次に、信頼できる第三者、たとえば弁護士や支援団体に相談することで、精神的な負担を軽減しながら適切な対応を進めることができます。

弁護士に相談するメリットと注意点

以下では、「晒し行為」が行われた際に弁護士に相談するメリットと注意点について解説します。

弁護士に相談するメリット

晒し被害に遭った場合、弁護士に相談することには多くのメリットがあります。

複数の法的手続きを一括して対応してもらえる

まず、削除請求・発信者情報開示請求・損害賠償請求といった複数の法的手続きを、ひとつの窓口で一括して対応してもらえる点が大きな利点です。これらの手続きはそれぞれ異なる法律や制度に基づいており、個人で進めるには専門的な知識と時間が必要です。弁護士に依頼することで、手続きの選択や順序、必要な書類の準備などを的確に進めることができ、被害者自身がすべてを抱え込む必要がなくなります。

精神的な負担を軽減できる

また、精神的な負担を軽減できる点も重要です。晒し被害は、単なる情報漏洩にとどまらず、羞恥心や恐怖、不安感などを伴う深刻な精神的ダメージを引き起こします。弁護士は、法的な代理人として冷静に対応するだけでなく、被害者の気持ちに寄り添いながら、安心して手続きを進められるようサポートしてくれます。中には、女性スタッフやカウンセラーと連携して、メンタル面のケアを重視する事務所もあります。

弁護士に相談する際の注意点

弁護士に依頼する際には、晒し被害の対応実績があるかどうか、インターネット関連の法務に詳しいかどうかを確認することが重要です。
インターネット関連分野に特化した弁護士であれば、削除の成功率や損害賠償額に差が出る可能性があります。事務所のホームページや口コミなどを参考に、信頼できる専門家を選ぶようにしましょう。

おわりに

「晒し」は決して泣き寝入りすべき問題ではありません。キャバクラや風俗店で働く人々が、源氏名や匿名性を守りながら働くことは、社会的な偏見や差別から身を守るために必要な選択です。その尊厳を踏みにじるような晒し行為は、法的にも許されるものではなく、毅然とした対応が求められます。

被害に遭った際、何よりも大切なのは「自分は悪くない」と認識することです。晒されたことによって感じる羞恥や恐怖は、加害者の責任であり、被害者が背負うべきものではありません。法的手段を知り、実務的な対応を取ることで、被害者は自らの尊厳を守り、加害者に対して正当な責任を問うことができます。

また、晒し被害は一人で抱え込むにはあまりにも重い問題です。精神的な負担が大きく、冷静な判断が難しくなることもあります。このような時こそ、弁護士などの専門家に相談することが重要です。法的な知識と経験を持つ専門家が寄り添い、削除請求や損害賠償請求を代行してくれることで、被害者は安心して日常を取り戻すことができます。

弁護士法人アークレスト法律事務所では、晒し被害に対する法的対応を専門的に扱っており、被害者の立場に立った丁寧なサポートを提供しています。相談料が無料であるほか、ZoomやLINEを利用した相談にも対応しており、初めての方でも安心してご相談いただけます。
もし現在、被害に悩んでいる方がいれば、ひとりで抱え込まず、弁護士法人アークレスト法律事務所にご相談ください。実績ある弁護士が寄り添いながら対応いたします。

野口 明男 弁護士

監修者

野口 明男(代表弁護士)

開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。