残業代を支払ってもらうことは、労働基準法で認められた労働者の権利です。しかし、実情として、夜遅くまで働いても残業代が支払われないという方も多いのではないでしょうか。そのような場合は、会社に残業代をさかのぼって請求することが可能です。
本記事では、残業代請求ができる条件や、手続きを弁護士に依頼するメリット、費用相場などを解説します。
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残業代を支払うことは、法律で定められた使用者(会社)の義務です。サービス残業(対価のない残業)は違法であり、時間外に働いた人は残業代請求の権利が認められます。残業をしたのに残業代を支払ってもらっていないときは、後からでも請求できます。
ただし、残業代請求にも時効があることには注意が必要です。現在、残業代請求の時効は3年間で、2020年3月までは2年間でした。未払いの残業代をあまり放置していると、時効を迎えて請求できなくなってしまいます。
実際に未払いの残業代を会社に請求しようとしても、何をしたら良いのか分からないことだらけでしょう。そこで、専門家である弁護士に依頼するという方法が選択肢に浮かんできます。ここでは、弁護士に依頼した際のメリットについて解説します。
残業代の支払いを従業員側から請求するのはたいへんなことです。会社側に無視されて、対応してもらえないケースもあります。また、直接交渉することによって、会社側に悪い印象を持たれてしまい、立場が悪くなる可能性もあるでしょう。
そのような可能性を案じるなら、弁護士に手続きを依頼するのが得策です。弁護士が会社に対して「残業代請求の内容証明郵便」を送るなどの法的な対処を行うと、会社側も無視をするわけにはいかず本腰を入れて対応してくれます。法的な手段を使うことで迅速に協議を進めることができるのです。
未払いの残業代を請求するための手続きはそれほど簡単なものではありません。未払いを立証するための資料を集めて書類を作成し、支払われていない賃金を計算して請求することになるので、その準備だけでも膨大な時間や労力を要することになります。
弁護士に依頼すれば、資料作成や賃金の計算、会社側との交渉まですべてやってくれるので、心身の負担を軽くすることができます。
残業代の支払いを請求するには、証拠が必要です。しかし、何が証拠として必要なのか分からないということは少なくありません。仮に分かっていたとしても、例えば雇用契約書や勤務記録、給与明細など、すべてが手元にはないかもしれません。
そのような状況で、証拠となる資料を会社に求めたとしても対応してもらえなかったり、悪質なケースでは証拠資料を改ざんされたりする可能性もあります。
弁護士は依頼者の立場や状況を勘案して、適切な証拠資料の収集方法をアドバイスし、必要に応じて代行してくれます。
未払いの残業代を請求するに当たって最初に心配になることは、それによって不利益を被ったり、不利な立場に追い込まれたりするのではないかということでしょう。そもそも、未払いの残業代を請求することは、法的な根拠に基づいた正当な権利です。その権利を行使したことで、会社から逆恨みされるのはあってはならないことです。
とはいえ、立場の弱い一労働者として権利を主張する以上、後ろ盾が必要になります。それが法律に基づいてサポートしてくれる弁護士です。弁護士は依頼者の権利を主張しながら、依頼者が不利な立場にならないよう配慮して交渉を進めてくれます。
それでは、実際に未払いとなっている残業代の請求を弁護士に依頼した場合、その費用はどれくらいになるのでしょうか。弁護士事務所ごとに違いはありますが、ここでは一般的な費用相場を紹介します。
弁護士に依頼する場合、まず自分で集めた資料を見せながら、残業の状況を説明することになるでしょう。その説明を受けた上で、回収できる残業代の目安や、かかる弁護士費用、残業代請求を行う際の流れを弁護士側が説明します。
この相談にかかる費用が相談料です。事務所ごとに違いはありますが、おおよそ「1時間あたり5,000円~1万円」が相場です。相談料を無料としている事務所もあります。
着手金は、弁護士に残業代請求を依頼するときに発生する料金のことです。弁護士が実際に未払いの残業代を請求するための活動費用に充てられます。従って、残業代が回収できなかった場合でも返還されません。
着手金の相場は「20万円~40万円」。無料相談ほど多くはありませんが、残業代請求の場合には着手金を無料にして成功報酬のみという法律事務所もあります。
成功報酬は、未払いの残業代を回収できた際に法律事務所へ支払う費用です。これは、残業代請求の経済的利益(回収額)の16%~30%が相場となっています。着手金が発生しない事務所や割安に設定している事務所の場合は、成功報酬の割合を高く設定していることが多いようです。
また、残業代を請求する方法が交渉・労働裁判・訴訟とある中で、どの方法で解決に至ったかにもよります。成功報酬の割合に幅があるのはこのような理由からです。
未払いの残業代請求を弁護士に相談する前に、できるだけ証拠となる資料を集めておくことをおすすめします。弁護士に相談する際にも、証拠が多いほうが話もスムーズに進められるでしょう。
雇用契約の内容が記載された書類である「雇用契約書」や「雇用条件通知書」は雇用形態が分かるので、残業代請求の際に証拠になります。雇用形態がなぜ重要なのかというと、会社によってはフレックスタイム制を利用している場合があり、その際に残業代の計算方法が変わってくるからです。
また、これらの書類には就業時間や基本給、残業代についての取り決め等が書かれており、何時以降からが残業となるか等の判断が容易にできるようになります。
就業規則のコピーも残業代請求の際に重要な証拠となる書類です。就業規則には、労働者が働く際の「決まり事」が記載されています。具体的には、所定労働時間、休日、時間外労働の有無、残業代の割増率などです。
これらの規定は、未払い残業代を計算する際に必要になります。就業規則は、労働基準法の定めによって、労働者がいつでも閲覧可能な状態にするよう定められています。退職した後で集めようとするとたいへんなので、退職を考えている方は会社を辞める前に集めておきましょう。
賃金の支払いに関する書類も証拠になりますので集めておきましょう。「給与明細書」や「源泉徴収票」などです。これらの書類は、未払い残業代を計算する際に基本賃金がいくらなのかを確認するために必要となります。また、残業代が実際にいくら支払われているのか等を知ることができます。つまり、未払いの残業代があることを証明する重要な証拠にもなるのです。
残業代を請求するには、実際に残業したという証拠が必要になります。残業時間は何時間労働したのかによって決まるので、毎日の労働時間を確認できる証拠が必要となるのです。証明になるものは「タイムカード」や「業務日報」でしょう。
ただし、タイムカードの打刻後に残業した場合は、別の証拠が必要になります。「送信時刻が分かる業務上の電子メール」や「パソコンの使用時間(ログイン時間、ログオフ時間)」などがそれに該当します。
未払いの残業代請求の時効は3年間(2020年3月以前の未払いについては2年間)です。その間であれば、さかのぼって請求できます。残業代請求の手続きは負担が大きいものですが、弁護士に依頼すれば、そういった問題もなくなります。サービス残業を強いられている方、また未払い残業代に心当たりのある方は、弁護士に相談してみてください。