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未成年による名誉毀損を訴えることは可能?被害者が取るべき対応を解説
2025.09.05
匿名で利用できる掲示板やSNSに誹謗中傷を書き込まれた場合、内容によっては名誉毀損で加害者に対して損害賠償請求や刑事告訴等を行うことができます。
しかし、加害者を特定した結果「相手が未成年だった」というケースも少なくありません。
このような場合、被害者は泣き寝入りするしかないのでしょうか。結論から言えば、未成年が加害者でも名誉毀損の責任を追及することは可能です。
ただし、成人の場合と全く同じように扱われるわけではなく、少年法や保護者の責任といった観点も関わってきます。
この記事では、未成年が加害者だった場合に名誉毀損で訴える流れや、成人との違い、被害者が取るべき対応を詳しく解説します。
目次
名誉毀損は加害者が未成年でも責任の追及ができる

誹謗中傷は年齢やその方法にかかわらず違法行為であるため、加害者が未成年であっても名誉毀損で損害賠償請求を行うことができます。
近年では「ホスラブ」「爆サイ」といった匿名掲示板やSNSで名誉毀損や誹謗中傷の被害が発生しています。そして、書き込みをしたのが未成年者だったという事例も増えています。
こうした被害があった場合に、投稿した本人に法的な責任を問えるかについては、責任能力があるかどうかは重要な判断基準となります。一般的に、自分の行為の意味や結果を理解できる年齢(おおむね12歳前後)であれば、責任能力が認められることが多いです。
民事上の責任は親権者や監護義務者が負っている
加害者が未成年者の場合は、経済的に自立して居らず仮に訴えて慰謝料請求をしても支払い能力がないというケースもあります。
このような場合で、未成年者に責任能力がない場合は未成年者の監督義務者(保護者等)が責任を負うことになります。民法で責任能力のない未成年者の監督者義務が賠償責任を負うと定められています(民法714条、712条)。
民法第七百十四条(責任無能力者の監督義務者等の責任)|法令検索e-Gov
また、未成年者に責任能力があったとしても、その未成年者の監督義務者について一般不法行為を規定した民法709条の要件を満たす場合には、その監督者も責任を負います(最判昭和49年3月22日・民集28巻2号347頁)。
名誉毀損罪について解説します

名誉毀損について、具体的にどのような条件を満たすと名誉毀損になるのかについて把握しておくことは大切です。
基本的な成立要件を理解することで、被害者は自分のケースが法的に訴えられる状況かどうかを判断できます。また、未成年者特有の事情を知っておくと実際に被害を受けたときの対応の参考になります。
この章では、まず名誉毀損の成立に必要な要件を確認し、そのうえで未成年者がインターネット上で加害者になりやすい背景について解説します。
名誉毀損の成立要件は公然性・事実の摘示・社会的評価の低下
名誉毀損が成立するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。単なるクレームや文句、口喧嘩などでは名誉毀損にはなりません。
・公然性 … 不特定または多数の人が知り得る状態であること
・事実の摘示 … 具体的な事実を示していること(例:「○○は不倫している」など)
・社会的評価を下げる … 被害者の社会的評価が下がるおそれがあること
SNS投稿や掲示板書き込みは多くの人の目に触れるため、公然性の要件を満たしやすいのが特徴です。事実の摘示や社会的評価を下げる内容であるかについては個別の判断が求められます。
未成年者が名誉毀損になる内容を投稿しやすい背景
インターネットを利用した、未成年者による名誉毀損が増えている背景には以下の要因があります。
・インターネット利用率の高さ(総務省調査では6歳から12歳のインターネット利用率は85.6%)
・SNS利用率の高さ(総務省調査では6歳から12歳のSNS利用率は40.9%)
・匿名性があるため「軽い気持ち」で投稿してしまう
・判断力や社会経験が未熟で、法的責任について理解していない
このため、未成年による名誉毀損は「悪意というより軽率さ」が原因となることも多いのです。若さ故の愚行という側面はありますが、すべてが許されるというわけではありません。
未成年による名誉毀損罪の罰則について

