スポーツ観戦は、アスリートのプレーを間近で体感できる魅力的な時間です。しかし一部の心ない人たちの間で「アスリートを性的な目的で盗撮する行為」があり、社会問題化しています。アスリートを性的な目的で盗撮する行為は、本人の尊厳を踏みにじり、健全なスポーツ文化そのものを損なう卑劣な行為です。
実際に盗撮を行った場合、適用される法律や条例があり、逮捕や処分につながった事例もあります。
この記事では、アスリート盗撮がどのような犯罪に該当するのか、実際の事例や社会的な影響も交えてわかりやすく解説します。
目次
スポーツ観戦はアスリートとプレーを間近で体感できる貴重な場であり、スポーツの臨場感を体感できる場所です。健全な趣味としてスポーツ観戦を楽しむ人が多い一方で「アスリート盗撮」が社会問題になっています。アスリートの競技中の姿を性的な目的で撮影する行為が増えており、本人の尊厳を脅かす事態になっています。ここでは、アスリート盗撮の現状と社会の動きを見ていきます。
近年、アスリートを無断で撮影し、それをインターネットやSNS上に公開する行為が問題視されています。競技中の身体の一部を狙って性的な目的で撮影する「盗撮」が後を絶ちません。スポーツは純粋な競技としての魅力があり、観戦者も応援や感動を楽しむために会場に集まっています。
ですが、競技中の素晴らしい瞬間を切り取るのではなく、性的な目的で撮影をするという目的で競技大会などに侵入し、選手の尊厳を踏みにじるような撮影を行ってしまうと、アスリートの心理的負担になります。場合によっては、競技に集中できなくなる可能性もあり、スポーツ文化を損なう行為であるといえます。
こうした状況を受けて、日本陸上競技連盟アスリート委員会は2025年7月1日付で「迷惑撮影の根絶に向けて」という声明を発表しました。
この声明で、同委員会は盗撮を「アスリートのプライバシーを著しく侵害し、安全で公正な競技環境を損なうだけでなく、スポーツの価値の根幹をなす「スポーツ・インテグリティ」を脅かすものです。断じて容認することはできません」としています。
観戦者のモラル、そして、競技会の主催者にも監視体制の強化が求められました。つまり、アスリート盗撮はすでに社会的な課題として扱われているのです。
2025年7月1日付けの声明
参考:日本陸上競技連盟アスリート委員会 迷惑撮影の根絶に向けて
実際に、盗撮被害を防ぐために一般観客による写真や動画撮影を禁止する競技会も増えています。
本来であればスポーツの魅力を広めるために観戦者が写真を撮ることは、競技の普及にという意味においてもプラスの側面があったでしょう。ですが、盗撮行為が横行してしまうと、健全なファンと盗撮を行う迷惑行為との線引きが難しくなります。実際に外から見ただけではどんな目的で撮影をしているのかを判別できません。
そのため、主催者がやむを得ず全面的に撮影を禁止する動きが出てきているのです。これは真面目に応援しその瞬間を思い出に残したいというファンにとっては残念な状況ともいえるでしょう。
つまり、盗撮を行う一部の人間によって多くの人が不自由を強いられるという構図になっているのです。
実は、アスリート盗撮は「単なるマナー違反」では済まされません。場合によっては、法に触れる可能性があり、逮捕や処罰につながるケースもあります。ただし、盗撮と言っても適用される法律はさまざまで、行為の内容や場所、拡散の有無によって対応が異なります。
ここでは、実際にどのような犯罪が成立する可能性があるのかをみていきましょう。
2023年に新設された「性的姿態撮影処罰法」では、性的に羞恥心を害するような姿を撮影する行為を処罰の対象としています。法定刑は「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」と重い罪に問われることとなります。
例えば、衣服の中を隠し撮りするような典型的な盗撮はこの法律の対象となります。ですが、アスリートが競技中にユニフォームを着ている姿は「性的な姿態」ではありません。この点で、アスリート盗撮は「性的姿態撮影処罰法の対象からは除外される」とされています。
競技中のユニフォーム姿は、観客や報道関係者などに見られることを前提としている衣服です。そのため、撮影罪の対象になりません。
つまり、性的姿態撮影処罰法ではアスリート盗撮を十分に取り締まれないことが多いのが現状です。
ただし、アスリート盗撮に関してはスポーツ基本法の改正で対応されているほか、迷惑防止条例などに該当する可能性があります。つまり、性的姿態撮影処罰法で対象外であっても決して「犯罪ではない」ということではありません。
都道府県が定めている条例に「迷惑防止条例」があります。多くの都道府県で、アスリート盗撮について迷惑防止条例で禁止しています。
現状として、アスリート盗撮の多くはこの条例によって処罰されるケースが多く、実際の摘発例もあります。条例違反で検挙された場合、拘留や罰金といった刑罰を受ける可能性があります。つまり、性的姿態撮影処罰法では難しいケースも、迷惑防止条例によって取り締まることが可能です。
盗撮目的で競技会場に侵入した場合や、退去を命じられたにもかかわらず再入場した場合には「建造物侵入罪」が成立する可能性があります。
これは単に撮影行為そのものではなく、盗撮を目的として入場したこと自体が違法とされるのです。特にスポーツ協議が行われる施設は管理者が誰なのかが明確であり、ルールを破って侵入すれば建造物侵入罪で刑事責任を問われることがあります。
