2021年1月1日の改正著作権法施行によって、違法ダウンロードに対する規制が強化されました。過去に違法なダウンロードをしてしまい、身元がバレないか心配な方もいるでしょう。違法ダウンロードをすると、どのように身元がバレてしまうのでしょうか。その特定の仕組みを解説していきます。
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結論からいえば、違法ダウンロードはバレることがあります。著作権を有する権利者(著作権者)からの告訴を受け、警察が違法ダウンロードの捜査を開始した場合には、その過程で身元が特定されます。また、著作権者が違法ダウンロードをした人の責任を追及する目的で発信者情報開示請求をした場合にも、著作権者に身元がバレる可能性があるでしょう。
実際に違法ダウンロードで警察が捜査に乗り出したり、情報開示請求が行われたりするのは、今のところ被害が大きいケースだけですが、捜査当局や著作権者がその気になれば違法ダウンロードをした人の身元はバレるものと考えてよいでしょう。
それでは、どのような場合に違法ダウンロードに当たってしまうのでしょうか。2021年1月1日に施行された改正著作権法第119条3項を元に具体例を解説します。
個人用に使用するなどの限られた範囲であれば、著作物をダウンロードすることも原則として適法となっています。しかし、2021年の改正により、有償販売されている著作物の違法配信(すなわちネット上の海賊版)を、海賊版であると知りつつダウンロードすることは、私的使用の目的であっても違法となりました(著作権法119条3項1号)。
改正前の著作権法で保護されていたのは、有償販売されている音楽や映像データのみでした。つまり、漫画などの静止画は保護の対象から外れていたのです。ところが、2021年の改正著作権法では、保護対象が音楽や映像データ以外の漫画や書籍、論文などの静止画のコンテンツにまで広がりました。
本来は有償で提供されている漫画や書籍、論文などの海賊版をダウンロードする行為も違法(ただし、ダウンロード行為が継続的又は反復して行われた場合に限ります。)になったということです(著作権法119条3項2号)。
著作権法の改正により、漫画や書籍などの静止画コンテンツのほかに、ソフトウェアのプログラムも保護されるようになりました。技術的な側面が強いと思われているソフトウェアのプログラムですが、作成者の個性が表現されている場合は、著作物と捉えることができるためです。したがって、現在ソフトウェアの海賊版をダウンロードすることは禁止されています。
このように、2021年の改正著作権法によって著作権法の保護対象が広がり、さらに刑罰も強化されました。しかし、過度に著作物が保護されるとユーザーが安心してネットでの情報収集が難しくなります。そのため、「違法対象にならない4つの例外行為」が設けられることになりました。
そのコンテンツが違法にアップロードされたものであることを知らない状態でダウンロードをしてしまった場合は、違法ダウンロードとはなりません。著作権法が禁止しているのは、対象となる著作物が違法にアップロードされたものだと「知っている」のにダウンロードした場合のみです。
原作を元にファンなどが創作した「二次創作」や「パロディ」の場合は、それが当該創作物の著作権者自身によってアップロードされたものであれば、ダウンロードしても違法とはなりません。ただし、翻訳は二次創作に含まれないので、無断で翻訳された漫画や書籍などをダウンロードすると、違法ダウンロードに該当する点には注意が必要です。
著作物全体の量から考えて、ダウンロードされた部分がごく一部である場合や、画質が低くて鑑賞にたえないという場合は「軽微な場合」として違法となりません。例えば、数十ページで構成される漫画の1コマや数百ページで構成される書籍の数ページなどがそれに該当します。
また、スクリーンショットの中に著作物の一部が写り込んでしまったような場合も、違法ダウンロードには当たりません。
著作者の利益を不当に害しない「特別な事情」がある場合には、違法ダウンロードには該当しないことになっています。
例えば、詐欺集団が作成した「詐欺マニュアル」のようなものを家族を詐欺被害から守るためにダウンロードしたような場合は、この「特別な事情」に当たり、違法ダウンロードには当たらないとしています。
違法ダウンロードに当たる行為をしてしまった場合、どのような経緯で著作権者に違法ダウンロード行為や身元がバレてしまうのでしょうか。ダウンロードが特定電気通信に該当するかは態様次第ですが、これに該当することを前提として、発信者情報開示請求を経て民事訴訟や刑事訴訟へと発展していく流れを解説していきます。
著作権者は、違法ダウンロードによって自身の権利を侵害されたと考え、サイト管理者等に違法ダウンロードが行われた際に利用されたIPアドレスを開示するように求めます。
任意にIPアドレスを公開してもらえなかった場合は、裁判所に対して発信者情報開示の仮処分の申立てが必要です。仮処分の命令が下り、サイト管理者がIPアドレスを開示したら、それを元にWebサービスを利用してプロバイダを特定していくことになります。
利用者のIPアドレスを公開する仕様のファイル共有ソフトの場合、IPアドレス取得のための特別な手続きは必要ありません。
IPアドレスからプロバイダを特定したら、著作権者はそのプロバイダに対して発信者情報開示請求を行います。発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、契約者に対して「発信者情報開示に係る意見照会書」を発送し、その返答を待って開示の判断を下します。
