キャバクラや風俗などのナイトワークのお店では「遅刻したら罰金」「ノルマ未達成で罰金」「シフトをもっと増やして」といったルールがあるというケースもあります。ナイトワーク業界では、こうした「店独自のルール」がひとつの慣習のように行われてきたのも事実です。しかし、実はこのような罰金制度や出勤の強要は、法的に見ると違法になる可能性が高く支払義務がないことも珍しくありません。
今回は、風俗店・キャバクラなどナイトワークにおける「罰金」や「出勤強制」について、法律の観点から詳しく解説します。どんな法律に違反しているのか、実際にどのような法律が関係するのかなどを丁寧に解説していきます。
目次
キャバクラや風俗店で働くキャストの中には罰金や過剰出勤命令に慣れてしまって「これは仕方のないこと」と思い込んでいる人も少なくありません。しかし、そもそも罰金制度や過剰な出勤命令は、法律の観点からみると非常に問題のある行為です。まずは現場でよくある実態を整理しておきましょう。
キャバクラや風俗店での罰金とは、お店がキャストに対して遅刻・欠勤・ノルマ未達成・その他のルール違反などを理由にお金を請求するという仕組みです。給与から天引きされることもありますし、別途支払いを求められるケースもあります。
罰金の制度の内容はお店ごとに異なりますが、よく罰金の対象にされているのは以下のようなものです。
● 当日欠勤(無断欠勤)
● ノルマ
● 遅刻
● 風紀違反(店内での交際など)
こうしたお店のルールは、ナイトワークの業界では慣習のように行われていることも多いのですが、労働基準法の観点から見ると、違法となる可能性があります。
罰金と並んで問題になりやすいのが、過剰出勤命令です。
本来、働く日数や時間は本人の希望と契約内容に基づくものですが、キャバクラや風俗店では、お店の売上や店側の人手不足などの事情を理由に過剰なシフトを強制されるケースが見られます。
この過剰出勤命令は、ナイトワークに限ったことではなく、一般企業でも行われていることがあります。一般企業であれば、残業時間が80〜100時間を超えるような状況を指しています。
キャバクラや風俗店のような、ナイトワークにおいては必要以上に多くのシフトに入るよう強要する行為がこれに該当します。例えば「今月は毎日出勤して」「週6は必須」などといった過剰出勤を明確な合意がないにもかかわらず強要されるケースです。
キャストは罰金や過剰出勤命令をされても「お店のルールだから従わないといけない」と思い込んでしまうこともあります。ですが、法律的にはそうではありません。労働基準法では、雇用主が一方的に労働者へ罰金を科したり、過剰なシフトを強要したりする行為は原則として認められていません。
ここからは、それぞれがどのように法律に違反する可能性があるかを解説します。
お店側がキャストに対して「罰金」という形で金銭を徴収することは、労働基準法第16条に違反する可能性があります。同条は、賠償予定の禁止、すなわち、労働者に対して違約金や損害賠償額をあらかじめ定めることを禁止しています。つまり「遅刻1回で3,000円」「当日欠勤で1万円」などの一方的な罰金ルールは、法律上認められない可能性が高いのです。
さらに、給与から天引きする行為については、原則として違法です。
労働基準法第24条では「賃金は全額を労働者に直接支払う」と定めています。たとえ入店時に罰金を支払いますという「同意書」にサインしていたとしても、その合意の内容自体が違法であれば無効となると考えられます。
キャバクラや風俗店であっても、労働者に対して法定労働時間を超える勤務を一方的に強制することは、労働基準法違反となります。
労働基準法では、1日8時間・週40時間を超える労働は原則として禁止されています。ただし例外もあります。それが、36条協定とよばれるものです。
36条協定とは、労働基準法36条に基づく合意のことです。
これは、会社が従業員に法定労働時間を超えた残業や休日労働をさせる場合には必ず必要な合意です。
この協定は双方の合意で成立するもので、締結した場合は所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。この協定がなければ、原則として残業を命じることはできません。
ナイトワークの業界では、キャストとの契約を雇用ではなく「業務委託契約」にしているケースもありますが、実態として従業員と同様の働き方をさせている場合には、労働基準法のルールが適用されます。つまり「業務委託だから関係ない」という店側の言い分は、法的には通用しない場合があります。
キャバクラや風俗店の罰金や出勤強制が違法であるかを判断する上で重要なポイントは「キャストとお店との契約内容」です。契約形態によって適用される法律が変わるため、自分がどのような契約になっているのかを把握することが大切です。
キャバクラや風俗店で働くキャストがお店側と、雇用契約を結んでいる場合、労働者となるため労働基準法が適用されます。そのため、罰金制度や過剰な出勤命令は、労働法違反となる可能性があります。
実際に大阪地裁令和2年10月19日判タ1485号185頁の判決では、店舗がキャストに対して罰金を科した事例において、その罰金を無効と判断しています。この判例は、ナイトワーク業界でも重要な指標となっています。
