人員の増加や業務の効率化などの理由でオフィス移転を検討している企業の経営者の方もいると思います。その際に気をつけなければならないのがオフィス移転に伴う原状回復費用です。
特に、50~100人規模のオフィスでは、高額な原状回復費用を請求されるなどのトラブルに巻き込まれることがありますので注意が必要です。オフィス移転で高額な原状回復費用を請求されたとしても対応できるように、対処法などをしっかりと押さえておくようにしましょう。
今回は、オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい5つの要因と高額な原状回復費用を請求されたときの対処法について解説します。
目次
現在のオフィスから移転する際には、原状回復を行わなければなりません。原状回復とは、借りたときの状態に戻すことをいい、オフィスの原状回復では以下のような工事が必要になります。
・壁や天井、床の汚れなどのクリーニング ・持ち込んだ家具や備品などの撤去 ・入居の際に施工したカーペットやパーテーションの撤去 ・電気・電話配線の撤去 ・増設・造作物の撤去 ・看板などの撤去 ・天井ボード・壁紙の張り替え |
オフィス移転の原状回復費用は、オフィスの規模や工事内容によっても異なりますが、一般的な相場としては、以下のとおりです。
・中小規模(30坪程度)のオフィス……2~5万円/坪
・大規模(100坪程度)のオフィス……5~10万円/坪
たとえば、社員数が50~100人の大規模オフィスの移転の場合には、500~1000万円程度
の原状回復費用がかかると考えておいた方がよいでしょう。
オフィス移転の原状回復費用は高額になりやすいといわれることがあります。それには、主に以下のような要因があるからです。
オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい要因の1つ目は、中間マージンが上乗せされているという点です。
オフィスの原状回復工事は、大規模な工事になるためオーナー指定の工事業者がすべての工事を行うのではなく、下請業者に発注して行わせるケースが多いです。また、場合によっては下請業者が孫請業者に発注することもあります。このような「重層請負構造」の工事業者では、各業者のマージンが上乗せされる結果、最終的な見積額が高額になってしまいます。
オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい要因の2つ目は、原状回復工事ではなくグレードアップ工事になっているという点です。
そもそも原状回復は、借りたときの状態に戻すことを意味しますが、オーナー(賃貸人)によっては原状回復工事の機会に古くなった設備を最新のものに入れ替え、その費用を賃借人に請求することがあります。
たとえば、「トイレを洗浄機能付きにする」、「蛍光灯をLEDに変更する」というような工事です。グレードアップ工事は、本来の原状回復の範囲には含まれていませんので、不当な請求にあたります。
オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい要因の3つ目は、工事単価が割高に設定されているという点です。
特に、オーナーによって原状回復工事をする業者が指定されている場合、相場よりも高い工事単価が設定されていることがあります。賃借人側は、指定業者以外の業者に依頼することが難しいため、高額な工事単価であっても頼まざるを得ず、高額な原状回復費用を支払わなければならなくなります。
オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい要因の4つ目は、原状回復すべき範囲を超えた工事が含まれているという点です。
原状回復は、借りたときの状態に戻すことを意味しますが、長期間オフィスを借りていると経年劣化による床や壁の変色、デスクの設置跡などの通常損耗が原状回復の範囲に含まれるかどうかは、契約内容によります。
契約で経年劣化や通常損耗が原状回復の対象外になっているにもかかわらず、それを含めた高額な原状回復費用を請求するのは不当な請求といえるでしょう。
オフィス移転の原状回復費用が高額になりやすい要因の5つ目は、工事日直前に見積もりが提示されるという点です。
工事日直前に見積もりが提示されると、金額を検討する時間や減額交渉をする時間がありませんので、見積もりどおりの工事で依頼せざるを得ず、結果として原状回復費用が高額になってしまいます。
