爆サイや5ちゃんねるなどのネット掲示板やSNSで誹謗中傷を受けた場合、加害者のIPアドレスから投稿者を特定できれば、損害賠償請求や示談交渉に持ち込むことができます。
悪いことをした人なら、警察が取り締まるのが筋ではないかと思うかもしれませんが、実際は必ずしも警察が出動するとは限りません。そこで本記事では、IPアドレスの開示と警察の対応について解説していきます。
目次
結論から言うと、ネット上の誹謗中傷や名誉毀損が刑事事件として立件される可能性があれば、警察が捜査の中でIPアドレスの開示を関係サイトなどに請求する場合があります。ただし、警察に行けば必ずIPアドレスが特定されるわけではありません。いくつかの重要な誤解を正しておく必要があります。
警察は犯罪捜査機関であるため、民事上の損害賠償請求目的でのIP開示には対応していません。警察が動く基準は「刑事立件の可能性がある」という条件です。つまり、被害の程度が相当に悪質であると判断されない限り、警察からIPアドレスの開示請求をしてもらうことは難しいのが実情です。
また、警察に相談しても「民事で解決してください」と促されるケースが大多数です。これは警察が対応できないということではなく、案件として刑事立件が難しいと判断されているからです。
警察の捜査対応には時間がかかります。告訴から捜査開始判断まで数週間~数ヶ月を要することが多いのですが、その間にサイト運営者やプロバイダのアクセスログが削除されてしまうリスクがあります。ログの保存期間は通常30日~90日程度と限定されているため、警察対応の遅延がそのまま「IPアドレスの特定不可」という最悪の結果につながる可能性があります。
ネット記事の削除依頼を警察に対応してもらうことは、原則できません。警視庁のホームページには、インターネット上で誹謗中傷等の被害を受けたときの対応に関して、下記のように記載されています。
「誹謗中傷を受けたり、自分のメールアドレスや電話番号などの個人情報が載せられたような場合は、その掲示板のアドレスを確認し、当該掲示板の管理者、もしくはサーバ管理者に削除依頼をする」
引用元:警視庁
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/sodan/nettrouble/jirei_other/slander.html
これはつまり、「ネット上の誹謗中傷や個人情報暴露は、自らサイト管理者やプロバイダ(通信業者など)に削除依頼して解決するように」ということです。基本的に掲示板やSNSなどに書き込まれた投稿の削除依頼は、自分自身で、あるいは弁護士を通してすることになります。
ただし、あわせて下記のようにも記載されており、書き込み内容が犯罪に関わるときは、警察で対応してもらえる可能性があります。
「名誉毀損や業務妨害等の犯罪に該当するような場合は、お住まいの地域を管轄している警察署で相談する。」
引用元:警視庁
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/sodan/nettrouble/jirei_other/slander.html
ネット上で名誉毀損や業務妨害などの被害を受けた場合、地域の警察署に相談が可能です。刑事事件化した場合は、警察の捜査過程で書き込みをした犯人が特定され、逮捕や起訴の段階で住所・氏名が公になります。
警察が動くのは書き込みに犯罪性が疑われるときです。警察でIPアドレスの開示請求の対応ができる可能性のある例をいくつか紹介します。
ネット上のトラブルでよくあるのが、名誉毀損罪や侮辱罪に当たる内容の書き込みです。名誉毀損罪は事実を摘示して他者を貶める内容に適用されるのに対し、侮辱罪は事実を摘示せずに中傷した場合に該当します。
上記のような書き込みに対して、証拠とともに被害を警察に訴えれば、捜査をしてもらえる可能性があるでしょう。しかし、罪を立件するのは難しいため、民事で解決するように警察から促されるケースも多いです。
ネット上で、生命や身体、財産、名誉などに危害を加えると脅された場合、脅迫罪が成立する可能性があり、刑事事件の対象となります。例えば、以下のような書き込みがなされた場合です。
威力(暴力や脅しなど)を用いて業務を妨害するのが、威力業務妨害罪です。例えば、下記のような無差別殺人や放火の犯行予告は威力業務妨害罪に当たる可能性があります。
こういった書き込みを見つけたら、すぐに警察署に相談するようにしてください。面白半分で書き込む人もいますが、過去には予告通りに実行した犯人もいるため、放置しておくのは危険です。
事実無根の指摘やデマで業務を妨害するような書き込みを見つけたら、偽計業務妨害罪の疑いで警察が動く可能性があります。例えば、以下のような書き込みです。
前述の犯罪に該当する書き込みを見つけた場合や、それ以外でも警察への相談が適当だと判断した際は警察に相談してみてください。
