逮捕歴という言葉に良い印象を抱く人はおそらくいないでしょう。逮捕歴は、就職でも不利になるイメージを持っているのではないでしょうか。
実は、逮捕歴であれば就職にはほとんど影響はないのです。なぜなら、逮捕された段階では有罪ではなく、また、自分から逮捕歴を申告する義務はないからです。
ただし、就職の際には経歴詐称など注意する点もあります。ここでは、逮捕歴と、前科や前歴との違い、そして、どのように就職に影響するか、また就職先にばれたときの対処方法を説明します。
目次
まず、逮捕歴とは、文字通り「逮捕された記録」のことです。
逮捕後に起訴されるか、そして、裁判で有罪判決を受けるかどうかは関係なく、被疑者として捜査機関に逮捕された場合(身体拘束)を受けた場合に逮捕歴が残ります。
つまり、不起訴であっても、裁判で無罪になっても逮捕されれば「逮捕歴」が残るのです。仮に誤認逮捕であったとしても逮捕歴ということになります。
ここでいう「逮捕」とは、警察などの捜査機関が被疑者の身柄を強制的に拘束する行為であり、裁判所が発付した逮捕状を執行するのが一般的です。このため、本人が同意して警察署などに出向く「任意同行」や「事情聴取」といったケースは、逮捕には含まれません。
「逮捕歴」「前歴」「前科」は似ているようで異なる概念です。
違いを理解するには、逮捕された後にどのような処分を受けたかに注目する必要があります。
逮捕歴:「逮捕状を執行された」過去があるということです。警察などの捜査機関から逮捕拘留をされたというものです。
前科:逮捕後に起訴され、刑事裁判で有罪判決が確定した記録。懲役刑や罰金刑など、何らかの刑罰を受けた事実がある場合を指します。
前歴:有罪判決に至らなかったが、警察・検察による捜査対象となった記録です。逮捕されたが不起訴になった場合や、起訴されたが無罪となった場合も含まれます。
例えば、比較的軽微なスピード違反や器物損壊でも、起訴されて罰金刑が確定すれば前科がつきます。逆に、重大犯罪の被疑者となっても、嫌疑不十分などで不起訴になれば、前歴としての記録は残るものの、前科はつきません。つまり「罪の重さ」ではなく「最終的な判決内容」が決定的な分かれ目となります。
ここでの重要な点は、逮捕歴はその後の刑事手続きの結果に関係なく残るということです。
「逮捕状が執行され、身体拘束を受けた事実」がある限り、逮捕歴として記録が残ります。これは捜査機関の内部資料に保存されるもので、本人が希望しても原則として抹消されません。
この逮捕歴は公的に一般公開されることはありませんが、逮捕時に実名報道された場合には、新聞記事やテレビ報道、インターネット上のニュース記事として広く知れ渡る可能性があります。
逮捕歴や前歴、前科は、その後の人生や社会活動にどの程度影響するのでしょうか。特に就職活動を控えている人にとって、この点は非常に大きな関心事です。
実際には、逮捕歴があっても影響がほとんどない場合と、不利になる場合の両方が存在します。
結論からいえば、逮捕歴だけであれば就職活動に大きな影響を与える可能性は低いといえます。
その理由は以下の通りです。
日本の刑事手続きでは、有罪判決が確定するまではすべての被告人は無罪であると推定されるというのが原則です。逮捕はあくまで捜査のひとつの手法であり刑罰ではありません。つまり、逮捕されたからといって有罪だというわけではないのです。
履歴書の賞罰欄に記載が必要なのは有罪判決を受けた「前科」がある場合に限られます。逮捕歴や前歴は記載対象ではなく、自らその過去を開示する法的な義務はありません。したがって、就職活動の書類審査の段階で不利になることは避けられます。
面接で逮捕歴の有無を尋ねられた場合には、虚偽の回答をすると経歴詐称とみなされるおそれがありますので正直に回答するべきです。ですが、質問されなければ自ら進んで逮捕歴を申告する必要はありません。