オフィス移転で高額な原状回復費用を請求されたときは、以下のような対処法を検討すべきです。
高額な原状回復費用を請求されたときは、詳細な見積書を出してもらい、原状回復の範囲や金額が適正なものであるかどうかを確認してください。
特に、原状回復工事の業者が指定されているケースでは、オーナーの意向を酌んで本来賃借人が負担すべきでない費用まで請求されていることがありますので、しっかりと確認することが大切です。
賃借人の側で工事業者を選べるのであれば、1社だけではなく複数の業者から見積もりをとるようにしてください。
複数の業者から見積もりをとれば、適正な原状回復費用の相場がわかり、業者との減額交渉の材料としても利用することができます。原状回復費用の見積もり自体は、多くの業者が無料で実施していますので、3~4社程度依頼してみるとよいでしょう。
賃貸借契約において原状回復工事を行う業者が指定されている場合には、基本的には契約内容に従って指定業者に原状回復工事を依頼しなければなりません。
しかし、オーナーの同意があれば指定業者以外に原状回復工事を依頼することも可能ですので、まずはオーナーに対して指定業者以外の業者に原状回復工事を依頼してもよいか確認してみましょう。
上記を踏まえて請求された原状回復費用が相場を著しく上回る不当な金額であったときは、オーナーとの間で減額交渉を行います。
なお、後述するように原状回復費用の減額交渉を弁護士以外の者に依頼すると弁護士法72条が禁止する「非弁行為」に該当するおそれがありますので注意が必要です。
オフィス移転の原状回復費用の減額交渉を弁護士以外の者が行うのは、弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当する可能性があります。
以下では、非弁行為とは何か、非弁行為に該当した場合のリスクについて説明します。
弁護士法72条は、弁護士でない者が報酬を得る目的で、法律事件に関して法律事務を取り扱うことを禁止しています。非弁行為とは、このような弁護士法72条に違反する行為を指します。
弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止) 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。 |
オフィス移転の原状回復費用の減額交渉は、法律事務にあたりますので、それを弁護士以外の者に代行させると非弁行為に該当する可能性があります。
退去費用の減額交渉を弁護士以外の者に依頼した場合、交渉代行を行った者は、弁護士法違反となりますので、2年以下の懲役または300万円以下の罰金という刑事罰が科されるリスクがあります。
しかし、弁護士法72条は、実際に行為をした者を処罰する規定ですので、非弁行為に該当する原状回復費用の減額交渉の代行を依頼した側が刑事罰を受けることはありません。ただし、違法な行為に関与したことが明らかになれば企業のコンプライアンス問題に発展するリスクがあり、オーナーとの減額交渉もこじれてしまう可能性があります。
そのため、オフィス移転の原状回復費用の減額交渉を依頼するなら、弁護士に依頼するべきでしょう。
オフィス移転の原状回復費用の減額交渉は、以下のような理由から弁護士に依頼するべきです。
原状回復費用の減額交渉の代行は、法律事務に該当しますので、報酬を得る目的で弁護士以外の者が行うのは、弁護士法72条が禁止する非弁行為に該当します。
非弁行為に該当すると依頼した企業にもさまざまなリスクが発生しますので、そのようなリスクを回避するためにも原状回復費用の交渉代行は弁護士に依頼するべきです。弁護士に依頼すれば非弁行為のリスクなくオーナーとの減額交渉を担当してもらえます。
オフィス移転の原状回復費用の減額交渉を得意としている弁護士であれば、減額交渉のポイントを熟知していますので、法的観点から最適な解決を実現することができます。
特に、社員数50~100人程度の大規模オフィスでは原状回復費用も高額になりますので、弁護士に依頼することで大幅な減額できる可能性もあります。
オフィス移転をする際には、旧オフィスの原状回復が必要になります。しかし、オフィス移転の原状回復工事では、いくつかの要因により相場よりも原状回復費用が高額になる可能性がありますので、オーナー側から金額が提示されたらそのまま応じるのではなく、一度専門家である弁護士に相談してみた方がよいでしょう。
オフィス移転の原状回復費用の減額交渉は、その分野に強い弁護士法人アークレスト法律事務所にお任せください。