最寄りの警察署を訪ねるほか、電話で相談することもできます。電話番号は全国共通で、短縮ダイヤル「#9110」です。事情を説明すれば、サイバー犯罪対策課につないでもらえるはずです。
なお、被害届を提出するときは必ず警察署に足を運ぶことになります。
警察に相談する際は、事前に名誉毀損や誹謗中傷を受けたことを証明するものを準備しておく必要があります。もし可能ならばパソコンで投稿をプリントアウトし、それが難しければ、スマホのスクリーンショットで画面を保存するなどして、提出できるように印刷しておくのがよいでしょう。
また、実際にネット上に該当の書き込みが存在するのかを確認してもらうために、サイトページのURLを控えておくことが大事です。
該当の書き込みがなされたサイト運営者に対して「ログの保存」を依頼しておくことも重要です。ネットにアクセスした際のログ情報は、一定期間を過ぎると削除されてしまうため、急がないと犯人を特定できなくなる可能性があります。
警察への相談をより実効的にするために、事前に以下のチェックリストを確認しておいてください。ログ保存期限は30日~90日程度が一般的なため、時間が勝負です。
| 確認項目 | チェック | 重要度 |
| 投稿のスクリーンショット・プリントアウト取得 | □ | ★★★ |
| サイトページのURL記録 | □ | ★★★ |
| 投稿日時の正確な記録 | □ | ★★★ |
| サイト管理者への「ログ保存依頼」完了 | □ | ★★★ |
| 複数投稿がある場合はすべて記録 | □ | ★★☆ |
| 権利侵害内容の明確化(誹謗中傷内容、どの権利が侵害されたか) | □ | ★★★ |
| 被害の具体的影響の記録(金銭的損害、精神的苦痛など) | □ | ★★☆ |
| 過去のやり取り記録(相手方との関係性がわかる情報) | □ | ★☆☆ |
特に重要なのは「サイト管理者へのログ保存依頼」です。この依頼をしていないと、警察の対応を待つ間にログが自動削除され、事実上IPアドレスの特定が不可能になってしまいます。まずはサイト管理者に「削除禁止」「ログの保存」を書面で依頼することから始めましょう。
警察で対応を断られた場合や前向きな返事をもらえなかった場合は、誹謗中傷に該当する書き込みをした犯人を自ら特定し、その責任を追及することになります。
その場合は、情報流通プラットフォーム対処法に基づきサイト運営者にIPアドレスの開示を請求し、IPアドレスからプロバイダを割り出した後、投稿者の個人情報の開示をプロバイダに請求します。
投稿者の情報開示を求める際は、まず自分がどのような権利侵害にあったかが明確でなければなりません。権利の侵害があったことを証明できる証拠も必要です。
また、プロバイダに残されている投稿者に関する情報が一定期間を過ぎると削除されてしまうため、書き込みの日時が古くないかも確認しておきましょう。
投稿者の個人情報は、プロバイダ(投稿者が契約しているインターネット通信会社など)が保有しています。そのプロバイダを特定するために必要なのが、サイトにアクセスしたときの投稿者のIPアドレスです。
そこで、まずはサイト運営者に対して、投稿者のIPアドレス開示を請求します。
問題となる書き込みをした人が利用したプロバイダを特定できたら、そのプロバイダにアクセスログの保存を要請します。一定期間を過ぎるとログ情報は削除されてしまう可能性があるためです。
なお、プロバイダに対してアクセスログの保存を要請する際は、以下の2つの方法が考えられます。
アクセスログ保存要請ができたら、プロバイダに投稿者の情報を開示するよう請求します。情報開示請求を行う方法は、以下の2点です。
プロバイダに投稿者の個人情報を開示するよう書面で要請しても拒否されることが多いため、結果的に「発信者情報開示命令申立て」を裁判所に申し立て、裁判所より開示決定を出してもらうのが一般的です。
警察でIPアドレスの開示請求に対応してくれないときは、弁護士に依頼するのがおすすめです。
警察に相談しても明らかに犯罪に該当するものでなければ、告訴を受理してもらえず、IPアドレスの開示に対応してもらうことはできません。IPアドレスの開示にあたっては、ログの保存期間内に開示請求を行わなければなりませんので、警察に相談する方法ではログの保存期間内に対応してもらえず、IPアドレスの開示ができなくなってしまうリスクがあります。
弁護士であれば、IPアドレスの開示請求の依頼があればすぐに開示請求の手続きに着手することができますので、迅速にIPアドレスの開示を実現することができます。
IPアドレスの開示請求や投稿者の発信者情報開示請求により、投稿者を特定することができたら、投稿者に対して、損害賠償請求を行っていきます。