ただし、逮捕後に有罪判決を受けて前科がついた場合は履歴書への記載義務が生じるため就職への影響は大きくなります。
前述のとおり、逮捕歴は自ら申告する必要がないため就職への影響は低いといえますが、影響するケースもあります。
それは、逮捕されたことを理由に前職を懲戒解雇されてしまった場合です。
懲戒解雇は企業における最も重い処分であり、一般的に「会社の秩序を著しく乱した」「重大な背信行為があった」と評価されます。採用担当者は経歴書だけでなく、業界内での評判や関係者からの情報収集を行うこともあり、この過程で逮捕歴や懲戒解雇の事実が判明すると採用を見送られる可能性が高まります。
実際に、企業側は入念に求職者の情報を調べることが多く、調査をして逮捕歴や懲戒解雇の事実が明らかになることがあります。一般的には逮捕された=違法行為をしたという印象が強いため、逮捕歴を理由に不採用となる可能性も否定できません。
また、面接で経歴について質問された場合も同様で採用の可能性をさらに下げてしまいます。
逮捕歴を申告せずに無事に入社できたとしても、その後に会社に逮捕歴を知られてしまうことがあります。考えられる主な原因は次の2つです。
就職先に逮捕歴を知られる原因のひとつは、SNSやネットニュースなどのネット情報です。
SNSやネットニュースは、逮捕歴が広まる大きな原因のひとつです。
いったん報道された記事や映像は、たとえ不起訴や無罪になった場合でも、インターネット上に半永久的に残ることがあります。また、ニュースサイト本体から削除されても、個人のブログ、個人のSNS投稿などに転載されるケースもありますし、個人がスクリーンショットなどで保管しているケースもあるため、完全に消し去ることは難しいのが実情です。
さらに、実名報道があれば、検索エンジンで名前を入力するだけで過去の逮捕情報がすぐに表示されることがあります。
このような場合には、プライバシー権を根拠として記事の削除を求めるという対策を検討できます。
特に、嫌疑がかかっただけで起訴されなかった場合などは、プライバシー権を根拠に情報の削除を請求すれば、依頼が認められることもあります。
ですが、有罪判決を受けた場合は公益性という観点から記事の削除が難しくなります。
ネットの情報だけでなく、人づてに逮捕歴が伝わるというケースもあります。
前職を逮捕歴によって懲戒解雇された場合や、逮捕が社内で周知されていた場合には、事情を知っている関係者を介して新しい就職先に伝わる可能性があります。
このような情報は、同じ業種や狭い業界ほど広まりやすい傾向があります。業界内での人的ネットワークや取引関係を通じ、口頭で伝えられることも少なくありません。仮に、非公式の場での雑談のような会話であっても、結果的に採用の判断に影響を及ぼすことがあります。
しかし、前科や前歴などの個人情報の漏洩は許されないことです。もし、関係者が逮捕歴を漏らしたとすれば、プライバシーの侵害や個人情報保護法違反の問題があります。この場合は、法律事務所に相談しましょう。
逮捕歴が企業に知られなければ、就職活動への影響はほぼありません。しかし、将来的な不安を最小限にするためには、あらかじめリスクを減らす行動を取ることが重要です。
ここでは、逮捕歴の影響を受けずに就職活動をスムーズに進めるための具体策を紹介します。
法務省が運営する「コレワーク」という制度があります。これは、犯罪歴がある人の社会復帰を支援する制度として全国で運用されているものです。
この制度では、求職者とその事情に理解のある企業をマッチングし、履歴書作成や面接練習、職業訓練などのサポートを提供しています。
また、地域ごとに活動しているNPOや公的機関でも、前科や逮捕歴のある人向けに就職先の紹介や就労支援を行っているところがあります。これらの団体は、企業への啓蒙活動も行いっていて、社会復帰の理解を広げています。