名誉毀損は、刑事事件と民事事件の両方で責任を追及することができます。
加害者が未成年であっても、被害者は「刑事責任の追及」と「民事上の損害賠償請求」のどちらも選択できます。ただし、成人の場合と比べると適用される法律や処理の仕組みが異なる場合があります。
ここでは、刑事事件・民事事件の違いと、未成年ならではの法的な扱いについて詳しく解説します。
刑事事件
名誉毀損罪は刑法230条に「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」
加害者が未成年の場合は少年法に基づいて手続きが進みます。
少年法の理念は「処罰よりも教育・更生に重点を置く」ことです。したがって、未成年が名誉毀損に該当する行為をした場合、事件は家庭裁判所に送致され、以下のような処分が決定されるのが一般的な流れとなります。
・保護観察 … 日常生活を続けながら、定期的に保護観察官による指導・監督を受ける
・少年院送致 … 非行の程度が重い場合の対応。少年院で矯正教育を受ける(中等少年院、特別少年院など)
・児童相談所送致 … 家庭裁判所が児童福祉的な措置を優先するべきと判断した場合
なお、少年事件で終局処分が上記の保護観察や少年院送致、児童相談所装置等となれば前科とはならず、成人になった後の刑事処分歴とは区別されています。ただし、前歴として捜査機関として記録は残ります。
民事事件
刑事事件とは別に被害者は「名誉が毀損されたことによる精神的苦痛」に対して慰謝料を請求できます。刑事事件の場合は、未成年者の場合は少年法が適用されますが、民事事件では成人とほぼ同様に損害賠償が認められることが多くなります。
なお、慰謝料の金額はケースによって異なりますが、一般的には 30万円〜50万円程度が目安とされています。
未成年者の責任に対する民法の考え方
未成年が名誉毀損を行った場合、原則として未成年者本人に責任が生じます。
まず、加害者が未成年であり、かつ、責任無能力であれば、親権者などの監督義務者が賠償責任を負います(民法714条、712条)。また、加害者が未成年であっても、自己の行為の意味を理解できる年齢であれば、不法行為として損害賠償責任を負います(民法709条)。
そして、未成年者に責任能力があったとしても、未成年者の監督者が民法709条の要件を満たす場合、同条に基づいて損害賠償請求を行えます。
事実として、実際の交渉の場では、加害者本人よりも親との示談交渉が中心となります。親が「日頃から注意をしていた」と主張して免責を求める可能性もありますが、インターネットの書き込みに関しては予見可能性が高いといえるでしょう。また「子供がしたことだから」といった主張についても無理に受け入れる必要はありません。
民事上の責任については「謝罪文の提出」や「和解金の支払い」によって解決するケースが多いため、被害にあった場合は冷静な対応が重要です。必要に応じて、弁護士など第三者を通じて話を進めるのが望ましいといえるでしょう。
未成年が加害者の事件での和解と示談の流れ

未成年が加害者となった名誉毀損を民事で解決する場合、裁判まで進む前に和解や示談で解決するケースが多く見られます。
これは、未成年者本人やその保護者にとって裁判は非常に大きな負担となるため、早期解決を望む傾向が強いからです。ここでは、和解・示談の一般的な流れとメリット、注意すべき点を解説します。
和解金の交渉
被害者が損害賠償請求を求めると、加害者側(多くの場合は保護者)が「裁判になる前に示談で解決したい」と申し入れを行い示談交渉になるケースがあります。
和解金による解決
和解金の金額は、裁判で認められる慰謝料額を基準に算出されるのが一般的です。
軽度の誹謗中傷であれば数十万円、実名や職場名を晒して被害が大きい場合には100万円以上を請求することもあります。和解金に関して法的なルールがあるわけではなく、仮に相場より低い(高い)金額であっても双方が同意すれば原則として問題はありません。
謝罪と再発防止
謝罪文の提出、直接の謝罪、誓約書の作成などで謝罪します。また「今後同様の行為をしない」といった文言をいれることで、再度のトラブル防止を約束します。
こうした示談での解決は、加害者だけでなく被害者にとっても「裁判で長期間争うより、短期間で解決できる」というメリットがあります。
「将来に禍根を残さないための解決策」示談のポイント
和解と示談は、被害者にとっても精神的な負担を軽減できるというメリットがある解決方法です。
裁判は時間もかかりますし金銭的な負担だけでなく、精神的なストレスも大きくなります。納得できる金額と条件で合意できるのであれば、示談で早期解決を図るのも選択肢のひとつです。
ただし、示談書を作成するときは以下の点に注意しましょう。
・支払い金額や期限を明記する
・今後一切同じ行為を行わないという約束
・必ず文書(示談書)として残す
大切なことは、必ず書面にして残しておきましょう。この対応が後の「言った・言わない」というトラブルを未然に防いでくれます。
未成年による名誉毀損への適切な対応

