著作物には、それぞれ著作権を持つ著作権者がいます。著作権を持たない人が著作権者に無断で漫画や映像、音楽、イラストなどの著作物を使用すると権利侵害となり、刑事責任を問われて逮捕される可能性もあります。著作権者の許諾なく著作物を使用することはできないということです。
著作権法の違反は、加害者に悪意がないまま行われてしまうこともあります。今回は、実際にあった5つの事例を元に著作物を無断で使用するリスクについて解説します。
目次
どのような場合に著作権侵害になるのでしょうか。以下では、著作権侵害に該当する行為と著作権侵害にならない行為を説明します。
著作権侵害とは、著作権を持つ権利者(著作権者)の許諾を得ずに著作物を利用することです。著作権は著作権法に定められており、著作権侵害は違法行為に該当します。
例えば、以下のような行為は、すべて著作権侵害に該当します。
なお、近年生成AIの急速な普及・発展が進んでおり、生成AIによる著作権侵害が問題となっています。判例の蓄積がほとんどない分野になりますが、AIを利用して画像などを生成した場合でも、基本的にはAIを利用せずに絵を描いた場合など通常の場合と同様に著作権違反の有無が判断されると考えられます。
著作権侵害にならない行為としては、以下の5つが挙げられます。
著作物と認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
このような要件を1つでも欠けば、著作物にはあたりませんので、それを利用しても著作権侵害にはなりません。
著作物であれば、原則として著作権が認められますが、以下のようなものについては公共的な性格が強いため例外的に著作権が認められていません。
また、著作権には保護期間がありますので、保護期間が切れた著作物には著作権がありません。
著作権は、著作権者の利益を保護するための権利です。そのため、著作権者から著作物の利用の許諾を得ていれば、著作権侵害にならずに著作物を利用することができます。
著作権は、自由に譲渡できる権利ですので、著作権者から著作権の譲渡を受ければ、著作権侵害にならずに著作物を利用することができます。
著作物の作成を外注する場合には、契約により著作権の譲渡と著作者人格権の不行使を定めるのが一般的です。
好きなイラストを個人的に写真に撮って待ち受け画像にするなど、あくまでも個人的に利用する限りは著作権の侵害にはなりません。ただし、個人的利用を超えて、権利者の許可なしにそのイラストをグッズ化して販売したり、インターネット上にアップロードしたりするのは、引用とみなせる場合を除いて違法です。
実際に逮捕・書類送検された事例も複数あります。どのようなケースで逮捕者が出ているのか、5つの事例を紹介します。
ファスト映画とは、映画のストーリーを結末まですべてまとめた10分程度の短時間映像のことです。2021年6月、ファスト映画をアップロードした疑いで逮捕者が出ました。
ファスト映画は、他人の著作物を再編集し、ナレーションなどを付けたものです。このように、「他者の著作物を無断で改変したもの」についても著作権法が適用されます。「編集したのは自分だから、自分に著作権がある」と思ってしまわないように気を付けなければいけません。
複数の人気漫画を動画共有サイトに投稿し、著作権者の権利を侵害したとして、2010年に14歳の中学生が逮捕されています。たとえ未成年であっても、著作権法違反の疑いで逮捕される可能性があるのです。
動画共有サイトに投稿された動画は、誰でも無料で閲覧できます。違法アップロードにより、著作権者が本来得られるはずだった作品の売上、放送料、使用料などが損害となります。この事件の被害総額は19億2,000万円にも上りました。
2021年、アニメ映画をインターネット上にアップロードしたとして、30代~40代の3人が書類送検されました。3人に面識はなく、同じファイル共有ソフトを使って個別に違法アップロードされた新作映画を視聴したということです。
この事件では、「映像を保存すると同時にアップロードする」ファイル共有ソフトが利用されていたために、動画の視聴だけのつもりが違法アップロードに加担したことになってしまい書類送検されるという事態に発展しました。
他人が著作権を持つソフトを無許可で複製したり販売したりすると、著作権法に抵触する可能性があります。ファイル共有ソフトを介して手に入れたコンピュータソフトウェアを複製・販売したことで書類送検された事例もあります。
この事例では、ファイル共有ソフトで手に入れたソフトを販売していました。これが仮に自分で購入したソフトであったとしても、無断で複製・販売すると罪になります。例えば「自分の持っている音楽データを複製して販売する」といった行為も著作権法違反行為です。
漫画のキャラクターを描いたりモチーフにしたりしたケーキやパンは数多くあります。その中で、2021年11月、人気漫画のキャラクターを描いたケーキを無許可で販売したとして、自営業者が書類送検される事件がありました。SNSを通じて顧客の指定したシーンを描いてケーキにしていたということです。
このように「類似の事例が多く見られる」案件や、「イラストをイラストにしたわけではなく、イラストを立体化した」案件でも、著作権の侵害とみなされることがあるのです。
以下では、著作権法違反をしてしまった場合の罰則と親告罪・非親告罪について説明します。
著作権・出版権・著作隣接権を侵害すると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。(著作権法119条1項)
