インターネットの掲示板などに掲載された中傷投稿の投稿者を探すとき「IPアドレスの追跡」を行います。IPアドレスが分かると、中傷投稿した者の氏名や住所などを特定できる可能性があるからです。
IPアドレスは「インターネット上の住所のようなもの」と説明されることがありますが、正しくは「インターネットに接続されたコンピュータを識別する番号」となります。
IPアドレスについて解説し、IPアドレスから中傷書き込みをした者を特定する流れを紹介します。
IPアドレスとは、インターネットに接続されたコンピュータを識別するための数字です。IPアドレスは例えば「123.45.6.78」のように4つの数字と3つの「.(ドット)」で表記されます。「数字.数字.数字.数字」となります。
「数字」をオクテットと呼び、1つ目の数字「123」を第1オクテットと呼びます。以降、「45」は第2オクテット、「6」は第3オクテット、「78」は第4オクテットとなります。
IPアドレスには、プライベートIPアドレスと、グローバルIPアドレスが存在します。
プライベートIPアドレスは、パソコンやスマホに割り当てられるIPアドレスです。
グローバルIPアドレスはルーターに割り当てられるIPアドレスです。
そしてグローバルIPアドレスには、数字が変動する動的IPアドレスと、数字が固定されている静的IPアドレスがあります。
ひとつずつみていきましょう。
ルーターとは、パソコンとインターネットを接続する機器のことです。自宅のパソコンでインターネットを使う場合、自宅を「インターネットの環境にする」必要があります。インターネット環境にするにはいくつか方法があるのですが、例えば光回線(光ファイバー)を引くのもそのひとつです。 光回線は物理的な「管(くだ)」ですが、この管をパソコンにつないでもインターネットに接続することはできません。 自宅にルーターを置き、光回線とルーターを接続し、さらにパソコンとルーターを接続することで、パソコンとインターネットがつながるのです。
ルーターひとつひとつに、グローバルIPアドレスが割り当てられています。グローバルIPアドレスは「そのルーターに固有のもの」なので、インターネットでデータのやりとりする際に正確に相手にデータが届くことになります。
住宅の住所にも1軒の住宅に固有の住所が与えられているので、そこから「IPアドレスはインターネット上の住所のようなもの」と呼ばれるのですが、住所が必ず固定されているのに対し、グローバルIPアドレスはインターネットを使うたびに数字が変わることがあるのです。
グローバルIPアドレスのうち、インターネットを使うたびに「毎回数字が変わるもの」を動的IPアドレスといいます。一般的によく使われているのは動的IPアドレスです。
グローバルIPアドレスは、ルーターひとつひとつに割り当てる必要があるので、1つのルーターのグローバルIPアドレスを固定してしまうと、世界中のルーターの数だけグローバルIPアドレスを用意しなければならなくなります。これでは管理が煩雑になります。
そこで一般的なグローバルIPアドレスは、インターネットに接続するたびに、「そのときだけの数字」を割り当てるのです。
例えば午前9時にインターネットに接続したときに、ルーターに「123.45.6.78」というグローバルIPアドレスが割り当てられたとします。そして1時間後にインターネット接続を中断し、さらにその1時間後にインターネットに接続したとします。そのとき同じルーターを使っていても、例えば「123.45.6.79」というグローバルIPアドレスが割り当てられるのです。
動的IPアドレスは使い回されているのです。
静的IPアドレスは、「そのルーターに固定された」グローバルIPアドレスです。
例えばある掲示板を自宅のパソコンで閲覧したとします。この行為は、自分のパソコンで掲示板のサーバー内の情報を読み取っていることと同じです。
もし掲示板のサーバーにつながっているルーターのグローバルIPアドレスが動的IPアドレスだったら、掲示板を閲覧するたびに、異なる数字のグローバルIPアドレスを読み込まなければならなくなります。
そのため、数字が変動しない静的IPアドレスを割り当ててもらうのです。
続いてプライベートIPアドレスについて解説します。
