性風俗産業においては、従事者がさまざまなリスクにさらされる場合があります。中でも「本番強要」や「盗撮被害」は表面化しづらく、泣き寝入りを強いられるケースも少なくありません。こうした被害は、単なるトラブルではなく、重大な性犯罪に該当するものです。
本稿では、ナイトワーク店舗で働く方々が直面する「本番強要」や「盗撮被害」の実態と、それに対してどのような法的対応が可能なのかを解説します。
目次
最初に、「本番強要」について解説します。
ナイトワーク店舗における「本番行為」とは、性器の挿入を伴う性交を指します。多くのナイトワーク店舗では、法律上の規制や営業許可の範囲から外れるため、本番行為は明確に禁止されています。したがって、店のサービス内容に含まれていない本番行為を強要することは、違法行為に該当します。
本番強要は、客からの一方的な要求だけでなく、店側が売上向上のために従業員に暗黙の圧力をかけるケースも一部で見受けられます。「本番を断ると出勤を減らす」「人気が落ちる」などの言動は、実質的な強制にあたる可能性があります。
ナイトワーク店舗で本番行為を行ったことについて、「暗黙の了解だった」「断らなかったから同意したと思った」といった言い分は、法的には通用しません。
同意がない性行為は、不同意性交等罪に該当し、刑事責任を問われる可能性があります。
先ほども述べたように、ナイトワーク店舗において「本番行為」を強要された場合、重大な刑事事件に該当する可能性があります。被害者が同意していないにもかかわらず、客や店側からの圧力や脅迫によって本番行為を強いられた場合、以下のような法的責任が問われます。
① 不同意わいせつ罪(刑法176条)
成立した場合、6月以上10年以下の拘禁刑となります。
② 不同意性交等罪(刑法177条)
成立した場合、5年以上の有期拘禁刑となります。
③ 監護者わいせつ及び監護者性交等罪(刑法179条)
監護者わいせつ罪は、①と同様の法定刑、監護者性交等罪は、②と同様の法定刑となります。
④ 不同意わいせつ等致死傷罪(刑法181条)
わいせつによる場合の法定刑は、無期又は3年以上の拘禁刑となります。
性交等による場合の法定刑は、無期又は6年以上の拘禁刑となります。
これらの刑事責任は、加害者個人に対して科されるものであり、警察への被害届提出や刑事告訴によって捜査・起訴が行われます。
刑事責任とは別に、被害者は加害者に対して民事上の損害賠償請求を行うことも考えられます。主に以下のような請求が考えられます。
ア 慰謝料請求
精神的苦痛に対する賠償です。金額は被害の内容や程度、加害行為の態様、社会的影響などを総合的に考慮して決定されます。金額は、数十万円から数百万円に及ぶこともあります。
イ 治療費・通院交通費
被害によって心療内科やカウンセリングを受けた場合、その費用も損害として請求することが考えられます。
ウ 逸失利益・休業損害
被害によって働けなくなった期間がある場合、その間の収入減少分を損害として請求することも考えられます。
次に、ナイトワーク店舗での「盗撮被害」がどういったものかについて解説していきます。
盗撮は、スマートフォンでこっそり撮影したり、客室や個室に小型カメラを仕込む等の方法で行われます。特に派遣型風俗(デリヘル)では、客の自宅やホテルでの盗撮が多発しています。
店側が監視目的で設置したカメラを、従業員のプライバシーを侵害する形で悪用するケースも問題です。
盗撮映像がインターネット上に流出すると、被害が拡大します。動画販売サイトでの有料配信やSNSでの拡散は、名誉毀損やプライバシー侵害に該当し、加害者は複数の罪に問われる可能性があります。
ナイトワーク店舗での盗撮行為については、複数の刑事罰や民事責任が問われる可能性があります。盗撮の手段や目的、撮影場所、映像の使用方法によって適用される法律が異なります。
2023年に新設された「性的姿態撮影等処罰法」は、従来の迷惑防止条例では対応しきれなかった盗撮行為を、より包括的かつ厳格に処罰するために制定されました。概要は以下の通りです。
ア 対象行為
性的な姿態(裸、下着姿、スカート中など)を、本人の同意なく撮影する行為
イ 処罰内容
3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金
この法律は、ナイトワーク店舗内や個室での隠し撮り、スマホによる無断撮影などに直接適用される可能性が高く、被害者が刑事告訴することで捜査が開始されます。
迷惑防止条例により「盗撮行為」を禁止し、拘禁刑や罰金刑を定める都道府県もあります。常習性がある場合には刑が加重される場合もあります。ナイトワーク店舗での盗撮についても、条例違反として立件される可能性があります。
盗撮された映像がインターネット上に流出し、被害者の社会的評価を低下させた場合、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
ア 対象行為
事実を摘示して他人の名誉を毀損する行為
イ 処罰内容
3年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金
