SNSやネット掲示板を利用して、誰でも情報が発信できるようになり容易に様々な情報を誰もが発信し、そして、受け取ることができるようになりました。こうした進歩は、便利である反面、誰もが風評被害に遭う可能性があるということでもあります。
根拠のない噂や誤解、誇張された情報が瞬時に拡散し、企業に深刻な風評被害をもたらすケースもあります。売上やブランドイメージの低下は経営を悪化させる原因になります。
本記事では、実際に発生した風評被害の企業事例を紹介するとともに、被害を放置するリスクや予防策、さらに被害に遭った際に弁護士へ相談する重要性を解説します。
風評被害に関しては、業種や規模に関係なくほぼすべての企業が対策すべきリスクといえます。ここでは実際におこった風評被害の事例を取り上げて解説します。
2020年以降、新型コロナウイルスの流行によって風評被害が発生しました。
石油ファンヒーターや石油ストーブなどを製造販売する新潟県に所在する「株式会社コロナ」や、メキシコ産の有名なビールである「コロナ」などがその代表例です。いずれも、流行したウイルスと無関係であるにもかかわらず、名前が同じであるということで、消費者から避けられるという状況が生じました。新潟県のコロナは、新聞広告やマスコミへの反論などを行い、被害の回復に努めました。
2017年、和歌山にある「山本化学工業」が解熱鎮痛剤の製造過程で安価な成分を無届けで混入して出荷するという事件を起こしています。同社は、この件で医薬品医療機器法に基づいて、22日間の業務停止命令と業務改善命令を受けました。
これが原因で、まったく無関係の企業である大阪の水着製造業者の「山本化学工業」に抗議や問い合わせが殺到しました。その数は、1週間で千件を超えるものとなり、無関係であることを記者会見で説明せざるを得ませんでした。
群馬県の「まるか食品株式会社」の主力製品であるカップ焼きそばに虫が混入したことが話題になった際に、まったく無関係の広島県尾道にある「まるか食品」は、公式サイトに「同名の別会社である」ことを掲載しました。
消費者が勘違いをしている事例があったため対策を講じたという事例です。
外国産アサリの産地偽装問題が発覚した際に、全く無関係である国産ハマグリが消費者から敬遠され、入札中止や返品が相次ぎました。また、該当地域の産業全体に悪影響が及び、シバエビなどの漁業者も被害を受けました。
類似している食品偽装が、関連産業全体に風評被害を波及させたという事例です。
新型コロナウイルス感染症の流行に関係して、配慮に欠けた報道の被害を受けたのがパチンコ業界でした。休業要請を守らないパチンコ店があったことは事実ですが、テレビ番組の行き過ぎたパチンコ店批判は風評被害をもたらしました。パチンコ店ではクラスターが発生したことがなかったにもかかわらず、テレビのワイドショーではパチンコ店が感染症拡大の原因であるかのように論じられていたのです。
これにより、パチンコ店は危ない場所だという悪評がつきまとい、いまだに立ち直れていない状況です。パチンコ業界は、マスコミに対して客観的・公平な報道を行うように抗議しています。
東日本大震災後に発生した原子力発電所事故の後遺症は、事故から14年が経過した現在でもなくなっていません。今も、避難指示地域からの避難者に対する偏見は色濃く残り、福島県産の食品は放射能汚染の恐れがあるからと購入をためらう人は存在します。
福島県では、こうした風評被害の対策として食品中の放射性物質の検査を実施し、安全基準を満たした食品を出荷しています。それでもなお、食品の安全性が理解されていないのも事実です。
政府や福島県は、放射線に関する正確な情報・知識の発信や、福島の現状を正確に伝えるための情報発信を続けています。
噂やデマ情報が拡散されて風評被害に至ることもあります。特に銀行の倒産に関する噂やデマによる風評被害は昭和初期から起こっており、近年では佐賀銀行デマメール事件が記憶に新しいところです。
ある女性が「銀行が26日に潰れるらしい」と友人26人にメールで伝えたのは、2003年12月25日のことでした。この女性が噂を知人にメールしたことで、誤った情報が拡散し、総額400~500億円の預金が引き出されたり、口座が解約されたりする事態に発展しました。
これを受けて、佐賀銀行は記者会見を開いて噂を否定し、財務省福岡財務支局も同様に噂を否定するコメントを緊急で出すなどの対策を行い事態を収束させました。
このデマを広めたとされる女性は、信用毀損容疑で書類送検されましたが、嫌疑不十分で不起訴となっています。
2010年前後からアルバイト従業員による不祥事、いわゆる「バイトテロ」が社会問題として報道されるようになりました。プライベートで宿泊に来ている著名人を撮影してSNSに投稿した事例や、店舗の商品を粗末に扱ったり、食品を不衛生な状況にさらしたりして、その様子を投稿する事例が多発しました。
このようなことがあると、事件のあった店舗が閉店に追い込まれたり、同一のフランチャイズ全店で客足が減少したりするため、被害が拡大する傾向があります。企業側はいたずらをしたアルバイト従業員に損害賠償を請求するなど、厳しい対応を取るようになってきています。
1996年に、病原性大腸菌O157による食中毒で多くの被害者が出ました。その原因ではないかと疑われたのが「カイワレ大根」でした。今でもO157といえば、カイワレ大根を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは事実とは異なる報道であり、あとになって別の食品が原因であることが解ったのです。この事件では、風評被害を受けたカイワレ大根農家が、国を相手に損害賠償を請求して勝訴しています。