未成年者が加害者であっても、被害者が取るべき基本的な対応は成人の場合と大きく変わりません。
被害を受けた際にまず優先すべきは、証拠を確保して専門家に相談することです。対応が遅れると証拠が消されたり、被害が拡大してしまう恐れがあります。ここでは被害者が具体的に取るべきステップを解説します。
被害者が取るべき初期対応
名誉毀損の被害を受けた場合は、まず、証拠を保全するしましょう。
インターネット上の誹謗中傷は、投稿が削除されてしまうと証拠が残らず、訴訟や示談の場で主張が認められにくくなるため気づいた時点で以下の対応をしておきましょう。
・画面をスクリーンショットで保存
・URLや投稿日時を控える
・書き込み内容をPDF化
こうした証拠を早い段階で残しておくことは極めて重要です。
そして、専門家や関係機関に早めに相談します。
・弁護士
・警察
・法テラス
被害が拡大する前に、早めに専門家へ相談するようにしましょう。
早期に行動することで被害を最小化できる
SNSや掲示板での誹謗中傷は拡散が早く、一度広まると完全に削除することは極めて困難となります。そのため、被害を最小限度にするためには初期対応が重要です。
・早期の削除要請で情報の拡散を減らせる・・・被害の拡大を防げる
・証拠が残っていれば、裁判や示談で有利になる・・・損害賠償請求や被害届の提出がスムーズに進む
インターネット上の名誉毀損の場合、時間が経ってから動いたために証拠が消えてしまったというケースも少なくありません。初期の証拠を残して、段階で専門家に相談しましょう。
弁護士に相談するメリット

未成年による名誉毀損の被害を受けた場合、被害者自身で対応することも不可能ではありません。
しかし、相手が未成年であっても法的な手続きが簡素になるというわけではなく、保護者との交渉となれば相手が感情的になり交渉がこじれてしまうこともあります。
ここからは、弁護士に依頼するメリットを具体的に解説します。
弁護士なら加害者特定から慰謝料請求まで一括サポートできる
弁護士に依頼することで、誹謗中傷の加害者を特定するための、「発信者情報開示請求」から実際の慰謝料請求まで一括でのサポートを受けることができます。
・証拠の整理と管理
・発信者情報開示請求の手続き
・慰謝料請求の手続き
・示談交渉
・訴訟提起
また、加害者が未成年である場合、実際には保護者との交渉が必要になるケースがほとんどですが、弁護士が間に入ることで冷静に話を進めやすくなります。
加害者が未成年相手でも泣き寝入りしなくて良い
加害者が未成年者の場合「相手が未成年だから責任を問えない」と考えて泣き寝入りしてしまうケースもあります。
しかし前述したとおり、未成年であっても責任能力があれば賠償責任を負いますし、場合によっては保護者等の監督義務者が代わって損害賠償の責任を負う仕組みになっています。
弁護士は、感情ではなく法律のルールに沿って、被害者に代わり請求を行います。
名誉毀損の加害者が未成年というケースは専門家に相談を
名誉毀損の加害者が未成年であっても法的な手続きができます。
未成年であるという理由で被害者が泣き寝入りしなければならないわけではありません。名誉毀損の被害を受けた場合は、できるだけ早い対処が求められます。
弁護士法人アークレスト法律事務所では、加害者が未成年というケースの名誉毀損や誹謗中傷の事件にも対応しています。当法人の弁護士が名誉毀損の早期解決のために力になれます。
名誉毀損の被害などでお悩みの方は、弁護士法人アークレスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

監修者
野口 明男(代表弁護士)
開成高等学校卒、京都大学工学部卒。
旧司法試験に合格し、平成17年に弁護士登録後、日本最大規模の法律事務所において企業が抱える法律問題全般について総合的な法的アドバイスに携わる。平成25年に独立し法律事務所を設立、平成28年12月にアークレスト法律事務所に名称を変更し、誹謗中傷対策を中心にネットトラブル全般に幅広く関わる。
弁護士と企業とのコミュニケーションに最も重点を置き、中小企業の経営者のニーズ・要望に沿った法的アドバイス及び解決手段の提供を妥協することなく追求することにより、高い評価を得ている。
単に法務的観点だけからではなく、税務的観点、財務的観点も含めた多角的なアドバイスにより、事案に応じた柔軟で実務的な解決方法を提供する。
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