お店側から請求された罰金が違法である場合、当然ですが支払い義務は発生しません。たとえ店側が「契約書に書いてある」と主張しても、その契約内容自体が法律に反していれば、契約としての効力は認められないのです。つまり「合意があればなんでも許される」ということではないのです。
また、違法な罰金などが給与から天引きされていた場合については、返還請求が可能なケースがあります。
キャバクラや風俗店などのナイトワークのお店は、キャストを雇用するのではなく業務委託契約をしているケースもあります。
そのような場合は、お店は「業務委託契約」を盾に「うちは雇用じゃないから労基法は関係ない」と主張するケースがあるのです。
しかし、実際に働く形態が労働者と同様であれば、契約の形式に関係なく労働基準法が適用される可能性があります。勤務時間の拘束、指揮命令などがあれば、実質的な雇用とみなされる可能性が高くなります。
罰金や出勤強制の問題は、労働基準法違反にとどまらず、別の法律に違反しているケースもあります。特に脅しや強要を伴うケースでは、刑事責任を問われる可能性もあるため注意が必要です。
罰金の請求や出勤の強要の際に、「払わなければ訴える」「次のシフトを外す」「同業他社に悪評を流す」などの脅しや強要があれば、それは刑事事件に発展する可能性があります。
たとえば以下のような場合です。
● 高額な罰金を払うよう脅された
● ナイトワークしていることを家族や恋人にばらすと言われた
● 辞めたいと伝えたのに「辞めさせない」と脅された
● 出勤を断ると「罰金」「損害賠償」をちらつかされた
こうした行為は、強要罪や恐喝罪に該当する可能性もあります。当然ですが、キャバクラや風俗店だからといって、法の保護が及ばないわけではありません。罰金制度が常態化しているナイトワーク業界では、こうした違法行為が見過ごされやすいため、早めの対応が重要です。
ナイトワーク業界は、自分ひとりでは営業ができない業界であるため「お店に逆らったら居場所がなくなる」「収入がなくなってしまう」と不安を感じて声を上げられない人も少なくありません。また「みんな支払っているから」という同調圧力があるケースも珍しくありません。
しかし、お店側とのパワーバランスがどんなものであったとしても、もしくは、他の人が支払っていたとしても、違法な要求に従う必要はありません。落ち着いて状況を確認し、正しい手順で対応することが大切です。
お店から「ルールを破ったのだから罰金を払え」と言われても、その場ですぐに支払う必要はありません。すぐにお金を渡してしまうと、仮に不当な要求だったとしても後から取り戻すときに大変な労力が必要になるケースがあります。まずは一度立ち止まり、冷静になってから、契約書・勤務実態・店側の主張を整理することが重要です。
特に「欠勤1回で1万円」「遅刻5分ごとに罰金」など、明確な根拠のない一方的なペナルティは、法律上無効とされる可能性が高いといえます。「遅刻はよくないから」という社会通念と労働基準法で守られている権利はまったく別のものなのです。
さらに、支払いに応じてしまうと「罰金を認めた」と解釈され、交渉が不利になるリスクもあります。支払う前に法的な妥当性をしっかり確認することが、自分を守る第一歩です。
こうした場面では、証拠を残しておくことも大切です。契約書の写し、LINEやメールなどのやり取り、罰金額の明細などを可能な限り保存し、後で弁護士に相談できるよう準備しておきましょう。
また、お店側は違法な罰金の制度や過剰出勤命令をせずにキャストとの信頼関係を構築できるルールづくりをしましょう。
ナイトワークの労働問題は、お店の独自ルールやナイトワークという特殊な業界であるため一般的な労働トラブルよりも複雑になりがちです。業務委託契約や口頭契約など、よくわからないものであっても、法的にはしっかりと保護されています。「ナイトワークだからこんなもの」「ルールだし仕方ない」「もめたくない」と諦める必要はありません。
違法性がある請求をされた場合は、弁護士に相談することで、罰金の返還請求や出勤強制の停止、慰謝料請求など、法的に正しい対応ができます。たとえ、口約束などで証拠が少ない場合でも、弁護士のサポートがあれば法的手段を検討することが可能です。
弁護士に相談することにより、お店側との交渉はすべて弁護士が対応しますし、書類作成なども一任できます。
アークレスト法律事務所には、労働問題に強い弁護士も在籍しているため、正しい対応のサポートができます。理不尽な罰金や出勤強制を受けた場合は、まずはご相談ください。
キャバクラや風俗店などのナイトワーク業界では「罰金」や「出勤強制」が長年の慣習として行われているケースがあります。しかし、これらの多くは労働基準法に反する違法な行為であり、実際には支払い義務がなく、支払いを強要された場合は返金請求ができる場合もあります。
また、形式上は業務委託契約だったとしても、実態が雇用関係であれば保護の対象となるケースもあるため自分で判断しないことも大切です。また、脅しや強要があれば刑事事件になることもあるため、決して泣き寝入りする必要はありません。
弁護士法人アークレスト法律事務所はナイトワークの問題に深い知見があります。もし「これって違法なのかな?」と思うことがあれば、ご相談ください。ナイトワークの労働問題にも法の保護はしっかりと及びます。早めの対応が権利を守る第一歩になります。