弁護士に依頼すれば、投稿者との交渉や裁判手続きなどをすべて任せることができますので、ご本人の負担を大幅に軽減することができます。不慣れな方が交渉や裁判の手続きを行うのは非常に困難ですので、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
インターネット上の掲示板やSNSなどで悪質な投稿がなされた場合には、損害賠償請求などの民事上の責任追及だけでなく、刑事告訴の検討も必要になります。
被害者個人が警察に相談しても、さまざまな理由を付けて告訴の受理を拒まれてしまうケースが多いため、より確実に告訴を受理してもらうには専門家である弁護士のサポートが不可欠になります。
弁護士であれば告訴状の作成や警察署への提出・事情説明などにより刑事告訴のサポートを行うことができます。
なお、刑事告訴は犯人が分かってから6か月以内に対応しなければいけないので(刑事訴訟法235条)、犯人が分かってから素早く行う必要があります。
IPアドレスの開示請求を弁護士に依頼すると、弁護士費用の支払いが必要になります。以下では、弁護士費用の内訳と一般的な相場について説明します。
弁護士費用は、一般的に以下のような内訳になっています。
法律相談料とは、弁護士にIPアドレスの開示請求に関する相談をしたときに発生する費用です。
最近では、インターネット関連のトラブルについて無料相談を受け付けている法律事務所もありますので、法律相談料の負担を抑えたいという場合には、無料相談を受け付けている事務所に相談してみるとよいでしょう。
着手金とは、弁護士にIPアドレスの開示請求を依頼したときに発生する費用です。実際にIPアドレスの開示を受けられたか否かにかかわらず、発生するので、IPアドレスの開示を受けられなかったとしても返金されることはありません。
報酬金とは、弁護士に依頼した事件が終了したときに、その成果に応じて発生する費用です。IPアドレスの開示請求を依頼した場合には、サイト運営者からIPアドレスの開示を受けられた場合に報酬金が発生します。IPアドレスの開示が受けられなければ報酬金は0円です。
日当とは、弁護士が事件処理のために事務所所在地から移動するなどして、時間的に拘束される際に支払われる費用です。
日当には、裁判所に出廷するごとに支払われる「出廷日当」や出張するごとに支払われる「出張日当」などがあります。日当は、交通費や宿泊費とは別に支払う必要のある費用です。
実費とは、弁護士が事件処理のために支出した費用のことをいいます。具体的には、以下のような費用があります。
・収入印紙代
・郵便切手代
・コピー代
・交通費
・通信費
・宿泊料
では、実際にIPアドレスの開示請求を弁護士に依頼するとどのくらいの費用が掛かるのでしょうか。以下で一般的な弁護士費用の相場を説明します。
サイト運営者にIPアドレスの開示請求をする方法としては、サイト運営者に任意開示を求める方法と裁判所に発信者情報開示の仮処分を申し立てる方法があります。それぞれの費用相場は、以下のようになっています。
| 着手金の相場 | 報酬金の相場 | |
| 任意開示を求める方法 | 5~10万円 | 10~20万円 |
| 発信者情報開示の仮処分の申立て | 20~40万円 | 10~20万円 |
サイト運営者からIPアドレスの開示を受けただけでは、投稿者を特定することはできませんので、次はプロバイダに対して投稿者の発信者情報開示請求を行います。プロバイダに対する発信者情報開示請求は、基本的に裁判所に対して発信者情報開示命令を申し立てる方法で行いますので、その場合の費用相場は、以下のようになっています。
| 着手金の相場 | 報酬金の相場 | |
| 発信者情報開示命令の申立て | 20~40万円 | 10~20万円 |
| 自己の権利を侵害されたとする者が開示を請求することネット上で誹謗中傷されたり、プライバシーを侵害されたりしたら、書き込みをした人に対して損害賠償の請求を考える被害者は少なくありません。しかし、責任を問うにはまず、書き込みをした人が誰なのかを特定す... 発信者情報開示請求とは?流れ・費用・期間を弁護士が解説【8ヶ月/70万円〜】 - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
警察経由でIPアドレスを特定する場合、複数のステップを経る必要があり、全体的に時間がかかります。以下は一般的なフローと期間目安です。
■ STEP 1:警察への告訴・相談
被害届を警察署に提出。オンライン(#9110)または来庁対応。
【期間目安】1~2日で受付、書類作成数日
■ STEP 2:警察の捜査開始判断
警察がサイバー犯罪対策課で内容を精査し、刑事立件の可能性を判断。ここで「対応できない」と判断されると終了。
【期間目安】数週間~1ヶ月程度
■ STEP 3:サイト運営者へのIP開示請求
