過去に逮捕された際に実名で報道された場合には、インターネット上に逮捕歴や犯罪歴が永遠に残り続けることがあります。しかし、逮捕歴や犯罪歴が不特定多数の人に見られる状態になっていると、就職や結婚などの際に大きな障害となります。そこで、ネット上に掲載されている逮捕歴や犯罪歴を自分で削除することができるのか、自分で削除ができない場合の対処法について解説します。
ネット上の逮捕歴の削除は、プライバシー権を根拠に請求することができます。ただし、逮捕歴の報道は内容によっては一定の公益性があります。このため、報道機関等の表現の自由にも配慮する必要性もあるため、逮捕歴の削除を求めたとしても簡単に削除されるとは限りません。
逮捕歴を掲載しているウェブメディアが任意に削除をしてくれない場合には、裁判を起こして削除を求める必要が出てきます。裁判は手続自体が煩雑であることに加え、有利な結論を導くためには法的な観点から的確な主張や立証をすることが求められます。このため、ネット上の逮捕歴や犯罪歴を自分で削除することは難しいと考えておいた方がよいでしょう。
逮捕歴の削除については、ネット上に公開されている記事自体の削除とGoogleなどの検索エンジンの検索結果からの削除の2つにわけて考える必要があります。
逮捕歴や犯罪歴を公表されない法的利益は、憲法上保障されるプライバシー権の一環として保護されます。もっとも、逮捕歴や犯罪歴の実名報道をすることは、同じく憲法上の権利である表現の自由によって保護されています。したがって、逮捕歴の削除については、逮捕歴を掲載された人のプライバシー権と報道機関等の表現の自由が対立します。
このため、逮捕歴の削除が認められるのは、個別の事案ごとに事実関係を精査した上で、プライバシー権を保護すべき要請が表現の自由の価値よりも高いと判断された場合に限られます。具体的には、逮捕歴を掲載された人の生活状況や、事件の歴史的、社会的な意義、事件当事者の重要性や社会的活動、影響力などに照らして削除を認めるべきかが判断されることになります。
例えば、事件が発生してから長い期間が経過した場合には既に事件が風化していることや、逮捕された人も元の生活に戻っていることから、逮捕歴を掲載すべき必要性が乏しいといえます。したがって、逮捕歴の削除は認められやすくなるでしょう。
これに対し、事件が性犯罪や殺人事件など社会的な関心の高い事件である場合には、たとえ事件発生から長期間が経過していても、事実を伝える必要性があるとして、逮捕歴の削除が認められないこともあります。
逮捕歴や犯罪歴が掲載された記事があまりに多く、個別に削除依頼をしてもきりがない場合には、検索エンジンの検索結果に逮捕歴に関する情報が表示されないようにできないかを検討することになります。ただし、過去に児童買春をして有罪判決を受けた人が、検索エンジンで自分の名前を検索すると犯罪歴が表示されるとして検索結果自体の削除を求めた裁判で、最高裁判所は削除を認めませんでした。
この事件で最高裁判所は、「当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべき」としています。したがって、常に検索エンジンの結果の削除を認めないものではありません。
もっとも、記事自体の削除と同様に検索結果に表示されることに一定の公益性や必要性がある場合には、やはり削除が認められないことがあります。
逮捕歴などを掲載している記事自体の削除を求める場合、その記事が掲載されているウェブサイトの管理人に削除を依頼することになります。
まずは、サイトのメールフォームなどを利用して、管理人に直接削除依頼をすることが通常です。ただし、管理人が任意の削除に応じない場合には、サイトの管理人に対して裁判所の仮処分手続を通して削除依頼をする必要があります。
逮捕歴や犯罪歴には、それを伝えることに社会的な意義が認められるケースがあります。これが、逮捕歴や犯罪歴が単なる誹謗中傷などとは異なる点であり、これらの削除請求を難しくさせる理由となっています。
逮捕歴などの削除を希望する場合には、過去の裁判例に照らしつつ逮捕歴を削除すべき必要性や、逮捕歴をネット上に掲載すべき理由が認められないことなどを説得的にサイトの管理人や裁判所に説明する必要があります。
また、直接サイトの管理人に逮捕歴が掲載された記事の削除を求めたものの、応じてもらえなかった場合には裁判所の仮処分手続により削除を求めることになります。裁判手続を本人が行うことには大きな負担が伴いますので、弁護士に相談した方が良い結果となることが多いといえます。