さらに、「身元保証制度」という制度があるため、身元保証人を確保できないというケースでも雇用時のリスクを軽減できます。これは、労働者が企業に損害を与えた場合に見舞金が支払われるもので、雇用する企業側の安心感につながります。
資格を持つことで、就職活動を有利に進めることができます。特に専門職であれば、採用率が高くなります。
ただし、一部の国家資格には欠格事由として前科の有無が定められています。例えば、弁護士、司法書士、宅地建物取引士、警備員などの資格は、前科があると一定期間は取得できません。資格取得を目指す際には、必ず最新の受験資格や登録の条件を確認することが必要です。
一般的に国家資格は欠格事由に前科の有無を定めているケースが少なくありません。前科の有無で取得に制限がかかる資格例は以下のとおりです。
一方で、民間資格は前科の有無に関係なく取得できるものが多く、比較的短期間で取得可能なものも多くあります。民間資格でも、知識や技術に対して一定の信用度を高める効果があるため、取得すれば有利になります。
雇用されて働くだけが選択肢ではありません。自分で起業したり、フリーランスで収入を得たりするという働き方もあります。
自分で起業したりフリーランスとして活動する場合は、実力や質、納期の遵守や取引先とのコミュニケーションといった実績で評価されるため、逮捕歴の有無が直接的な障害になることは比較的少ないのが特徴です。
一般的に、起業した場合やフリーランスとして仕事を委託された場合に、逮捕歴が問題になるケースは少なくなります。
自ら会社を設立したり、個人事業主として事業を立ち上げる方法です。
飲食店や小売業、オンラインショップなど分野は多岐にわたります。
起業するためには事業計画の策定、資金調達、販売戦略、マーケティングといった知識が必要ですが、自分の裁量で方向性や働き方を決められるという自由度があります。
近年ではオンライン完結型のビジネスも増えており、店舗や事務所を構えずに始められる業種も多くなっています。
フリーランスとは、特定の会社に雇用されず、案件ごとに業務委託契約で報酬を得るという働き方です。
代表的な職種としては、Webライター、動画編集、イラストレーター、プログラマー、デザイナー、翻訳家、カメラマンなどがあります。
クラウドソーシングサイトやSNSを活用すれば、経験が浅くても案件を受注しやすくなり、実績を積み重ねることが可能です。
フリーランスは実力と納期が重要であり、経歴よりも「期待どおりの成果を出せるか」が評価の基準となります。そのため、逮捕歴が採用判断に影響するということはほとんどありません。
・仕事量やスケジュールの調整が自由
・実力で評価される
・努力次第で収入が増える可能性がある
・収入が安定しにくい
・営業や請求をすべて自分で行う必要がある
・社会保険や税金
こうした自由な働き方を選ぶことで、逮捕歴の影響を最小限にして、自分の活動を大きく広げることができます。さらに、実績を積めば、将来的に大きな企業と取引する道もありますし、従業員を雇用する側に回る道も開けます。
逮捕歴があっても、その多くは就職活動に直接的な影響を及ぼすものではありません。経歴を偽らず、就業規則で前科や前歴の申告義務が定められていない限り、自ら申告する必要がないためです。
とはいえ、ネット上の情報や人の噂といったきっかけで、就職先に逮捕歴が知られてしまう可能性はゼロではありません。その場合、職場での人間関係や評価に影響が出ることもありますし、場合によっては退職を余儀なくされることもあります。ただし、逮捕歴があるという事実だけでは、懲戒解雇の正当な理由にはなりません。
また、ネット上に残る事実と異なる情報や、長期間経過した古い逮捕歴の記事があるという場合は、削除請求が認められるケースもあります。ネット上の情報が将来の就職や社会生活に影響を与えるおそれがあるときには、専門知識を持つ弁護士に相談し、対象記事の削除といった対応を検討することが重要です。
お悩みの方は、弁護士法人アークレスト法律事務所までお気軽にご相談ください。