例えば自宅のルーターに、パソコンとスマホとタブレットを各1台ずつ接続したとします。グローバルIPアドレスは1個しかないのに、この場合でもパソコンとスマホとタブレットを独立して使うことができます。それはパソコンとスマホとタブレットに、別のIPアドレスが割り当てられているからです。それがプライベートIPアドレスです。
先ほど紹介した表を再掲します。
このようにパソコンやスマホなどは、インターネットに接続するたびに「グローバルIPアドレス+プライベートIPアドレス」が割り当てられるので、どのルーターのどのパソコンから情報発信されたかがわかるわけです。
※IPアドレスを開示する方法については、下記の記事にて詳しく解説しておりますので、あわせてご覧ください。 インターネットで自分のことを誹謗中傷する投稿を見つけた場合、「投稿者を特定して名誉毀損で訴えたい」「損害賠償請求したい」と考える方もいるでしょう。投稿者を特定するためには、まずIPアドレスを開示してもらうことから始めなければなりません。... IPアドレス開示~投稿者特定の第一歩~|弁護士監修記事 - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
IPアドレスを追跡することによって、インターネット上で中傷した者の住所を特定する流れを紹介します。
先ほどから「IPアドレスを割り当てる」と表記してきましたが、IPアドレスを割り当てているのは、プロバイダ企業です。プロバイダ企業のことをISP(Internet Service Provider)と呼ぶことがあります。
自宅のパソコンでインターネットを使う場合、プロバイダ企業と契約することになるのですが、このときプロバイダ企業はユーザー(契約者)にグローバルIPアドレスを割り当てているのです。
そのため、中傷文章を投稿した者のグローバルIPアドレスがわかれば、プロバイダ企業を特定することができ、プロバイダ企業に問い合わせをすれば契約者のなかから投稿者の個人情報を入手することができるのです。
しかしプロバイダ企業にはユーザー(契約者)の個人情報を保護する責務があるので、一般の人がプロバイダ企業に電話をして、IPアドレスの契約者の名前と住所を開示するよう求めても、応じないでしょう。
プロバイダ企業に契約者の個人情報を開示してもらうには主に、所定の手続きでプロバイダ企業に直接請求する方法と、訴訟を起こす方法の2つの方法があります。
プロバイダ責任制限法第4条によって、インターネット上の中傷などによって権利を侵害された人は、プロバイダ企業(特定電気通信役務提供者)に中傷投稿を行った者の氏名や住所の開示を求めることができます。
具体的には「発信者情報開示請求書」を作成し、プロバイダ企業に渡すことになります。
プロバイダ企業が情報開示に応じなかった場合、発信者情報開示請求訴訟を起こすことになります。この訴訟では、訴える側(中傷された人)が、権利侵害を受けていることや情報開示の必要性の高さなどを立証しなければなりません。
裁判所が、情報開示が相当であると認めると、プロバイダ企業に対して発信者情報開示命令が出され、中傷文章の投稿者の氏名や住所などが開示されます。
前回の記事では、ネット上で誹謗中傷の書き込みをした投稿者を特定するために、サイト管理者等を特定してIPアドレスの開示を受けるところまでをお話しました。本記事では、IPアドレスの開示を受けた後に投稿者を実際に突き止めるまでの流れやその方法に... 書き込みした投稿者を特定~発信者情報開示請求の流れ~|弁護士監修記事 - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
インターネット上の事実無根や中傷の投稿は、対象となった人の名誉を著しく傷つけます。社会的な信用が失墜し、地位を失ったり経済的な損失を被ったりした場合、中傷投稿が削除されただけでは損失を回復することができません。
損害賠償請求をするには、中傷投稿をした者の氏名や住所などの特定は欠かせません。しかしIPアドレスを特定してプロバイダ企業に情報開示を求めるには、膨大な作業が必要です。
そこで中傷文章を書かれたら、早急に弁護士に相談することをおすすめします。弁護士が対応することで、プロバイダ企業が情報開示に協力的になることがあるからです。1日も早い信用回復には、法律の専門家の支援が有効です。