警察がサイト運営者に対して投稿者のIPアドレス開示を請求。通常、書面による請求。
【期間目安】1~4週間で開示
■ STEP 4:プロバイダへの情報開示請求
取得したIPアドレスから投稿者のプロバイダを特定し、さらに投稿者の個人情報開示を請求。多くの場合、プロバイダは任意開示に応じず、裁判所への開示命令申立てが必要。
【期間目安】2~8週間で情報開示
■ STEP 5:犯人特定・逮捕・起訴
投稿者の個人情報が特定され、警察の逮捕・取調べ、検察の起訴判断となる。
【期間目安】逮捕から起訴まで数週間~数ヶ月
⏱️ 全体期間目安:3~6ヶ月程度
※ケースや警察の対応スピードにより前後します
【ログ保存期限のリスク】
サイト運営者やプロバイダのアクセスログ保存期間は通常30日~90日です。警察対応が遅れると、その間にログが自動削除され、結果的にIPアドレスの特定ができなくなってしまいます。警察に相談する際は、必ずサイト管理者にログの保存依頼をしておいてください。
【警察の対応は保証されない】
警察に告訴を提出しても、「民事で解決してください」と対応を断られる可能性があります。特に名誉毀損罪や侮辱罪については立件が難しいとされるため、警察からの対応を待つだけでは不十分です。
| メリット | デメリット |
| ・刑事立件されれば強力な証拠となる ・示談交渉の根拠が強まる ・逮捕・起訴されると住所・氏名が公開される ・加害者に対する抑止力がある | ・対応に時間がかかる ・警察の判断に完全に依存 ・民事請求に対応していない ・ログ削除のリスク |
IPアドレスの開示請求を進める際、警察に相談するべきか、弁護士に依頼するべきか、あるいは両者を並行で活用するべきかは、ケースの性質と緊急度によって異なります。以下に判断基準をまとめました。
| パターン | 該当するケース | 推奨判断 | 理由 |
| パターンA 明らかな犯罪 | 脅迫罪、威力業務妨害罪、犯行予告など明らかに刑事事件性が高い | 警察 + 必要に応じて弁護士 | 警察が積極的に対応する可能性が高い。ただしログ削除リスク対策として弁護士のサポートも推奨 |
| パターンB グレーゾーン | 名誉毀損・侮辱に該当するが、立件が難しそう。民事的な誹謗中傷 | 弁護士(迅速性重視) | 警察は対応を渋る傾向。弁護士なら民事手続きで迅速にIP開示可能 |
| パターンC 時間制約がある | 投稿からすでに数週間経過。ログ保存期限が30日以内 | 弁護士(即座に対応) | 警察対応を待つ余裕がない。弁護士なら今すぐ開示請求手続きに着手可能 |
| パターンD 損害賠償請求 | IP開示後、加害者に対する損害賠償請求も並行したい | 弁護士(一括対応) | 弁護士なら発信者情報開示請求~損害賠償請求~示談交渉まで一貫対応 |
| パターンE 刑事+民事両立 | 犯罪性も高く、損害賠償請求も並行したい。時間に余裕あり | 警察 + 弁護士(並行対応) | 警察で刑事立件、弁護士で民事請求を同時進行。ログ削除リスク回避、双方からの圧力で効果増大 |
上記のパターン別判断表を参考に、ご自身のケースに最も適した対応方法を選択してください。特に重要なのは、ログ保存期限(30日~90日)を考慮した迅速な判断です。時間が経過すればするほど、IPアドレスの特定が困難になるため、迷っている場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。また、犯罪性が高い案件では、警察と弁護士の並行対応により、より確実に犯人を特定し、損害の回復を図ることができます。
| 誰もが気軽にSNSなどで情報を発信できる今、情報の取得や発信はとてもしやすくなりましたが、その反面、危険もあります。SNSの匿名性を悪用した誹謗中傷はそのひとつです。一度、ネット上に投稿されたものは急速に拡散し、企業や個人に深刻な被害を与えるケースもあ... ネット誹謗中傷で成立する犯罪とは?刑事告訴できるケースについて - 弁護士法人アークレスト法律事務所 |
警察は犯罪捜査を行う機関であるため、悪質な書き込みであっても犯罪立件できない案件で捜査を進めることはほとんどありません。投稿者を特定するには、自分自身で発信者情報の開示請求を進める必要があります。
といっても、実際は弁護士に手続きを依頼するのが一般的です。なぜなら、IPアドレスや個人情報の開示請求は、損害賠償請求や示談交渉といった法的手続きのための準備に過ぎません。IPアドレスや個人情報の開示請求も、弁護士を通したほうがサイト運営者・プロバイダとスムーズにやりとりできるケースが多いです。
アークレスト法律事務所は、匿名掲示板やSNSをはじめとする様々なネット問題に取り組んできた弁護士集団です。ネットの誹謗中傷等でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。