また、著作者人格権や実演家人格権などを侵害した場合は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。(同条2項)
著作権関連の権利にはさまざまなものがありますが、著作権は複製や上映、販売等に関する権利です。一方、著作者人格権には、氏名表示権や同一性保持権(著作者の意思に反する改変を許さない権利)などが該当します。
なお、違法アップロードされたものであることを知りながら、インターネット上の動画やコンテンツ等を私的使用の目的でダウンロード・保存すると、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられます。ただし、該当のコンテンツが有償で提供されている作品と知っている場合のみです。(同条3項)
なお、著作権法違反による罰則をまとめると以下のようになります。
行為 | 親告罪or非親告罪 | 罰則 |
著作権、出版権または著作隣接権の侵害 (著作権法119条1項) | 親告罪 | 10年以下の懲役または1000万円以下の罰金(併科も可) |
著作者人格権または実演家人格権の侵害 (著作権法119条2項1号) | 親告罪 | 5年以下の懲役または500万円以下の罰金(併科も可) |
自動複製機器の提供 (著作権法119条2項2号) | ||
死後の人格的利益の侵害(著作権法120条) | 非親告罪 | 500万円以下の罰金 |
技術的保護手段回避装置等の製造等 (著作権法120条の2第1号) | 非親告罪 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可) |
業として技術的保護手段の回避を行う (著作権法120条の2第2号) | ||
営利目的で権利管理情報の改変等を行う (著作権法120条の2第3号) | 親告罪 | |
違法ダウンロード(著作権法119条3項) | 親告罪 | 2年以下の懲役または200万円以下の罰金(併科も可) |
著作者名を偽って著作物の複製物を頒布(著作権法121条) | 非親告罪 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科も可) |
外国原盤商業用レコードの無断複製等 (著作権法121条の2) | 親告罪 | |
出所明示の義務違反(著作権法122条) | 非親告罪 | 50万円以下の罰金 |
他人の著作物を利用する行為は、客観的には著作者の許諾を得ているかどうかが不明であり、仮に許諾を得ていないとしても著作権者が黙認している場合には問題になりません。そのため、著作権法違反の取り締まりには、原則として著作権者の告訴が必要とされています。これを「親告罪」といいます(著作権法123条1項)。
ただし、著作権法119条1項の著作権等侵害行為のうち、一定の要件に該当するものについては、著作権者の告訴がなくても公訴提起が可能です。これを「非親告罪」といいます(著作権法123条2項)。たとえば、海賊版DVDを販売し、その販売代金を利益とする行為などがこれにあたります。
著作権侵害で逮捕された場合、刑事責任が追及され、罰金や懲役が科せられる可能性があります。しかし、著作権を侵害した際のリスクはそれだけではありません。著作権者等から損害賠償請求をされたり、社会的な責任を追及されたりといった可能性もあります。
民事責任とは、被害者に対して加害者が負うことになる民法上の責任です。権利者(被害者)が民事裁判を起こし、判決が出た場合、加害者はそれに従わなければなりません。
損害賠償請求とは、著作権を侵害されたことによって著作権者等が被った被害に対する損害賠償の請求のことです。損害賠償の必要の有無や具体的な損害賠償額は、民事裁判の判決によって決まります。
損害賠償請求が認められる判決が出た場合、結果に応じた損害賠償額を加害者に支払わなければなりません。損害賠償額が高額で支払えない場合や、支払いに応じない場合は、財産が差し押さえられます。また、このような損害賠償責任は自己破産をしても免責されないことがあります。
著作権侵害行為の差止請求が行われ、民事裁判で認められたときは、著作権の侵害行為を取りやめる義務が生じます。なお、差止請求と損害賠償請求は両方同時に行うことができます。差止請求を受けてすぐに応じたとしても、必ずしも損害賠償請求が取り下げられるわけではありません。
著作者人格権侵害によって著作者の名誉を毀損すると、著作権法115条に基づき、回復のための謝罪広告を出稿するよう求められることがあります。民事裁判で名誉回復措置請求が認められた場合、新聞やHPなどに謝罪文などを掲載することになります。
著作権を侵害したことで裁判を起こされたり、逮捕・書類送検されたりすると、社会的な信用を失うことにもなりかねません。
企業や団体が著作権を侵害して報道されれば、取引先やユーザーからの信頼が損なわれてしまうでしょう。また、個人であっても、逮捕・書類送検ということになれば、周囲からの信用を失います。状況によっては、仕事や人間関係に支障をきたす可能性も十分あります。
著作権侵害で逮捕された場合や、著作権侵害に関する警告を受け取ったときは、早急に弁護士に相談をしましょう。早い段階で弁護士が介入することで、示談などの対応を取りやすくなります。
なお、民事での示談と、刑事事件としての逮捕・書類送検はそれぞれ個別に判断されます。しかし、民事で示談が成立している場合、刑事でも考慮されるため、執行猶予が付いたり、不起訴になったりする可能性が高くなるでしょう。
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