総務省が発表した平成30年版情報通信白書によると、個人のインターネット利用率は年々上昇し、平均80.9%となっています。6歳から12歳のインターネット利用率は73.6%と平均より低いものの、13歳から19歳は96.9%と非常に高い利用率です。児童や学生のインターネット利用率が上がり、社会問題化しているのがネットいじめです。インターネット自体が複雑化した現在においては、より深刻な状況に陥ることも少なくありません。そこで本記事ではネットいじめの定義や、対処法などを解説します。
まずはネットいじめの定義や、ネットいじめが起こる原因を確認していきましょう。
ネットいじめとは、各種掲示板やSNSなどで行われるいじめ行為全般を指します。文部科学省が平成20年に発表した『「ネット上のいじめ」に関する対応マニュアル・事例集』によると、ネット上のいじめを「インターネット上のウェブサイトの掲示板などに、特定の子どもの悪口や誹謗中傷を書き込んだり、メールを送ったりするなどの方法により、いじめを行うもの」と定義しています。本マニュアルは、平成20年に作られたもので、いじめの媒体となるウェブサイトや定義などが若干現在とはずれがありますが、要するに「インターネットを介して行われるすべてのいじめ」はネットいじめと言えます。本人を直接誹謗中傷するだけでなく、様々な媒体に書き込みすることもネットいじめの1つです。
ネットいじめの大きな原因は、インターネットの普及にあります。現在は、大人だけでなく子どももインターネットに簡単に接続できます。冒頭で取り上げた統計では、6歳から12歳のインターネット利用率は73.6%、より人間関係が複雑化する13歳から19歳の利用率は96.9%とほぼ100%に近い子どもたちがインターネットを利用していることがわかります。
インターネットは、様々な情報を閲覧できるだけでなく、簡単に情報の発信が可能です。また、オープンな掲示板や承認制のチャットグループなど、様々な形で同級生や友人と繋がることができます。
インターネットでは、文字でのコミュニケーションがメインであり、文字だけで相手の感情や主張を理解しなければなりません。しかし、子どもたちの文字のコミュニケーション能力は決して高いとは言えず、ちょっとした間違いや勘違いにより誤解が生じてしまいます。参加している人数が多ければ、集団感情の高ぶりにより、あっという間にいじめの標的にされてしまうのです。
また、学校や塾などの人間関係がそのまま投影されますので、立場が弱い子どもは、インターネット上でも弱く、いじめは激化する傾向にあります。物心ついた時からインターネットが身近な存在であった現在の子どもたちには、インターネットが開かれた空間であるという認識が薄く、誰でも閲覧できるSNSや掲示板などを私的なやりとりや、コミュニケーションに利用することも多いため、いじめが拡散することも少なくありません。
ネットいじめとは具体的にはどのような行為なのでしょうか。具体的な事例で説明いたします。
対象者のSNSや掲示板の投稿などを、掲示板やSNSに無断でアップロードする行為が増加しています。いじめられている最中の動画や、本人の顔写真などをアップロードし、時には広く拡散してしまうこともあります。
対象者の名前とともに、誹謗中傷を書き込む行為は、10年前から存在しています。
「うざい」、「しね」、「消えろ」などの悪口を書き込む行為です。
平成30年に発表された文部科学省の「問題行動・不登校調査」によると、「パソコンや携帯電話での中傷、嫌がらせ」は全体で1万783件でした。自己申告していない件数もあると考えられますので、この数字は氷山の一角と考えられます。平成25年度は全体件数が8788件でしたので、年々ネットいじめが増加していることがわかります。
子どもたちは、学校の人間関係をLINEやTwitterなどのグループチャット機能に投影させます。しかし、チャット上でのミスや発言、日常生活の言動などにより、いじめのターゲットと判断されてしまうと、グループから追い出される、もしくは集団で違うグループに移動するなどの締め出し行為が行われます。
また、全員が対象者をブロックして、事実上チャットで会話できない状態にするケースもあり、対象となった子どもにとっては、大きなストレスとなります。
インターネットでは、他人へのなりすましが容易にできます。対象者のふりをして第三者への誹謗中傷を行うこともありますし、対象者のふりをして違法行為を投稿することもあるようです。
また、出会い系サイトへの登録やわいせつな画像をアップロードするなど本人の身に危険が生じるような、悪質な行為も見られます。
ネットいじめは、通常のいじめとは異なる以下の問題点があります。通常のいじめ以上に発見が難しく、深刻化しやすい上に、さらに未来永劫いじめの痕跡が残ってしまうなどの問題が指摘されていますので、発見したら周囲の大人が適切な対策をとらなければなりません。
通常のいじめは学校生活の中で行われますので、親や教師がいじめの現場を確認することができます。しかし、ネットいじめは、閉鎖的なグループチャットや掲示板などで行われていることが多く、把握が困難です。子どもの日頃の様子が少しおかしくても、いじめの現場を押さえることができないので、事態が深刻化する傾向にあります。
従来のいじめは、学校や塾など加害者と接触する時間のみに限られていました。しかし、ネットいじめは、放課後や帰宅後も続きます。場合によっては深夜にわたって誹謗中傷が続くことがありますので、子どもの心が休まる時間がありません。
対象者の画像やわいせつ画像、誹謗中傷の言葉などがインターネットに投稿されると、早急に対処しなければ、それらのいじめの痕跡がインターネット上に漂い続けることになりかねません。掲示板に掲載されて、それが様々な手段で拡散してしまうと、世界中に広がってしまいます。
ネットいじめは被害者になったときのリスクだけでなく、我が子が加害者となる危険性もあります。ネットいじめは、通常のいじめ以上に集団心理が働き、簡単に人を傷つけてしまうものです。子どもだけでなく、大人の世界でも、時折複数人で特定の人物を攻撃する行為が見受けられます。判断力や理性が成熟していない子どもの世界では、さらにエスカレートしがちです。グループチャットなどに参加している子どもが、遊び感覚でネットいじめに加担するリスクは非常に大きく、加害者として訴訟を提起されるなどの可能性もあります。
それでは、我が子がネットいじめの対象となり、被害に遭っていることが発覚した場合、親はどうすればよいのでしょうか。ここでは、ネットいじめの被害者の親が行うべき対策を解説します。ネットいじめ対策は、スピードが重要ですので、すみやかに我が子を守るべく行動を起こしましょう。
ネットいじめやいじめに関する相談は、下記の機関で受け付けています。親だけでなく子どもが直接連絡することも可能です。
インターネットで自分のことを誹謗中傷する投稿を見つけた場合、「投稿者を特定して名誉毀損で訴えたい」「損害賠償請求したい」と考える方もいるでしょう。投稿者を特定するためには、まずIPアドレスを開示してもらうことから始めなければなりません。... IPアドレス開示~投稿者特定の第一歩~|弁護士監修記事 - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
前回の記事では、ネット上で誹謗中傷の書き込みをした投稿者を特定するために、サイト管理者等を特定してIPアドレスの開示を受けるところまでをお話しました。本記事では、IPアドレスの開示を受けた後に投稿者を実際に突き止めるまでの流れやその方法に... 書き込みした投稿者を特定~発信者情報開示請求の流れ~|弁護士監修記事 - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
ネットいじめは年々増加傾向にあり、深刻ないじめに発展することが少なくありません。大人が気づけない分、陰湿化しやすく子どもが心に受ける傷は甚大です。
掲示板などでのいじめ行為が発覚した場合は、早急に然るべき機関に相談するとともに、いじめ投稿の削除を行いましょう。