盗撮した写真や動画をインターネット上に公開すると、「名誉毀損」にあたる可能性があります。
名誉毀損は事実の有無に関わらず、本人の社会的評価を下げる行為をした場合に成立する犯罪行為です。仮に、撮影したアスリートの写真を性的文脈で拡散した場合は、その選手の名誉を著しく傷つけることになるため、名誉毀損罪で刑法上の責任を負うリスクがあります。
また、場合によっては刑事事件だけでなく民事上の損害賠償請求を受ける可能性もあります。
一部の都道府県では、迷惑防止条例以外にも独自に盗撮行為を禁止する規定を設けている場合があります。
また、競技会場や公共施設での撮影行為を厳しく制限しているケースもあります。アスリート盗撮は社会問題化しており、都道府県でもできるかぎりの対策を取ろうという動きがあります。
アスリート盗撮の実際の逮捕事例や処分が行われたのかが気になる方も多いと思います。
報道を確認してみると、アスリート盗撮に関してはすでに複数の摘発例が存在しており、警察や競技団体が厳しい姿勢でアスリート盗撮の対策に臨んでいることがわかります。
これは群馬県のスポーツ施設で女子選手を盗撮した警察官が懲戒処分を受けたという事例です。この警察官は、スポーツ施設内で女子選手の下半身を執拗に盗撮するなどしたというものです。
警察官は懲戒処分を受けた後で依願退職し、その後、県の迷惑行為防止条例違反の疑いで書類送検されました。
この警察官は、懲戒処分を受けた後での依願退職となりましたが、民間の会社であっても盗撮が理由で退職に追い込まれる可能性は十分にあります。
参考:NHKニュース
この事例は、会社員の男性が高校陸上の競技大会で女子選手を盗撮したというものです。この会社員は、県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕され、自宅からは女子選手を盗撮した画像が大量に押収されました。
大会の主催者はアスリート盗撮の対策として「大会会場内の巡回や一般観覧者の観戦エリアの制限、撮影の許可制」を行っていたものの、加害者はそうした対策を無視して執拗に撮影を行い逮捕となりました。被疑者は容疑を認めていて事件は大きく報道されました。
盗撮で逮捕された場合、本人や家族にとって大きな影響があるのが「実名報道」です。特にアスリート盗撮のように社会的関心が高い事件では、ニュースで実名や顔写真が公開される可能性があります。
これは法律上の決まりではないため必ず実名報道されるというわけではありませんが、未成年ではない場合は実名報道されても法的な問題はありません。実名報道されるかは、報道機関が、自社の方針や事件の社会的影響度を考慮して個別に判断します。
報道機関は、成人が逮捕された場合には実名で報道することがあります。
特にアスリート盗撮は「性犯罪」としての側面を持っており、社会的な注目度が高いため、地域版だけでなく全国ニュースで取り上げられることもあります。
性犯罪や盗撮事件は、公共性や再犯防止の観点から実名報道されやすい傾向があるのです。報道機関としても「報道することが抑止力になる」ため、実名報道が選択されることが多いのです。
アスリート盗撮で逮捕され、起訴された後、裁判で有罪が確定すれば「前科」として記録が残ります。有罪となれば会社を解雇される可能性もありますし、個人事業主の場合は取引先を失うリスクが高くなります。また、再就職や転職の際に不利になることもありますし、一定の制限を受ける資格や職業もあります。
盗撮事件で有罪判決を受けると、例え罰金刑だったとしても社会的信用を大きく損ないます。例えば教員や公務員といった「高い倫理性を求められる職業」では、懲戒免職につながるケースも少なくありません。会社員であっても、職を失うリスクは非常に高いといえます。
また、報道で名前が広く知られてしまうと、仮に刑を終えたとしてもインターネット上の記事やSNS投稿が残るため、社会復帰を阻害する要因にもなります。つまり、盗撮行為をしたことで、その後の人生設計に長期的な悪影響を及ぼすことがあるのです。
アスリート盗撮は「ちょっとしたいたずら」や「個人の趣味」で済まされるものではありません。場合によっては刑事事件として扱われる可能性があるだけでなく、民事上の責任を負うケースもあります。
アスリート盗撮は、迷惑防止条例や建造物侵入罪、名誉毀損といった法令によって処罰される可能性がある犯罪行為です。実際に逮捕や送検に至った事例もあり、実名報道や懲戒処分、さらには裁判で有罪となり前科が残ることもあります。
スポーツは本来、観戦する人にとっては趣味や娯楽であり、選手にとっては結果を出すための舞台です。アスリート盗撮は、スポーツを楽しむ人たちの場を壊す行為であり、アスリートだけでなく健全に楽しんでいるファンや関係者にも大きな影響を及ぼします。アスリート盗撮は犯罪であることを理解し、一人ひとりが正しい観戦マナーを意識することが、健全なスポーツ文化を守る第一歩となるでしょう。
万が一、盗撮の被害に遭われた場合、あるいはご自身の画像や動画がSNSなどで不本意に拡散されているのを発見された場合は、決して一人で抱え込まず、ためらうことなくアークレスト法律事務所にご相談ください。
アークレスト法律事務所は、アスリートのみなさんが自信を持って、最高のパフォーマンスを発揮できるよう、全力でサポートいたします。