平成14年3月15日判決言渡
平成9年(ワ)第2222号 損害賠償請求事件
2022年の知床遊覧船事故後、日本各地の遊覧船事業者へのキャンセルが相次ぎました。事故とは無関係な観光船でもキャンセルが発生し、業界全体が打撃を受けたとされています。
痛ましい事故であったため、全く無関係の同業他社であっても遊覧船というだけでマイナスイメージが発生してしまったという事例です。
風評被害対策を怠ったり、「そのうち消えるだろう」と噂を放置したりすると、会社は信用や顧客を失い、経営危機に陥ることもあります。短期的な売上減少にとどまらず、長期的には人材確保や資金調達にも影響が及ぶケースもあります。
ここでは風評被害を放置した場合のリスクを整理します。
ブランド力や信頼は長年の努力で築かれるものである一方、根拠のない噂や誤った報道があると一瞬で失われてしまうこともあります。ネガティブな情報はポジティブな実績よりも拡散力が強く、消費者の購買行動に直接影響を与えます。
ブランド価値の低下は、新商品の販売や新規事業展開の妨げとなり、長期的な経営戦略にも暗い影を落とします。
風評被害によって顧客離れが起こると、短期間で売上が減少します。既存の顧客だけでなく潜在顧客が離れ、新規の顧客の獲得も難しくなるため、広告や販促活動を強化しても回復は容易ではありません。売上減少は経営を圧迫し、事業縮小や場合によっては廃業に追い込まれるケースもあります。
風評被害で企業の評判が悪化すると、金融機関からの印象が悪くなります。リスクが高いと判断された場合は、融資の条件が厳しくなるなどして、資金調達が難しくなります。資金繰りが悪化すれば、運転資金や設備投資が滞ることになり、事業継続が困難になるケースもあります。最悪の場合、倒産に追い込まれる可能性も否定できません。
従業員が、企業の将来性や社会的評価に敏感に反応するケースもあります。悪い噂が広がれば「将来が不安」「従業員というだけで自分のイメージが悪くなる」といった理由で優秀な人材が離職するケースもあります。さらに新たな採用にも悪影響を及ぼし、新卒や中途採用市場では不人気企業となってしまうこともあるでしょう。
結果として企業全体の生産性や競争力が落ち込んで長期的な悪影響を受け続ける結果になるのです。
これまで風評被害に遭った場合の実例を見てきましたが、風評被害は対応が後手に回るほど被害が拡大してしまいます。
風評被害は噂や誤情報が拡散してから対応するのでは遅く、日頃から備えておくことが肝心です。企業はどのようなリスクがあるかを想定し、日頃から対策を進めておく必要があります。
まず、風評被害が発生してしまった場合を想定して、ガイドラインを策定しましょう。
風評被害が発生した場合を想定し、広報対応マニュアルを整備しておけばいざ被害が発生した際に迅速に対応できます。
一例としては「誰が最初にSNSやメディアに対応するのか」「記者会見を行う場合の責任者は誰か」といった役割分担を事前に決めておくことが挙げられます。
しっかりしたガイドラインがあれば、社員が迷わず行動できるため、素早い初動対応が可能となります。この対応のスピードが被害拡大を防ぎます。さらに、定期的に内容を更新して最新のリスクやSNSのトレンドに合わせるようにしましょう。
風評被害発生を想定し、危機管理体制を整えておくことも重要です。
誰がいつどのような方法で経営陣へ報告するかを明確化することで、会社組織としての素早い意思決定を可能にします。これには「リスクを検知したら〇時間以内に上長へ報告」「経営会議を即時開催する基準」など具体的なルールが含まれます。
また、危機対応チームを社内に常設しておけば、緊急時に迅速かつ一貫した対応ができます。風評被害の対策は、広報担当だけでなく法務や人事とも連携しましょう。
風評被害対策には、自社の発信情報の定期的なモニタリングが有効です。
SNSや掲示板を常に監視し、炎上や間違った情報が拡散される兆候を早期に察知することが大切です。自社名や商品名に関する投稿をリアルタイムに検出できるように体制を整えておきましょう。
さらに、従業員や取引先などの関係者による不用意な発言にも注意が必要です。社内研修などで「SNS利用に関するルール」を徹底し、情報漏洩や誤解を招く投稿を防止することが重要です。取引先の契約でしっかりとした秘密保持契約を締結しておくことも重要です。
このようにモニタリング体制を整備することで、風評被害を事前に察知し被害を最小限に抑えることができます。
風評被害は一度発生すると企業の存続を揺るがす深刻なリスクです。同名企業の誤認や食品偽装、偏った報道、デマ拡散など原因は多岐にわたり、放置すればブランド価値や売上の低下、資金繰りの悪化、人材流出、さらには海外取引への影響にまで発展します。
だからこそ、日頃から対策をしておくことはとても重要です。
ガイドラインや危機管理体制を整備し、モニタリングを継続して警戒しておく必要があります。
しかしこうした対策だけでは限界があり、特に悪意ある投稿やデマは一度拡散すると制御困難になります。
被害を最小化するには、初動で迅速に弁護士へ相談することが最善策です。護士は削除請求や発信者情報開示請求、交渉代行など専門的な対応が可能であり、企業の信頼回復を後押しします。弁風評被害のリスクを直視し、事前準備と専門家支援を組み合わせることが早期解決への鍵となるでしょう。
弁護士法人アークレスト法律事務所は、これまでネット上のトラブルの解決に鋭意取り組んできました。様々なケースに応じて迅速・適切な対応を提案することが可能ですので、風評被害や誹謗中傷対策にお困りの方はぜひお気軽にご相談ください。