現実的には、プロバイダは発信者情報の開示を拒否することがほとんどです。その場合、著作権者は裁判所に発信者情報開示命令の申立てまたは発信者情報開示請求の訴訟を提起することになります。
発信者情報開示請求訴訟において訴えが認められると、違法ダウンロードをした人物の「住所や氏名、電話番号、メールアドレス」等の個人情報が開示されます。つまり、開示請求が認められた段階で著作権者に身元がバレるということです。
著作権者は、著作権を侵害されたことを理由として、民事においては金銭的被害を、刑事においては著作権法違反の罪を訴え、ダウンロードした人の責任を追及していくことになります。違法ダウンロードについての著作権法違反の刑罰は、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこれらの併科(著作権法119条3項)と厳しいものになっています。
違法ダウンロードをしてしまったら逮捕されてしまうのでしょうか。以下では、違法ダウンロードで逮捕される可能性について説明します。
違法ダウンロードの逮捕の可能性が低いといっても、逮捕されないわけではありません。特に以下のようなケースについては、違法性が高いため、違法ダウンロードを理由に逮捕される可能性がありますので注意が必要です。
TorrentやShareなどのP2P方式のファイル共有ソフトを利用して、違法ダウンロードをした場合、一般的な違法ダウンロードのケースに比べて逮捕の可能性は高くなります。
なぜなら、このようなファイル共有ソフトでは、ダウンロードと同時にアップロードも行われているため、違法ダウンロートだけでなく違法アップロードも犯していることになります。
違法アップロードは、違法ダウンロードよりも重い刑罰が適用されますので、逮捕される可能性が高くなるでしょう。
児童ポルノとは、児童の性交や性交類似行為など性欲を興奮刺激させるものをいいます(児童ポルノ禁止法2条3項各号)。違法ダウンロードしたコンテンツが児童ポルノに該当し、それを保管した場合、著作権法違反となるだけでなく、児童ポルノ禁止法違反となり、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(児童ポルノ禁止法7条1項)。
児童ポルノ禁止法違反は、違法ダウンロードよりも重い刑罰ですので、逮捕される可能性が高くなるでしょう。
過去に違法ダウンロードをしてしまったことがある人は、今後罪に問われることがあるか心配かもしれません。そのような状況で今できる対策を紹介します。
違法にダウンロードしたコンテンツを共有したり、動画サイト等にアップロードしたりしないようにしましょう。そのような行為は、違法アップロードに該当してしまい、違法ダウンロードよりも刑罰が重くなっています(10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金)。
違法ダウンロードは、ダウンロードした時点で犯罪が成立しますので、違法ダウンロードしたファイルを削除したからといって罪に問われなくなるわけではありません。
しかし、違法ダウンロードしたファイルを削除すれば、著作権侵害状態が一応回復されますので、逮捕されるリスクを下げることができます。
著作権者により発信者情報開示請求が行われると、プロバイダから違法ダウンロードをした人の自宅に「意見照会書」という書面が送られてきます。
違法ダウンロードをしてしまったという認識がある場合には、素直に情報開示に応じて、著作権者と示談を行うことも選択肢の一つになります。著作権者との示談が成立すれば、告訴されず、逮捕・起訴されずに済む可能性が高くなります。
誤って違法ダウンロードをしてしまった場合には、逮捕・起訴を回避するためのアドバイスやサポートができますので、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
違法ダウンロードをしてしまったと思っても、例外的に違法ダウンロードが成立しないケースに該当する場合には、違法ダウンロードを理由に処罰されることはありません。
実際のダウンロードが例外的なケースに該当するかどうかは、著作権法の正確な理解がなければ判断できませんので、まずは弁護士に相談してアドバイスを受けるとよいでしょう。
違法ダウンロードを理由に逮捕や起訴を避けるには、著作権者と示談を成立させ、告訴の阻止または取り下げをしてもらうことが重要です。
プロバイダから意見照会書が届いた場合、著作権者が民事および刑事の両面で責任追及を進めている状態ですので、早期に示談交渉を始める必要があります。弁護士に依頼すれば、代理人として著作権者との間の示談交渉を任せることができますので、早期に示談を成立させる可能性が高くなります。
過去に違法ダウンロードをしたことがあると、改正著作権法施行のニュースを目にして、自分も罰せられるかもしれないと不安に思うに違いありません。今後取り締まりが強化される可能性もありますので、いざというときのために弁護士に相談することをおすすめします。
アークレスト法律事務所はネットトラブルの解決に誠心誠意取り組んでいる法律事務所です。
個々の事情に応じて適切な対応をご提案いたします。違法ダウンロードをしたことで不安を感じている方々の相談は、最近増えてきています。
同じような不安をお抱えの場合は、ぜひお気軽にご相談ください。