たとえば、被害者の顔や勤務先が特定できる映像が拡散された場合には、社会的信用や職業的地位が損なわれることがあり、刑事責任が問われる可能性があります。
刑事罰とは別に、盗撮行為は民法上の「不法行為」に該当し、損害賠償請求の対象となります。
また、盗撮映像が拡散された場合、被害者は直接の加害者だけでなく、映像を拡散した第三者に対しても損害賠償を請求できる可能性があります。
以下では性被害に遭ったときに弁護士に相談することがいかに重要かについて解説します。
性被害は、精神的ショックが大きく、冷静な対応が難しいものです。弁護士は、法的知識と経験をもとに、被害者の権利を守るために適切な対応を提案することができます。
弁護士は、証拠の保全や事実関係の整理を行うことができます。示談交渉や告訴状の作成も代行することができ、被害者が直接加害者と接触することのないよう対応します。
被害者の要望に応じて、刑事告訴をして加害者の処罰を求めるか、民事上の責任を追及して慰謝料や損害賠償を請求するか、選択することができます。もちろん、被害者の希望次第で、両者を並行して進めることも可能です。
刑事裁判には「被害者参加制度」というものがあり、被害者が刑事裁判に参加し意見を述べることができます。また、刑事裁判の中で加害者に賠償を命じる「損害賠償命令」という制度もあります。
弁護士は、これらの制度を活用して、被害者の負担を軽減し、権利回復を図ることができます。
弁護士が実際に性被害に対応する際の手順は、以下の通りとなります。
被害者から相談を受け、事実や証拠の有無を確認し、希望する対応を整理します。
被害に遭った際の録音、映像や、加害者などとのLINEのやりとりの履歴、領収書などを保存します。
被害届を提出する際には、事情を警察官から尋ねられるので、弁護士が同行することが望ましいといえます。
刑事事件と並行して民事上の責任を追及する場合には、内容証明を送付したり訴訟を起こしたりして損害賠償を請求します。
店舗側が本番行為や盗撮を黙認していたようなケースでは、使用者責任(民法715条)や管理責任(安全配慮義務違反)を問い、損害賠償請求をすることも考えられます。
被害に遭ってしまった際に以下の対応をしておけば、加害者や店側への請求がやりやすくなります。
まず、すぐに証拠(録音、映像、メッセージ履歴等)を保存するようにしましょう。また、被害日時、場所、相手の特徴などを記録しておくようにすることも重要です。
弁護士選びも慎重に行いましょう。大切なことは、性被害対応の実績がある弁護士を選ぶことです。また、守秘義務を厳守できるか、被害者に寄り添った対応ができるかという点も見極める必要があります。
弁護士に相談する際には、被害の経緯を時系列で伝え、録音・映像・LINE履歴・領収書などの証拠を持参しましょう。また、店舗名や加害者の情報も明確に伝えましょう。
風俗業界には「本番強要」や「盗撮」についてどのような課題があり、解決のためにどのような対策が必要でしょうか。
性風俗業界では、「本番強要」や「盗撮」などの違法行為が黙認される風土が一部に存在します。従業員が声を上げづらい環境や、被害を訴えても「仕事だから仕方ない」とされる風潮が、被害の潜在化を招いています。こうした構造的問題は、業界全体の信頼性を損ない、働く人々の安全を脅かしています。
盗撮に関しては、2023年に「性的姿態撮影等処罰法」が新設され、一定の規制強化が図られましたが、ナイトワーク店舗内での盗撮や映像流出に対する実効性のある対策はまだ不十分です。また、性風俗従事者は労働者としての保護が不明確であり、労働基準法や安全配慮義務の適用が曖昧なまま放置されているケースもあります。
今後は、性風俗従事者の人権を守るための法整備が求められます。具体的には、労働契約の明文化、業務範囲の明確化、違法行為への罰則強化などが必要です。
性被害は、被害者が声を上げることで初めて社会的に認識され、改善への一歩が踏み出されます。風俗業界に限らず、性被害に対する偏見や無理解をなくし、誰もが安心して相談できる環境づくりが重要です。
弁護士は、被害者の法的権利を守る専門家として、証拠収集・告訴・損害賠償請求などの実務を担います。また、支援団体は、心理的ケアや生活支援、同行支援などを通じて、被害者が安心して回復への道を歩めるようサポートします。両者が連携することにより、より包括的な支援体制が構築されます。
ナイトワーク店舗での「本番強要」や「盗撮被害」は、単なる業務上のトラブルではなく、重大な性犯罪に該当し得ます。被害者が泣き寝入りする必要はありません。
弁護士に相談することにより、証拠の整理から告訴、損害賠償請求まで、専門的な支援を受けることができます。ひとりで悩まず、専門家の力を借りて、自分の権利を守ることが何よりも大切です。
弁護士法人アークレスト法律事務所は性風俗業界における本番強要や盗撮の問題に深い知見があります。被害に遭われてお悩みの方はお気軽にお問い合わせください。守秘義務を厳守し、ご相談者様に寄り添った対応をお約束します。